64.3人仲良く密談しましょう
「ふん。そうかロキはきのうに引き続き今日もお前を逃がそうとしたか」
3日目の夜。
本日は私、エル、ジークの3人で密談をしていた。
場所はジークの部屋。移動方法はもちろん瞬間移動。エルも運んでやりましたよ。気分は送迎車だ。
ちなみにさきほどのジークの言葉の通り、私は今日もマザーにおつかいを頼まれロキに置いていかれアースに拾われ孤児院に戻ってきた。ロキに「なぜ戻ってきた」とにらまれましたね、はい。
「なるほど。理由はわからないが今リ…ヒメは逃げなければならない状況にあって、その手助けをするロキはなんらかの情報を持っている可能性がある、と」
「そのなんらかの情報が顔えぐられ事件に関することだとお前らは考えるのか」
「まあそう考えたら辻褄が合うよね」
私たちは頷く。
仮定の話だけど。マザーが顔をえぐられ事件の犯人で、ロキはその協力者。マザーが私の美少女フェイスを狙っているからロキは私を逃がそうとしている。
そうかんがえるとものすごくしっくりきちゃうんだよなぁ。
ていうか私たち不老不死の薬作ってるって聞いたから孤児院に潜入したのにどうして殺人事件の真相を暴くことになってんだろう。私たち魔法使い見習いだよね?いつのまに探偵になったの?
きのうロキに置いてかれた時点で師匠のとこに帰ればよかった。なーんつって。
「そういえばロキがマザーのことを「あの女はマザーの顔を奪った化け物」って言ってたなぁ」
ぽろっと独り言がこぼれたらエルとジークがものすごい勢いで私を見てきた。
「おまっ。どうしてそれを早く言わねーんだよ!」
「もろクロじゃねーか。顔を奪った化け物とか、顔えぐられた遺体と関係ないわけがないだろ」
「あーはいはい、すみませんでしたねー」
きのう言おうと思ったがタイミングを逃したのだ。とは言いません。あんたたちの話が長すぎて気が付いたら夜が明けていたんだよ!私のせいじゃないぞ。まったく失礼してしまう。
ぷんすかと私が怒る一方でエルは疲れ切った顔をしていた。
「もう考えんの面倒だから孤児院ぶっ潰すぞ」
「なんでだーッ!?」
そして突然の暴挙。しかもすでに決定されているらしい。
ジークが困惑していますねぇ。
「エルは言葉で語るより拳で語ろうぜ派だからね。仕方がないよ」
「なにが!?え。お前ら真相暴くためにここに潜入したんじゃ…」
「かくいう私も拳派なので孤児院を潰しましょう」
「おいーッ!」
ジークは相変わらず喚いているね。
「…そういえば、さ。もしマザーが殺人犯だったとして捕まえるってことになったら孤児院の子供たちはどうなるの?」
問えばジークは一瞬ポカンとしたのちに理解したようでうなずいた。
「そんなのおれが…ごほん、夏の国が責任を持って保護する」
「結局お前が保護するってことだろ」
「なっ。ちがっ!」
「ちょっとエル。レインってば自分の正体隠し通せているって思ってんだから、そんなこと言ったらだめだよ。かわいそうじゃん」
「…そうか」
「お前ら内緒話的雰囲気出してるけど、おもくそ聞こえてるからな!?」
ジークがまた喚いているがいつものことだ。ほうっておく。
ともかく安心した。なにかあってもジークが子供たちを保護してくれるというのなら、孤児院をぶっ潰しても問題ない。
子供たちの精神的フォローもジークに丸投げして大丈夫だろう。
うんうん頷いていればジークの視線に気づいた。
改まった様子でじっと私を見ている。嫌な予感がする。
「ところで友人にそっくりのお前だから頼みたいことがある」
「嫌だよ」
「俺の恋愛相談に乗ってくれ!」
「だろうね!言うと思ったよ。ていうかものすごい話題変えてきたわね!?シリアスだった雰囲気から一気に馬鹿モードに変わったわよ!?」
「実は惚れさせたい女がいて…」
「おいコラ人の話聞け」
断ったのに勝手に語り始めたジークのせいで、結局恋愛相談に乗ることになってしまった。さきほどまで真面目な話をしていたはずなのにどうしてこうなった。
エルもあきれ顔だぞ。「こいつまだ告白してなかったのかよ」とか言ってるし……前も思ったけどなんでエルってばジークに詳しいの!?
