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74.手を組もう


 「ギャハハハッ!死にたくなけりゃ金目の物を出しな!」


 さて私たちの目の前にはいかにも悪者な台詞を吐く男がいた。

 トラムと別れてから数分後、船が大きく揺れたと思ったら豪華客船の何倍も大きな海賊船が現れた。その海賊船には武装した男たちがおりまして、うひゃひゃと笑いながら豪華客船へ乗り込んでくるのはお決まりのパターン。

 

 海賊は部屋の中に隠れていた私たちの元へもやってきた。

 鍵をかけていた扉を蹴り破って超絶可愛い私を見て、にたぁと笑ったのだ。で、さっきの台詞というわけ。


 だけど私たちは海賊を目の前にしても怯えない。怯える必要がない。むしろ同情する。

 だって彼、数ある部屋の中で私たちの部屋に狙いを定めちゃったんだよ。運がなさすぎるでしょ。海賊が襲撃してくることを狙って隠れていた私たちの部屋に来ちゃうなんてさ~。


 「こんなにことがうまく運ぶとは思っても見なかったわ。アイ、そいつ生け捕りにして」

 「了解です!」

 「ハッ。いいとこのお嬢様の護衛なんか怖くな…げふっ」


 ドヤ顔で自慢しましょう。うちのアイは強いです。

 アイは速攻で海賊を倒し拘束する。もしかしてアイが強いんじゃなくてこの海賊さんが弱すぎるのか?

 そんな超弱い疑惑有りの海賊を見てエルはため息。


 「おいリディア、こいつ気絶してるぞ」

 「えーだめだめ。冷水でもかけて目を覚まさせて」

 

 仕方がねーなとエルが海賊の顔面に冷水をかけると、男はすぐに飛び起きた。


 「な、ななな化け物ォ!」


 ……海賊の視線の先にいるのがアイでもなくエルでもなく、なぜか私っていうのが腹立つけど。ふふふ。リディアちゃんは心が広いので許します。


 「とでも言うと思ったか!私は化け物じゃない!天才美少女ヒロインだ!」

 「その通りです、ヒメ!てめぇよくもヒメを化け物だなんて言ってくれたなぁ?あ?」

 「ひぃっ」

 「いやこいつリディアのこと化け物だなんて一言も言ってねーし。つーかさっさと情報聞き出せよ。また気絶するぞこいつ」


 エルに言われて気が付いた。

 アイのすごみが怖かったのか、海賊は青い顔で泡を吹き始めていた。なんてメンタルの弱い海賊だ!そんなんでよく海賊やってこれたな!


 「ちょっとしっかりしなさいよ!」

 「ほあっ?」


 頬を叩けば海賊は目覚めた。だけど気分はまだ夢の中のようで、むにゃむにゃとかわいい顔をしている。最初は悪者っぽいとか思ったけど今は全然悪者感がない。ただのかわいい20代男性にしか見えない。

 海賊が天職でないことは確かだな。


 「まあどうでもいいけどさ~。ハイ!起きて!私の質問に答えなさい!」

 「……ひぃっ!化け物!」

 「次それ言ったら海に落とすわよ」

 「す、すみませっ。ああああなた様は天才美少女ヒロイン様ですぅ」


 怯えながら言われるとそれはそれで腹立つ。が、許そう。これだけ怯えてくれていたら嘘は吐けなさそうだからね。


 「あんたに質問よ。嘘偽りなく答えなさい。仮に嘘をついたら…」

 「う、海に落とされますっ!」

 「その通り。じゃあさっそく、不老不死の薬は今どこにあるの?もう売ったとか、捨てたとか言ったら海に落とすわよ」


 問えば海賊は「ひぃっ」と怯えながら首を横に振る。

 

 「不老不死の薬なんて知りませんよぉ」


 なんですかそれは?と聞いてきそうな雰囲気だ。

 知らないようですね~。

 海賊のことはいったん無視して私たちは作戦会議を始める。


 「飛んで火にいる夏の虫作戦は失敗に終わったわね」

 「だから言っただろ。部屋に押し入って金目の物を奪うのは下っ端の仕事だって。下っ端が不老不死の薬の情報を知ってるわけねーだろ」

 「ヒメ、外ではまだ争う音が聞こえています。こいつはほっといて違う海賊を捕まえましょう」

 「そうだね~。いかにも幹部!って見た目のやつを捕まえよ。てなわけで、じゃあね海賊さ~ん」

 「ひぃっ」


 私たちは怯える海賊さんを背に部屋を出た。

 ちなみに海賊さんを拘束している縄はエルの魔法で数分後には解けるようにしておきました。やさしいからね、私たちは。


 「うおっとぉ」


 部屋を出たら通路にパーティードレスを着たマダムたちが倒れていてびびった。

 気絶している。でも誰も血を流したりはしていないぞ。


 「お前の薬の威力半端ないな」

 「まあね~。力作だからね」


 海賊を探すべく走る私たち。エルがめずらしく感心したように言うので、リディアちゃんドヤ顔しちゃう。

 実は私こうなることを見越して船に戦意喪失のお香を焚いておいたのだ。

 このお香を嗅いだ人間は相手の命を奪うという思考にたどり着かず、また一方で恐怖を抱いた瞬間に気絶するようになっている。襲う側にも襲われる側にも効くのだ。

 まあ偶然の産物みたいなもので、次も同じものを作れるかと問われたら笑ってごまかさなければならないのだけれど。


 「ああ、だからさっきの海賊さん気絶しまくったのか…あ!」


 一人で納得したときだった。

 私は見つけた。

 私たちの進行方向の先からこちらに向かって走ってくる海賊を。

 その海賊は私が夏の国で見た騎士服を着た海賊本人だった!


