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71.くそっ。次は冬の国だ!


 さてエルとジークのごまかしあいと言う名の戦いが終わったところで私は問いかけた。


 「そういえばマザーは?」

 

 エルは無言で人だかりの方を指さした。

 そこには騎士たちがたくさんいて。ああ見えた。マザーは彼らに身柄を拘束されていた。


 「ところでなんで私はエルに抱きかかえられてるわけ?」

 

 次に自然な疑問を口にする。

 いやいや2人とも、そんな呆れた顔で私を見ないでよ。

 

 「お前はマザーに噛みつかれたあとに気を失ったんだよ」

 「で、マザーも一緒に気を失うから絶対にやばいだろってなって、みんなでめっちゃお前の名前を呼んでた。呼びかけている最中ずっとエルがお前を離さなかったからこの体勢」

 「あーはいはい、なるほどー」


 うちの兄弟子は過保護化してましたものね。

 かわいい妹弟子が心配で心配で離せなかったと。はいはい……あの、エル君?否定してくれません?「そんなわけないだろ!」のツッコミが来ると思っていたのですが?あの、エル君~?


 「でも安心した。しばらくしてマザーは目覚めたのにお前は目を開けないから心配してたんだ。突然黒い蛇がやってきてお前の腕にかみついたときはどうしようかと思ったが、その直後にお前の目は覚めたわけだから、あの黒い蛇のおかげなのか」


 ジークがそう言ってニッと笑った。


 「黒い蛇…」


 私も笑顔でうなずく。

 たぶん黒い蛇と謎の銀髪美人さんのおかげだ。

 

 「お前こそいったいその身に何が起こったんだ」

 「いや私もわからなくて」

 「はあ?」


 ていうかやけにエルが静かだな。

 そう思ってエルの顔を見て失敗した。

 やつはめっちゃ機嫌の悪い顔をしていた。彼は「黒い蛇…まさかアオ……くそっ」と黒と青の色の違いがわからなくなったのか苛立っていた。

 

 「エル?大丈…いだだ。なによバカジーク!?」

 

 声をかけようとしたときだった。

 ジークに思いっきり腕を捕まれた。急に何だよ。睨みつければ、あららジークってば顔面蒼白。そんな彼の視線の先にいる人物を見て私も顔面蒼白。



 「ジーク様の気配がしますわ。ッジーク様ァ!どこにいらっしゃるのですか!ここにいるのはわかっています!早く出てきてください!」



 わかっていただけただろうか。はい、エミリアです。

 エルの様子がおかしかったことも忘れて、私とジークは抱き合うよね。ガタガタ震えながら抱き合うよね!?


 「「エ、エミリア…」」


 サァーと血の気が引く。


 エミリア。とってもかわいくなっている。女性らしいやさしい顔立ち。だけど強い意志を持った瞳が彼女が優しいだけの人間ではないことを表していて。

 今日は特に、オッドアイの瞳が爛々と輝いていて、どこぞのばかを叱りつける気満々って感じの瞳です、はい。


 っていまはそんな感想言ってる暇ないんだってば!


 「ジーク!あんたさっさとエミリアのとこへ帰りなさいよ」

 「なっ!おれはジークじゃなくてレインだ!っていうかお前なんでエミリアのこと知って…」

 「だぁあああ!うざっ!もう今はそんなのどうでもいいからさっさとエミリアのところへ行け!今なら怒られない!ついでに告白してしまえ!」

 「ばっ馬鹿、お前!なんつーこと言うんだよ!別におれはあいつをおれに惚れさせたいのであって好きってわけじゃ」

 「いぃぃぃ!腹立つ!このへたれ男!いいから行け!ほらエミリアが近づいてくる!エミリアはあんたみたいに馬鹿じゃないから、会ったら最後絶対に正体がばれちゃうのよ!」

 「お前さっきからなに言ってんだよ!?」

 「いいから行け!」

 「ぐあっ!」


 あーだこーだで動こうとしないジークをエミリアがいる方向へと蹴り上げる。

 ジークが非難の目で私を見るが、フハハ残念だったなジークお前の負けだ。


 「見つけましたよ、ジーク様」

 「エ、エエエエエミリアァアア。おれがこの場にいるのには深いわけがあって」

 「……話はあとで聞きますから。とりあえず帰りますよ」

 「エ、エミリア!?」

 

