75.よろしくね。ダンデライオン号と野太い声の仲間たち!
手を組みましょうの挨拶と簡素な自己紹介を終えたときのことだった。
「うおっとぉ」
船が揺れた。けっこうな揺れである。
アイは幼いころ乗船中に嵐にあった。揺れる船は当時のことを思い出させるのではないかと考えた私はアイの腕を掴んだのだけれど、彼は勘違いをしたようです。
「安心してください!ヒメのことは俺が守りますので!」
「あー、どうもね」
お姫様抱っこされました。
まあたしかにアイは体幹が強いから私1人で立ってるよりも抱っこされたほうが揺れなくて安全だ。でも私がアイの腕を掴んだのは抱っこしてもらいたかったからではないんですよねー。
見てごらんなさい、アイ。あんたが私だけ特別扱いするからエルが怒ってるよ。降りろーって。エルもアイに抱っこしてもらいたいんだよぉ。まあ絶対に違うと思うけど。
「にしても、揺れが治まらないわね」
船はまだ揺れている。
沈没しないか心配だ。
「あー。悪いな、ヒメさん。俺の船うまく停泊できてねーみたいで。今日の当番は誰だっけな~」
「ん?待って、トラムの船?今揺れてるのってトラムの船のせいなの?」
問えば彼は二ッと笑う。
「おうよ。俺のかわいいダンデライオン号のせいだな!お。揺れが収まった。行こうぜヒメさん。手を組むってんならもう少し込み入った話をしなきゃならねぇ。俺の船に来いよ」
トラムが私に手を差し伸べる。
おぉ。なんだかものすごくワクワクしてきたぞ。
本編開始を防いだら海賊王ならぬ海賊女王になるのもいいかもしれない。
「うん!」
私はその手を握った。
///////☆
トラムの船――ダンデライオン号は漫画とかでよく見る海賊船のまんまだった!
豪華客船よりは小さいけれど、立派でかっこよくて負ける気がしない。そんな船だ!
ダンデライオン号にはトラムの仲間たちがいた。全員男性でワイルドな海の男って感じの見た目だ。もっというならカタギじゃない顔をしている。でも笑いかけたら笑顔を返してくれるし、お菓子もくれるからすぐに大好きになった。
出航の揺れで私とエルが転びかけたときも全員が私たちの転倒を防ごうと手を伸ばしてくれたしね。エルは複雑な顔をしていた。助けようとしてくれたうれしい気持ちとお子様扱いされた苛立ちが拮抗しているのでしょう。
そんな海の男たちとトラムに案内されたのは広い部屋。
部屋の真ん中に大きなテーブル。その上に資料や地図やらが置いてあるから会議室的な部屋なのだろう。オレンジ色の電灯がいい雰囲気を出している。
トラムは全員が集まったのを見るとバンッとテーブルに手をついた。
「さてと!今回一時だが俺と彼女――ヒメたちは協力関係を結んだ。俺達はブラッド海賊団に用があるという共通点のもとに、今この場に集った!お前ら異論はねーな!」
「「「「「おう!!!」」」」」
この部屋にいるのは私とエルを除いては成人男性しかいませんからね。束になった野太い声がうるさい。けどちょっとわくわくする!
むふふ。と笑っていればトラムがじっと私を見てきた。
「で、だ。ヒメ。俺達の協力関係はあくまで一時だ。だから俺達はお前らが何者かは詮索しない」
トラムの言わんとしていることがわかり私はうなずく。
「わかった。私たちもトラムたちのことは詮索しな…」
「いや待て」
しかしエルが止めた。この流れは「おっけー。詮索しませーん」じゃないか!不満げにエルを見れば逆ににらまれた。私はすぐに目をそらしました。
「勘違いするな。お互いに詮索をしないというのは賛成だ。だがお前らがあの海賊団になんの用があるのかは知りたい。お前らが犯罪目的であの海賊団を狙っていた場合、手を組んでそれに加担することになるなんてごめんだからな。もちろんおれたちの目的も話す」
エルの言葉に辺りはシンと静まった。
たしかに。一理ある。
出会って1時間も経ってないけれど、トラムたちと犯罪は結び付かないように思う。だけど万が一もあるかもしれない。
「ふむ。わかった。じゃあさきに聞くぜ。お前らはブラッド海賊団に何の用がある?お前らもなにかをあいつらに奪われた口か?」
トラムはにやりと笑って私を見る。
私は不敵に笑った。
「ご名答。私たちはあいつらに奪われた不老不死の薬を取り返しに来たの」
瞬間どよめきが部屋にあふれた。
…やば。答え方間違えた。作る顔を間違えたよっ。エルがあきれた顔で私を見ている。アイはいつでも私をリスペクトの眼差しで見ているのでスルーします!
「たしかにあいつらの商品リストに不老不死の薬はあったが…」
「ちょ、ちょっと待って!私不老不死の薬を悪用するつもりは一切ないからね!むしろ私たちは不老不死の薬が出回っていろんな人が苦しむのを防ぐために回収するんだからね!」
「ヒメさん安心してくれ。俺達の誰もヒメさんが不老不死の薬を悪用するだなんて考えてねーよ。ただあんたみたいなきれいなお嬢さんが、そいつを知っていることに驚いただけで。なあ?」
「「「「「「おうよ!」」」」」」」
野太い声の束が私の鼓膜を襲うけれど、うん。ほっとしました。
胸をなでおろせば腕をペンギンのようにパタパタしているトラムがいた。
「うわー。自分で詮索はなしだって言ったが、ヒメさんの正体がものすごく気になる」
「うーん。まあ、そうね。私たちは将来有望な魔法使いとだけ言っておこうかしら」
「バカリディア、この豚が。なにが言っておこうかしらだよ。正体を普通にばらしてんじゃねーよ」
「おいコラガキ!ヒメは馬鹿ではない!豚でもない!考える頭が足りないだけだ!」
「あんたたちあとで殴るからね」
「ハハッ。あんたらほんとおもしろいな~」
なぜだ。トラムたちに笑われていた。
今のどこに笑えるシーンがあった!?もしかして私が馬鹿って言われたことに対して笑ってる?それとも豚!?どちらにしても怒るよ!
「悪いなヒメさん。あんたたちが可愛らしい喧嘩をするからさ笑っちまった」
「か、可愛らしい?」
「俺達みたいなやつらがする喧嘩ってのはもっと血なまぐさいやつだからよ」
「へ、へー。ところでトラムたちの目的はなに?」
問えばトラムは目を瞬かせて、忘れてた!と笑った。
そんなトラムを見て周りの男たちは「またかよトラム~」ガハハと笑っている。
トラムは忘れっぽいのね。まあいいさ。だけど私たちが協力関係だってことは忘れないでよね。
「で?目的はなに?」
「なーにそんな大層なもんじゃねーよ。俺達の目的は、あいつらが盗んだ俺達の恩人のブローチを取り返すことだ。あとついでに非道な売買をするブラッド海賊団を壊滅させる!」
なぁお前ら!とトラムが腕を天に挙げると、それに続いて男たちも、うおーっと叫ぶ。野太い声のせいで耳がビリビリする。
つーか待て。それってふつうに大層な目的じゃない?




