49.また4人で会おう
すみません。長いです。
さすがの私も7日目になれば、こいつら本気で私を傀儡にするつもりだなと気が付き始める。
私はもうすっかり回復していつでも帰れる状態だというのに、神官長たちが私を帰してくれないのだ。
帰りたいと言うたびに、「降神術の疲れがまだ見られるから無理」「病み上がりだから無理」「元気が有り余りすぎるから無理」。最後のやつ絶対にはぐらかすストックがなくなったパターンだよね。理由が無理やりすぎる。
脳裏に浮かぶのは以前サラが言っていた言葉。
『神官長たちはリディアの一生を、運命を自分たちの好きなようにしようとしている』。そして私をガブちゃんかサラかシグレの嫁にしようとしている話。
「はぁ~、やるしかないか」
ため息をついた私は重い腰をあげたのであった。
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「だからといって直接神官長たちのところに乗り込むやつがあるか」
「うぐ…」
ところかわってガブちゃんの書斎。私はガブちゃんからあきれた目で見られていた。
ええ、その通りです。ガブちゃんが言うように私は直接神官長のところに乗り込み「私を家に帰すつもりないでしょ!帰せや!」と怒ったバカ巫女です。重い腰を上げたのは殴り込みに行くためでした、はい。
ちなみに神官長からはにこり笑顔で部屋を追い出された(笑顔だったのは私がむしゃくしゃして笑い薬を部屋に投げ入れたから)。
否定されなかったってことはつまりそういうことだよね!?帰す気ないよね!?
そんなわけで私は脱走を何度もトライするが、逃げられない。そもそもサラとシグレが脱走しようとする私についてくる時点で逃げられない。だって2人とも面白半分に私の脱走を妨害してくるから。
で、夕日が沈みかけている現在。私はガブちゃんの書斎でぶーたれる現在に至るというわけだ。
「リディアもあきらめないよね~」
「リディア様はどうしても帰りたいのですね。私たちのことが嫌いですか?」
サラが笑ってシグレが悲しそうに眉を下げる。
「いやいや大好きだよ!でも私は帰るの!」
「……かつて、お前と同じようにこの天空神殿に囚われていた娘がいた」
突然のガブちゃんの語りに私たち全員の視線が集まる。彼の黒い瞳は穏やかだった。懐かしくて幸せな思い出なのだろう。
いつになくシグレが真剣な目でガブちゃんを見る。
「先生。その人はどうなったのですか?」
「旦那が迎えに来た」
この言葉には全員が首を傾げた。
「は?当時の天空神殿に結界は張っていなかったのですか?」
「もちろん張っていた。その娘の旦那は結界を破って迎えに来たんだ。それを機に神殿の結界はより強固なものとなった」
「うわ。ガブちゃんの結界を破れちゃうんだ」
そういえばシグレが以前ガブちゃんの結界は一度しか破られたことがないって言っていた。それってこれのことか!?
驚く私たちを見てガブちゃんは不満げな様子だ。
「言い訳ではないが、俺はその当時14歳だった。まだ魔法を極めきれていない14のガキが、クソでかいこの天空神殿の結界を張らされていたんだ。破られても仕方がないだろ」
…あれ、待って。実は清めのときに古狸たちのぶつくさ話の中で、ガブちゃんが神童だってワードが出てきてたんだよね。神童って言われていた結界を、その娘の旦那って人は破ったってこと?旦那やばいな!?
「先生。囚われていた少女は、今のリディア様のように逃げようとしていたのでしょうか」
「いいや。あいつは逃げようとはしなかった」
「えー。帰りたくなかったのかな?」
首を傾げればガブちゃんがめっちゃ爆笑した。
どうした急に。
「俺も聞いた。帰りたくはないのか、と。そうしたら「旦那様が迎えに来るから、私はただ待っているだけでいいのよ~」と、あれはのんきに笑ったんだ」
「で、実際に旦那様が迎えに来て天空神殿を出て行ったと」
「わーお。ロマンチックだね。私も誰か迎えに来てくれたらありがたいんだけどなぁ」
ポツリとこぼれた願望だったのだが、意外にも3人は反応を示した。特にシグレ。この世の終わりみたいな顔をして私を見ている。どうした!?