 セーフ。エミリアはジークにかかりっきりで私には全く気付いていない。安心してほっと胸をなでおろす。


 だから私は気づかなかったのだ。

 そんな私を見てというよりも私の首の傷と蛇さんの噛み傷を見て、エルが悔し気に唇を噛みしめているなんて。

 そんなエルを遠くから見ていた猫の仮面の少女がいたなんて。


 気づかなかったのだ。



///////☆


 「私たち全員、離れ離れにはならずにすみそう」

 「よかったぁ」


 ところかわって現在私とロキは懐かしの孤児院で別れの挨拶をしていた。

 これからのことはまだわからないが、とりあえずロキ達はみんな一緒に夏の国に保護されるのだそうだ。

 マザーはアース率いる騎士団によってその身を夏の国の地下の牢獄に収容されたそうだ。さすがアース。迅速かつ的確な行動だ。


 ふふんっと笑っていたら、誰かに手を握られた。

 この場には私とロキの2人しかいない。

 つまりロキだ。


 「……ヒメ、あなたには感謝してもしきれない」

 「ロキ…」

 「あなたは私に救われたというけれど、私はもっとずっとたくさんあなたに救われた。ありがとう」


 ロキが目に涙を浮かべながら笑う。

 はじめてみた彼女の笑顔はとってもとってもかわいかった。

 

 「私は強くなるわ。あなたにこの恩を返すために……女騎士になる。だからなにかあったときは私を頼って。あなたの力になる」


 その言葉に私の瞳は潤む。


 「ロキ…と素直に感動したいところですが私わかってるからね。ロキが女性騎士を目指すの私に恩を返すためだけじゃないでしょ。ロキってばジー…レインに惚れたよね?ジークのそばにいたいから女性騎士を目指…」

 「ち、ちちちち違っ!」


 真っ赤な顔で首を横に振るロキは今まで見たことがないくらいにかわいい顔をしていた。私に向けてくれた笑顔よりもかわいい顔だ。うん、ロキよ、否定するには無理があるぞ。


 そんでもってジーク。私を差し置いてラブコメ謳歌してんじゃねーよ。

 リディアちゃんガチギレです。

 リアルヒロインは死を回避するために四苦八苦してるって言うのに、いい御身分ですね~。


 ジークに対し若干の殺意を覚える。だが真っ赤な顔で慌てふためくかわいいロキを見ていれば溜飲は下がるというもの。


 「ね、ロキ。恩返しなんて必要ないんだよ」

 「でも…」

 「だって私たち友達じゃん。友達を助けるのは当たり前。私はロキに恩を売りたくて助けたわけじゃないんだから」

 「そ、そんなことはわかって…」

 「わかったわかった。じゃあなんかあったらロキを頼るよ。でもそれは友達として、だからね」

 

 ロキに折れて私が笑えば、彼女はそれはそれは素敵な笑顔を私に見せてくれた。


 「ええ。もちろん」



///////☆


 ロキと別れた後私は孤児院の中をぶらぶらと歩いていた。

 特に意味はない。なんとなくだ。


 現在、孤児院の中には騎士たちがたくさんいる。

 歩いていたらさきほどアースに会ったので、なぜ騎士たちが孤児院の中にいるのか聞いたのだが、なんでも物品を差し押さえているそうで。


 まあ実際は差し押さえと言う名の、不老不死の薬の回収なんだろうけどね。ちなみに不老不死の薬はもうすべて回収し終えたそうだ。

 今騎士団が孤児院にいるのは見逃しがないかどうかの最終チェックらしい。その最終チェックとやらはあと半日はかかるそうで、アースからは先にエルと一緒に師匠の下へ帰るようにと言われてしまった。


