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45.あなたは自分自身の運命を決めることができます


 「ちょっと降神術ってどうすればいいの!やり方教えろぉ!」


 うんと高い空の上に太陽神様はいると仮定して、天井に向かってクレームいえ教えを乞うてみるが、シーン。リディアちゃんの頬に青筋が一気に6つも浮かびましたよ。すごーい。


 なぜ太陽神様がなんの反応も示さないのか、理由はね、なぜかわかるよ。だってね脳裏にね、『それが人にものを頼む態度かのぉ』というヘンテコ太陽お面のバ神様の顔が思い浮かんだのだ。

 引きつる顔をどうにか諫めて両手を天にかかげて、叫ぶ。


 「太陽神様!力を貸して!お願い!」


 瞬間私の体は金色の光に包まれ、腕につけていたブレスレットの石が1つ割れた。

 …たしかこの石は降神術を一回するごとに割れるとガブちゃんが言っていた。つまり降神術は成功した?でも私の周囲に太陽神様の姿はなく。

 そもそも降神術ってなに?


 「てっきり神様を召喚する術だと思ってたんだけど…」

 『まあ召喚されてもいいじゃけど、めんどくさいじゃん?だから太陽神流の降神術は神の力を光の巫女に一時的に貸すって感じにしてみました~。その身に神の力を一時的に宿す的な?リディアの前世でいうところの憑依?ま、そんなわけで今のお主は神と同等の浄化の力を使えるわけだから、なんとかするんじゃな。ほっほっほ』


 頭に直接聞こえた声はプツリと切れた。

 もっと詳しく説明してよとリアルと脳内の両方で呼びかけるが返事は無し。

 あのクソジジイ!ていうかなんで私の前世を知ってるんだよ。神様だからなの!?


 「もうっ!どうしたらサラのことを助けられるのよ!」


 むしゃくしゃしながらサラに触れた。そうしたら景色が反転して、ぼんやりと暗い夜のような闇の中に私は浮いていた。


 「……。」


 理屈はわからないけれど私の中に眠るヒロインパワーか光の巫女の力のどちらのおかげで、この空間がサラの精神世界だとわかった。うん、急展開過ぎるぞ!

 

 暗い夜の闇の中。とりあえず光の蝶を出して周囲を照らしてみる。そうしたらサラがうずくまっているのが見えた。その姿は現実とリンクしていて、髪は数本を除いてすべて闇色に染まっていた。

 どうしたらサラを救えるのかわからないってのに進んでいく展開にリディアちゃんは発狂しそうです。


 「メーデーメーデーメーデー。太陽神様ー。応答願いますー」

 『ほーい。こちら太陽神じゃよ~』


 仕方がないので太陽神様を頼れば頭に声が響いた。


 「さっきも思ったけど、頭の中で声が聞こえるとか気持ち悪っ」

 『気持ち悪いとはなんじゃ!』

 「なに?神様パワーで頭に直接話しかけられるとかそういうやつ?」


 問えば頭の中で太陽神様がフフンと得意げに鼻を鳴らす音が聞こえた。うざー。


 『わしはお主に降神術の資格を与えた。リディアの中に神の力を貸す…えーと憑依させることができるわけじゃ。でも神の力を貸すためにはお主に印をつける必要があってな』

 「ああこれ?降神術使える証ってさっき言ってたこの太陽の印」

 『そうそれ~。まあ端的に言うと、今お主の精神の中にはわしの分身が存在している。その太陽の印がわしの分身じゃな。だから脳内で会話もできるのじゃ!特別に降神術を使わないときでもわしに話しかける許可を与えよう。恋愛相談とかあったらじゃんじゃんわしに話しかけて。気が向いたら相談にのってあげるゾ!』

 「うわーん!さっさと出てけぇえええ!プライバシーの侵害!」


 ていうか私の精神世界にあの不気味な太陽お面の分身がいるの?嫌だ。体が拒否反応を起こすよ!いやそもそも精神世界ってなんだよそれ!


 「わかった百歩ゆずって私の中に居候するのは許してあげる。その代わり太陽神様、サラを助けるの手伝ってよ!手伝ってくれないなら家賃貰うからね!」

 『アドバイスくらいはしてやるかのぉ』

 「このクソ(ジジイ)~!アドバイスでいいから早く!」


 太陽神様とバカな会話をしている間にうずくまるサラの髪がまた一本闇色に染まってしまったのだ。バ神様ののんきなペースに巻き込まれるわけにはいかない。こっちの現状はシリアス一色なんだよ!


