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76.ブラッド海賊団をぶっ潰そ~!


 「というかちょっと待って。ブラッド海賊団が非道な売買をするって話、詳しく聞いてもいい?」


 私ブラッド海賊団は金目の物を狙うタイプの海賊だって聞いたんですけど。 

 問えばトラムたちは驚いたように目を瞬かせた。


 「え。ヒメさんたち、なにも知らずにあいつら追いかけてたのか?」

 「え、うん。ねえ?」


 私は同意を求めるようにエルとアイを見た。

 アイは笑顔でうなずいて、だけどエルはうなずかなかった。…怪しい。


 「エル、あんた知ってたの?」

 「まあな。ザハラがおれに教えたから」

 「ええ!?ザハラさんが!?」


 そこで思い出すのは私とアイの2人で冬の国に行こうとしたときにエルが待ったをかけたあの場面。


 「まさかエルが私たちの前に立ちはだかったのは、ザハラさんが…」

 「ああ。お前ら2人だけじゃ心配だからおれにもついて行ってほしいって」


 ザ、ザハラさんに裏切られた気分だ。

 くそぅ。もう裏切らないわ!リディアちゃんの味方!って言葉は嘘だったのか!(ザハラさんはそんなこと一度も言っていません)

 私は心の中で床に突っ伏しおいおいと泣く。


 「でもなんでザハラさんが私に教えてくれなかった情報をエルが知ってるのよ!」

 「大方お前がそれを知ったらブラッド海賊団壊滅させるとか言い出すと思ってわざと伏せたんだろ」

 

 ちょっと待て。

 私が知ったら壊滅させるって言い出すブラッド海賊団ってどんだけの悪事働いてんのよ。顔が引きつってくる。


 「じゃあヒメさんと…名前なんだっけ?メガネでいっか。ヒメさんとメガネのために説明してやるよ」


 私とアイを見てトラムが頼もしい笑顔を浮かべた。

 私はいいけどアイは不満げな顔だ。「俺のことは、ヒメを守りし勇敢なる騎士と呼べ」とか言ってるし、うん。アイ、あんたはメガネでいい。


 「俺達が追うブラッド海賊団は冬の国の闇とも言える海賊団だ。あいつらは闇の世界を生きる人間を顧客とした商売人だ。商品は主に宝飾品、違法な薬物、珍しい動植物に殺戮兵器。そして人間だ」


 最後の言葉にアイの体が動揺に動いたのを私は見た。アイの手をぎゅっと握る。


 「あいつらがいるから戦争が中々終結しないとも俺達は考えている」

 「うん。ぶっ潰そう。私たちも手伝うよ」

 「ハハッ。即答かよ。ありがとよヒメさん。頼りにしてるぜ」

 「大船に乗ったつもりでいなさい」


 私とトラムが改めて協力関係を結ぶのを見て、エルはやっぱりこうなったと頭を抱える。

 いやいや聞いたからには見て見ぬふりはできない私の体質をエル君はその身をもって知っていますよね?しかももしかしたらそいつら昔アイを精霊の国に売った奴隷商人たちかもしれないじゃないか。許せませんよねー。てなわけでぶっつぶすよね~。


 面倒見のいい兄弟子のこと、頼りにしてますよ。

 調子に乗ってエルにウインクしたのがいけなかったらしい。殴られた。痛い。暴力反対。


 「つーかお前らブラッド海賊団を今まで見て見ぬふりしてきたんだろ。なんで今更潰そうだなんて思ったんだよ」

 「まあ契機というか星の巡り合わせというか。ちょうどいい頃合いだったんだよ。さっきも言っただろ?俺達の恩人の大切なもんをあいつらに盗まれちまったって。そうなると俺達は取り返さなくちゃならねー。ブラッド海賊団を潰すのはそのついでだ。頼りにしてるぜガキ」


 まあ所詮はあいつらも駒の一つ。潰したところで本物の闇は消えないんだろうけどなーと、トラムは意味深に笑いながらエルの頭をなでた。

 撫でられたエルは当然眉を寄せて不機嫌顔だ。

 

 「よろしく頼むぜ、ヒメさん、ガキ、メガネ」

 「うんよろしく!」


 「ガキじゃねぇ」とか「メガネじゃなくて俺のことはヒメを守りし…」とか、「うおーっ」と野太い声たちをバックに、私とトラムは再度握手を交わした。



////////☆


 「ん?ていうかトラムたちの後ろにあるその宝石は…?」

 「へへへ~。貰っちゃった☆」


 絶対に嘘だ。


 トラムたちの足元に無造作に置かれている麻袋に気づいたのはついさっき。

 そんな麻袋の中に大量の宝飾品が入っていることに気づいたのはその直後。

 で、その宝石たちと同じものを船の中で見たのを思い出したのが今。

 

