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11.完璧主義にだって、弱点がある



 事件が起こったのはいつもと同じく夜のことだった。


 「それで結局、神父様に病気のこときいたの?」

 「きいた」

 「なんだって?」

 「何も答えず、ただ微笑まれた」

 「あー、それ絶対神父様もアルトの動悸の原因がわからなかったんだよ。神父様、たまにしったかぶりするときあるから」

 「僕もそう思う」


 なんてのんきに会話をしながら、今日の反省会をしようと森に向かっていたときだった。


 はぅっ。

 私は急な尿意に襲われた。


 な、なぜ突然?

 きのうや一昨日、いままでは、この時間帯に尿意は感じなかった。今日初めてだ。きっと、なにか原因があるに違いない。

 きのうまでと、今日で、違うこと……


 0.1秒ほど考えて、私はとあることを思い出した。


 アップルティー。


 そうだ。きのうまでと違うこと。それは寝る前にアップルティーを飲んだか、飲んでいないかだ!


 実は今日、神父様がこっそりと私とアルトを自室に呼び、アップルティーをいれてくれたのだ。しかも満面の笑みで。絶対にあのアップルティーのせいだ。

 こんなにもトイレに行きたくなるなんて、神父様のやつ絶対に私にだけ利尿作用のあるエキスかなにかを入れたに違いない!(飲みすぎた自分のせい、という言葉は私の辞書にはない)


 だが神父様に怒りの念をぶつける暇もなく、私はさらなる尿意に襲われた。

 が、がまんできない。


 「……ちょっとお花を摘みにいってきます」


 するとアルトが目を瞬いた。

 なんだよ、文句あるのかよ。生理現象だろ!


 「君、そういう知識あったんだ。意外」

 「意外で悪かったわね?」


 アルトはしっしっと動物を追い払うかのように、私を扱う。


 「さっさと行きなよ。漏らす気?」


 こ、こいつ~っ。

 もういっそのこと、ここで漏らしてやって、潔癖ぎみなアルトの度肝を抜かせてやろうか?そう思うが、やめた。私にだって恥というものがある。


 「じゃあ、花積み終わったらいつもの場所にいくから、待ってなさいよ!」

 「はいはい」

 「はいは、一回!」

 「どーでもいいでしょ。早く行きなよ」


 アルトに再度、しっしと追い払われながら、私は急いでトイレへと走っていたのであった。あとで覚えとけよぉ~。



 この時の私はまだ知らなかった。

 トイレから戻ってきた後、まさかあんなことが起こるなんて、ねぇ。



////////☆


 「ふー、すっきりしたー」


 隣の男子トイレのように爆発しない、安全な女子トイレを背にして、私は、私を待つアルトの元へと歩き始めた。


 春の風が気持ちいい。そよそよと風で揺れる小さな花たちの、なんと風流なことか。

 こうして一人で夜の森を歩いていると、はじめてアルトの本性を目の当たりにしたあのときのことを思い出す。


 くふふ。

 私は静かに笑った。


 今だからこそ笑い話にできるけど、クマ探しに行ってクマより怖いアルトを見つけるはめになるとはほんとうに思っても見なかった。しかも気づかれたし(私のミスで)。

 あのときは、私の人生終わったって思ったよ。


 ほんとうに今日までいろんなことがおこった。

 こんなセリフをはいてしまうと、最終回か!って感じだが(むしろ私は今日が最終回でいい。むしろそうしてくれ。あと4人の王子と悪役たちに会わなきゃいけないとか…はぁ)、今日を最終回にしてもいいくらい、アルトは成長したと思う。


 「……今日はうまくいってよかった」


 私は小さくガッツポーズをする。

 今日はアルトが初めての、ソラ離れをした記念すべき日なのだ。

 まあソラ離れといっても物理的に離れたわけではないよ。いつでもどこでも3人一緒だったのを、3人+子供たちにしたのだ。ようするにふつうにみんなと一緒に遊んだだけ。

 

