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33.連れてこられた理由


 意外なことに、神殿にたどり着くのにさほど時間はかからなかった。

 近くで見ると神殿というよりも、大聖堂と城を混ぜたような造りの豪華な白い建物。門をくぐり、中に入る。

 ちなみに門番らしき人たちは2人いたが、私を見て気絶した。衛兵さんはさすがに気絶したらダメだと思うよ。


 「ガブちゃん。気絶するのがブームだったりするの?」

 「貴様がこの天空神殿に連れてこられたのは他でもない。光の魔法使いであるお前にしかできないことがあるからだ」

 「…いや、それ絶対今の質問の答えじゃないよね。まあいいけど。私にしかできないことってなに?」

 「……。」

 「無視かい!」

 

 ガブちゃんは黙々と歩き続ける。つーか歩くの早い!

 当たり前だがここははじめてきた場所だ。ガブちゃんを見失ったらすぐに迷子になる。だから多少いやかなり不満があっても追いかけるしかないのだ。

 キラキラとステンドグラスで輝く神殿の回廊を歩いて曲がって歩いて、歩いていくうちに黒い蝶が現れ始めた。

 昆虫の一種であればよかったんですけどねぇ。


 「……ガブちゃん、あれって闇の精霊だよね」

 「そうだ」

 「私がここに連れてこられたのって、闇の精霊を浄化してもらいたか…わぶっ!急に止まんないでよ!」


 ガブちゃんが立ち止まるから、ぶつかってしまった。鼻が痛い。

 文句を言おうとガブちゃんを見たところで、ゾッとした。

 ガブちゃんを見てゾッとしたわけではない。

 ガブちゃんと私の目の前にある扉、そしてその扉の向こうにあるであろうものに対して恐怖したのだ。


 ここがきっと目的地。


 「…ねぇ、この部屋の中に、やばい数の闇の精霊いたりする?」

 「ああ。今からこの中に入る。結界を張る。俺から離れるな」

 「もし離れたら?」

 「闇の精霊に襲われる」

 「……。」

 

 私がガブちゃんの腕に巻き付いたのは言うまでもないだろう。

 ちなみにこんな美少女に腕をぎゅっとされたというのに、ガブちゃんは迷惑そうな顔をしていました。この野郎!


 「なぜにらむ。部屋に入るぞ」

 「あい」


 部屋に入った瞬間、真っ暗闇に包まれた。

 おそらくこの闇は全て闇の精霊。

 ねぇ、ガブちゃん。事前に説明してよ。私はある程度闇の精霊になれているからまだしも、私じゃなかったら発狂してるよ。


 「一掃する」

 

 ガブちゃんの声が聞こえた瞬間、強い風が部屋を踊り、あたりの闇は消えていた。

 たぶんガブちゃんが闇の精霊を消滅させた。

 視界が晴れたところで目に入ったのは、ベッドに寝ている男の子。

 ガブちゃんの手を引っ張て男の子の元へ走る。

 

 男の子はベッドの上で横になっていた。年はたぶん、私より少し上。アースと同じか、その下くらいだ。


 「顔色がすごく悪い。それに…」


 男の子の体からは闇の精霊が次々と生み出されていた。

 さっき消滅させたはずなのに、闇の精霊がまた増え始めているのはこの子が理由だ。


 闇の精霊が体から出て行くほど、男の子の顔色は悪くなっているように思えた。


 『光の蝶』


 闇の精霊が出て行く代わりに、私の光の蝶を体に入れたら少しはよくなるのではないか。

 そう思って、光の蝶を1匹、2匹と男の子の体に入れてみたのだが…


 「待て。それ以上はやめろ」


 ガブちゃんに止められた。

 男の子の顔を見るように促され、彼を見た。


 「……うそ」


 男の子が苦しそうに浅い呼吸を繰り返していた。眉間にはしわが寄っている。

 さらに男の子の体から出る闇の精霊の数は先ほどよりも増えていた。


 もしかして私が光の精霊を入れたから?


