12.完璧主義にだって、驚くことがある
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「あ!おはようリディアちゃーん!」
「ファナちゃん、ココナちゃん!おはよう~」
朝ご飯を食べ終わった後のこと。
きのうの夜からなぜか私に対して虫の居どころの悪いアルトと、すっかり私の中で心の癒しとかしたソラをつれて歩いていた時だった。
夜遊びメンバーその2のファナちゃんとココナちゃんが読んでいた本から顔をあげて挨拶をしてくれた。
2人が読んでいるのは、なんだかおもしろそうな分厚い本だ。
アルトもソラも読書は好きな方である。
よし。今日の一緒に遊ぶメンバーはこの2人に決定だ!
「ぬぅわっ、ちょ、リディアひっぱるなよ!」
「ちょっと、リディア?(意訳:リディア、ファックすっぞ)」
2人の手を引っりながら、ファナちゃんたちの方へと行く。アルトの目の笑っていない笑顔は無視しましょうね。あはは~。
「ファナちゃんたち、なに読んでるの?」
「リディアちゃん!よくぞ、聞いてくれました。これはねぇ、恋愛チェックの本なの。神父様に何回も何回もお願いして買ってもらって、今日や~っと届いたの~」
恋愛。
そう聞いて黙っている女子はいない。
その瞬間、ゾワッと謎の熱気が私たちを襲った。
「ルルもいれて~」
「みんなで一緒にやろ~」
「ソラくんも!」
「ア、アルト君もやろう!」
「ルル。ソラ君の隣に座る~」
5人だけしかいなかったはずなのに、気付けばそこには孤児院の女の子たち全員が集まっていた。お、おそるべし。女子パワー。恋愛パワー。
女子たちはソラとアルトをチラチラと見る。
一方のソラとアルトは言いたげな目で私を見る。
なんかすみません。
さすがの私も罪悪感だ。だってまさか恋愛の本で、女の子たちがこんなに集まってくるなんて思わなかったんだもん。私は2人に友達は作ってあげたいが、恋愛は大人になってからしてほしい派です。
そんな私の隣に座るファナちゃんとココナちゃんは、楽しそうににこにこしていた。
「やっぱり、リディアちゃんに声かけてよかった」
「大勢の方が盛り上がるもんねー」
「ねー」
私に声をかけたのは、目的があってのことだったようだ!
かわいい友人の狡猾な一面に怯えるなか、同じく怯えた顔のソラ(女子の勢いに怯えたのだろう)はルルちゃんもろもろ女子から逃れるためか、私とファナちゃんの間に座ってきた。ちなみにアルトはもうすでに私の隣に座っていたから、ヴェルトレイア兄弟にはさまれてしまったね。あとでアルトと女子に殺されるぞ~。ハハハ。
「なぁ。恋愛チェックとか言ってたけど。これおもしろいのか?」
ソラは基本おもしろいもの好きだ。
桃色の雰囲気しかない女子から逃げ出せて少し落ち着いてきたのだろう。私に質問をする。うーん答えに困るねぇ。リディアちゃん、汗だらっだらよ。
「…ま、まあおもしろいんじゃない?考えが広がるよ?」
う、嘘は言っていない。だからアルト、そんな目で私を見るな。だしに使われたとはいえ、ファナちゃんたちの期待を裏切れないんだよ。
「ふーん。ならやる」
「きゃー。やったぁ!」
女子たちが喜んでいる中、私はファナちゃんの持っている本の表紙を見た。
≪これであなたの気持ちが、恋かわかる!ドキドキ、恋愛チェック☆☆☆≫
……。
6歳のうちからこんな本を神父様にねだるなんて、うちの孤児院の女の子たちはおませさんだね。6歳の女の子はもっとかわいらしい本を読んでいる印象があった。
なんだっけ?安未果の時はおまじないの本が流行っていて、たしか好きな人の名前を消しゴムに描くとか……あれ?そんな変わらない?
「これから6つのイエス・ノーの質問をするから、イエスの数を数えていってね!」
考えていたらいつのまにやら、ルール説明がされているではないか。
こうしてファナちゃん司会の元、ドキドキ、恋愛チェック☆☆☆は始まった。
「それじゃあ、1つめ!ついつい意地悪をしてしまう人がいる」
あーはいはい、好きゆえについついいじめてしまうっていうのは、良くある話だね。
もちろん私は、ノー。
「2つめ!気が付いたら目で追っている人がいる」
ノー。
「3つめ!近くにいると、どきどきしてしまう人がいる」
ノー。
はい。もう3回連続でノーだ。
ふはは。恋愛興味ない成人の私をなめるなよ!
ちなみに女子たちは全員、質問が出るたびにアルトかソラを見つめている。かわいい。青春だね。2人はその視線に全然気づいていないけど。
「4つめ!その人が異性と仲良くしているのを見ると、腹が立つ。異性って、なぁに?」
ノー……っと、ませているからといって、年齢以上の知識をもっているわけではないようだ。異性の言葉の意味が分からなくて、おねえさんちょっと安心しました。
「異性っていうのはね、私たち女の子だったら、男の子のこと。男の子だったら、女の子のことを言うんだよ」
「へぇー」
女の子たちはしみじみとうなずいたあとで、じーとソラを見た。
ソラはさっと私の陰に隠れる。
モテる男はつらいね。だが、やめろ。お前が私に隠れたせいで、私に女子の視線があつまるんだよ。体に穴が開きそうだぞ。
っと、そこで私は気が付く。
いつもであれば誰よりも鋭く冷たい眼差しで私をにらんでくる人物からの視線を、今日は全く感じない。
え。もしかして怒りを通り越して気絶してる?