「…え。リディア様も旦那様がいるのですか?」
予想の斜めを行く言葉に私はずっこけた。
「いやいや、まさか。旦那いないどころか、むしろすべてのフラグを折ったというか」
「フラグとやらがなにかは知らんが貴様に旦那がいるのは確実だろう。お前は光の巫女だ。子孫を残していかなければならない。フラグを折ろうがなにをしようが、お前が生きているうちに必ず相手は現れる」
「ちょ!生々しい話はやめてよ!」
心臓がザワリと騒ぐ。
思い出せない誰かの顔が頭をよぎった。神様によって創られた運命の私の未来の旦那様。
鍵をしめた箱の中に私の運命の人がいる。でも……
その人を今はまだ知りたくない。
私の手を誰かが握ったことで、心臓のざわめきは治まった。シグレだ。
泣きそうな顔で私をじっと見てる。
「どうしたのシグレ?」
「…いえ、なんでもないです」
そんなシグレを見てサラがにこにこと笑う。
「シグレー。まずはリディアの勘違いを解かないとスタートラインにも立てないよ?」
「黙れ」
「はぁ。シグレ、貴様はどこまで俺に似る気だ?俺とお前に血のつながりはないはずだが、こうまで似てくるとは…」
「先生、黙ってください」
よくわからないけど楽し気な雰囲気に私は笑みを浮かべていた。
心のざわめきがおさまったどころか、ざわめいていたこと自体をもう私は覚えていなかった。
「で、つい2時間前まで書斎でにこにこしていたやつがまた脱走か。いいかげんあきらめたらどうだ」
「あきらめませんー。私は絶対に帰るんだから」
はい、2時間後です。部屋の中でおとなしく窓から脱走するためのロープをつくるためにカーテンを引き裂いていた私をガブちゃんがたまたま訪ねてこんな状況です。
べーと舌を出す私を見てガブちゃんがクツクツと笑う。
「お前はこの天空神殿から逃げることはできない。その理由は知っているのか?」
「サラが教えてくれましたー。天空神殿は空に浮かぶ神殿。光魔法しか使えない私は降りる方法がない、でしょ?」
最初ここに来た時に、落ちそうになったから十分わかってるよ。
しかしガブちゃんは首を横に振る。
「それも理由の一つだが、大前提として、そもそもお前は自分の意思でこの部屋を出ることはできないのだが、それは知っていたか?」
「え!?」
「部屋を出るとき、なぜサラかシグレと共に出なければならないのか、疑問に思わなかったか?この部屋には強固な結界が張ってある。お前ひとりでは出られないという制約をかけた結界が、な」
わーお。全く考えつきませんでした。私が迷子になるから2人のどちらかと一緒に行動しなきゃダメって言葉を、バカ正直に信じておりました。アハハー。
笑みがひきつる。
「……その結界を壊すことって~?」
「不可能だ。なぜならこの結界を張っているのは俺だからだ」
「く、くそ!私はあきらめないぞ!この部屋を出る!」
今まで一度しか結界を破られたことがない、いやサラの闇の精霊の時もあるから2回しか破られたことがないガブちゃんの強固な結界だとしても私はあきらめない!
ガブちゃんの横を通り抜けて、扉に向かって突進する。
そしたらなんということでしょう!
開いたよ!