 「エル!アイ!あいつが薬盗んだやつ!絶対に捕まえて!」

 「ああ」

 「はい、ヒメ!」


 一方の海賊も私のことを覚えていたようだ。

 私の顔を見るやいなや「げっ」と言わんばかりにすぐに踵を返し走り出した。

 

 海賊男の走る先にあるのは船のデッキだ。デッキには海賊船が豪華客船に乗りあがる形で停泊していた。

 つまりここでやつを捕まえなければ逃げられてしまう!


 だけど向こうも魔法を使って身体強化をしているらしくまったく追いつけない。

 そのことに私たちは焦ってしまって、見落としていたのだ。

 私たちが今走る通路が十字路になっていて、横からやってきた誰かとぶつかる可能性があるということを。


 「待てぇ…ぎゃあっ!」

 「うおっ!?」

 「くそリディアっ!」

 「ヒメ!」


 お察しください。ぶつかりました。

 まず私が右から走ってきた誰かとぶつかって、その勢いのままエルにぶつかって、エルがアイにぶつかって、結果4人重なり合うようにして転んだ。ミルフィーユやラザニアを想像していただければわかりやすいです。


 「いだだ…あ!逃げられた~っ!」


 そして当然海賊男には逃げられた。

 しっかりとこの目で彼がデッキから海賊船に乗り込んで、その海賊船が出航していったのを見ました!


 いまもまだ4人で転んだままなので地団太を踏めない私は寝そべったままの体勢で暴れる。くそ~っとね。そしたら私の下敷きになっていたエルに殴られました、はい。


 「別に殴らなくてもいいじゃない!暴力兄弟子!」

 「うるっせー!いいから離れろ!起き上がれ!当たってんだよ!」


 エルは真っ赤な顔で怒っている。

 当たるってなんだよ。宝くじ?

 怪訝な顔で首をかしげる私を誰かが起き上がらせてくれた。

 アイはエルの下敷きになってるから違う。


 ということは…誰だ?

 怪訝に思いながら起き上がらせてくれた人を見て私は瞠目した。


 「いや~まさかまた会うとは思わなかったぜ。しかもこんな再会になるとはな。ついさっきぶりですねお嬢さん」

 「あー!さっきのミッ…トラム!」

 

 そう。私を起き上がらせてくれたのはトラムだった。

 十字路で私とぶつかったのもトラムだったのだ。


 彼はにかっと笑うと私がつい先ほどまで見ていたデッキを見て肩を落とす。


 「逃げられたな。まあ今日あいつらを捕まえられるとは思ってなかったし。うん、想定の範囲内だ」


 その言葉に私は反応する。

 私が反応したのだ。トラムも先程の私の「あ!逃げられたー!」の言葉に反応しないわけがなくて。

 トラムは思案するように顎に手を当てて数秒後、私に向かってその手を差し出してきた。


 「お嬢さんたちもあの海賊船に用があるんだろ?」

 「……まあね~。トラムもでしょ」

 「おうよ。てなわけで、俺達手を組まねーか?俺ならあいつらが次に現れる場所、わかるけど?」

 「へぇ~」

 

 手を差し出してくるんだからそういう提案を出される可能性は考えていた。

 アイは警戒するようにトラムを見て、「信用ならない」とエルは耳打ちしてくる。目の前でそれが繰り広げられているっていうのにトラムはまだ私に手を差し出し続けている。


 となると私は、

 トラムの手を握り返すよね~。


 「って痛いんですけど!?」


 握手した直後にエルに頭を叩かれました。

 いじめだいじめだ~!とふざけたいところですが、エルが顔に青筋立てまくってキレてるのでふざけたことは言わないでおきます。触らぬ神に祟りなし。

 ちなみにトラムは目の前で繰り広げられた私のかわいそうな姿を見て笑っています。ゲラゲラに笑っています!殺!


 「別にトラムと手を組んでもいいじゃん。私たちはあいつらが次にどこに現れるかなんて知らないし。むしろ助かる申し出じゃん」

 「やっぱ聞こえてなかったみたいだな。もう一度言うぞ!出会ったばかりのこいつは信用な・ら・な・い!」

 「え~別に大丈夫でしょ」

 「胸に手を当てて思い出せ。お前が大丈夫でしょと言って大丈夫だったことは一度もないはずだ」

 

 エルは顔に青筋立てまくってキレている。

 でもエルは勘違いをしているよ。


 「大丈夫だよ。前にも言ったでしょ。私にはあんたたちがいる。私がやばい目にあっても…そうだね、たぶんないと思うけどトラムが悪いやつだったとしても、2人は必ず私のことを助けてくれる、でしょう?」


 ニッと笑えば、エルは口をひくひくと震えさせて照れ隠しの顔、アイは満面の笑みで「はい!」といいお返事だ。

 というわけで、私はトラムを握る手に力を込めた。


 「よろしくね、トラム!私のことはヒメって呼んで」

 「ハハッ。よろしくな、ヒメ」




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