 『仕方がないのぉ。お主はのぉ、うーん。やっぱヒロインらしく対話で浄化がセオリーじゃない?』

 「投げやりすぎない!?」

 『傷ついた敵が求めている言葉をドンピシャで当てて相手の心を癒す。これヒロインの十八番じゃろ?まあリディアの十八番かどうかは知らんが、ヒロインっぽいからそれでいきなよ~』

 「ガブちゃんの馬鹿!太陽神様超使えないんだけど!?絶対に神様の中で落ちこぼれだよ!はずれだよ!へんてこなお面付けてるから絶対に神様間でハブられてるパターンだよ」

 『リディア。お主、神様に向かって結構不敬じゃからな。他の神様だったら殺されておるぞい。そういう面ではわしは超当たりじゃない?ね?ね?ちなみにハブられてないからの!』

 「もうわかったから!対話でがんばります」

 『ふーん、でも…』

 「ワ、ワーイ。太陽神様が私に力を貸してくれる神様でほんとうにヨカッタナー。だからちょっと黙ってて!これ以上あんたの声を聞いたらキレる」


 ようやくうるさい声が聞こえなくなったときだ。


 「どうして俺ばっかり…」

 「ちょっとそれを言うなら私の台詞だから!」


 前方でネガティブ溢れる暗い声が聞こえてぶちぎれた。

 それでもってぶちぎれてしまった相手を見て私は頭を抱える。


 「……ごめん、リディア」 

 「…。」


 さきほどまでうずくまっていたはずのサラがなぜか私の近くにまで来ていて、彼はモスグリーンではない赤い瞳をうるませて悲しそうに笑った。

 

 ほんとガチでキレるよ、太陽神様ァアアアア!


 「サ、サラ!違う。今のは太陽神様に話していた流れで言っちゃっただけで。私も大変だけどサラも大変っていうか!うん!みんな辛いよね!?だから、謝らないで!?」

 

 だけどサラはしょんぼりと肩を下げて力なく笑う。

 おいコラ太陽神様。お前足手まといにしかなってないぞ!


 「みんな辛い?ちがうよ。他のやつらなんかよりも俺が一番辛いんだ!」

 「え。なに!?急にキレたんだけど!?闇の精霊の影響で情緒不安定なの!?」


 しょんぼりと笑っていたかと思えば、眉間にしわを寄せてサラは怒っていた。急だよ。何の前触れもなかったよ。怖いよ。対話で浄化とか太陽神様はほざいていたが、この状況で対話は難しいです。私の前世は現役大学生であって、カウンセラーとかではありませんからね!?

 サラの激情に連動するように彼の中から闇の精霊があふれ出す。

 

 「俺だって普通の子供と同じに生まれたかった。白い髪も魔力も魔法もなにも望んでいない。神官の座なんていらない。みんなが羨ましい。妬ましいよ…」


 ポロポロと赤に変わってしまった瞳から雫がこぼれる。

 眉間によっていたしわは消え、ただただ悲し気に彼の眉は下がっていた。


 共感体質。

 サラの口からこぼれる感情はサラの隠されていた本心なのだろう。だけどそれだけではなく、サラの中に住み着いたサラの共感体質に共鳴した闇の精霊たちの暗くて悲しい部分も、サラの体を借りて叫んでいる、そんな気がした。


 身体は勝手に動いて、私はサラを抱きしめていた。

 

 「どうして俺ばかり。俺だって外に出たい。外の世界で自由に生きたい。やっと出られたと思ったらこんなことになって。っ魔法も体質も感情も俺は何一つコントロールできない。こんな俺だから…母さんに捨てられたんだ」


 最後は消えるように小さな声だった。

 私の腕の中で涙を流す彼は実年齢17歳の青年だ。だけど今だけは、お母さんに捨てられたと思い込んでしまった3歳の小さな男の子だ。


 「違うよ。サラは捨てられてなんかないよ。ザハラさんは…」

 「母さんの話は聞きたくないっ」


 腕の中で泣いていたはずの彼はまた眉間にしわを寄せていた。

 サラの体からは闇の精霊がさらに放出された。きっと現実でも同じようにサラの体から闇の精霊が飛び出しているのだろう。

 遠くでパリンとなにかが割れる音が聞こえた。…たぶん現実の世界でサラの部屋に張っていた結界が割れた。闇の精霊の量が多すぎて結界を破ったのだ。

 

