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37.何者であろうともやるべきことは変わらない



 「原因はわからないが貴様は6歳以前の記憶がないのだろう。質問しろ。説明してやる」

 「え、えーと光の巫女ってなに?」


 そこからわからないのかと、ガブちゃんが頭を抱えたのは言わずもがな(だって記憶ないんだもん。わかるわけないじゃないか)。

 2日目。私はガブちゃんの書斎で朝食を食べていた。


 予定していた午前中の座学はもうすでにはじまっている。時間がもったいないとかで朝食を食べながらの開始になったのだ。

シグレと2人、部屋で仲良く食べようと思っていたのに。

ガブちゃんのあだ名は、せっかち色黒バイオレンスに変更だ。

 

 「貴様、今なにか失礼なことを考え…」

 「シ、シグレ~。助けて。ガブちゃんが怖いよぅ」


 隣でご飯を食べるシグレに抱き付けば、真っ赤になりながらも私の癒しはキッとガブちゃんに非難のまなざしを向けた。

 ガブちゃんの頬に青筋が浮かび上がる。


 「憶測だけでか弱い女性を怯えさせるのはどうかと思います」

 「いいことを教えてやる。貴様に抱き付いているそれは、決して、か弱い、女性、などでは、ない」

 「ぬぅぁんですってこのせっかち色黒バイオレンス!」


 ところどころ区切りながらの説得が余計に腹立たしい。

 シグレに抱き付いたまま「こんにゃろう!」とにらめば、ガブちゃんは冷ややかな目で私を一瞥、諭すようにシグレを見た。


 「シグレ、目を覚ませ。か弱い女は唾をまき散らしながら暴言を吐かない」


 普段言葉に抑揚のないガブちゃんが心の底から心配するようにシグレに声をかけている。

 ていうか待てコラ。唾をまき散らして暴言を吐く女って私のことか!?許すまじ!

 だがシグレはきょとん。


 「暴言?誰が暴言を吐いたというのですか?」

 「…貴様の耳はかざりか」

 「はい、ごちそうさまでした~。ガブちゃん、説明プリーズ」

 

 そうしているうちに私は朝ごはんを食べ終わってしまった。まだ食べ終えていないのはガブちゃんだけだぞ。いつまで私を待たせるつもり?と色黒さんを見て後悔。

 ガブちゃんが鬼のような顔で私をにらんでいた。そうですね、私が心の中でガブちゃんに暴言を吐いたのがはじまりでしたね、ごめんなさい。


 ガブちゃんが私をにらみながら朝ごはんを食べ終えたところで座学スタートだ。結局ご飯を食べ終えてからの開始になったのだから部屋で食べたかった。


 「先生。たしか光の巫女についての絵本がありましたよね?」

 「この阿保のために用意してある。ほら」

 「……ども」


 悲しいことにガブちゃんとシグレの間で、私はお馬鹿が確定してしまったらしい。説明のために絵本を渡されるってどこの幼稚園児だ。口頭の説明で十分理解できるよ。

 だけどせっかく用意してもらった以上見ないわけにはいかなくて、涙をこらえガブちゃんに渡された絵本を開く。…はい、絵を見て気絶しかけました。


 絵本の1ページ目は、戦争や殺し合いをしている絵だった。こう…胃に訴えてくるものがあるよね。せめてガブちゃんかシグレ、前もって絵本の内容を教えてください。食後に見るものじゃないよ。リバースするよ。

 2ページ目は泣いている神様たちの絵だ。神様たちの足元でたくさんの人たちが死んでいる。ほんとやめて。

 ちなみに2ページとも文字はない。イマジネーションを働かせろってことかな?ハハハ。


 訴えるようにガブちゃんを見れば、彼は「その絵本を見ながら俺の説明を聞け」とのこと。

 決めました。怖いから絵本を見るふりして、ガブちゃんの説明だけを聞こう!




 「神に仕える神官だけに伝えられた神話がある。

 かつて運命というものが定められていなかった時代。

 生物は争い、人類は滅亡しかけた。神は嘆いた。自分たちが導かなかったために人類は消えかけた。弱きを庇護することこそが神の役目であった、と。


 生物は神が統率しなければ争いあい、いずれ全滅する。そう考えた神は、運命と言う名の絶対のシナリオを創った。(シナ)(リオ)通りに生きれば人類は滅亡しない、世界は終わりを迎えない、そういうルールを創った。世界を創り替えた。

 だが神も万能ではない。神の創った運命にあらがおうとする人間も中にはいた。その者たちの手によって運命が変われば、それは神の管轄外となる。ルールが適用されない。なにがおこるかわからない。もしかしたら人類は滅亡するかもしれない。


 そこで神の協力者として創られたのが、光の一族と神官だ。


 光の一族は神より金の髪を授けられし女系の一族。神官が神に祈りを捧げ神の声を聞き従うのに対し、光の一族は神の意思そのものと言えた。


 光の巫女の言葉は神からの言葉として考えるようにと、我々神官は伝えられている。…おい、なんだそのドヤ顔は。なに?ケーキをもってこいだと?ガブちゃんは神官で私は光の巫女なんでしょ?