ちなみに突進の勢いのまま扉を開けたから、勢い余って私は床に鼻を擦りました。
「痛いよ!いやそれよりも!え!うそ。降神術を覚えて、私覚醒しちゃった感じ!?最強!?」
そんな私をガブちゃんは冷たい眼差しで見下ろしている。だけどその顔には冷たさだけではなく若干の飽きれがありまして、ええ視線が痛いです。
「貴様は阿保か。俺が結界を張っていなかっただけの話だ」
「え!?でもさっき結界を張ったって」
首をかしげる私に対しガブちゃんはわざとらしく肩を下げた。
「あー。結界は張っている。張っていないと言ったのは、ジョークだ。ただ俺はミスをしてしまったらしい。お前ひとりだけでは出られない制約をかけたつもりだが、お前ひとりであれば結界を出られるという制約をかけていたようだ」
ガブちゃんは演技が下手だ。めっちゃ棒読み。思わず笑ってしまえばにらまれた。ごめんなさい。
「逃げられるのであれば逃げてみろ。外にも結界は張ってあるが、それはあくまで外敵向けの結界。内側にいるものが外に出るのを防ぐ効果はない」
「どうして逃がしてくれるの?」
私を逃がす手伝いをすれば、いくらガブちゃんであっても神官長に怒られるのではないだろうか。そんな私の心配を察したのか、ガブちゃんは鼻で笑った。
「簡単な話だ。お前がいたら、この神殿はいつか崩壊する」
ガブちゃんらしい言葉だった。
「も、もう!ひどいなガブちゃんは!…ありがと」
「礼を言われるようなことはなにもしていない。俺はお前が逃げるのを手助けするつもりはみじんもないからな」
今度は私がニヤリと笑う番だ。
「私が逃げきれなかったら天空神殿、崩壊するかもよ?」
「別にそれでもかまわない。崩壊したらしたで、そうだな。神官なんてやめて、サラとシグレとお前と4人で旅をするのも悪くない。フッ。どうだ、旅にでも出るか」
私はガブちゃんにはかなわないらしい。
私のもう一人の師匠は私を誘惑するのがとても得意でいらっしゃる。
「うふふ。ありがと。4人旅、楽しそう。でも私は帰らなきゃいけない場所があるから、また今度誘って」
「ああ」
ぎゅっとガブちゃんに抱き付き抱きしめ返されれば、背後でガシャンと食器が落ちる音した。
「リディア様。どうして、部屋の外に出ているのですか?」
「……。」
振り返ればそこにいたのは夕食を取りに行っていたシグレとサラだった。
2人の足元で今日の夕ご飯だったミネストローネが赤いシミを広げる。
「2人とも、ごめんね。私は帰るよ」
「っどうして光の巫女であるリディア様が下賎の者どもの元へ帰りたがるのですか」
「シグレ…」
シグレの潤んだ瞳に罪悪感が広がる。
「私と一緒に天空神殿に残ってくださいっ。嫌です。離れたくありませんっ」
だけど私には帰らなくちゃいけない場所がある。
「…ごめんね」
「嫌ですっ!」
「シグレ、やめなよ。リディアに帰る場所があるんだ。彼女を困らせてはいけない」
「私はお前のそういうところが大嫌いだっ!ものわかりがいいふりをして、お前だってリディア様と離れたくないくせに!」
サラにつかみかかろうとしたシグレにかけより、私はぎゅっと抱きしめた。
シグレの体が硬直する。
「離れていても私たちはずっと友達だよ。きっとまた会える」
固まっていたシグレの体が震え始め、シグレの腕が私の背中に回される、そう思ったとき私の体はシグレから離れていた。拒絶するようにシグレが私を突き飛ばしたのだ。
「私は、嫌ですっ。絶対に認めません!」
シグレは私たちに背を向け走り去ってしまった。
「はじめてシグレに嫌がられちゃったなぁ…えへへ」
「馬鹿だね、シグレは。あいつはリディアのことが大好きなんだ。だからああなっちゃっただけで…」
「うん。わかってるよ」
サラがにこりと笑って腕を広げた。
「ならいいんだ。俺もお別れのハグがほしいな~」
「うん」
私はサラの胸に飛び込んだ。
魔力放出のかいがあってか、はじめて会ったときよりも少し成長したように思う彼の体はがっしりとしていて、男らしい力強さで私を抱きしめた。
「俺を助けてくれてありがとう。感謝してもしきれないよ」
頭上で聞こえた言葉に顔をあげれば、やさしい笑顔がそこにはあった。
あたたかくてほっとするようなそんな笑み。
「だからね、今度は俺がリディアを助ける番だよ」
「サラ…」
サラは私から離れてガブちゃんに対しうなずいた。一方のガブちゃんはやれやれと言った様子でシグレが走り去っていった方向とは逆の道を指さす。
サラはもう一度うなずくと私の手を引っ張り走り出した。
一応脱走している身なので、走りながら他の神官たちとすれ違うのではないかとドキドキしたが、意外にも誰一人として会うことはなかった。
怪訝に首をかしげる私の考えを察してかサラが説明する。
「先生のおかげだよ」
「へ?」
「リディアが帰りやすいように、神官たちに見つからない道を作ってくれたんだ」
「ガブちゃん…」
不覚にも泣きそうになってしまったではないかバカ。
逃走の手助けはしないとか言ってたくせに、思い切り手を貸してくれている。ガブちゃんも、サラも、私はほんとうに人に恵まれているな。
涙ぐんでいたら外に出ていた。
はじめてガブちゃんと出会った、いつの日か私が落ちそうになった崖でサラが安心させるように笑みを浮かべる。
「俺が風魔法でリディアを地上まで降ろしてあげるから」
だからここから飛び降りて。そう言って笑うサラの手を掴んだのは、紐なしバンジージャンプに恐怖したからとかではない。ほんとうに違うからね!
