58.不安しかないんですけど
短いです。
「ヒメ、エル。こっちへいらっしゃい」
「はーい?」
マザーに呼ばれたのはバカ兄弟子と元俺様へたれ王子をどうしてやろうかと考えていたときだった。
ジークと別れ廊下にいるマザーの元へ向かえば、そこにはロキともう一人――ロキと同じ年頃の男の子がいた。顰め面のロキとは反対に彼は人懐こそうな笑顔を浮かべている。
「2人が孤児院に慣れるまでこの子たちがお世話をするわ。ヒメにはロキ。エルにはセスをつけるから。2人とも11歳よ。ヒメとエルよりは年下かしら?」
言いながらマザーが私に笑いかけてくる。
ここ大事。私とエルではなく、私に!笑いかけているのだ。一歩下がってエルの後ろに隠れるよね~。
「別に世話役は必要ない」
こういうときの兄弟子はとても頼りになる。
エルは私を背に隠しマザーを睨んだ。よっ!エル!男前!
「あら~。ほんとうに~?」
「必要ない」
「ひゅーかっこい…じゃない!ちょっと待ってエル」
「あ?」
エルは不機嫌そうに私を見てくる。いや私を守ろうとしての発言だとはわかっているよ。わかっているけどもさ!世話役必要ない発言は悪手だと私は思うのだ。
私たちはこの孤児院が不老不死の薬を作っている証拠を見つけ次第ぶっ潰すために潜入している。探りやすくするためにも孤児院には馴染んでおきたい。あと普通にロキとガールズトークがしたい。
これらのために世話役は欲しいのだ。
でも絶対不老不死の薬と関りがあるであろうマザーが目の前にいるため私の考えをエルに伝えることは不可能!このままでは世話役必要なしと判断されてしまう!
どうしたもんかと悩んでいたときだった。
「まあまあそんなこと言わないで仲よくしようよ。世話役って言ってもずっと君たちに張り付くわけじゃないからさ。俺はセス。よろしくね」
「…ロキよ」
セスが笑顔でエルに握手の手を差し伸べた。ロキはそっぽを向いて小さく自分の名だけを伝える。
話の流れが変わりましたよ、ありがとうございます!セスが天使に見える。
ちなみにエルはセスの握手に応じなかったので代わりに私が握手しといた。
「すみません、うちのエルが」
「こちらこそロキがごめんね。ほんとうにこいつは愛想がなくて、見ていてイライラするよね」
「…え」
セ、セスが天使に見えるって言ったの撤回します。
顔が引きつる。こいつ笑顔でさらっと暴言吐いてきたぞ。
イライラすると言われた張本人であるロキは怒るも泣くもしない無反応。マザーは困ったように笑うだけ。え。彼の発言に誰も反応しないの!?
「えーっとですね、私の友達にすっごく無表情な子がいるの。おまけに寡黙で。ほんとなにを考えているのかわかんないわけ。だけど私はその子のこと大好きでして全くイライラしないんですよ、ハハハ」
「……。」
仕方がないので私が動くよね。
セスと私は価値観が違いますね~と遠回しに伝え、私はセスと握手していた手をやんわ~りと振りほどいた。
そしてそっぽを向いていたロキの手を無理やり握りしめる。
「よろしくね、ロキ」
ロキは私の行動に困ったような顔をしたものの、しばらく逡巡した末にうなずいた。
さて。私は見ていなかったからわからなかったのだが、後の聞いたエルの話によるとロキと無理やり握手をした私を見てセスは困ったように肩を下げたらしい。
そしてこう言ったのだそうだ。
「え~。俺、ヒメに嫌われちゃった?まあいっか。どうせ長くても1週間程度の付き合いだろうし」
あのぉ、それどういう意味ですかぁ?




