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10.花子ちゃんではなく、神父様の作戦でした(1)



 翌日からさっそく私たちは計画通りに動いた。


 私とアルトはいつものように起床して、ソラにおはようと言う。

 その後いつものように、ソラを真ん中にして食堂へと向かう。ご飯を食べるときは三人仲良く横に並んで朝ごはんを食べる。もちろん私とアルトでソラを挟むようにして座る。遊ぶ時も私とアルトとソラの3人で、ドッチボールやら、お絵かきやら、お昼寝なんかをする。


 そうしていくうちに時刻は夕方。

 今日も平和に一日が過ぎ……と、私は話を完結させようとしたところで、アルトの視線に気が付いた。


 彼は怪訝な顔で私を見ていた。


 「なによその顔。ていうかソラはいっしょじゃないの?離れるなって言ったでしょー」

 「ソラは今トイレ。用もないのに僕もトイレに行くなんて不自然でしょ」


 周囲に警戒すべきルルちゃんをはじめたとした女の子たちがいなかったことから、私は休憩をもらいアルトとは別行動中。一人花壇のそばで美少女らしく花を愛でていたわけなのだが、アルトがやってきたことにより私の休憩タイムはすぐに終わった。

 ねぇ、アルト。君休憩って言葉の意味知ってる?別行動とってまだ2分も経ってないと思うんですけど?


 「ま、いいさ。心の広いリディアちゃんは許してあげる。でも意外だね。あんたはソラの行くところすべてについていくと思ってた」

 「え。プライバシーがあるでしょ。もしかして君は自分が男だったら、トイレにまでついていくつもりだったの?うわ…変態」


 この場に私しかいないからか彼の口調や態度は夜中の時のそれだ。

 つーか変態に、変態って言われたんですけど。

 誰かぁ今すぐここを通りかかって~。アルトの本性ばれてしまえ~。


 「まあいいよ。冗談はさておき、手短に質問させてもらうよ」

 「どこまでも自由なやつだなぁ」

 「君の計画。ほんとうにうまくいってるの?」


 思いもよらぬ質問に私は目を瞬く。


 「どうしてそんな疑問が?」

 「きのう計画を教えてもらったときから、疑問に思ってたんだよ。だってこの作戦は…いつも通りのことをしているだけじゃないか」


 いつも通りのこと。


 そう。私が昨日の夜提案した計画は、いつも通りのことをする。ただそれだけだった。いつも通り、3人でご飯を一緒に食べて、遊んで、寝て、勉強して、遊ぶ。

 たったそれだけの簡単なことを私はきのう、アルトに計画として伝えたのだ。


 ある人にとっては簡単だけど、ある人にとってはむずかしいことを、ね。


 「あらあらーん?それじゃあアルトくぅんは、この作戦は失敗だって思ってるわけ?」

 「アルトくぅんって気持ち悪いよ。…でも、うん。失敗じゃないの?だってルルは今日ずっと僕たちのことを見ていたじゃないか。ソラのことを諦めたようには見えなかった。他の女の子たちも、ソラのことを見てたし」


 アルトの言う通りだ。

 ルルちゃんは今日、いつものように3人で行動する私たちを見ていた。

 そう。見ていた…だけ。


 この今日のルルちゃんの行動は、けっこう重要なことなのだが、アルトはそうは思っていないようだ。なぜならアルトはルルちゃんにソラのことを諦めさせるということに、重点を置いているから。


 「うん。私もうっかりしていたわ。こういうのって最終目標に至るまでの考えが違った場合、仲間内で疑問が生じ始めるものなのね。そしてそれは作戦の失敗をまねく原因の一つになる…うーむ、むずかしい」