 アルトもソラも頑張っていたと思う。ソラは今日、遊んだだけでもう男友達できてたし(さすがソラ!)。アルトもアルトなりに頑張っていた。


 ルルちゃんがソラに抱き付いても、私の足を蹴らずにこらえていたし(それが当たり前)。

 私がアルトとソラを連れて、他の子供たちの遊びに混ぜてもらったときもにらんでこなかったし(それが当たり前)。

 まあ冷ややかな目では見られたけど(これは当たり前じゃないからな)。

 

 だけど友達はまだ作ることができないなって感じ。というか作る以前の問題が浮上してきた。

 それが…孤児院の子どもたち、どうにもアルトに話しかけづらいみたいなんだよ。


 アルトに友達ができない理由。

 いままで私は、アルトがソラ至上主義で、周囲の人たちと必要最低限でしか関わってこなかったから、友達ができないのだと思っていた。

 うん、あってるよ、私の考えはあってた。アルトが話しかけないのにも問題はある。

 だが問題は他にもあったのだ。


 それは今日、孤児院の子どもたち全員でかくれんぼをしたときに判明した。

 鬼がソラで私とアルトの数名の子どもたちは草原に隠れていた。

 ソラはこういってはなんだけど、かくれんぼの鬼がものすごく下手なのね。ぜんっぜん見つけられないの。だから私たちはソラが見つけやすいように、少し大きめの声でおしゃべりをしていた。そのときに気づいた。


 アルトに話をふっているの、私だけじゃね?と。

 まあアルト自身が相槌を打つ以外はすべて私に話しかけるというのが原因かもしれないが、とにかく子どもたちはアルトに話しかけていなかった。


 アルト嫌われてんじゃん。かわいそ。って思ったよね。

 だけどこれがさ、違ったのよ。


 隠れている最中、話しかけはしないものの子供たちは、それはそれはキラキラとした目でアルトを見ていたのだ。それはまるで王子様やアイドルを見ているような目だった。

 私は悟ったよ。アイドルと同じクラスになっちゃったけど、高嶺の花すぎて話しかけられない~的な現象が起きているとね!

 女子だけかと思いきや、男子もそうだった。


 たぶんアルトは無意識のうちに王子様オーラが出てるんだろうね。だから子供たちは話しかけづらいのだ。

 一方のソラは王子さまって感じがしないくらい6歳児らしい男の子だ(ディスってるわけじゃないぞ!)。だからみんな話しかけやすい。


 アルトもソラみたいにみんなが打ち解けやすいような、そう。いわゆる弱点があればいいんだけどねぇ。


 「うぁぁぁぁぁあ!」


 突然聞こえてきた叫び声に、私は深くうなずく。


 そう。まさに、これ。

 叫ぶアルトを見て、アルト君にも弱点あるんだ~、ぼくたちといっしょだー、ハイスペック人間なんているはずないよね~って感じで、親しみをもってもらえればきっと……あれ?


 絶叫を頭の中で再生しているうちに。叫び声が見知った、蹴り合った、頬をつねり合った誰かさんの声に似ている気がしてきて…リディアちゃん、ツーっと嫌な汗が頬を伝いました。


 「…まさか、ね」


 いやまさか。うん、まさか。

 そう思いながらもまだ続く叫び声を、よーく耳を澄ませて聞いてみて……

 

 「嘘、アルト!?」


 真っ青になった。

 

 「ちょ、やばいじゃん!」


 自分の耳腐ったかと思ったけど、この声は間違いなくアルトだ。

 私は駆けだした。叫び声は今もなお続いている。アルトが叫ぶなんて、いったいなにが起きたの!?

 アルトのことだ。よほどのことがない限りは叫ばないに決まってる。つまりよほどのことがあったんのだ!!


 そこで私は思いつく。まさか、クマが出た!?


 クマがアルトに襲い掛かっている。一度その光景を想像してしまえばもうそうとしか考えられなくなった。一匹だけなら自力で仕留められるだろうから、きっと二匹出たんだ。やばい、アルトが死んじゃうぅ!