 断る。それは貴様の願望だろう。神の意思ではない。…あ?痛がっているから離してやれだと?チッ。次はないと思え。


 光の巫女には神に与えられた使命があった。

 彼女たちはこの世に生み落とされる前に、神によって自分の一生…運命(シナリオ)を見せられる。このときに見せられた自分の運命の通りに現世で生きる。これこそが神によって与えられた光の巫女の使命だ。


 神は定めたのだ。

 光の巫女が神の創った運命通りに生きれば、世界も神が創った運命通りに動くと。シナリオ通りに動くわけだから不穏分子もあらわれない。

 まあまれに光の巫女が運命通りに動いていても、少しだけ運命が狂うこともあるのだが、そのときは神が天使を遣わせるか神官に指示を出して本来あるべき運命に正すから問題はない。…話が脱線したな。


 このことから光の巫女は神の意思そのものだと言われている。

 光の巫女を中心にこの世界は回っているといっても過言ではない。そのため光の巫女は別名、世界の主人公ともよばれている。

 以上が俺の知りうるかぎりの光の巫女の情報だ」

 


 長い長いガブちゃんの説明はようやく終わりを迎えた。

 途中生意気発言をしてしまい腕をひねられましたが、ええ、ガブちゃんの説明はわかりやすかったです。


 なるほど。「いつ君」ヒロインは、乙女ゲームの主人公だけでなく、ガチの主人公だったんだね!

 でもって光の巫女である私は、生まれる前に神様に「自分の一生をご覧あれ~」されると。その運命通りに生きれば、この世界は平和。運命通りに生きるのが光の巫女としての使命。私の使命。


 私はふむふむと物わかりのいいようにうなずく。

 だけど!

 内心では真っ青だ。ガタブルです。こんな話聞いてないんですけどっ。


 「あの…ガブちゃん様。私、光の巫女なんだよね。これって間違いないんだよね?」


 間違いでも怒りません。むしろ許します。間違いであってくださいと心の中でガブちゃんに泣きつきながらの質問。

 だが現実はいつも無情だ。


 「ああ。間違いない。光魔法の使い手であり、金色の髪を持ち、性別が女。これにすべて当てはまるお前は光の巫女だ」


 ガブちゃんはクールに言い放った。

 う、うわーん!誰か私にやさしさをくれぇ!

 だがあきらめない。私はあきらめないぞ。心の中の私はまだガブちゃんにしがみついたままだ。


 「ご、ご存知でしょうけども!私は光の巫女だけど6歳以前の記憶を持ってないから、自分の運命わからないんだよ!…仮に、仮にだよ。私が運命通りに生きていなかったら、この世界どうなるの?」

 「くわしいことは我々神官にもわからない。なにせ光の巫女が記憶喪失などという事案は今までなかったからな」

 「……。」


 辺りは静寂に包まれた。

 ガブちゃんもシグレも、もちろん私も誰も口を開かない。は、発狂したいぃぃ。


 頑張って冷静になろう。深呼吸をし、心を落ち着かせる。


 はじめに。

 私は「いつ君」という乙女ゲームの世界に転生したはずだ。転生したと思っていた。

 だがしかし、乙女ゲーム「いつ君」のヒロインに、自分が光の巫女という一族であり運命通りに生きなければならないという使命を持っているという設定はない。攻略対象5人いて、ルートやらエンドやらがたくさんある時点で運命通りに生きるもくそもない。


 でもこの世界では、私はただの「いつ君」ヒロインではなかった。

 ヒロインはヒロインでもこの世界のヒロインであり、光の巫女として自分の運命通りに生きなければいけないという使命があった。


 つまり私は「いつ君」の世界と似て非なる世界に転生したということになる?


 か、仮にそうだとして。

 ちょっと気になるのは私の今までの行動。


 本編開始を防ぐためにいろいろとフラグを折りまくってきた幼少期。「いつ君」の孤児院時代編の流れを完全改変してきたわけなのだが……これって大丈夫なの?

 ツーと嫌な汗が頬をつたう。


 前世の記憶を持っていることもあり、私はけっこう孤児院時代に暴れたぞ。光の巫女だけど、暴れてよかったの?自分の運命ってやつをぶち壊してない!?記憶喪失だから仕方がないっていう言い訳は有効!?


 冷静になろうとしても無理だった。私の脳内は大パニックだ。

 光の巫女の使命を果たしていないとかで私神様から天罰くだらないよね。死なないよね。

 「いつ君」本編開始を阻止しても、死んだら意味ないよ!?

 つーか無駄に「いつ君」の記憶があるからややこしくなるんだよ!バカ!前世の私よ、なぜ乙女ゲームをプレイしてしまったんだ!それ以前になんで記憶喪失になんかなってんだよ!


