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47.とりあえず笑い薬を作るのは決定



 天空神殿に連れ去られまして5日目。私は消し炭のようになっていた。いま風が吹いたら絶対に跡形もなく吹き飛ばされるってくらい灰になっていた。


 だって!私は本編ヒロインが闇の使者を浄化するときに使っていた降神術を扱えるようになってしまったのだ。

 無理。本編突入する気はさらさらないけれど、いざ本編が開始されても問題ない感じが怖い。この外堀を埋められていく感じが怖いっ。


 「思ったんだけど。俺とリディアの魔力は同等なんだ。俺は魔力量のせいで成長できていないけど、リディアは成長できている。その違いを考えたんだけど。今までリディアは常時魔力を放出して過ごしていたんだよね。きっと魔力を体外に出していた分、体内にある魔力が身体に影響を与えなかったのではないかって…」

 「……。」


 見るからに落ち込んでいる私に気づかず、隣でモスグリーンの瞳を輝かせて話すサラはたぶん勉強オタクだ。八つ当たりで軽く背中を殴るが彼は解説を続ける。……殴られたことに気が付いていないと見た。はぁ。


 きのう私が目覚めた後すぐに目を覚ましたサラは、たった1日で目覚ましい回復を見せた。それはもう闇の精霊に取りつかれ数日間眠り続けていたとは思えないほどに。

 今も楽しそうに紙にペンを走らせてレポートを書いている。うん。私的にはまったく楽しくなさそうだけど、サラが楽しいのならいいよね。

 落ち込む気持ちはひとまずおいておき、私は彼の話にのってあげることにした。


 「じゃあサラも昔の私みたく魔力を放出していれば普通の人と同じ足で体が成長するってことかな」


 問えばサラはにっこり笑顔でうなずく。


 「うん。先生に了承をもらえたらさっそく今日から魔力を放出させて過ごすつもり。ああ、だけど逆に考えるとリディアは俺みたいに成長速度が遅くなっているかもしれないね。今のリディアは自分の魔力を調節できるようになったから、以前のように魔力を放出させてないんでしょ?きっとありあまる魔力が体に負荷をかけているよ」

 「オウ、ノー」


 落ち込む気持ちを置いておいたら倍になったよ。

 私いったいどうすれば?と若干迷子ぎみの私に対しサラはにっこりと笑いかける。


 「天空神殿を出たらまた以前のように魔力を放出させるといいよ。そうしたら普通に成長するでしょ」

 「あーそっか。でもなぁコントロールに慣れちゃったからな。意識して魔力放出させるのは、それはそれで難しそう……ところでさ」

 「なに?」

 「どうして私の同室がシグレからサラに変わったの?」


 そうなのだ。きのうもそうだったのだが私とサラはいつのまにか同室になっていた。

 てっきり病み上がり?な2人だから一緒の部屋にしたのかと思いきや、今日も同じ部屋で過ごすようにとわざわざ神官長が伝えに来たのだ。神官長暇かよ。


 ちなみに同室変更でシグレはかなり不満そうにしていた。現在の時刻は昼過ぎなのだが、たぶんまだふてくされながら仕事をしていると思う。

 まあ私的にはどちらと同室であったとしても部屋は豪華だし、しゃべる友達がいるから問題はないけど疑問だよね~。

 

 そんな軽い気持ちで私は聞いたのだが、サラが意味深に笑みを深めたのでちょっと嫌な予感がしてきた。おいおいやめてくれよ。

 

 「あらためて聞くけどリディアは6歳以前の記憶がないんだよね」

 「う、うん」

 「光の巫女の役割については知ってる?」

 「生まれる前に神様に見せられた自分の一生通り=運命通りに生きること、だよね?」

 「そうだよ。でもリディアは記憶がないでしょ。つまり自分の運命がわからない」

 「うん」


 話それてない?そう思ったとき、サラが恐ろしいことを言った。


 「神官長たちは恐れ多いことに自分たちがリディアを導けばいいと考えているんだよ。簡単に言うと、リディアの一生を、運命を、自分たちの都合のいいように決めようとしているんだ」

 「なぁっ!?」


 神官長たちは私が記憶喪失で自分の運命がわからない状態で天空神殿にやってきたのは神の導きに違いない。我々が神の代わりにリディアちゃんの今後を導いていこう!……とは名ばかりの傀儡にするつもりなのだ。

 

 ようするに「リディアちゃん、明日あなたは逆立ちして1日を過ごすのです。それが運命です」「わかりました~」ってな感じで私の運命を神官長たちが勝手に決めようとしているのだ!