 ザハラさんの――お母さんの話でサラの感情が暴走するのなら今この話はやめよう。


 「いいよ。お母さんの話はしない。ね、サラ。帰ろうよ。ガブちゃんとシグレが待ってるよ」

 「帰りたくない。帰ったところで俺は自由にはなれない。それに…闇の精霊に取りつかれた俺を、先生とシグレは受け入れてくれない」


 また最後は消えるように小さな声だった。


 サラは魔力・魔法・体質のせいで天空神殿に囚われている。だけどそれは問題じゃないように思えた。たしかにサラは自由になれないことに悲しんでいる。さっきあんなに怒っていたしね。

 だけど自由になれないことよりも、サラはガブちゃんとシグレが自分を受け入れてくれるかを心配しているように思えた。


 サラは知らないのだろう。本音を言うとき彼の声は消えるように小さくなる。

 いつも笑顔で周りを気遣える彼だから、自分の本音を言うときは無意識に声量が小さくなってしまうんだ。自分の本音が受け入れられるか不安だから。

 だったら私はそんな彼の不安を取り除くまで。


 「大丈夫。サラはガブちゃんの弟子でシグレの兄弟子でしょ?師弟の関係ってことは、要するにサラは2人に受け入れられているわけ。もうすでに受け入れている相手をあの2人が掌ひっくり返してどっかいけーなんてするわけないでしょ!」

 「でも俺は闇の精霊のせいで、醜い嫉妬心で先生とシグレのことも妬ましく思ったことがあって…」

 「別に妬むくらいあるでしょ。それにどうせ2人ともサラが嫉妬したこと知らないよ。なら言わなければいいだけの話じゃない。俺が2人に嫉妬したってことばれてないな、ラッキーって感じでよくない?」

 「俺は2人に嫉妬してしまった自分を許せない。それにもし俺が2人に嫉妬していたことがばれたら…きっと嫌われる」

 「あー、そう。そうなのかーうーん。…私今神様レベルの浄化の力持ってるのよ。対話で浄化って太陽神様は言ってたけど、はっきり言ってよくわかんないんだよね。でもサラが闇の精霊に囚われたくない、助けてって思ったら浄化してあげられると思うの。だから私に助けを求めてくれない?」

 「助けを求めるだなんて、周囲の人間に迷惑をかけ続ける俺に助けを求める資格はないよ。母さんのことだって、俺がこんな体質と魔力で生まれたから捨てられただけなのに。自分が悪いのに母さんを責めて…」

 「……。」


 もうリディアちゃんキレました。無言無表情でキレました。


 ネガネガとネガネガと闇の精霊に囚われているからそういう暗い気持ちになっちゃうのはわかります。だけど私はカウンセラーじゃない。その手のプロじゃない。時間は有限でもう1本しか白い髪が残っていないのに、こいつがこっちの話を全て否定してくる以上もう強硬手段に出ます。


 私はカウンセラーじゃないけど、「いつ君」だけではなくこの世界のヒロインなのだ。光魔法っていうチートを使います。



 「私の話を聞きなさいサラ!」



 両手に光の魔力を込めてパァンとサラの両頬を叩く。

 一瞬でいい。欲を言うなら10秒ほどでいいから、強制的にサラの中に巣くう闇の精霊をすべて取り払う。そしたらきっとサラは私の言葉を聞いてくれるから。


 「リ、ディア」


 時間はない。サラが正気に戻っているうちにとにかく気持ちを伝える。


 「はじめに嫉妬は人として当たり前の感情です!むしろサラは普段から我慢しっぱなしなんだからちょっとくらい嫉妬していいんです!嫉妬するべきなのよ!

