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38.避ける話題

///////☆


 「え。光の巫女だけど6歳以前の記憶がないの?大丈夫?記憶喪失になることも定められたリディアの運命だったのかな?」

 「う、うふふふ~?」


 ところ変わって現在、夢の中。

 私はサラと一緒に花畑でおしゃべりをしていました。


 サラは心配そうに私を見ています。私もボロがでそうで自分が心配です。

 ボロが出ては困るので「どうなんだろうかね~」と悩むふりをします。万が一にも口がすべって「運命通りに生きなくても大丈夫な気がする!神様がなんとかしてくれるでしょ~」とか言ったら大変だからね。サラも神官だから、私怒られるかも。怒られるのは嫌です。

 

 さて座学と修行で2日目はあっという間に過ぎてしまった。

 今日の修行も鬼畜だった。


 昨日とは違い、今日はガブちゃんのオッケーが出るまで光の蝶を出し続ける大量生産系の修行だったのだ。つまり哀れな私は魔力規格外のためほぼ無限に光の蝶を出すことになる。休もうとすればきのうと同じように頭を鷲づかみ。怖いねー。おかげで1分間に100匹は光に帳を出せるようになったよ。


 せっかく光の蝶を出すのだから闇の精霊を浄化しようということで、今日はサラの部屋で修行をしました。めっちゃ浄化したよ。なにせガブちゃんが休ませてくれませんから!


 そのときに少し気になったことがあったのを思い出す。

 修行の休憩(ガブちゃんの目を盗み)がてらに部屋のベッドで眠るサラを見たときだった。心なしかきのうよりも髪の黒い面積が増えていた気がしたのだ。

 でも夢の中のサラは元気そう。髪もすべて白い。うーむむ。


 「夢では変わらないけどさ。サラの髪の色、きのうより黒の割合が増えてたんだよね。体調とか大丈夫?」

 「そう、なんだ。うん、大丈夫だよ」


 私の質問に対し少し間が開いた。

 サラは終始笑顔だけど、「黒の割合が増えてた」と言ったときの彼の顔は少しこわばっていた。

 たぶん、大丈夫ではないのだと思う。だけどサラはこの話題について深く踏み込んでほしくない顔をしている。

 闇の精霊の話になるといつもこんな感じ。


 「思い出した。今日の座学でさ。ガブちゃんに聞きそびれたことがあったんだぁ。神官って結局何者なの?って質問なんだけど、サラに聞いてもいい?」


 だからこういうときは話題をそらす。

 私にも踏み込んでほしくないことはある。それはたとえばさっきの光の巫女の使命の話とかネ。今日誕生したばかりのできたてほやほや踏み込んでほしくない話だね!

 だから踏み込まない。サラも私と同じ気持ちでさっきの光に巫女記憶喪失の話を広げなかったんだと思う。


 そんな私の考えに気づいたのか、サラはほほえみ、いつものようにやわらかい口調で話し始める。


 「神官はね簡単に言ってしまえば神に祈りを捧げ、神の御心を聞き、神の指示を受け、神のために行動する人たちのことを指すんだ」


 …とりあえず「神」がいっぱい出てきたのはわかった。


 「そしてそんな神官たちが集まった組織を教会、教会の頂点が天空神殿と言われている。国も一応神とのつながりを求めるからね。王都の近くに必ず一つは教会があるはずだよ」

 「へ、へー。全然シラナカッタ」

 「まあ俺達神官は表立って動かないからね。あくまで神官は神のために動く。教会も神のためにあるのであって、人々のためにあるわけではないから。リディアは知らなくて当前だよ」


 サラは「意味わかってないでしょ?」とクスクス笑う。

 し、失礼なやつだな。少なくとも前世で当たり前だった宗教の考えと、この世界の宗教…というか神官の在り方が全く違うってことはわかったぞ!まず宗教の数もそうだし教えというか思想も違う。


 この世界では宗教というか神に対する思想が1つしかない。「運命に逆らわない」が絶対の考え。

 神官は神様だけに仕えていて、たとえば住む場所に困っている人たちに寝床として教会を提供したり、悩みとか懺悔とか、お話を聞いてあげたりはしないのだ。それは自分たちの役割じゃないから。


 「ガブちゃんとかシグレとか私が修行しているときに仕事しているらしいけど、神官ってどんな仕事してるの?」


 ふと気になって問えば、サラは困ったように頬をかく。


 「うーん。説明がむずかしいな。仕事は人によって違うから。でもたいていの神官はデスクワークだね」

 「ふーん教会にこもりっぱなしってわけか。てことは神官はあまり普通の人とは関わらないの?」

 「めったには関わらないかな。ああでも5歳以前の子供には教会で神様のお話を教えたりはするんだよね。だから全く関わらないってわけじゃないかも。あとは神様や天使様の指示があれば、人と関わったり村とか王都に視察に行くこともあるなぁ」