 当然リディアちゃん激怒ですよ。


 「なんで記憶喪失だからって私の運命決められなきゃいけないのよ。私は私の好きなように生きるの!神様に見せられた自分の運命ってのも忘れているわけだし、当然神官長たちの決めた運命にも従わないわよ!」


 叫んでハッとする。やばい。こんなこと言ったら神官のサラは怒るかも。

 おそるおそるサラを見れば彼はいつものように笑っていた。


 「あはは。リディアらしいね。俺はいいと思うよ」


 サラが同室でほんとうによかったです。ありがとう。…同室といえば。


 「でもさ、なんでそれが私とサラが同室になったことに繋がるの?」


 問えばニヤリとサラが笑う。

 笑みの種類が変わりました。リディアちゃん継続して嫌な予感がします。


 「俺、リディアの旦那さん候補らしいよ」


 はい。頭をトンカチで殴られたみたいな衝撃です。


 「は?」


 リディア顔がやばいよ~とサラはほほえむが、いやいやそれよりも詳しい話をプリーズだ。胸倉をつかんでせかせば彼は眉をさげた。


 「神官長と古狸さんたちがね、リディアの今後について考えていたら楽しくなってしまったみたいなんだ」

 「で?」

 「俺もリディアも魔力量が多いでしょ。つまり俺達の間に生まれる子供は確実に高い魔力を有している。さらに言えば俺は神官でしょ?光の巫女は神官たちよりも神とのつながりが密接だ。俺とリディアが結婚すれば、神官側は光の巫女とつながりができる。それは結果、彼らが敬愛する神に近づくということになる。彼らは今よりもさらに神に近づきたいんだろうね」

 「ほぉ~。私たちの意思は完全に無視ってわけねぇ」


 リディアちゃん青筋大量発生です。

 神官長の部屋に殴り込みじゃァ!行くよサラ!と彼を見るが付いてきてはくれないようです。地団太を踏んでしまう。


 私は迷子になるとかで、サラもしくはシグレが一緒でなければ部屋を出てはいけないと神官長から言われている。だからサラが動いてくれない以上私は神官長の部屋に乗り込みにいけないのだ。


 「サラは不満じゃないの?」

 「俺は別にいいよ」


 にこにこ笑顔に思わず頭を抱えた。


 「そんなこと言ってたらまた闇の精霊に食われるわよ!あんたの人生でしょ!嫌なら嫌って言わないと!」


 神殿から出て外の世界で自由になりたいとか言っていたくせに。また神官長たちのいいなりなわけ?

そんな私の気持ちが伝わったのかサラが安心させるように私の頭をなでた。


 「大丈夫だよ。俺はもう教会に従順な人間じゃない。自分の意思を言えるようになった。リディアのおかげでね。だからこそ、俺は別に彼らの思惑通りにリディアと結婚しても構わないって思っているんだよ」

 「はあ?従順じゃないって言いながらどうして私との結婚には同意なのよ。ふざけないで」

 「ふざけているつもりはないよ。あ、ちなみに俺以外にもリディアの旦那様候補はいるんだけど、知りたい?」


 頭を抱えた。

 私は今日何度気持ちが下落すればいいのだろうか。


 「…一応、知りたい」

 「ガブナー先生とシグレ」

 「よーし。神官長の部屋に行って、笑い薬投げ入れてくるわ。どうせあそこには古狸どももいるんでしょ」


 笑い薬の材料はきのう天空神殿内の庭園で見つけた。今から作業に取り掛かれば1時間後には完成している。


 「おもしろそうだけどやめてほしいな。リディアがなにかしてお叱りを受けるのは、ガブナー先生、俺、シグレだからね」


 サラは終始にこやかだけど、ほんとうになんでこいつにこやかでいられるの!?


 「神官長たちバカじゃないの!?おかしいでしょ!まず私とガブちゃん!年の差ありすぎだろ!」

 「リディアがガブナー先生になついているから候補にあがったらしいよ。先生も女嫌いなのに、リディアのことはめずらしく気にいっているからね。まあ恋愛感情はないだろうけど。先生、その話を提案されたとき、リディアのことは自分の子供のように思っているから無理ってきっぱり断ったらしいし」

 「当たり前でしょ!?ガブちゃんが私にラブだったら犯罪だよ!ロリコンだよ!?」


 でも自分の子供のように思っているから無理、ね。ふーん。ちょっとうれしい。いやけっこううれしい。


 「あはは。でも先生がリディアの旦那様になることはないと思うよ。先生はこの天空神殿の守りの要だからね。ガブナー先生がリディアの旦那様になったら守る人がいなくなっちゃう」


 私は首をかしげる。

 どうしてガブちゃんが私の旦那様になったら天空神殿を守る人がいなくなるのかはわからない。が、まあいいか。


 「じゃあやっぱり私の(神官長たちが勝手に考えた)旦那様候補はサラなのね」

 「あれ?シグレは?」

 「あんた何言ってんの。シグレは女の子でしょ。天空神殿では女の子同士の結婚を許されるのかもしれないけど、さすがに女の子同士で子供は授かれないでしょ」

 「あはは。そうだね~」





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