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61.今日は予想外の出来事が多いね!



 困った。私は一人黄昏ながら大通りを歩いていた。


 「探せども探せどもロキはいないし…」


 ちなみにロキにおいてかれてから2時間が経過しました。ちょっと泣きそうです。

 いやでもねロキのことは責められないんだよ。詳しいことはわからないけれど、ロキが私を助けようとして私を置いていったのはわかるからさ。あんたには生きてほしいって言われたくらいですし。


 だけどもごめんね、ロキ。私は孤児院に帰らないといけないのよ。

 不老不死の薬づくりを止めなければならないからね。

 しかし悲しいことに私は孤児院への帰り道が分からないのです。

 つまり何が言いたいのかというと。



 ロキ、お願いだから迎えに来て。怒らないから。



 心の中で念じるけれど当然ロキは現れず。

 まあそういうもんだよね。ハッ。


 すさんだ気持ちでとぼとぼ歩いていたら誰かにぶつかってしまった。なんだかついてないな。


 「…え?」

 「すみません」


 ぶつかってしまった相手はなぜか驚いているようだがスルーした。私は今それどころじゃないんだよ。ロキを探さなければならないのだ。

 なので軽く謝って歩みを進める。のだが、進まない。


 なぜって?さっきぶつかっちゃった人に腕を捕まれているからだ。

 男性の大きな手が私の腕をがっしりとつかんでおります。


 ふ、不審者かなぁ?


 当然だけど警戒心マックスで私の腕を掴んでくる人を見るよね。それでもって驚くよね!


 「…この記憶。やっぱりリディアだ」

 「アオ兄ちゃん!?え、うそ!ぶつかった人ってアオ兄ちゃんだったの!?全然気づかなかった」


 そう!私を掴んでいたその人は、口をポカンと開けて私を見るアオ兄ちゃんだったのだ。


 黒いシャツに黒いジーンズ。黒い鎖を腰からぶら下げ黒いブレスレットに黒いカフスと全身黒づくめだけど、うん。アオ兄ちゃんだ!


 「なんかワイルドになったね!」


 率直な感想を告げればアオ兄ちゃんはまぶしそうに目を細めて笑った。


 「リディアは女の子らしくなったね。そっか。もう12歳か」

 「ちょっと!女の子らしくなったってなによ。今までが女っぽくなかったって言っている風に聞こえるんですけど」

 「え、自覚なかったの?」

 「むきぃぃいい!」

 「ふふ、嘘だよ」


 やわらかくほほえんで、アオ兄ちゃんが頭をなでる。

 悔しいけど懐かしくて落ち着く。

 ゴロゴロと猫のように喉を鳴らす私を見てかアオ兄ちゃんが噴き出した。ちょいとお兄さん、そこはリディア可愛い~って萌え萌えキュンキュンするところですよ。


 「そういえばアオ兄ちゃんは今なにしてるの?まだ孤児院にいるってわけじゃな…」

 「リディアが孤児院からいなくなってもう6年だね~。今までどこにいたのかな~?俺達ものすごく心配したんだよ。アルトたちなんて今も君を探してるよ~」

 「え~っと、ノーコメントで」


 なんとなくアオ兄ちゃんの現在の生活が気になって質問したのだが墓穴を掘りました。

 アルトたちに出会ってもうまいことごまかせていたから忘れていたが、リディア本人だって気づかれたらそりゃ孤児院から消えたときのこととか聞かれるよね。


 でもさ。なんと説明しましょうか。

 師匠に攫われましたとかバカ正直に言って師匠が騎士団に捕まっても困るし。説明した結果孤児院に戻ろうとかになっても困るし。


 汗だらだらで考えを巡らせていると、頭上でクスリと笑う声がした。考えずともわかりますよ。アオ兄ちゃんである。むかつくね!