 ガブちゃんとシグレが真剣に考えこんでいる私をじっと見ている。

 視線が痛い。2人も気遣うように私を見ている。


 自分のルーツを知った私が考え込んでいるのだ。世界の命運を握った光の巫女であることを私が自覚したのだと考え、心配してくれているのだろう。

 ごめんね。私自分の生死についてしか考えていないよ。


 死なないために本編開始を防ぐべく奔走していたのに、まさかの世界の平和を背負った一族であることが発覚したからね。本編開始を防いだとしても、神様の創った運命通りに生きていなかったら、罰として結果私死ぬんじゃないか的な恐怖を抱いていますからね。




 ……よし、決めた。

 むずかしいことを考えるのはやめだ。

 悩むのは私らしくない。




 私は記憶がない。

 つまり生まれる前に神様に教えてもらったであろう、自分の一生=運命も知らない。

 運命を忘れてしまっている以上どうしようもない。光の巫女の使命とか知ったことか。これはあれだ。私が記憶喪失になることを容認してしまった神様たちの責任だ。だから私は悪くない!


 でもって「いつ君」に似ているこの世界のことだから、本編はじまったらヒロインである私は死ぬ可能性大ありだと考えられる。

 本編で死ぬのが運命ですとか言われたとしても、享年10代は嫌だ。私は死にたくない。


 ならば今まで通り本編に突入しないように努力すればいいだけのこと!

 運命通りに生きるとかこの際気にしない。光の巫女の使命、放棄します。


 光の巫女が運命を放棄したところでこの世界がどうなるかなんて誰もわからないのだ。

 ただわかっているのは、光の巫女が運命通りに生きたら人類は滅亡しない。運命通りに生きなかったら、運命にあらがう人が出てくるかもしれないってだけだ。え?人類滅亡するかも?……オボエテマセン。


 とにかく!仮に私が運命通りに生きなかったとしても、やばいことにはならないはず!

 もうこれは全部神様が悪いから!私の記憶喪失を黙認した神様の責任!

 私がやることは変わらない!


 私が顔をあげれば、ガブちゃんとシグレはほっとした様子だ。

 

 「……すっきりした顔をしているな。考えはまとまったか」

 「大丈夫ですか?」


 2人のやさしさが身に染みる。世話役であるシグレがやさしいことはいつものことだが、バイオレンスなガブちゃんもなんだかんだで私を気にかけてくれているのを知っている。心配してくれた彼らを安心させるためにも私は自分の考えを伝えるべきだ。

 だけどね、「うん!私は今まで通り、本編開始を防ぐべく行動していきます!光の巫女の使命とか放棄します!」とは言わない!言わないよ。言ったらバカだよ。


 2人は神官だからね。神様の協力者ですからね。全部神様が悪い、私悪くないで責任転換したって話は絶対にできない。

 それと同時に記憶ないけどまあなんとかなるでしょ的な考えを彼らが認めてくれるとは思わない。運命通りに生きましょうの前線を走る人たちですからね。

 なので、


 「2人とも考えてみなよ。光の巫女が記憶喪失なんて本来であればものすごーく大問題なんだよ」


 私はドヤ顔で説明を始める。

 ガブちゃんは冷めた目だ。怖いー。さっきのやさしさはどこへ消えたの~?


 「突然どうした。だから神官長と古狸どもが慌ててるのだろう。貴様は阿保か」

 「は、話しは最後まで聞きなさーい!私の推察はこうよ。きっと私が6歳以前の記憶を失うことも決められた運命だったのよ!だから今、私は記憶がなくても問題ない!今も私は光の巫女の使命を守り運命通りに生きている…はずよ!」


 流れるように嘘が出てくる。記憶にないお母様、お父様。リディアは女優か詐欺師の才能があったみたいです。そして嘘をつくことにそれほど罪悪感を覚えていません。こんな娘に育ってしまってごめんなさい。


 だがしかし、考えてみたら今の私の嘘っぱち説明も有りだなと思う。

 私が記憶を失っているのも神様が作った運命なのかもしれない。…あ、きたこれ。絶対にそうだ。そうでなければ困るよ。私は自分の咄嗟の嘘を全面的に信じます!

 

 キリッとした顔で2人を見れば、


 「さすがですリディア様!」

 「……。」


 シグレは尊敬のまなざしで私を見てくれ(なんかごめんなさい)、ガブちゃんは疑うようなまなざしで私を見ていた(ありがとうございます)。

 わ、私は信じている。私が今記憶を失っているのは私の運命なのだと!だから私がこのまま自由に――今まで通り「いつ君」本編を開始させないように生きていて問題はないのだ!

 つまり今も世界は私を中心に平和に回っている!…はず!




私の文章能力が低いばかりに、光の巫女の説明で意味が分からない部分があるかもしれません。でもたぶん天空神殿編が終わったときには、なんとなく意味がわかると思うのでお付き合いいただけたらうれしいです。

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