 「どういうこと?」


 アルトが首を傾げるのはめずらしい。

 アルトよりも賢くなれた気がして口元がにやつく。私はフフンと胸を張った。


 「ようするに私とアルトは考え方が違ったってこと。現時点でアルトは私の作戦は失敗だと思っている。けど私は、作戦通り成果が出ていると感じているわ」

 「はあ?」


 アルトは怪訝に顔をゆがめた。

 やれやれ。これだけじゃあ、7歳のアルト君はわからないようだ。


 「私たちの共通の目的は、ソラを女子の間の手から守ること、でしょ?」

 「うん」

 「私たちはね、ソラを守るための手段が違ったのよ。アルトはソラを守るため、ルルちゃんやその他女子にソラを諦めさせようと思ったわけだ」

 「うん。その通りだよ」

 「だけど私はね、とにかくソラにルルちゃんたちが近づかなければいいと思ってるの。ルルちゃんの恋心をどうこうしようとは思ってないから」

 「は?それどういうこと?」


 どうもこうも簡単なことだ。

 ようはソラの周りにソラの気持ちを惑わすような人間がいなければいいだけの話なのだ。


 ルルちゃんが近づきさえしなければ、ソラの心は動かない。お兄様一番だ。

 そしてルルちゃんはソラに近づけなければアタックできない。ソラ自らが、ルルちゃんに会いに行かない限り、ね。


 ゲーム内のソラがどうしてお兄様一番じゃなくなったのか、それはソラが自分から行動したからだ。ヒロインに恋をして、自分からアタックしに行ったから。


 つまり現段階で私たちが取るべき行動は、ソラが周りの女子に興味を持たないようにとにかくガードすること。

 両脇からソラをはさんでおけば、それだけで効果絶大だ。


 美少女と美少年の兄にはさまれた美少年に、周りの女子たちが声をかけられるはずがないのだ。話しかけるとしたらまずは両脇の人間をどうにかしなければいけないからな。

 ルルちゃんの恋心まで変える必要はないのだ。

 私は恋する乙女の味方です。あ、だからといって応援をするわけではありませんので、あしからず。


 「ってわけよ。わかったかしら?」

 「ふぅーん。君にしてはやるじゃないか」

 「君にしてはってなによ。」


 素直に褒めれないのか、この男は。


 「まぁこの作戦にちょっとでも不安を感じるなら、私が来る前みたいに、メロメロフェロモンでも出しておけばいいんじゃない?得意でしょ?」


 現時点でソラと全くお近づきになれていない女の子たちだ。以前のように私を警戒していたころのアルトなら無理だろうが、今のアルトなら心の余裕もある。なにせ私がソラ興味ない宣言をして、アルトの力になっているからね。

 以前のようにアルトがメロメロフェロモンを出して、ちょっとやさしくすれば、女の子たちはコロッとアルトに惚れるだろう。ルルちゃんだっていけるかも。アルトの心配事は確実に減る。


 また君にしてはやるじゃん、と素直じゃないお褒めをいただくかも。

 自然と上がる口角を隠しながら、私はチラッとアルトを見て、唖然とした。


 なぜか、彼は、不機嫌そうに眉間にしわを寄せていたのだ。


 「……僕が好きで女子たちを落としているみたいに言わないでくれない?」

 「え。いや、別にそんなふうに言ったつもりはないんですけどぉ?」


 なにが彼の逆鱗に触れたのか、はっきり言ってわからない。

 理由なんてわかるはずもない。

 わかるのは彼が確実にご機嫌ななめだということだけである。


 「……実はソラのためとはいえ、純粋な女の子たちの心を弄ぶことに罪悪感を抱いていたとか?」

 「は?どうして?僕みたいな完璧な人間に恋をできるんだよ。彼女たちに感謝されるならまだしも、どうして僕が罪悪感を抱かなきゃいけないのさ」

 「…あ、はい。あんたはそういうやつでした」


 そうなれば、なおさらアルトの機嫌が悪い理由がわからない。

 なぜに?

