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55.やつは我々の弱みを握っている。



 過保護化エルに家へと帰らされた私は自室にいた。


 「は~。それにしても見つからないものだなぁ」


 帰ってきたら届いていたザハラさんからの手紙を読み終え、私はため息をつく。


 手紙の内容はずばりアイの兄妹の行方についてだ。ザハラさんにも手伝ってもらってここ2年間ずっと探しているけどいまだに消息がつかめない。

 ザハラさんいわく不自然なほどに情報がないのだとか。

 

 「くっそぉ~」


 アイのことを思うと進展全くなしとか辛すぎてむしゃくしゃして頭を振ってしまう。

 

 「こんなときはあれだ。恒例の魔導書読んで勉強しましょうのコーナーだ!」


 テテテレッテテ~。私はクローゼットをあさり師匠からこっそり拝借した赤い皮の分厚い魔導書を取り出した。

 すみません。3年経ちましたがいまだに師匠には返せていません。

 

 「でも仕方がないよね!師匠忙しそうだから魔導書返す暇がないんだもの~」


 なんて言い訳しながらぺらぺら~と魔導書をめくる。

 するとあら不思議。3年前の時と同じく「使用者の身を亡ぼす7つの装身具」のコーナーを開いてしまう。もはや恐怖だよ。


 そして今回も2つの挿絵と目が合った。

 1つは黒い石が輝くブレスレット。挿絵の下には『傲慢』と記載されている。もう1つは黒い石のカフス。下に『暴食』と記載。

 

 私はにっこり笑顔で魔導書を閉じてすみやかにクローゼットにしまった。

 そりゃあもう、奥へ奥へと押し込みましたよ。


 「べ、べつに怖くなったわけじゃないか…」

 「リディア~?ちょっといいかしら~」

 「ぎゃああああ!」

 「え。なに。どうしたの?」


 ガタガタ震えているときに師匠がノックもせずに扉を開けてくるもんだから、リディアちゃん腰抜かしますよね!


 「ばっ、バカ師匠ーっ!」

 「あーはいはい。どうせ昼寝してて怖い夢でも見たんでしょ。女の子がなんて髪型してんの。髪整えたらあたしの書斎に来なさいよ~」


 ため息交じりに笑いながら彼は部屋を出て行った。


 「……。」


 ふむ。どうやら師匠は私の髪がボサボサなために昼寝をしていたと勘違いしたようだ。

 だがしかし、だがしかしだよ。私は昼寝などしていない!

 ピクピクと顔が引きつる。


 「ボサボサ頭でも気にしない女子力皆無な人間で悪かったなッ!」


 むかついたのでボサボサ頭のまま書斎に向かってやった。

 ちなみになぜ私の頭がボサボサなのかというと、さきほどむしゃくしゃして頭を振り回したせいである。



///////☆


 「お前すごい髪ボサボサだぞ」

 「うるさい」


 ボサボサ頭の私とそんな私を見てドン引きするエル、そして「おいガキ!ヒメはどんな髪型でも最強なんだよ」とわけのわからないことを言っているアイの3人は師匠の書斎にいた。

 ちなみにアースは不在だ。かわいそうに師匠にまた潜入調査を頼まれてしまったのだ。


 「で?どうせなにか頼むために私たちを呼んだんでしょ」

 「さっさと説明しろ」


 私とエルの言葉を聞いて師匠はにんまりと笑う。


 「察しが良くて助かるわ。あんたたちには夏の国に…」

 「ごめんなさい」

 「ちょ断るの早すぎじゃない!?あたしまだ最後まで言ってないわよ」

 「いや最後まで聞かずとも展開的にわかるから」


 師匠は目が飛び出しそうなほどに驚いているが驚く意味が分からない。

 これまで師匠に頼まれごとをされたら安全安心の加護の森を出て、春、秋の国に行く羽目になったことを私は覚えている。忘れられるわけがないだろ。師匠のせいでアルトとリカに会ったんだからな!寿命縮まるかと思ったんだかんな!察せない方がおかしいです。


 「え~。行ってほしいんだけどぉ」

 「やだ」


 絶対行かないオーラを出しているというのに師匠はあきらめずクネクネとお願いダンスを披露してくる。プライドかなぐり捨ててきやがったぞこいつ。


 「嫌よ。ほんとに無理。また知り合いにあったらどうしてくれるのよ」


 フンッと私はすがりつく師匠を無視しそっぽを向く。

 まあぶっちゃけ夏の国と言えばジークだし遭遇してもごまかせそうな気はするけど私は冒険はしない主義なのだ。…待て。夏の国にはエミリアもいるじゃん。ムリムリ。彼女の目はごまかせません。やっぱり絶対に行きません。

 エミリアに見つかったら最後、私はジークの未来の奥方ルート一直線だよ。うわ、なんだよこのルート。地獄か!


