50.天使の来訪
3人称です。短いです。
今回は1週間後の話ですが、51話は普通に49話の続きです。
天使が天空神殿を訪れるのは、天界への行き来を負担なく行うためだ。
リディアが天空神殿を去ってから1週間。
一人の天使が天界から人間界へと戻るために天空神殿を訪れていた。
栗色の髪の少女がにこにこと微笑みながらペンを走らせる。
「観察対象者は運命通り、無事降神術を得た…っと。じゃあ神官の皆さん、ルルは人間界へと戻りますので~」
「はい。どうかまた羽を休めに来てくださいませ」
神官長を先頭に全神官が天使に頭を下げたときだった。冷たい風が吹き、神官長の頬がスッと切れた。
神官たちが青ざめ始める。天使の機嫌を損ねてしまったようだ。さきほどまで笑顔だった天使は、今も笑顔だがその眼は笑っていなかった。
「うふふ。あなたバカですかぁ?ルルは羽を休めに天空神殿に来たわけじゃありませんよ。仕事です。クソな上司のせいでルルには休みがないんですよぉ」
「す、すみません!」
青ざめ全力で謝罪する神官長にもはや威厳はない。バカにお似合いの姿であるとガブナーは内心笑う。
「あ、そうだ。一応言っておきますけど、ルル知ってますから~」
天使の視線の先にあるのは、神官長と古狸たちだ。
含みのある笑顔は確実に彼らにとってよくないものだろう。
「な、なにを知っているのでしょうか?」
「あなたたちが我らが神の意志に背こうとしたこと、ですぅ」
「そっ、そんな!何かの間違いです!」
神官長たちは首を横に振るが天使はきょとんと首を傾げる。
「間違い?記憶のない光の巫女の運命を?自分たちの都合のいいように捉え?光の巫女をこの天空神殿に閉じ込めようとして?神の創った運命を変えようとしたのに?そんなこと言えるんですかぁ?」
「いえっ、それはっ」
「あなたたち完全に、神の意思に背いてますよね~」
「う…あっ……お、お許しください!」
自分よりも幼い少女に対し、地に頭をつけて謝罪する神官長の姿を見て周りの神官たちは怯え始める。威厳ある我らの長がこのようでは当たり前だ。
不安が伝染してしまったらしいサラとシグレを自分の背に隠しながらガブナーはため息をつく。だから忠告したのに、と。
「うふふ~。安心してください。言いませんよ。ルルは優しいですから」
天使は怯える神官たちの様子に満足したのか今も地にひれ伏す神官長に手を差し伸べる。
「あっ、ありが…」
「ただ、次はありませんから」
「……っ!」
差し伸べられた手に手をのせた神官長の顔が苦痛にゆがむ。自身の立場を身を持って教えられたようだ。
「じゃ、さようなら」
少女は栗毛のリスに姿を変え、また地上へと降りて行った。
ガブナーは願う。
自分のもう一人の弟子の、愛する人の忘れ形見である少女の幸せを。




