表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/228

孤児院の少女F

読んでも読まなくても大丈夫なやつです。




 私の名前は、ルル

 ……の友だちの、ファナである。

 今日は私の友だちのルルについて、お話をしようと思う。


 私がこの孤児院に来たのは、2年前。4歳の時だ。

 そのころから彼女はすでに孤児院のアイドルだった。

 かわいくて、やさしくて、運動もできる。

 孤児院のみんながルルを慕って、ルルはいつもみんなの中心で笑っていた。

 でもそんな彼女の時代は、突如終わりを迎える。


 それはすべての桜の木が満開になった日のことだった。

 この孤児院に2人の男の子がやってきた。

 その2人の男の子を見た瞬間、私たちは言葉を失った。


 「こんにちは、アルトです。これからよろしく」

 「ソラ。……よろしく」


 明らかに私たちとは次元が違う2人だった。

 住む世界が違った。

 2人はそう。おとぎ話に出てくるような、王子様だった。

 孤児院のみんな、全員が、2人に見惚れた。

 私もうっとりと、2人の王子様を見つめていた。ずっと見ていられた。

 でも私は、見惚れることをやめた。見惚れていたかったけど、私の中に突如、小さな懸念が生じたのだ。


 それは孤児院のアイドル、ルルのこと。


 かわいくて、やさしくて、運動もできるルルだけど、彼女は負けず嫌いだ。もしかしたら、2人に嫉妬しているかも。だがそれは杞憂だった。

 チラッと隣に立っているルルを見れば彼女は私たちと同じように、いや、私たち以上に、2人の王子様を見て頬を染めていた。


 不安になんて思わなくてよかったのだ。

 だって孤児院の全員が、彼ら2人に見惚れている。

 全員ということは、その中にはルルもいるに決まっていた。彼らに見惚れない人間がいるわけないのだ。


 私たちは2人がやってきたその日から、男の子も女の子も関係なく全員のあこがれの存在となった。話しかけることはしない。遠目に見て、それで満足するのだ。話しかけるなんて、そんな大それたことできる子はいなかった。

 そんな私たちの気持ちを察してか、2人は私たちにあまり話しかけてこなかった。

 たまにアルト君が話しかけてくれたが、もうそれだけで息が止まりそうだった。うん。やっぱり、話しかけるなんてできない。だって、どきどきして、死んでしまう。


 ルルはソラ君の方が好きだったぽいけど、ソラ君は一度も私たちに話しかけたことはなかった。一方のアルト君は私たちが2人の存在に慣れてきた辺りから、少しずつ話しかけてくれるようになって、やさしくてたよりになるアルト君に、女子全員が恋をした。もちろんルルも。


 アルト君とソラ君が王子様なら、ルルはお姫様だった。

 孤児院の中で一番かわいいのはルルだったし。ちょっとうらやましいなと思う気持ちもあるが、ルルはいい子だしみんな大好きだったから、誰も文句は言わなかった。

 2人の王子様の隣に立てるお姫様は、ルルしかいない(どきどきして、緊張して、ルルが彼らの隣に立ったり話しかけたことは、一度もないけど)。そんな暗黙の了解が浸透していた時だった。


 お姫様は突如、交代した。

 ルルの時代は終わりを迎えたのだった。


 孤児院に新しく女の子がやってきた。

 年は私たちと同じ6歳。

 同い年なのに…この子もまた、同じ次元にいるとは思えないくらい、かわいい女の子だった。金色のやわらかい髪に、翡翠色の大きな瞳。笑う顔は、おひさまのようにまぶしくて。

 この場にいた全員が、見惚れたと思う。


 それはきっと、アルト君もソラ君も、そしてルルも。


 結局自己紹介をする前に彼女は高熱で倒れてしまい、私たちはそれから2日間、リディアちゃんと会うことはできなかった。そうして2日後、目を覚ましたリディアちゃんは、これが2日前の女の子なのか?というくらい、とにかく奇妙な子になっていた。


 わけのわからない行動をして、温厚な神父様を怒らせたり、ソラ君をまきこんでいたずらしたり。アルト君の笑っていない顔を見たのはあれが初めてだったと思う。私たちは思った。

 お姫様じゃなくて、宇宙人がきたぞっと。


 でも神父様にリディアちゃんが緊張していたって教えてもらった。たしかにそうかもしれない。実際、声をかけたらとてもうれしそうにしていたし、ほんとうに緊張をしていたから様子が変だったんだなと思った。


 でも私たちと次元が違うのはほんとうだったみたい。

 あれから私たちのアイドル3人は、一緒に行動をするようになった。


 リディアちゃんは、私たちと遊んだり話したりするし、したさそうなのだが、ソラ君がそれを許さない。リディアちゃんのことが気に入ったのか、とにかくリディアちゃんを見つければすぐに走ってきてつれさってしまう。ソラ君と常に行動を共にしているアルト君も、当然リディアちゃんと一緒に行動をする。

 そういえばアルト君の時もそうだった。私たちがアルト君とお話をしていると、きまってソラ君がアルト君を連れて行ってしまうのだ。


 ソラくんは一度親しくなれば…身内になれば、決してその手を離さない。むしろしがみついて、離れない。そういう子だということが分かった。今までは兄弟だからそうなのかなと思っていたが、リディアちゃんがきたことによって確信した。


 私はよく神父様にファナは周りのことがよく見えているねと言われる。でもそんなことはない。私なんかよりもずっと見えている人はいる。

 現にほら、私の隣でルルは小さな手をぎゅっと握りしめている。

 ルルの視線の先には、ソラ君と、ソラ君に手を引っ張られるアルト君とリディアちゃんがいた。


 ある日、ルルが言ってきた。

 「ねぇ、ファナ。私もソラ君に気に入られたら、あの2人みたいに特別に仲良くしてくれるよね。離れようとしても、きっと離れてくれないよね?」

 「うーん。たぶん?」

 その日から、ルルの猛アタックが始まった。


 きっとここ最近、アルト君とリディアちゃんが仲良くなって、ソラ君がしょんぼりしているのを見たから狙ったんだと思う。

 アルトくんもリディアちゃんも、2人とも顔には出さないし、いつとも変わらない様子で遊んでいるけど、あきらかに今までと2人の間で雰囲気が変わった。なんていうか、以前は気を遣ってたけど、今は気を遣わなくなった、みたいな?


 遠くで観察している私が気づいたのだ。私よりもずっと近くで2人を見ているソラ君が気づかないはずがない。ソラ君はそんな2人を見て、少しさみしくなったんだと思う。ちょっとしょんぼりした顔をしていた。


 ルルはそれを好機ととらえたのだ。

 いったいどうなるのかなーなんて、部外者の私は外から見ているのが今一番楽しかったりする。そう考えると、確かに神父様の言う通り、私は周りのことがよく見えているのかもしれない。だって楽しくて見ちゃうから。


 あれ?ルルの話をするつもりだったけど、気づいたら私の話になっていた。うーん。まあ、いいかー。


 そんなことを思っていたら、後方から鼻歌が聞こえてきた。


 「こーい、こーい、やーまい!ふぅっ」


 こんなへんてこな鼻歌をつくるのは、神父様をおいてほかにはいない。神父様は新しい鼻歌ができると、決まって早朝に歌うのだ。きっとみんな寝てるから歌っても聞こえないと思っているのだろう。早起きな私はいつも聞いてるけどね。


 それにしてもこの鼻歌。

 恋の病、だなんて。神父様、マリアさんと進展があったのかな?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