 「ア、アルトぉおおおお」


 走るスピードを上げ、草木をかき分け走り。

 私はようやくアルトのもとへたどり着いた。


 そして、見た。


 金縛りにでもあったかのように、動けず、ただ叫び声をあげ続けるアルト。

 と、そんなアルトの顔面に乗る小さなクモの姿を。


 「うぁぁぁぁっ」

 「……は?」


 一瞬思考が停止した。

 うん。何だこの状況?と。


 アルトが叫んでいる。きっとやばい。そう思って来たら、ただクモが顔面にのっているだけだった。もしかしてクモ以外になにか危険なものがある感じ?

 そう思って周りを見回すが、うん。なにもない。おもしろいくらいになにもない。いつもと同じ森だ。


 「うぁぁぁぁっ」

 「……。」


 アルトは尚も叫び続けている。

 よくわからなくなってきた。


 だけどまあ、私はとりあえずアルトの顔面からクモを取り払ったよね。

 このまま叫んでたら、口の中にクモが入っちゃいそうだし。


 ぴょいっとクモをつまみとって、私は遠くの茂みに向かって投げる。

 その瞬間、私の腹部に強い衝撃がっ。


 「ぐっふ」


 なんだ!?やはり新手の攻撃か!?

 自分の腹部を急いで見た。


 「……はい?」


 見れば、まず目に入ったのは銀色の頭。

 ようするにアルトが私にしがみついていた。ありえない。

 だれこれ、アルトのそっくりさん?

 脳内が著しく混乱中である。


 そんな中で私の腹部に巻き付く彼が一言。


 「…怖かった」


 うん?

 その体は、あきらかに震えていて…


 「もしかして。クモ、苦手なの?」

 「っ!?リ、リディア!?」


 聞いた瞬間、我にかえったのか、アルトが顔を真っ赤にさせて私から離れた。


 それはもう、磁石の同極同士の反発みたいな勢いで、離れていったよ。え、なに。そんなに私のこと嫌いなわけ?ちょっと傷つくぞ?

 まあいいさ。問題はそこじゃないもの。


 「もしかして無意識に私にしがみついていたの?クモ、怖かったの?」

 「ぼ、僕がク…クゥ…クモを嫌いなわけ、あ…うぅ……ああ。そうだよ!笑うがいいさ!」


 うまくごまかそうとしたみたいだけど、アルトはクモの恐怖のせいで頭も呂律も回らなかったのだろう。半泣きで逆切れしてきやがった。

 助けてあげたのに、逆切れされるとか理不尽すぎるだろ、私。


 それにしても、意外だね。

 あの完璧主義のアルトに苦手なものがあったなんて。しかもクモ。

 あ。クマとクモ。一文字違いだ。私、惜しいじゃん。


 なんてふざけたことを私が考えている今も、アルトは顔を真っ赤にさせて震えている。それははずかしさからくるものなのか、それともまださきほどのクモが怖いから震えているのか。


 えー困ったなぁ。この場合って、私はどうするべき?

 いっそ笑ってあげたほうがいいのかなぁとか考えたけど。すこーし悩んで、結局私は震えるアルトの隣に座ることにした。


 ほんとうは頭をなでてあげようかと思ったんだけど、アルトの性格上、嫌いな相手に恐怖のあまり抱き付いてしまった挙句、頭を撫でられるとか屈辱に感じそうじゃない?だからやめてあげた。おねーさんの配慮ってやつ。


 それだというのに、アルトは私をジト目でにらんできた。


 「なによ?」

 「……どうして今日は、なにもしてこないんだよ」

 「……はい?」


 思いもよらない言葉に、ポカン。え、なんだって?私の頭疑問符まみれなんですけど?

 そんな私に気づかないのかアルトは顔を真っ赤にさせて続ける。


 「僕が、クモが苦手だから?クモが苦手だなんて、完璧じゃないもんね。完璧じゃない僕なんて、頭をなでる価値もないと…見限ったんでしょ!?」


 あれだけ、友達になろうって口説いてきたくせに。なんなんだよっ。とアルトはぶつくさと言っているが、ちょっと待て。驚きすぎて思考が停止していた。


 「なに?あんた、もしかして頭なでてもらいたかったの?」

 「……え?」


 少しの間の後で、アルトの顔がカッと赤くなった。


 「そっ、そんなわけないでしょ!」

 「え、そうなの?うーん、あんたの気持ちがわからん」

 「僕もわからないよ!」

 「え。わからないの!?」


 アルトは自分の真っ赤な顔を隠すためなのか、ぐるんとボールのように丸まった。体育座りの応用編かな。アルマジロみたいだ。


 さてどうしたものか。本人はなでてもらいたくないと言っていたが、…なでてほしいんだよね?