 2つめ!サラが誰に嫉妬しようが、少なくとも私とガブちゃんとシグレはあんたから離れて生きません。私あんたの闇を聞きまくったけど軽蔑もなにもしてないでしょ!?2人も一緒だよ。

 最後に!あんたは勘違いしてるけどザハラさんはサラを捨ててないよ。サラは3歳だったから記憶がおぼろげなんでしょうけど、ザハラさん今でもサラのこと大好きだからね。あんたが危篤だって知ったザハラさんに、あの子を助けてって言われて私は拉致されたんだからね!これで私サラを助けられなかったら、ザハラさんに見せる顔がないし、家にだって帰れないじゃない!私を助けると思って、私に助けを求めて!頼むから!」


 まくしたてて最終的に頭を抱えた私を見てサラはポカンとして、だけどすぐに困ったように泣きそうな笑みを浮かべた。

 それはいつものやさしいサラの笑顔だった。


 「……あはは。もう、リディアらしいな。俺を助けるんじゃなくて、自分を助けてほしいだなんてふつう言わないよ。でも、だからこそ、俺はそんな君を尊敬する。ね、リディア。君のために俺を助けて」

 「うん!」


 私はサラを助けたい。

 サラをぎゅっと抱きしめて彼に巣くう闇が浄化されるように願う。

 私の全身から光の蝶があふれ出してサラをつつんだ。


 『リディア、こういうときは決め台詞じゃ』


 頭の中で響く声。

 …決め台詞。ふと思い浮かんだのは、「いつ君」ヒロインの言葉。本編で闇の使者さんたちを浄化したときにたしか彼女は…




 『あなたは自分自身の運命を決めることができます』




 言葉がこぼれた瞬間だった。


 サラを包んでいた光の蝶たちがほどけて合わさり、金色の光を纏った白い光の柱へと変貌した。超の時と同様に光の柱はサラを包みこんだ。

 光の柱の中で目を丸くするサラの体から現れる闇の精霊が一匹、また一匹と浄化され白い蝶へと姿を変えていく。それに伴ってサラの闇色の髪と血の色の瞳は、純白の髪とモスグリーンの瞳に戻っていく。


 そうしてサラの体内に巣くっていた闇の精霊すべてが浄化されたとき、光の柱がはじけて辺り一面が金色の光に包まれた。

 サラの精神世界にあった夜の闇を金色の光が弾き飛ばし、青々とした草原へと姿を変える。


 その光景は美しくてずっと見ていたかったけれど、辺りを未だに包む金色の光がどんどん輝きを増していって、あまりのまぶしさに目をつむってしまった。

 そうして開けた瞬間目に入ったのはガブちゃんとシグレのドアップの顔。


 は?


 2人とも心配そうな顔をしていたが、超びっくりしたので私はベッドから転げ落ちた。


 「ん?ベッド?」


 ちょうど私が転げ落ちたベッドを見て見れば、そこには気持ちよさそうな寝息を立てて眠る白髪の髪のサラの姿があった。

 つまり浄化は成功したのだ。

 ほっと、しようと思ったらさせてもらえなかった。


 「リ、リディア様ぁあああ」

 「どぅわっ。シグレ!?」


 まずシグレが泣きながら私に抱き付いた。抱き付いたと言えば聞こえはいいが、実質闘牛並みの力でタックルされました。

 

 「……よくやった」

 「痛い。痛いよガブちゃん!?」


 体をギシギシミシミシと拘束される中で、今度はガブちゃんが私の頭をなでる。だけどその力が強すぎて私の首はもげそうだ。しかもずっとバカ力でなで繰り回すから目も回ってくる。

 お願いだから一仕事終えた光の巫女を労わって!?


 「とりあえず2人とも一度離れて、今がどういう状況か説明してもらってもいい?」

 「……お前がサラを救った」

 「いやもっと詳しく!?」



 冷静をどこかに忘れてきてしまったらしい2人の言葉をまとめると、こうだ。


 ガブちゃんとシグレは私が神様の試練に合格して戻ってくるのを待っていた。そうしたら突如サラの部屋の結界が割れて闇の精霊が外に出ていき、かと思ったら今度はサラの部屋に光の柱が出現して混乱しまくった。

 ともかく急いでサラの部屋に向かったら、ベッドの上で眠っている私とサラを発見。サラの髪色が白に戻り顔色もよくなっていたことから、私が神の試練を合格し降神術でサラを助けたことを推察。