 アルトの真意を探ろうと私はじーと彼を観察するのだが、私の視線が嫌だったのかアルトはふいと私から顔をそらした。

 そして、一言。


 「僕は好きでもない人間から向けられる好意なんて、虫唾が走るくらい嫌なんだ。だからソラのためでなければ、僕は彼女たちを惚れさせたりはしなかった」

 「……。」


 私の考えてもわからなかった答えを、意外にもアルトは自分から教えてくれた。


 この人、ほんとソラと正反対だな。

 私はしみじみと思った。


 いや、まあもっとさ、思うことはあるだろうけど、私がまず思ったことはこれだった。

 だっておもしろいくらい反対なんだもの。

 ソラは他人の好意をうれしく感じる。でもアルトは他人の好意が嫌い。

 虫唾が走るくらい嫌いなんだって。だけど彼はソラのことが大切だから、自分の気持ちを殺して我慢してまで女子たちに笑顔を振りまいて優しく接するのだ。ソラではなく、自分に好意が向かうように、と。


 となると私がアルトに友情と言う名の好意をむけることも逆効果なのか?

 うーん。ここにきて最難関が発覚した。まあ私以外の人間をアルトの友達として見繕う予定だったから私の好意が逆効果なのは特段問題があるという訳ではないのだけれど。


 ちょっとだけ、こんなクソみたいなアルトと友達になる道を捨てていない自分もいるわけでして、残念だなぁと思うよね。


 「アルトの言い分はわかったよ。ようするにアルトは私が勘違いしていると思ったわけね。アルトが女子を自分に惚れさせて、喜んでいる、って。本当は女子に好かれるのが嫌なのに。安心しなさい。私はあんたのことを、人の心を弄ぶブラコンヤンデレ野郎としか思っていないから」


 私の言葉にアルトはほっとしたようだった。


 「それなら、いいけど。え。待って、よくないんだけど。人の心を弄ぶブラコンヤンデレ野郎ってなに!?」

 「……。」


 ここでこの言葉の意味について解説するのはとてもめんどうだし、時間がかかる。なにより解説し終えたとき、私の命はおそらくない。

 私は決めた。

 よし、うまく話をそ~らそっ。


 「普通に疑問なんだけど、人の好意に虫唾がはしるとかいう㊙情報をさ、どうして私に話したわけ?あんたみたいな秘密主義者は、自分の性格を他人に知られるのは嫌なんじゃないの?」


 うまく話をそらした私にアルトは思った通り食いついた。


 「たしかに、嫌だ」


 はい、即答。扱いさえわかればアルトはちょろい。


 「ほらやっぱりー」

 「でもどうしてだろう。君に勘違いされる方が…ずっと嫌だった。どうして?」

 「いや、私に聞かれても」


 アルトは不思議そうに首をかしげる。

 自分じゃわからないことを、私が知っていると思わないでいただきたい。私はエスパーか。あいにくだが私がアルトのことでわかっているのは、彼が美少年でなければ許されないレベルの、ブラコン・ヤンデレだということくらいだ。


 それにしてもソラのやつトイレが遅いなぁ。おなかでも下したのか?

 そう思ったときだ。


 「おーい。リディアー。暇ならいっしょにドッチボールしようよー」


 孤児院の男の子たちが、わいわいと遠くから手を振ってきた。

 そういえばトイレからも花壇からもグラウンドは近かった。遊んでいたらもしくは遊ぼうとしたら私の存在に気付き声をかけたといったところだろう。


 彼らはいつも私が夜寝る前に遊んでいる子どもたちのメンバーその1だ。

 ちなみに、その2、その3もいる。私はこう見えていろんな子たちと遊んでいるのだよ。友達多いんだよ。ふふふ。


 「リディアー、遊ぶの?遊ばないのー?」


 私が返事をしないから再度聞かれた。

 一応今は自由時間だ。アルトが話しかけてきたから話していただけで、別にアルトと一緒にソラを待っていたわけではない。

 アルトのことだ。一人でソラを待つことに孤独は感じず、むしろ、僕とソラの2人きりの時間を邪魔するな、どっかいけと言うだろう。よし!遊びにいこ~っと!