 「…プッ」

 「ちょ、なに笑っ…」


 アルトの言葉は途中で途切れた。それはたぶん、私が見た目に反してやわらかいアルトの頭の上に手を置いたから。

 ほんっと素直じゃないやつだなぁ~。


 「僕がクモ、苦手だから…笑ってるんでしょ」


 頭をなでていると、顔は上げずに、アルトが言った。

 めっちゃ勘違いしてるじゃん。さらに笑っちゃうね。


 「あはは。なにそれ、違うけど?」

 「嘘だ。じゃあなんで笑ってるのさ?」

 「アルトがバカだから」

 「なにそれ、意味わかんない」

 

 ふてくされたような声にさらに笑っちゃう。


 「また笑ってっ!僕はバカじゃないから、わかるんだよ!僕のこと、見損なって…離れていくんでしょ?いいもん。君なんて、離れていったところで、痛くもなんともない。せいせいする」


 アルトの顔はふせたまま。

 だけど彼の手は、言葉に反して、頭をなでる私の手を握り締めていた。

 困ったね~手握られてたら、頭撫でてあげられないぞ?それでいいのか?

 

 「アルト、手離して」

 「やだ」

 「もしかして不安なの?離れてかないよ。友達だもん」

 「……。」


 おいおい反応すらしなくなったぞ、こいつ。


 「おーい、もしもーし」

 「…うるさい。用がないなら話しかけないでくれる?」

 「こ、こいつっ。あー…じゃあ、どうしてクモが苦手なのか、聞いてもいい?」


 問えばアルトはふんっと鼻で笑った。


 「誰が君に教えるか」


 用がないなら話しかけるなって言ったから、質問したのにこのブラコンヤンデレめ!

 イラッとしたので手を離そうとしたら…くそっ、離れんっ!このやろー!


 「じゃあ、ソラに言っちゃおー」

 「……あれは、僕が3歳のときだった」


 ソラを出されたら弱いアルトは、語り始めた。

 ちなみに私の手は握ったままだ。おい!


 「その年は年中慌ただしくて城勤めの者達は朝から晩まで働き詰めだった。それは僕についていた使用人たちも例外じゃなくて、手が離せないときは新しく入った使用人たちが僕の世話をしていた。でも、その新入りのやつらがとんでもなく嫌な奴で、僕はひっそりといじめられていた。まあ普段から僕についていた使用人もクソみたいなやつだったけど…、あのときのやつらほどひどくはなかった」


 それを聞く私は冷や汗、だらだらだ。


 別にアルトがさきほどより強く私の手を握ってきて、痛いから冷や汗が出ているわけじゃない。

 問題は別にある。


 だって、アルト。城とか使用人とか言っちゃっているんだもん。

 王子とまではギリギリ断定できないけど、「城」「使用人」ってフレーズから貴族の出だっていうのはわかるよ!?いや城って言ってる時点でアウトか!?

 私はアルトとソラが王子様だということを知ってるから驚かないが、私以外の人間がこのことを聞けば、おそらく相当やばいことになるだろう。不用心だよーっ。

 まあアルトのことだから普段は王子であることがばれないように気を付けているのだろうけどさ。今回グレーゾーンワードを出したのも、クモのせいで気が動転しているからだろうし。


 アルトをそこまで動転させてしまうクモとはいったい…。


 「服に隠れて見えないような場所を蹴られたり、殴られたり、一番嫌だったのが、暗い地下室に閉じ込められることだった。そして閉じ込められたときに、僕はあの名前を呼ぶにも恐ろしい…」