 「そっかそっか……え。天使いるの!?」


 そういえば今日もガブちゃん天使がどうとか言っていた気がする。話が脱線したとかって言ってて聞きそびれちゃったけど気になっていたのだ。

 キラキラ輝きだした私の目を見てかサラが苦笑する。


 「うん。神様の遣いが天使だよ。神の言葉はたいてい天使が伝えに来てくれる。天空神殿が空にあるのはね、天使様が天から地上に降りる時間を短縮するためなんだ」


 神様とか天使は天界っていう場所に住んでいて、この世界に来るときは天からやってくるらしい。でも天と地上の距離はけっこう離れていて、降りるのに時間がかかるし疲れる。

 そこで空に浮かぶ天空神殿!天空神殿は天と地上の中間地点にあるからわざわざ地上に降りる必要がない。時間がかからない。地上に用事があった場合は天空神殿で休憩してから地上に降りることが可能。超便利なのだとか。


 「私天使に会ってみたい!サラは会ったことある?」

 「うーんあるけどそれほど多くはないよ。5回くらいかな」

 「え!すごい!まだ若いのに!それって結構回数多いよね!?」


 そうしたらサラはくすくす笑う。

 さきほどからくすくす笑われてばかりだ。なにがおかしい?サラの年齢で天使に会っているとすれば単純計算で2、3年に1回は会っているってことになるでしょ。それって回数多いってことになるよね。


 「リディア、君は俺を何歳だと思ってるの?」

 「え。12か13歳でしょ?」


 すると彼はさらに目を細くした。


 「ちょっとぉ。いい加減に怒るよ!」

 「ごめんごめん、確かに見た目は12歳くらいだよね。でも俺の実年齢は17歳なんだよ」


 悪戯が成功したときのように弾んだ声。

 そんな彼の瞳に映る私は阿保みたいに口を開けていた。


 「えぇ!アイと同い年じゃん!」

 「アイ?ああ、きのう話していた眼鏡の子か」

 「…たしかに。こうやって見ると、外見年齢関係なくアイよりも年上に見える。落ち着いてるからかな」

 「リディア、それじゃあアイがかわいそうだよ」


 きのう私から話を聞いただけで知り合いでもないアイに同情するサラと、初対面の私に対して「ヒメヒメ」とうるさかったアイを比べると、どう考えてもサラの方が精神年齢的に年上だと思う。


 「どうして見た目が若いのか聞いてもいい?」

 「いいよ。俺はね生まれもった魔力量が多いんだ。リディアと同じくらいあると思う。でもリディアとは違って体内を巡る魔力に体を圧迫されて、そのせいで体の成長が遅い。だから17年生きているけどこんな容姿なわけ」


 ザハラさんが以前言っていたのを思い出した。

 魔力持ちは基本長寿で、保有する魔力が多いほど身体に影響が出て若いうちに成長が止まる。成長速度にも影響を及ぼす場合があったのか。


 「私は魔力量が多いのに普通の速度で成長してるよ。どうしてサラだけなんだろう」

 「どうしてだろうね。俺にもわからない。……もしかして俺に同情した?」

 「いや別にしてないよ。サラが自分の成長速度を気にしていようがいまいが、私にはどうすることもできないし同情したところで意味ないでしょ。それに私と同じくらいの魔力量を保有しているってことは、サラも17か18くらいで成長止まるってことだよね?ゴールが一緒なら別にいいじゃん」


 私たちが100歳になるころには、私とサラの容姿は同じ年代のものになっているはずだ。ならば別に問題ないだろ。

 くしゃりとサラが破顔した。


 「リディアは先生と同じことを言うね」

 「えーなんかやだぁー」

 「あはは。そんなこと言わないであげて。先生がかわいそうだよ。わかりずらいけど先生、リディアのこと気にいってると思うよ」


 意外な言葉に瞠目する。


 「マジで?」

 「マジでだよ。先生は気にいった人には厳しい態度をとる人なんだ。でもだんだん厳しいよりも心配性のお父さんって感じになってくる」


 ガブちゃんが心配症のお父さんだと?たしかに今日のシグレに対してはまさに心配性のお父さんみたいな態度だったかもしれない。なぜか私がか弱い女でないことを力説していたからね。


 そうかサラの見立てではガブちゃんは私のことを気にいっているのか。ふ、ふーん。

 まあガブちゃんはバイオレンスだけど、やさしいしところもあるって知ってる。気にかけてくれているのもわかっているよ…わかりずらし暴力的だけどね。

 ああ見えてほめ上手だし、私はけっこうガブちゃんのこと好きだ。修行が厳しいのも私のためを思ってだろうからね。…厳しすぎるけどね。超厳しすぎるけどね!