 「もぅアオ兄ちゃん!私が一生懸命考えているのをバカにしてるで……」


 だけど言葉は途中で消えた。

 それはアオ兄ちゃんの顔を見てしまったから。


 アオ兄ちゃんは笑っているのに、どこか泣きそうな困ったような顔をしていたのだ。そんな彼は私の頬を優しく撫でる。


 「君が望まないのなら詳しいことは聞かないし、君に会ったことは誰にも言わない。代わりに一つだけ教えて。……リディアは今幸せ?」

 「アオ兄ちゃん?」

 

 楽しそうに笑いながらいつも私に手を貸してくれたアオ兄ちゃん。

 自分のことは後回しにして彼は孤児院の子供たちや私を何度も助けてくれた。

 でも、なぜだろう。

 今はアオ兄ちゃんが助けを求めているように見えるのだ。


 「なにか…あったの?」

 「え…?」


 私の言葉にアオ兄ちゃんはほんの一瞬だが狼狽した。

 だけどすぐに彼は苦笑して、昔と同じ、みんな大好きやさしいアオ兄ちゃんに戻ってしまった。

 

 「ねえアオ兄…」

 「リディア、逃げたい?」

 「え?」


 思いもよらない言葉に驚いた私を見てアオ兄ちゃんはいたずらが成功した子供のように笑う。


 「ちょっといま悩んでてさ。迷ってるんだ」


 しかし彼の紺色の瞳は全く笑っておらず、ただまっすぐに私を見つめていた。

 じわりと手に汗がにじむ。


 「君が願うなら俺は君を連れて逃げるよ。この国を出て知り合いが誰もいない場所で2人で生きるんだ。意外と楽しいかも」

 「……。」


 冗談ともとれるし本気ともとれるような声色。

 アオ兄ちゃんは何から逃げたいのか言わなかった。

 一瞬、いつ君本編開始と死ぬ可能性のことを言われているのかと思った。けど、たぶんちがうよね。


 アオ兄ちゃんが言っているのは私じゃなくて、


 「()()()()()()は逃げたいんだね」

 「え…?」


 瞠目。だけどすぐに彼は困ったように笑った。


 「見抜かれてたか。さすがリディアだね」

 「私はね、逃げないよ」

 「…そっか」


 適当にごまかしてもよかったのだと思う。

 だけど私は自分の想いをアオ兄ちゃんに伝えた。伝えるべきだと思ったから。


 私は逃げない。もちろん本編を開始させる気はさらさらないけれどこの国を出て逃げようとは思わない。不思議なことにこの国を出るっていう選択肢は私の中にはないのだ。


 「でもアオ兄ちゃんは逃げてもいいと思う」


 アオ兄ちゃんがなにから逃げたいのかはわからない。

 でも一つ言えるのは、私もアオ兄ちゃんも自分の運命を、生き方を自分自身で決めることができるっていうこと。


 「私は自分の気持ちに正直に生きてる、正直に生きたいって思ってる。だからアオ兄ちゃんも自分の気持ちに素直になっていいと思う」

 「…自分の気持ちに素直に、か。素直になってもいいのかな」

 「アオ兄ちゃん…」


 すぐ目の前に泣きそうな顔があるというのにうまい言葉がでない。

 力になりたいのに。なにもできない自分が嫌になってくる。

 そんな私の気持ちが伝わってしまったらしい。アオ兄ちゃんはくしゃりと笑った。


 「心配してくれてありがとう、ごめんね」

 「…っ!」


 アオ兄ちゃんは目を伏せると私の頬から手を離した。

 

 離れた手。

 

 それになんとなく危機感を覚え、私は遠のいていく彼の腕に手を伸ばし、触れた。


 服越しでもわかる筋肉のついた男らしい腕。アルトほどじゃないけどアオ兄ちゃんの体温は人より少し低くて、夏真っ盛りでこんなにも暑いというのにひんやりしている。


 穏やかな紺色の瞳が私を見下ろす。アオ兄ちゃんは自分の腕に触れる私の手を自分の腕ごと握りしめた。


 「わかったよ。君が逃げないと言うのなら、俺も逃げない。あと4年で願い事が叶うんだ。逃げるなんてもったいないよね。……変なこと聞いてごめんね、リディア」


 逃げないと言ったけれどアオ兄ちゃんの瞳は迷いで揺れている。

 でも私からはやっぱりなにも言えない。

 だから…


 「ちょ、謝らないでよー。アオ兄ちゃんは一緒に愛の逃避行しようぜ!って言ってくれたのに、私が断っちゃったんだから!謝るのは私の方だよ!」


 だから、楽しく茶化す。


 孤児院時代のあの日のように、アオ兄ちゃんとの再会を楽しめるように。

 シリアスな雰囲気は私たちには合わないよ。


 アオ兄ちゃんも私の考えに気づいてくれたらしくのってくれた。

 やれやれと言った様子で彼は肩を下げる。


 「ほんとうだよ。一世一代の大告白をしたのに断られて、俺かわいそうだな~。傷つけられたなぁ。どうやって償って貰おうかなぁ」

 「くそ!冗談で言った愛の逃避行が私の足を引っ張る!」

 「ハハハ、ほんとうにリディアは見ていてあきないよ」


 ニヤニヤ笑いながらアオ兄ちゃんが私の頭をなでた。

 こいつ頭を撫でたら私が何でも許すと思ってるな。まあ許すけどさ!