 「乗客の大富豪のみなさんが身につけていたものに似てる気がするんですけど~」

 「うっ」


 私の顔を見てトラムたちはごまかすことは不可能だと悟ったようだ。

 トラムは困ったように頬をかく。


 「ん~まあ、あれだ。たしかに俺たちはこれを盗んだ。だけど自分たちのために盗んだわけじゃねーよ。生活に困ってるやつらにプレゼントっつーやつ?」

 「……なんとなく理解したよ」


 トラムたちの正体は前世ドラマとかでよく見た義賊ってやつなのだ。

 トラムたちが嘘をついているという可能性も無きにしも非ずだが、私欲のために他者から金目の物を奪う人間にしてはトラムたちが身につけている服や武器は質素なものだ。


 「わかった。この宝石はトラムたちが貰ったってことにしておいてあげる。2人もそれでいいよね?」

 「別にどうでもいい」

 「はい、ヒメ!」


 私と私の言葉にうなずく2人を見てトラムは感極まったようだ。彼は私の両脇を掴み持ち上げると、くるくるその場で回り始めた。


 「わわ、ちょっと!」

 「なっ。てめぇ!」


 すぐに聞こえ始めたヒューヒューという野太い野次がうるさい。


 「ハハッ。ヒメさんあんた最高だ!どうだ?6年後ぐらいに俺の嫁に来ないか?」

 「…ふむ。6年後ってことは私は18歳か。いいよ。6年後私が生きていたらトラムとの結婚を考えてあげる」

 「お!やったね~。別嬪なお嫁さんゲットだ」

 「考えるだけだよ。お嫁に行くって決めたわけじゃないからね~」

 「な、ななななな何言ってんだよ!ざけんな!おれは認めないからな!」

 「俺はヒメが結婚してもついて行きます!ですがヒメの騎士として僭越ながら、俺を倒せるような男でなければヒメを嫁に出すことはできませんのであしからず!」

 

 私もトラムも冗談言ってるだけなのにエルとアイが本気に捉えていて笑っちゃう。

 くるくる回るのを止め私を降ろしたトラムはにまにまと笑いながら「モテモテ~」と肘でつついてくるが、やめなさい。そういうのじゃありませんから。エルは家族として、アイは本人の言葉通り私の騎士としてぴーぴー騒いでいるんですよ。

 

 なのにトラムは肘つつきをやめなくて、いいかげん苛立ってきたので蹴りを入れようとトラムの足元を見たときだった。

 トラムの足の向こう側で、ひゅーひゅー盛り上がる男たちにもみくちゃにされ沈んでいる人を見つけた。目をぐるぐる回すかわいい顔のその人に私は見覚えがあった。


 「あんた私たちの部屋を襲った海賊じゃない!どうしてここに!?」

 「ひぃっ!化けも…すみません!て、天才美少女ヒロイン様でしたよねっ!」


 そこにいた…というか沈んでいたのは私の部屋を襲った不運な海賊さんだった。


 「お?なんだヒメさん、ユーガと知り合いだったのか?おーい、ユーガ。お前ちょっとこっち来い」

 「ト、トラムさぁん!?」


 トラムに手招きされてしぶしぶこちらへやってくるけど彼は半泣き状態で、決して私たちと目を合わせようとしない。トラムの背中に隠れて出てこない。足元には水たまりができている。その水たまりの主成分は水、ミネラル、乳酸塩、皮脂…とまあようするに汗だ。


 ちょっと殴って縛って冷水かけて情報聞き出しただけなのに。こんなに怯えられるなんて心外だ。頬が膨らむよね。

 ていうか今私のこと化け物って言いかけたよね?ちゃんと聞こえてたからな?


 「ハハッ。ヒメさん、ユーガになにしたんだ?こいつの怯え尋常じゃないぞ?」

 「なにもしてないわよ。ちょっとお話しただけ。ね?」

 「ひぃっ」

 「ユーガ、お前入る部屋間違えたな~」


 海賊さんの名前はユーガというようだ。

 見て分かるようにトラムとユーガは親し気だ。まあこの船の中にいるってことはユーガはトラムの仲間で間違いないのだろう。


 ふむ。なんとなくわかった。

 トラムたちは裕福な人から金目の物を奪い貧しい人に分け与える義賊だ。それでもってユーガはお金持ちのふりをした私たちの部屋に入ってきた。海賊のふりをして金目の物を盗む手はずだったわけね。

 

 「トラム、この人弱すぎ。ワンパンでノックアウトだよ。もう少し鍛えてあげな。ああでも演技はいかにも悪者って感じでよかったと思う」

 「ひぃっ」

 「うーん。ユーガはまあそれなりに強いんだけどなぁ。じゃあヒメたちの世話とかは全部ユーガに頼むから、気が向いたらこいつのこと鍛えてやってくれよ」

 「ト、トラムさぁん!?」

 「あー、気が向いたらね~」

 「あんがとよ!じゃ、ユーガ。ヒメさんたちを部屋に案内しとけよ~」


 「鬼ぃ!鬼畜!」と泣き叫ぶ中ユーガを置いて、トラムたちは会議室から出て行った。

 さてユーガはわかっているのだろうか。トラムを鬼、鬼畜呼ばわり=私たちの世話とか最悪です!と言っているということに。

 

 まあ馬鹿そうだから気づいてないんだろうな~。


 「ていうかいつまでそうやって叫んでるつもり?私たちを部屋に案内してよ」

 「ひぃっ」




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