 「おれも嫌だ。どうせ不老不死の薬関連で夏の国に行けって言うんだろ。普通にめんどくさい」

 「俺もヒメが行かないのであれば行かない」

 

  エルとアイも私と同様に師匠の頼みを却下する。


 「ちょ頼むわよ。一生に一度のお願いだから!お願い~」


 だけれども師匠はあきらめない。

 けどこっちだって簡単には折れないぞ。

 

 「無理!」

 「……そう、わかったわ」

 「え”」

 

 力強く断ったところで師匠のへこへこした雰囲気がなくなった。

 彼は不敵に笑いながら私、エル、アイの順でじっと見てくる。気分は蛇に睨まれた蛙だ。師匠のやつ確実になにか企んでいるぞ。


 「こっちがせっかく下出に出てあげたって言うのにねぇ」

 

 師匠はやれやれと肩を下げた。

 もう一度言おう。こいつ確実になにか企んでいやがる!

 そうして彼は低い声で言った。


 「言うこと聞かないならあんたたちが秘密にしていることこの場で一つずつばらす。まずリディア。あんた体重が…」

 「わーわーわわー!行きます!行かせてくださいっ」」

 

 とまあエルとアイもこの後私と同じような目に遭って夏の国に行くことが決まった。

 恐るべし師匠。なのに彼は私が魔導書をパクったことに未だに気づいていないのだ。バカである。



//////☆


 「ほんとにこれが最後のお願いなんでしょうね。もう4王国のどこかへ行けなんて言わないわよね」


 夏の国で使う薬をポーチに詰めながら師匠に言質を取っておく。

 こういうのは大事だよ、ほんと。


 「えぇもちろんよ。あたしは嘘をつかない魔法使いだもの」

 「……。」


 師匠がウインクしてくるがはっきり言って信用ならない。が、まあいいだろう。実はこっそりエルがボイスレコーダーてきな魔法道具で今の師匠の言葉を録音しているのだ。うっへへー。1年後とかに冬の国に行って~とか言われても行かないからな!

 

 「なに笑ってんだよ、気持ち悪い」

 「うっさいエル!」

 「で?どうして今回おれたちは夏の国に行かなきゃならねーんだよ」

 「クソガキ!ヒメのことを無視するな!」

 「ちょ、アイ。自分で言うならまだいいけど、人から庇われるとちょっと心に来るものがありまして…」

 「実は不老不死の薬を作っている場所が分かったの」

 「マジか」

 「あんたたち2人はマイペース過ぎないかしら!?こっちガン無視しまくりだね!」

 

 とまあ私がキレて、続いてアイも「ヒメ…以下略」って感じでキレてかなりうるさいことになったが、まとめますと師匠の話はこうだった。


 2年前の秋の国のマフィアのときのように、不老不死の薬を取引するやつらをつぶしても根本的な解決にはならない。当たり前の話だが目に見える草を刈るのではなく土に埋まった根からつぶさなければならないのだ。

 つまり不老不死の薬を作っているやつらをつぶさなければならない。

 そんなわけでザハラさんに調べてもらっていたら夏の国にある孤児院が怪しいということが分かった。


 「リディアとエル。あんたたちには孤児院に潜入して不老不死の薬を作っているって証拠を見つけたら、2年前と同じようにぶっつぶしてきてほしいの」

 

 まあそうくるよね。

 私とエルは仕方なくうなずく。

 これに異を唱えたのはアイだ。


 「待て。俺もヒメと一緒に行く」


 アイはマフィア歴が長いですからね。師匠にガンを飛ばしています。

 見て分かるように彼は(ヒメ)以外には大層無礼な態度である。

 しかし我らが師匠はそれに怯えるような男ではない。ていうか怯えてたら2年間も共同生活できない。

 

 「あんたは留守番に決まってるでしょ。自分いくつだと思ってんのよ。19よ。孤児院に潜入できるわけないでしょ」

 「俺は10歳だ」


 頭を抱えるよね。

 こんな体格のいい10歳がいてたまるか!


 「アイ、ドヤ顔でなに阿保なこと言ってんの。あんたは留守番」

 「はい!わかりましたヒメ!」

 「2重人格かよこいつ」

 「黙れガキ」

 「あ?」


 私に対し従順なアイ。そんな彼にいまだにエルは慣れず頬をピクピク痙攣させている。ブチギレ5秒前だ。あー私は知らない。知らないですー。


 「そういえば前、師匠は不老不死の薬を作ることを倫理から外れた行いだって言ってたよね。その倫理ってやつはやっぱり、老いて死ぬことを指していたわけ?」

 

 バチバチ火花を散らし合う2人を無視して私は師匠に話を振る。


 不老不死は人の理から外れることだと思う。だって人の一生を人為的に変更するってことだからね。運命変えてやる人間の私だけど、決められた自分の寿命をわざと伸ばすのはよくないことだと思う。

 なんてことのない談笑的な感じでふった話題だった。しかし私の言葉を聞いて師匠の顔は意外にも真面目なものに変わった。


 「たしかに。それも理由の一つよ。だけどあたしが不老不死の薬を忌み嫌う一番の理由は別にある」

 「別にある?」


 師匠は言葉を吐き捨てた。


 「不老不死の薬はね、魔力を込めて作る魔法薬とは根本的に違うの。生成者の命を注いで作るのよ」


 唇を噛む。

 不老不死の薬は私が思うよりもずっと倫理から外れていた。





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