 「むふふ」

 「ふふ」


 顔を合わせて2人で笑う。

 そうやって小さな幸せを感じるなか、私は私の頭をなでるたくましい腕を見てふいに気が付いた。



 アオ兄ちゃんの腕についているカフスとブレスレット。どこかで見たことがある気がするぞ?ってね。



 腰にある黒い鎖にも見覚えがある。でもどこで見たのか思い出せない。

 あれだよ。あのさ、喉元まで出かかってはいるんだよ?だけど思い出せないの。

 うーん?と首をかしげて観察していればアオ兄ちゃんにおでこを指ではじかれてしまった。

 

 「あたっ」

 「ぼーっとしてたよ?久しぶりに会ったんだから俺のことを考えてほしいんだけどなぁ」

 「ん?あ、ごめんごめん」


 アオ兄ちゃんの言う通り私はぼーっとしていたようだ。だってここ数秒の記憶がないもの。


 私の視線はなぜかアオ兄ちゃんの腰元にあった。彼の腰には皮ベルト以外には何もない。なんで私アオ兄ちゃんの腰を見てたんだろう。ズボン脱がせたいとでも思ってたのかな?


 首をかしげていればアオ兄ちゃんが私の頬を両手でむにむに揉んできた。

 せめて断り入れようよ。

 そう思うけれどもしかし!私は心が広いから許す!


 それに頬をふにふにされていたら、アオ兄ちゃんの腕見放題だしね。装飾品を何もつけていない筋肉のついた男らしい腕を間近で見られるとか最高だ!


 だけどアオ兄ちゃんはせっかくのイケメンさんなのだから、そう!カフスをつければいいのにと私は思う。

 今日着ている黒いシャツにワンポイントなカフスは似合うだろう。黒いワイシャツだからシルバー系のカフスね。でもアオ兄ちゃんなら白も似合いそうだ。ちなみに黒いカフスとかは論外。


 「……?」


 なんで私こんなこと考えているのだろうか。

 ふと我に返り首を傾げたときだった。

 

 「探しましたよ、リディア」

 「ア、アース!?どうしてここに!?」

 「迷子になったリディアを迎えに来たんですよ」

 「えぇ!?」

 

 肩を捕まれ驚き振り返れば、そこには夏の国の騎士服を着たアースがいた。

 なんなんだよ今日は!サプライズが過ぎるよ!?

 

 一方で混乱している私と落ち着いた様子のアースを見てアオ兄ちゃんはなんとなく察したようだ。

 

 「お迎えが来たようだね。それじゃあリディア、ばいばい。また会おうね」

 「え、あ、うん。またね~」


 彼は私の頭を軽く撫でるとその場を去っていってしまった。


 小さくなっていくアオ兄ちゃんの背に手を振る。彼はまた会おうと言ってくれたがもうきっと会うことはないだろうからね。アオ兄ちゃんの姿をしっかりと目に焼き付けておく。


 そうしてアオ兄ちゃんの姿が見えなくなったところで私は隣に立つアースを見た。


 「で?アースがどうして夏の国にいるのよ!」

 「わかりました。答えますからリディアもどうして迷子になっているか教えてくださいね」

 「……へーい」





ちなみになのですが。ぶつかったときにリディアがアオ兄ちゃんに気づかなかったのは、リディアが脳内花畑のぼへぼへガールだからではありません。


アオ兄ちゃんが隠蔽の魔法で自分の正体を隠していたからです。


ぶつかった直後にアオ兄ちゃんが隠蔽の魔法を解いたので、リディアはアオ兄ちゃんの存在を認識しました。

リディアとの思わぬ再会に彼は動揺して魔法を解いてしまったのですね。



次はアオ兄ちゃん視点です。

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