 「アルトー。私、ちょこっとみんなと遊んでく…」


 言いかけて、言葉を止める。


 理由は簡単。

 アルトが無言で私の右肩をギリギリとつかんでいるからだ。


 あの。クラウチングスタート、まだしてないんですけど?展開早くない?


 「君、作戦の言い出しっぺのくせに、放り出すつもり?」

 「いや…でも私今、作戦外の自由時間だし。アルトだって……」


 アルトだってソラと2人きりの時間がほしいでしょ?そう言いかけるのだが、彼の目の笑っていない笑顔を見たら、言えません。


 助けをもとめて私を誘ってくれた男の子たちを見たのだが、彼らはそんな私の視線から避けるように四方八方に散っていた。おい!なんでだよ!


 「いつどこでソラに女の魔の手が及ぶかわからない。一蓮托生って言葉、知ってるよね?」


 その言葉を聞いた途端、私は青くなった。

 後者の「一蓮托生って言葉、知ってるよね?」という言葉。

 これは本編に入ってからのイベントで、ソラがトイレの花子ちゃんに攫われ、助けに行くが結局助け出せず、バッドエンドになったときにアルトが言う言葉だ。


 花子ちゃんの世界にさらわれたソラ(どんな世界だよ!)を助けようと、ヒロインとアルトが力を合わせてソラを救出しに行くが、結果助けられず、ヒロインとアルトのほうも元の世界に帰れないという絶望的状況に陥るのだ。

 そのときにアルトがヒロインにこの台詞を言い、ソラのいない世界でなんて生きていけないよねーと意気投合した2人は、共に花子ちゃんの世界の海に身投げする。また海に身投げだ!ソラルートのバッドエンド身投げばっかりだっ。


 「い、言っとくけど、私はアルトといっしょに身投げなんかしないからね!?」

 「は?」


 アルトの怪訝な顔はおいといて、ここで私はある可能性に気づく。


 「も、もしかして…ソラが全然帰ってこないのは、花子ちゃんに襲われているから!?」

 「はあ!?」


 どうして考え付かなかったのだろう。

 本編の花子ちゃんのときもソラはトイレに行くと言って行方不明になったのだ。

 だとすれば、こうしてはいられない!


 「アルト!行くよ!」


 私はアルトの手をつかんで、距離およそ10m先のトイレに向かって走った。


 「は?まさかトイレに向かって走ってる!?ていうかリディアも行くの!?男子トイレだよ!?」

 「当たり前でしょ!助けるなら1人より2人の方が良いに決まってる!花子ちゃんの世界に連れ去られたら最後、この世界に戻ってくるのはむずかしいから。覚悟しておいてね、でも一緒に身投げはしないから!」

 「君何言ってるの!?」

 「オープン、男子トイレ!」

 「ちょっ!」


 トイレを開けた私は、息をのんだ。


 勢いよく開けた男子トイレの中にいたのは、青い顔をするソラ。

 と。

 …そんなソラに詰め寄る、花子ちゃんならぬ、ルルちゃんたち女子だった。


 ただ男子トイレの中はなぜか薄暗くて、水浸しで、ソラたちはずぶ濡れで、女子たちは髪の毛がぐっしょりと顔に張り付いて、女幽霊みたいで……つまり、言いたいことわかるよね?


 「……ぎゅあぁぁぁぁ!おばけぇぇぇぇ!」

 「ちょ、リディア。抱き付かなっ」

 「リ、リディアちゃん私たちだよ!」

 「リディア、落ち着いてっ!」

 「キャ…キャパオーバー……」

 「リ、リディア!?」

 「え。リディアちゃん、気絶した!?」

 「うそ、大丈夫っ!?」

 「おーい、なに今の叫び声……ぎゃぁぁぁ!おばけっ!」


 そして私の絶叫に気づいて様子を見に来た男子たちによって、さらに男子トイレの中は叫び声で包まれるのであった。




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