42.いい夢なんかじゃない
遅くなってしまってすみません。
それはほんの数分の出来事だった。
ガブちゃんと別れたあと私は明日に備えてすぐさま眠りにつき、気が付けばいつもの夢の世界にいた。だけど思った通り夢の世界にサラはいなくて1人で空を見ていた。
そうしたら目の前にサラが現れたのだ。
「サ、サラ!?」
「やあリディア」
「~っ」
サラの顔色は相変わらず悪く、闇の精霊の力を抑えて私の前に現れてくれたであろうことが推察できた。
さきほどの夢でのことやサラの現在の状況も相まって抱き付いてしまう。私を抱き留める腕はひんやりと冷たかった。現実のサラと同じ温度に胸がざわつき唇を噛みしめた。
「私絶対にサラのこと助けるから」
私の言葉に反応してかピクリとサラの体が揺れる。
ゆっくりとしかし弱い力ではなく、サラが私の肩を押し距離をとった。
「リディア今までありがとう」
そうして紡がれたのは別れの言葉。
「サラ?」
モスグリーンの瞳がやさしく揺れて彼はいつものようにやさしい笑顔を浮かべる。いつもと変わらないからこそ嫌な予感がした。
「言ったよね。天空神殿にいる間だけおれの友達になってほしいって。君はここから出ていくべきだ」
「なに馬鹿を言ってんのよ!?私は明日儀式をするの!出て行かない!」
私の反応は想定していたらしい。彼は特に動じることなく詰め寄る私に対し笑みを浮かべたまま諭すように言葉を続けた。
「馬鹿を言っているのは君のほうだよ」
「なっ!」
「儀式が失敗すれば君は死ぬ。俺が知らないとでも思った?俺のために命をかけるなんて馬鹿げてるよ」
自嘲するように言葉を吐き捨てる彼は眉を下げて私を見た。
「ごめんね。君は俺にとって初めての友達だったから、君を解放しなければいけないとわかっていたのにずっとひきとめてしまっていた。夢で君と話す時間がとても楽しかったんだ。今なら間に合うから逃げて、リディア」
「……。」
そうして悲し気に顔を伏せるサラを見て沸いたのは、怒り。
ええ、はらわた煮えくりかえるような怒りですよ。こっちが黙っていたら独りよがりにペラペラと好き放題言いやがって。私の気持ちは無視か!
「サラが私に命かけてほしくないように、私だってサラが死ぬのは嫌なんだからね!この馬鹿!」
一発殴ってやろうとサラの頬に向かって拳を突き出す。が、私の手はなににも当たらなかった。サラが攻撃を躱したのではない。私の拳がサラの体をすり抜けたのだ。
半透明に薄れていくサラに瞠目する私を見て彼はほほえむ。
「君と友達になれてよかった。ありがとうリディア。さようなら」
「さようなら」その言葉とともにサラは霞のように消え、私は目覚めた。
窓から差し込むのはまぶしい朝日。
無言で起き上った私を見て、私より先に目覚めていたらしいシグレが困惑の表情を浮かべる。そうだよねぇ。目覚めたリディアちゃんの頬には青筋が浮かんでますものね。さっきは目覚めた途端部屋を飛び出した前科持ちですから、今度はなにやらかすか警戒しちゃうよね、ハハハ。
「リ、リディア様?」
「安心して夢見が悪いだけだから」
湧き上がるのは、怒り怒り怒り怒り怒り!
あの言い逃げ野郎はにこにこ笑顔でこっちの話なんて聞きやしない。勝手に自己完結して。私より年上なんだからこっちの話も聞けよ。
サラを殴ろうとして殴れなかった自分の手を見てぎゅっと握りしめる。決めました。
「サラが回復した暁には絶対にぶん殴る!そのためにも絶対に儀式は成功させるんだから!」
「リ、リディア様っ!かっこいいです!」