心配になり隣を見ると、アルトは怪訝な顔でファナちゃんの持つ本を見ていた。うん。意味は分からないけど、とりあえず気絶していないからいいや。
「フ、ファナちゃん!続きは?」
いいかげん痛くなってきた視線を回避するべく私はファナちゃんを頼る。
あの…そんな残念そうな顔しないで、ファナちゃん。
彼女はいったいなにに、残念がっていた?
「しょうがないなぁ。5つめ!触れたくなる人がいる」
はいはい、もちろんノー。
「じゃあ最後。6つめ!かわいい、もしくは、かっこよく見える人がいる!」
ソラやアルトは最近かわいく見えるけど、この本の意図的には答えはノーだろう。
ノー!
さてこれで質問はすべて終了だ。
ファナちゃんはにこにこと満足そうな顔をしている。
「じゃあ最後に結果発表!」
ゴクリ
女の子たち全員の息をのむ音が聞こえた。
これ、普通聞こえないよね。すごいなぁ、恋愛過密地帯は。
「これらすべてがイエスの人!あなたは、恋をしているでしょう!」
すべての質問にオールノーを出した私は大変満足だ。
だって自分が恋に落ちない分だけ、将来の死ぬ可能性が減るからね。いくら自分が恋をしない自信があっても、こうやって確かめることができるのはうれしい。
ちなみに女の子たちは、キラキラとした目をソラに向けている。
が、
「うーん。恋ってよくわかんないな。おれ全部ノーだった」
ソラに恋はまだはやかったようだ。
女子は安心したような残念そうな、そんな顔をした。
ルルちゃんは完璧残念そうな顔だ。そしてなぜか私をにらむ。やめてください。私は無関係ですよー。
ア、アルトはソラへの愛を、再認識してそうだなぁ。
ルルちゃんの恐怖から逃れるため、アルトを見ると、あれ?
なぜか、彼は怪訝な顔をしていた。
周りにはソラも女の子たちもいるのに、そんな顔して大丈夫なのか?
心配していたら、アルトのやつ勢いよく私の方を見てきた。
な、なんだよ。
その顔はこの世のものとは思えないものを、見ているような顔で…。
おい、誰がこの世のものとは言えないものだよっ。絶世の美女だよ!私はわかるぞ。この世のものとは思えないほど美しい私を見ているんだろ!そうだろう!?
私の視線に気が付いたのか、アルトはサッと私から目をそらしファナちゃんたち女子の方を見た。おい!目をそらすとは、なにか後ろめたいことでも考えてたのか、ああん?
「……えっと、これ、嫌いな人チェックって本じゃないよね?」
「……は?」
本格的に頭が狂ったのか、アルトは意味の分からないことを女の子たちに聞いた。
さすがの女の子たちも怪訝な顔だ。
私はやれやれとため息をついてしまうよ、まったく。
アルトに対してはかなりイラついているが、このバカを助けられるのは今、私しかいない。仕方ないな。一個貸しだからね?
「もー。バカなの?表紙をちゃんと見てよ。ここに、ドキドキ恋愛チェックって書いてあるでしょ?」
私はファナちゃんから本を借りて、アルトに見せた。
ちなみにアルト、私から本を受け取るときさりげなく私を押し返しました。近いぞと言わんばかりにね!
ひどいと思います。だって私本を見せるためにちょっとは近づいたけど、ほんとうにちょっとだけしか近づいてないもん。なに?そんなに私のことが嫌いなの?泣いていい!?
私の泣くぞ、泣くぞ!?を華麗にスルーしたアルトは本を見て驚いたように目を見開く。このやろうっ!
「ほんとうだ。恋愛チェックって書いてある。でも…だとしたら、この本嘘しか書いてないけど?」
要約すると、この本嘘っぱちだぞ?と言っているアルトを、私は勢いよく殴った。
「バカー!乙女の夢を壊すようなことを言うなぁ!」
女の子たち、混乱して涙目じゃないか。
アルトは困惑した様子で私を見るが、ダメだから。そんな顔しても許されませんから。
「ちょっとアルト、あんたいったいどうしたの?変なものでも食べた?」
「に、兄様?この本の作者さん、ちゃんとした人だし嘘ではないと思うよ?」
ほらお兄様の言うこと絶対正しいマンのソラでさえ、兄の異常さに驚いているよ。
一方のアルトはそんな弟の向ける視線に気づかないほど、作者を見て驚いていた。
「……ほんとうだ。ちゃんとした作者だ。てことは…」
次にアルトは私を見て、信じられないものでも見たような顔をする。
さっきからいったいなんなの。私は珍獣か。
「ちょっと…気分が優れないから、外に出てるよ」
アルトは言うや否や、ふらふらと、だが目にも留まらぬ速さで孤児院から出て行ってしまった。
大丈夫か、あれ?
「うーん。心配だから見てくるね!」
「わ、わかった」
私はソラに断りを入れ、アルトを追って森へと入って行った。
アルトはどうせいつもの場所にいる。早めに切り上げてくるから、それまでソラよ。肉食女子の中でどうにか頑張ってくれ。
結局、ソラは肉食女子の中で頑張れなくて、数秒後にはリディアを追いかけます。末っ子なので、我慢は苦手です。
ちなみにリディアはソラが追いかけてきていることには気づきません。いろんな意味で彼女は鈍感なのです。