 「クモ?」


 言えば、アルトの顔が一気に青くなった。

 ほんとに嫌いなんだな。


 「……そう。そいつに、出会った。真っ暗な中で、かさかさうごく音がして、辺りを見回していたら、頭になにかが落ちてきて、急いでとろうとしたら手にべたべたしたものがくっついていて、さらに手から服の中へとあいつらが侵入してきて…発狂した」


 うっ。想像するだけで、恐ろしい。

 アルトの顔は暗かった。


 「それ以来、クモが苦手になった。別にクモ自体は嫌いじゃないのかもしれない。だけどクモを見るとどうしても、あの使用人やあのときの出来事を思い出して、気づいたら体が動かなくなって、叫んでる」

 「アルト……」


 アルトの目には涙がたまっていた。

 私が勝手にアルトの気持ちに自己投影するのは傲慢なことだと思うけど、アルトの幼いころを想うと心がズキズキ痛くなって悲しくなってくる。

 だって、もしかしたら、アルトの性根がこんなに腐ってしまったのは、使用人や周囲の人間のせいかもしれないじゃないかっ!


 「ねぇ。もしかしてそのアルトをいじめた使用人のやつらはまだ働いているの?」

 「まさか。あいつら今度はソラに手を出そうとしたから僕がクビにしたよ」


 そう言って不敵に笑うアルトは、いつもの、アルトだ。


 「…プッ」

 「はあ?ちょっと、今のどこに笑う要素があったわけ!?」

 「いや、ごめ…でもさ…あははっ」


 アルトは不機嫌そうに私をにらんでくるが、私の笑いは止まらない。

 だって思っちゃったんだもん。こいつ小さいころからブラコンなのかよ!って。

 自分のためには頑張れないのに、弟のためなら怖かった使用人も物ともせずに頑張れちゃうとか。ほんと憎めない、かわいいやつだなぁってさ。


 さっきまで悲しい気持ちだったのに、へんなの。


 「…もぅ、あんたソラのこと、ほんと大好きね」


 するとアルトがキョトンと首を傾げる。


 「好き決まってるでしょ。ソラは世界で一番大切な僕のかわいい弟だよ。ソラのためならなんだってできる」

 「愛が重いなぁ」

 「なに?悪い?」

 「はいはい、悪くないですよ。だから怒んないで」

 「…いい?このこと、絶対に誰にも言っちゃだめだからね?今日だけだから。普段はクモと遭遇しないように細心の注意を払っているけど、今日はたまたまうっかりしていて、クモが顔に落ちてきて……」

 「わかったわかった」

 「ならいいけ……」


 私がうなずいていたときだった。

 ふいに、アルトが私の髪に触れた。


 な、なんだ!?

 アルトの顔は別に私をバカにしているようでも、不敵に笑っているようでもなくて、ただ無表情だったから……変な汗が出てきた。


 「も、もしかして、女装したいとか?」

 「はあ!?なんでそうなるわけ!?」


 アルトの様子を見るに女装に興味があるという線はなさそうだ。

 髪の毛を触ってきたから、女装でもしたいのかと思ったけど。とりあえず、よかった。別に人の趣味嗜好をどうこう言う訳じゃないけどね、女装をしたいとか言われたら、私アルトに自分の服貸すくらいしかできないから。


 とりあえずほっと一安心。

 だが、別に状況はよくなったわけではない。

 だってアルト、私の髪の毛つかんだままなんだもん。


 「あのぉ、なんで髪の毛にぎってるの?」

 「……別に。ただ、他の女子たちは髪の毛が長いのに、君は短いから。そう思ったら不思議で…触ってた」


 そんな理由で触るのか?

 そう思いつつもも髪が短くて不思議と言われれば、男の子は疑問に思って当然なのかなって気もしないでもない。

 それで髪を触るという発想に至るのは、さすが女子をメロメロに落とすだけはある悪役王子といったところだけどね。

 

 「まあたしかに私の髪は短いよね。特に意味はないけど」

 「ふーん」

 「長い髪も触ってみたいなら、他の子に頼むといいよ?」

 

 それがきっかけに私以外の友だちができれば最高だ!

 私はにこやかに提案するが、なぜかアルトはムッとした顔をしていた。

 なぜに?




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