「ねぇ、サラはずっと天空神殿に閉じ込められたままなの?私と一緒に行く?」
私の言葉にサラがハッとしたように目を瞠る。
ずっとこのことが気がかりだった。
サラは天空神殿に囚われたままなのだろうか。
いつの日か夢の中で話した内容を彼はきっと覚えている。
「私がそばにいればサラがまた闇の精霊に囚われても助けてあげられる。外の世界で生きることもできるんだよ」
「俺は……」
サラのモスグリーンの瞳が悲しそうに揺れた、そのときだった。
「今世の光の巫女はお転婆ですね」
背後で聞こえた声に振り返れば、すぐ後ろに神官長が立っていた。いつもの平凡顔ではなく、発狂しそうなほどの人外系美人であったがその人が神官長であることはすぐにわかった。
サラと一緒に後ずさり、気が付く。
「囲まれてるね…」
神官長、古狸さんたちはもちろんのこと他神官たちに私たちは囲まれていた。わー。私ってばすごい人気者。
顔を引きつらせながらもサラに笑いかけてギョッとした。
サラが冷めた表情である一点を見ていたからだ。その視線の先にいる人物を私も見て、悲しい気持ちになった。
「シグレ。お前だな」
私たちを囲む神官たちの中から一歩シグレが前へ出てきた。
「お前には幻滅したよ。リディアのことを想うのであれば…」
瞬間、シグレを中心に強い風が巻き起こった。
突き刺すようにシグレがサラをにらみつける。
「うるさい!私はリディア様と離れたくない。ずっとここにいてほしい。そのためなら、バカ神官長や古狸とも手を組む」
「そういうわけだか…え、シグレ君?今なんて?」
神官長が思わぬ言葉に驚いているが今はそれを見て心がスカッとしたとか思っている暇はない。
この状況をどうにかしないと。
シグレが魔法の風を纏い戦闘態勢であることもそうだし、そんなシグレとやり合うつもりなのかサラが魔力を練っているのも気になる。そんな2人に感化されてか、周囲の神官たちも魔法を使って力づくにでも私を捕えようと考えている気配がする。
どうしよう。唇を噛みしめたときだ。右の掌に強い痛みが走った。
なにかと思って見て見れば、掌には黄緑色に光るガーベラの印が現れていた。
なんだこれはと怪訝に思い、思い出す。師匠だ。これは師匠と師弟の契約をしたときにつけられた契約印だ。
脳裏に浮かぶのは黄緑色の髪のオカマ口調の美青年。
純粋にイラッとした。
「もとはといえば、さっさと師匠が私を助けに来ないのがいけないのよ!」
「え?リディア、突然なに言って…うわ!?」
師匠に八つ当たりをしたら天空神殿が揺れた。
体が浮くほどの縦揺れに神官長も含めこの場にいる全員が混乱した。
「もしかしてリディアがなにかしたの!?」
「いやいやなにもしてないから!」
神官長や古狸さんを含めた全神官の視線が私に突き刺さるけど、ほんと私なにもしてませんからね。私が使える魔法は光魔法だけですよ。
そんな状況の中でガブちゃんが焦った様子でこちらに向かって走ってきた。
「おいなぜお前たちが囲まれ…いや、そんなことよりもっ結界がもたない!何者かに破られるぞ!」
叫んだときだった。
パリンッ
薄く張った氷が割れるような音と同時に真っ白な煙幕が辺りを包んだ。
煙幕なんて初体験で思い切り煙を吸ってしまった私はゲホゲホと咳き込む。そんな私の背中を労わるようにサラ?が撫で、守るように腰を抱き、ようやく煙幕が消えたとき私は宙に浮いていた。
はい?