 だけど1日経っても私とサラが目覚めないものだから、2人を含め神官一同はかなり心配していた。


 うん。まるっと1日眠っていたなんて驚きだよね。そう考えるとシグレとガブちゃんの行動にも納得できる。納得できるからと言って許すわけじゃないけどね。体と首は今も痛いです。


 「まあ私が目覚ましたんだからサラもそのうち起きるでしょ」

 「そうだな」


 ガブちゃんがうなずいたとき、ぐーと悲しい音が部屋に響き渡る。

 恥じらいはないよ。

 だって私、憎き清めの儀式とやらのせいで、きのうの朝からなにも食べてないんだからお腹がすくのは当然。


 「てなわけでなにかごはんちょうだい!お腹すいた!」

 「リディア様ならそう言うと思っていました」

 「食堂にあるものすべて持ってきてやるからお前はここで待っていろ。行くぞシグレ」

 「はい」


 ガブちゃんとシグレが部屋を出て行ってしまったのでなにもすることがなくなった私は……とりあえずストレッチをすることにした。寝すぎると体が痛くなるからね。


 前屈をしたときだ。目に入ったのはブレスレット。

 8つあったはちみつ色の石は7つになった。普通は悲しくなるところだが、これはサラを救えたという証になるので悲しいよりも誇らしい気持ちになる。


 サラを救えた関連で思い出したのは光の柱だ。


 あの光魔法を出現させたときの言葉。太陽神様のノリにのってあげた浄化の台詞は、正しくは『あなたは救われる運命だったのです』だった。これがヒロインの台詞だった。

 だけど私はこの台詞が嫌い。だってこれじゃあ救われない運命もあるみたいじゃないか。

 だから変えた。


 『あなたは自分自身の運命を決めることができます』


 救われる運命とかじゃないんだよ。

 サラは私に助けを求めた。まあ多少無理やりはあったかもしれないが、生きるも死ぬも自由な中でサラは自らの意志で自分の運命を選択した。


 運命は決まっているのかもしれないけれど、自分の運命を決めるのは自分自身だと私は思う。今の私のように「いつ君」本編突入を防ぐべく奔走したりね。みんなが死ぬ可能性のない未来のために私はあがきましたから。え?光の巫女の使命?……ワタシ、記憶喪失なのでノーコメントでオネガイシマース。


 だから運命は変えられる。

 自分の運命を決めるのは自分だ。

 現に私ヒロインが本編で闇の使者を浄化するときの『あなたは救われる運命だったのです』の言葉を変えちゃったからね……ん?


 私はサァーと青ざめた。

 だってとんでもないことを思い出してしまったのだ。


 「あ、あぁぁああああ!?待って。ヒロインの浄化のときの台詞に、あの光の柱。そうだよ。本編が始まって闇の使者と対峙するときヒロインは降神術を使って闇の使者を浄化してた!どうしよう。万が一本編に突入したとしても問題はないスペックを有してしまった。いや大丈夫。私は本編突入のフラグを折っているから、万が一がない限りは大丈夫、うん…うがああ」

 「うー。リディア、声がうるさいよ…」

 「サ、サラ!?サラが目を覚ました!や、やった!ガブちゃん、シグレー!!!ああでもっ、本編~!!!」


 




















////////★



 黒い蝶が天から地上に降りてきた。

 家に帰るかのように黒い蝶――闇の精霊は黒い鎖に吸い込まれていく。鎖は蛇の仮面を外していた男の腰元で風に吹かれ揺れた。


 すべての闇の精霊を回収したところで男は静かに息を吐いた。


 「きっと…じゃないか。今回もまたリディア、だね」


 今この場にあの少女はいないのに、孤児院での――あの少女と接するときに使っていた優男のような口調になってしまい苦笑する。

 男は天を見上げた。


 黒い蝶が下りてくる直前、一瞬であったが金を纏った白い光の柱が出現した。

 その光の柱に見覚えはない。が、口頭で聞かされたものにさきほどの光の柱は似ていた。いや、同じだった。

 つまりカギはそろったのだ。彼女の運命は確定した。


 「…光の巫女が君でなければ、素直に喜べたのにな」


 紺色だった髪は闇色に染まり、紺色の瞳は血の色に変貌する。

 男は蛇の仮面を身につけ黒衣を纏い、薄暗い森の中へと消えていった。






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