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57.どうせエミリアにいい恰好見せたかったのでしょう



 顔を引きつらせる私に向かって握手の手を差し伸べるのは俺様キャラどこへ消えたでおなじみの赤髪の美少年。

 

 「おれの名はレインだ。よろしく」

 「よ、よろしく」

 

 私はしぶしぶその手を握り返す。


 言わずともわかりますよね。私が今握手をしているのは夏の国の王子ジーク君です。

 なぜ私とジークが感動の再会(笑)をしているのか。

 時は5分前に遡る。



////////☆


 孤児院についた私たちはマザーに案内され、孤児院で暮らす子供たちが集まっている部屋に来ていた。


 「みんな集まってらっしゃい。新しい家族よ~」

 「マザ~!」


 その存在に私が気づいてしまったのは意外にも早かった。

 マザーの姿を見て子供たちが集まってくるのだ。でもってその集まってきた子供たちの中に見覚えのある赤髪があったのだ。……うん。帰りたくなるよね。回れ右してゲットホームしたくなるよね~。


 当然私のつくり笑顔はアルト直伝目の笑っていない笑顔になりました。


 ちなみにだがなぜかエルもジークを見て顔を引きつらせていた。「なんでお前がいるんだよ。まさかエミリアまでいるとか言わねーよな」とね。

 エルの言葉に激しく同意。それ私も思ってた。


 エミリアには会いたいよ。会いたいけどもさ!さすがに2人は手に負えない。リディアではないとごまかしきれるかどうか…あれ?なぜにエルがジークとエミリアを知っている?

 

 とまあ、思考を巡らせる私たちは当然黙りこむわけで、そんな私たちを見てマザーや子供たちはありがたい勘違いをしてくれた。


 「大丈夫!怖くないよ!緊張しないで!」

 「私たちは2人を歓迎するよ!!」

 「みんないい子たちだから失敗しても大丈夫よ。さあ2人とも自己紹介をして」

 「「……。」」


 これに乗らない手はない。

 黙っていれば儚い美少女なリディアちゃんはすぐに「リディア。緊張してるぅの。てへぇ」な女の子になりました。直後エルに脇腹の肉をつねられた。あとで覚えてろよ。


 さて腹立つ兄弟子は後回しにして自己紹介だ。

 訝し気な顔をしてこちらを凝視してくる赤髪ヘタレ野郎がいる手前、本名を名乗るわけにはいかない。

つまり!


 「ヒメです。よろしくお願いしますぅ」


 もうすっかり私の第二の名とかしたヒメで行きます。

 ついでにぷりっと「いつ君」ヒロインの真似をしてかわいらしく決めポーズを決めてみた。ふはは!見よ。私のこの完璧な演技。

 ジークは相変わらずじっと私のことを見ているがリディアだとは気づいていないだろう。


 私に続いてエルも自己紹介をする。


 「エルだ。このぶりっ子豚以外とは話すつもりはないから話しかけるな」

 「って待て待て待て!あんたはなにを言っているわけ!?いろいろと言いたいけれど一番物申したいのはぶりっ子豚!なんだよ!そこはぶりっ子女でしょ!」

 「一番気になる所はそこかよ!?」

 「当たり前でしょこの野郎!」


 

 これが5分前の出来事だ(子供たちと目が合いません。というか目をそらされます。すべてエルのせいだ)。


 ちなみにジークは私が「ヒメです」と言ったことで、私≠リディアと判断してくれたようだ。

 「すごいな。お前おれの友達にそっくりだな」なーんて自己紹介終わって早々に私に話しかけてきて、「おれの名前はレインだ」という今に至りますからね。気づかれないもんだよ。


 自己紹介中じっと私を見ていたのも「リディアに似てるなぁ」と思ってガン見してしまったのだそうだ。ハハハ。ノーコメントで。


 つーかおれの友達にそっくりってどういう意味だよ。それ見た目がってことだよね。性格がとかじゃないよね?先ほどの自己紹介のくだりを見ての性格とか言ったら…そうねぇ、エミリアにジークのあんなことやこんなことをチクってやる。

 

 「ていうか王子様がこんなところでなにやってんのよ」

 「おっ、おおおおお王子ィ?おっ、お前なに言ってんだよ。頭大丈夫か?」

 「お前が大丈夫か」


 せっかくこちらが声をひそめて聞いてやったというのにジークのやつ、でっかい声(しかも裏返ってる)で動揺しやがった。


 なぜだろう。図体はでかくなってるし顔も12歳ながら大人っぽいイケメンフェイスになっているというのに、私の目には彼がまだ6歳の子供に見えてしまう。言動が昔と変わらないからだな、うん。