「おい聞いてるのか!」
「え!あー、はいはい聞いてるよ」
嘘です。聞いてませんでした。
エルの視線が痛い。「ダウト」って顔に書いてある。
だけど気にしませーん。自分に都合の悪いものは見ないスタイルで生きているので私はエルを視界から外しジークを見た。ああ、失敗した。こっちはこっちで期待溢れるキラキラ瞳がうざいわ。
「あーっとね、そう!押してダメならひいてみろ、だよ。猛アタックしてきたやつが急になにもしなくなると違和感を覚えるんですって。それで気になっていって恋に発展することがあるそうよ」
「押してダメなら引く。なるほど…」
深々と頷くジークは完全に自分の世界に入っちゃっている。脳内でシュミレーションしているんでしょうね。ジークはいくつになってもジークだ。あきれて笑ってしまう。
にしてもほんとジークはなんでこの孤児院に潜入できたのだろうか。
動機はわかるよ。ジークのことだからエミリアにいい恰好見せたくて疑惑にまみれたこの孤児院に単身潜入したのだろう。…そうなのです。ここ重要。ジーク君、騎士団と力を合わせて潜入調査かと思いきや1人で潜入したそうです。
エミリアが血眼になってジークのことを探している姿が目に浮かぶ。あんたはいくつになってもエミリアに迷惑をかけるよね。
ていうか自国の王子の単独行動許すとか夏の国大丈夫なのだろうか。私はそれが心配というか疑問なのだ。
落ち着いているとはいえまだ戦争中。そんな中で自由行動させるとか危険すぎるだろ。あのアルトですら騎士3人を連れていたのに。
普段ジークには護衛としてエミリアが張り付いている。でも王子なのだからエミリアのほかにも陰ながら ジークを守る騎士とかがいるわけで、というかいないと困るわけで。
だけど気配に敏感なエルが言うには、現在ジークを影から見守るような人間はいないとのこと。
私にはジークが騎士たちを振り切って孤児院に潜入する実力もしくは説得する手腕を持っているとは思えない。ほら。見ての通り彼はあと惜しいところまでいくのにねぇ不憫だねぇのバカ王子なわけだし。
そこが少しいや、かなり気になる。
テンプレでよくあるのはこれだよね。
実は国ぐるみでしたー的なやつ。
孤児院が顔えぐられ殺人事件に関わっていることも不老不死の薬を作っていることも夏の国は知っている。黙認している。裏でつながっている。だからジークが潜入したところで危険はない。うちのバカ息子そっちに潜入しちゃったけど殺さないでね~って伝えて、おっけーって言ってもらえばいいだけだし。
まあ私の考えすぎだろうけど。いやだってもしそうだとしたら困るじゃん。国が敵とか。
……ハハハ。まさかね~。
「お。もうこんな時間か。じゃあ締めに入るぞ」
「誰のせいでこんな時間になったと思ってんだよ」
「ほんとどこぞの誰かの恋愛相談のせいでこんな時間になったんですけど」
「……。」
はい、ジーク君無視ですねー。
リディアちゃん怒ですよー。
「とにかくヒメはロキと仲良くなれ。そしてロキから信用されて話を聞きだせ。そういえばお前セスが怪しいとか言ってたな。いいだろう。セスはおれとエルで見張ってやる」
「却下。私だけめっちゃ大変じゃない。あんたたちもロキから信用されるように頑張りなさいよ」
「あーそうだ、お前一応これもっておけ。なんかあったときに役に立つだろ」
「おいこらエル。話をそらすな。押し付けるな。ていうかこんなの師匠の言質を取るくらいしか役に立たな…」
「よしこれで決まったな。ヒメはロキから話を聞く。おれたちはセスを見張る。はい、解散」
「いや絶対にうまくいかないからね」
だがしかし思いもよらぬことに私のこの発言はフラグだったようだ。
翌日のことだ。作戦は意外にもうまくいった。
もちろんロキに信用されたわけでもないし、殺人の話を聞けたわけでもない。
だけれども結果として孤児院が殺人に関与しているということはわかった。
「俺たちのマザーを奪うやつは許さないよ。ロキ、早いけどやっちゃお」
「……っ」
セスがにこにこ笑顔で縄を持って私に迫っていて、ロキは唇を噛みしめてだけど私に何かの魔法を放つための魔力を練っている。
もう一度言おう。孤児院が殺人に関与していることはわかったよ。
だって私は今まさに顔えぐられ事件の被害者秒読み段階に入ってますからね!
いつの日だかジークが言っていた「自分を囮にした捜査」になってしまった。
とりあえず。
師匠あとで覚えとけよーッ!