いやガチで。
私の体は浮いていて、下で唖然とした顔のサラたちがいたのだ。
つまり宙に浮く私を現在支えているのは、私の腰を抱くサラの腕だけ。ぎゃっとサラに抱き付いて、あれ?と思う。
下にサラがいた。いまも私と目が合っていて彼は「リディア、その人はいったい!?」と言っている。その人?それって私が今抱き付いている人のこと?サラだと思っていたけど、サラではなかったってこと?
おそるおそる私は顔をスライドし、抱き付いているその人を見て、言葉を失った。
「待たせたな」
目の前にあったのは黄緑色の髪に翡翠色の瞳の、14歳くらいの少年の笑顔。
外見も口調も声の高さも全く違うけど、私にはわかる。
「そ、その顔!見覚えがあるぞ!」
「お前はたしか、116年前にもこの天空神殿に侵入してきたっ!」
「っ師匠!」
「そう!師匠!……師匠!?」
古狸共が足元というか下でごにょごにょ言っているがしったことか!
私は師匠にさらに抱き付いた。
「もう来るのが遅いよ!ていうかすごっ!師匠、若い!ねえ、いつものオカマ口調はどうしたの?」
「耳元で大声だすな、鼓膜がやぶれる」
師匠は顔を顰めるが知ったことか。私を待たせた罰だと思ってうるさいのをがまんしなさい!こちとらうるさくしてないと、泣きそうなんだよ!もう!
「貴様!えぇい結局何者だ!?何しに来た!」
「俺はこのガキの師匠だ。愛する家族を迎えに来た。ただそれだけのこと。帰るぞ、リディア」
「うん!師匠!」
空間移動をするらしい。
いつもならぎゅるんっと一気に移動だけど、距離があるせいか移動するまで時間がかかるらしい。
ゆがんでいく視界の中で、大好きな3人に手を振る。
「ガブちゃん!シグレ!サラ!また会おう!」
ガブちゃんはあきれたような顔。シグレは悲痛そうな顔。サラは困ったように笑って手を振り返してくれた。
「ああ」
「…っリディア様!」
「元気でね、リディア」
そんなサラを見て、ハッと思い出す。
忘れてた。
「サラ!私と一緒に行く?」
結局私と一緒に外の世界で生きるかの答えを聞いていなかった。
サラはまた瞠目して、だけどすがすがしい笑顔で首を横に振った。
「俺は、いけない。なんだかんだいって天空神殿が俺の居場所だから」
そんなサラの頭を力強く撫でたのはガブちゃんだ。
「安心しろ。サラの自由は俺が保証する。天空神殿に囚われ続けるなど俺が許さない」
「先生…」
ガブちゃんはサラをなでる手とは反対の手でシグレの頬をつねっていた。シグレはめずらしくガブちゃんに反抗することなくそれを甘んじて受け入れていた。
ガブちゃんはなにも言わないけれど私にはわかった。
彼はまた4人で会おうと伝えているのだ。
サラを必ず天空神殿の外に連れ出し、私と離れたくなくて暴走してしまったシグレを見離さすなんてことはせず、いつの日かまた会おうと私に笑いかける。
胸がぎゅっと熱くなる。
ああ、もう本当にガブちゃんは最高だよ。
ほぼ反転した視界の中で私は思い切り叫んだ。
「ガブちゃん!大好き~!3人のうち誰かを選ぶなら、私は絶対にガブちゃんを婿として選ぶからね~っ!」
「やめろ!?」
「は?リディア、おまっ、それってどういう!?」
足元と真横で絶叫が聞こえた瞬間、私は懐かしい加護の森の中にいた。
真っ青になって震えている14歳師匠から、さきほどの言葉はどういう意味かと質問攻めにあったことは言うまでもないだろう。うざー。
でも今はとりあえず、
「ただいま!」
「いやおかえりとか言っている場合じゃないから!?ガブナーが婿とかどういう…」
「うざー」