 しかしこれでわかった。

 エルに目配せしうなずく。


 ジークは正体を隠してこの孤児院に潜入している。

 王子と言い当てられたときの慌てぶりもそうだし、「レイン」って偽名も使っているしね。


 そしてもう一つ。この孤児院にいる人間は、ジークが夏の国の王子であるということに気づいていない。

 

 さきほどジークが「お、王子ぃ?」と声を裏返らせたにも関わらず、子供たちは一瞬ジークを見ただけでまた遊びやおしゃべりを再開させていた。ジークを一瞬見たのだって「王子」に反応したのではなく大声に反応したからだ。



 「自分たちの国の王子様の顔を知らないとかある?」

 「側室の子供ならまだしも、正当な第一王位継承者の顔を知らない国民はまずいない」



 なんだか頭を抱えたくなってきた。

 この孤児院不老不死の薬と同じくらいもしくはそれ以上に厄介なことがありそうだぞ。

 

 孤児院にいる子供たちはほんとんどが小学校低学年くらいの年齢だ。今は遊びの時間のようで、子供たちは皆楽しそうに絵を書いたりおままごとをしたりかけっこをしたりと遊んでいる。


 ただし室内で。


 子供たちは一度も窓の外を見ないし外に出たいとも言わない。外はとってもいい天気だというのにだ。

 彼らの世界はこの孤児院の中ですでに完結されていて、だからこの孤児院の外には興味の「き」の字もない。そんなふうに感じる。


 この孤児院に来てまだ数分しか経っていないというのにこんな印象を抱くのだ。この孤児院は少なくとも正常ではないだろう。そしてこれがここの孤児院から香る不老不死の薬と関連している可能性も十分にあり得るのだ。あーやだやだ。


 「…あれ?」


 この場にいる子供たち全員をざっと観察したところで気付いた。

 ロキがいない。自己紹介をしたときはいたのに。


 なんとなく不安に思いロキを探す。…のだが、目の前にムスッとした顔が現れたせいで中断させられた。邪魔だな、おい。


 「なにヒソヒソしゃべってんだよ」


 私のロキ探しを妨害したのは当然仲間外れは嫌い派のジーク君だ。彼はふてくされた顔で私たちを見る。顔に「おれも混ぜろ」と書いてありますねーはいはい。

 そういえばエルとヒソヒソしゃべっていましたわ。


 「別に仲間はずれにしたわけじゃないわよ。その…不安だから、つい知り合いとばかり話しちゃうのよ。わかるでしょ?」


 苦し紛れに出した言葉だが我ながら言いチョイスだ。

 だがしかしジークは怪訝な顔。


 「不安?」


 元俺様キャラなだけあってこいつのメンタルは鋼だ。不安な気持ちなど分からないのだろう。青筋が浮かぶ。


 「エル。バトンタッチ」

 「めんどうごと押し付けやがって。…孤児院での生活は確実に今までの生活とは違う。想像がつかない。だから不安なんだよ」


 するとジーク。納得したのか晴れやかな顔で私たちを鼻で笑う。あとで覚えてろよ。


 「ハッ。しかたねーな。おれもきのう来たばかりだけど、わからないことがあれば聞け」

 「いや来たばかりなんかい!」


 するとジーク、目をぱちくり。

 あ。しくじった感がすごいぞ。


 「お前…ほんとおれの友達に似てるな。そのツッコミとかそっくりだぞ」


 案の定しくじっていたリディアちゃんの頬をツーと嫌な汗が流れます。

 エルが阿保と私を見ている。返す言葉はありませんよ!この野郎!


 「えーあー、世の中には自分にそっくりな人が3人いるっていうからね。ていうか待って。そっくりってやっぱり性格がってこと!?ちょ、あんた今うなずいたわね!へ~、そう。わかったわ。自分の選択を後悔することね」

 「待てやめろ。お前その顔絶対になにか企んでるだろ!?お前ほんとはリディアなんじゃないのか!?」

 「ちっちが違うますよぉ~ほほ。なにも企んでません。この透明感のあるキラキラの瞳を見て!」

 「「めっちゃ濁ってるな」」

 「…おほほ。ジー…レインはともかくエルは今のコメントする必要なかったよねぇ(殺)」

 



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