 「俺も先生と出会ったばかりの1年はけっこうしごかれたよ。シグレも真面目が行き過ぎての生意気な性格だから、先生の弟子2年目になっても腕をひねられていたね。今はもう大丈夫だけど」

 「サラはいつからガブちゃんの弟子になったの?」


 シグレ生意気な性格発言に首をひねりつつも問えば、サラはうーんと考えるように首を傾げる。


 「俺が天空神殿に来た瞬間から先生が後見人兼師匠になってくれたから…3歳のときからだね」

 「3歳!?若いというよりかは幼くない!?」


 天空神殿にいる人間はすべて神官だ。

 つまり3歳のサラは神官としてこの天空神殿にやってきたということ。


 「3歳から働くのは神官としては当たり前なの?」

 「うーん、説明がむずかしいな。教会であれば3歳であっても神官もしくは神官見習いとして働くことはよくある。でも天空神殿で働く3歳の神官は多分俺以外にはいないと思う」


 サラによればこの天空神殿は、神官の中でもエリートの中のエリート神官しか、足を踏み入れられないし働けないのだそうだ。


 「教会でだいたい100年くらい神に仕えて、認められて、はじめて天空神殿の敷居を跨げる資格を得られる。でもあくまで資格だからすぐに天空神殿に行けるわけじゃない。俺は生まれもった魔力量と魔法と体質のせいで、このままでは自分にも家族にも害を及ぼすかもしれないってことで天空神殿…というかガブナー先生に預けられたんだ」

 「そうなんだ」

 「ちなみにシグレは俺とは違って、実力で天空神殿に仕えることを認められたはずだよ。赤ちゃんのときから教会で育てられて6歳のときに天空神殿に来た。そのときから先生に師事しているから、シグレとはもう4年の付き合いになるなぁ」

 「え!シグレってすごいんだね!私と同い年なのに!」


 興奮のあまり飛び跳ねながらサラの手を取ったときだった。

 お互いの手がぼんやりと霞のようにゆらいだ。

 私とサラ、互いに目を合わせて眉を下げて笑う。


 体がぼやけはじめる。それは夢から覚める合図だった。


 「また明日、リディア」

 「うん。またね」


 手を振ればすぐにサラの姿がゆらいで、消えた。

 たぶんもうすぐ私も消える。というか目覚める。


 誰もいなくなった花畑。顔をあげて空を見る。


 …自分が天空神殿にきたときの話になったとき、彼は話の話題を自分からシグレへと変えた。

 サラはきっと話をそらしたことに気づいていないんだろうな。ぼやーんとそんなことを思う。


 きのうサラと話した時も、話を逸らすの技をつかわれた場面があった。たぶん彼は無意識。

 その内容というのはずばり「家族」のこと。

 私の現在の家族構成…まあ、師匠とエルとアースとアイで暮らしているって言う話をして、サラの家族は?ってなったときに、サラはそれをスルーして「そんなことよりリディアの家族のことをもっと教えてほしい」と言った。

 話題をそらさずとも、自分の家族はこの天空神殿にいるみんなだよ、とか適当に言えばよかったのに。


 そして今回、天空神殿に来た時の理由に、「自分にも家族にも害を及ぼすかもしれない」だからガブちゃんに預けられたと言っていた。また「家族」。で、すぐにシグレの話に変えた。

 踏み込まれたくない話題というよりかは、無意識に「家族」っていう話題を避けている感じ。

 

 困ったな。ザハラさんとサラの関係について聞こうと思っていたのに、これじゃあ聞き出せそうにないぞ。だってザハラさんとサラは神と目の色が一緒なんだもの。家族説が濃厚だ。だけどサラは「家族」の話題を避けている。聞きづらい。


 まあ別になにがなんでも知りたいってわけじゃないからいいんだけどさぁ。

 でもそこらへんはっきり聞いておいた方がいいんじゃないかって、私の第六感が告げているんだよねー。困ったな。


 「……ィア…リディア様…」


 うーんうーんと悩んでいたら、シグレの声が聞こえてきた。


 花畑は消えて辺りは闇に包まれる。だけれどもまぶたのむこう側に太陽の明かりを感じ始めたので闇はすぐに消え失せる。

 やっと目覚めの時間がきたようだ。



 ほんとうはこのままずっと眠っていたいけれど、そういうわけにはいかないし。疲れた体に活を入れて目を開ける。

 さあ修行3日目のはじまりだ。




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