 「ま、もうやることないし。エルが私を探しているだろうし、合流して師匠のところに帰るかー」


 エルのことだ。静かで落ち着くとかいって森にいるに違いない。

 孤児院を出て森に足を踏み入れようとしたときだった。

 

 ……甘い、香り。


 鼻を突く独特な甘い匂いがどこからともなく漂ってきた。

 それは不老不死の薬の匂いだった。


 「全部回収したはずじゃ…痛い!?」


 そんでもって突然私の頭を直撃した痛み!

 振り返って間抜けにもポカンとしてしまう。


 『クスクス』


 栗色の毛のリスがどんぐりを持って笑っていた。

 ちなみにリスの視線の先にいるのは私だ。私を笑っているの?


 「にしてもこのリス。どこか見覚えが…痛い!?いたっ、ちょ連撃、痛いよ!」


 リスは私に考える暇すら与えてくれないようだ。

 クスクスと楽しそうに私にどんぐりを投げつけてくる。なんて子だっ。


 「こらっ!リス!やめなさい!」


 どんぐりを投げ続けるリスを止めようと手を伸ばせば、彼女はするりと私の手を躱して走り去ってしまう。


 「ちょ、待ちなさいよ~っ!」


 なぜか私に追いかけないという選択肢はなくて、まあようするにリスを追いかけたよね。


 「ゼェー、ハァー。くそ。あの子どこに行ったの」


 でもって見失うよね。

 森の奥深く、私は肩で息をしていた。


 そんなときだった。

 

 「甘い匂い…!」


 甘い匂いが鼻を突く。

 辺りを見回して今度は見つけた。

 

 言っとくけど見つけたのはリスじゃない。匂いの正体だ。

 夏の国の騎士服を着た男が、大きな麻袋を担ぎながら歩いていた。

 甘い匂いはその麻袋から香っていた。


 怪しい。


 「ちょっとそこのあんた…」

 「見つけたぞ海賊!」


 私の声はいつのまにやらやってきていた夏の国の騎士たちの声と重なった。

 夏の国の騎士の服を着た男は私たちを見てぎょっと肩を震わせる。が、それはどこかわざとらしくて…


 私は男がポケットに突っ込んでいた手から、灰色の球を出したのを見逃さなかった。

 その灰色の球は私が週に1回はつくるものと同じ!


 「っ煙幕だよ!気を付け…ごほげほ」


 私の忠告むなしく、私を含めたその場にいた全員が煙幕の被害を被ってしまった。

 結果、不老不死の薬を海賊とやらに盗まれた。


 ここで私の最初の目的を思い出していただきたい。

 私は師匠に頼まれて、不老不死の薬を作っている孤児院を潰しに来た。

 いろいろと大変な目に遭ったが私は見事、孤児院をぶっ潰した。


 だけどその孤児院で作られていた不老不死の薬は目の前で盗み出されしまったのだ。

 不老不死の薬を作る人間はもういない。

 だけど奪われたことで不老不死の薬が出回る可能性は高くて。そうなった場合、多くの人が苦しむことになるわけで。

 

 まあそんな大義名分なんかよりも、目の前で不老不死の薬が盗まれて、リディアちゃんのプライドはズタズタのぎったんぎったんなわけで、わかるよね?


 「くそ。海賊めぇ!絶対に不老不死の薬を取り戻してやる!首を洗って待っとけぇええええ!」


 師匠にせっかく「もう頼み事はしません。4王国へ行けとかいいません」の言質をとったにもかかわらず。私は自分の意思で新たな冒険を決めてしまったのであった。

 そんでもってたぶん展開的に次は冬の国だと思う。……うぅぅ。ギルに会いそうで怖い。けど、プライドがズタズタだから行くんだもんっ!




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