 「光は闇を浄化する。だが、闇もただ浄化されるわけではない。あらがう。半端な光魔法では闇を浄化しきれず、むしろあらがうことで宿主――サラを苦しめることにしかならない」

 「ご、ごめっ」

 「いや、いい。もしかしたら浄化できるのではないかと考え、俺が止めなかった。お前は悪くない」

 「……っ」


 眠ったままの男の子の頭をなでる。

 たぶん男の子の髪の色は白。だけど、闇の影響なのか白い髪には黒いものが混じっていた。

 

 「ねえ、この子どうしたの?」 

 「その話はあとだ。お前にやってもらいたいことがある」

 

 ガブちゃんが指をさしたのは数が増え続ける闇の精霊。

 部屋の隅をたまり場にしているのか、大量にいた。


 「あれを浄化しろ」

 「どのくらい?」

 「すべて」

 「は!?」


 ちなみにガブちゃんが指さしている闇の精霊は、私がきのう秋の国でアリスと共に追いかけられた闇の精霊の数の5倍くらいいます。

 

 「いや無理!無理だから!」

 「お前にはあれを浄化してもらいたい」

 「いや無理だってば!あんな大量な数浄化したことないんですけど!?」

 「あれを浄化…」


 ガブちゃんという人間が少しだけわかってきた。

 私がガブちゃんの望み通りに動かないかぎり、こいつは同じことを言い続けるわけだ。

 ……腕をひねらる前に、やるしかない。


 「もーっ!『正義のヒロインビーム!』」


 まずは私が最初に編み出した光魔法。

 正義のヒロインビームを発射する。


 人差し指から金色の光を纏った真っ白なレーザーは、闇の精霊を浄化していく。

 ただ時間がかかる。なにせビームは私の人差し指くらいの太さしかないのだ。闇の精霊一匹ずつしか浄化できない。


 『光の蝶!』


 あきらめて光の蝶を出す。

 私の体の中から現れた大量の光の蝶は、一匹一殺のごとく、闇の精霊を浄化して自分も消えていく。一度にたくさんの闇の精霊を浄化できるけど、その分光の蝶も消えちゃうからまた出さなくちゃいけなくて、ちょっと疲れる。

 しかも闇の精霊の数、減らないし。


 ええ、ええ理由はわかってますよ。私が光の蝶を出すスピードより、男の子が闇の蝶を作り出すほうが早いからですよ!

 

 くっ、これだけはやりたくなかったのだが仕方がない。

 にやにやと笑みを浮かべるアリスの顔を打ち消して、例の決めポーズをとる。


 『みーんなヒメの虜になぁれ!

 浄化(ピュリフィケーション)せよ(・ルーメン)(マリポッサ)!』

 

 銃口という名の私の指先から、大きな光の蝶が出て闇の精霊を一気に浄化する。

 が、


 「もう無理!?ガブちゃん、無理だから!闇の精霊の数が一向に減らないんですけど!」

 「……。」

 「ちょ、その目やめて!最後の魔法は、私の趣味じゃないからね!?私が編み出した魔法ではないからね!ほんとだよ!」

 

 ガブちゃんが白い目で見てくるっ。

 私が恥ずかしさのあまりギャン泣きしたところで、ガブちゃんはため息をついた。


 「やはり神を召喚するしか手はないか」

 「なにそれ!?」

 「とりあえず部屋を出るぞ」

 「う、うん」


 ガブちゃんは男の子の額に手を置き、なにかの魔法をかけたあとで部屋を出た。私も後を追って部屋を出る。

 なんとなく男の子の様子が気になって後ろを振り返った。しかし男の子の姿を見ることはかなわなかった。

 閉じていく扉の向こう側は、もうすでに暗い闇。男の子の姿は闇の精霊に隠されて見えなかった。


 「あれの名前はサラ。神官の一人であり俺の弟子でもある」


 ガブちゃんが歩き出す。

 もちろん私は彼を追いかけますよ。それしか選択肢有りませんから。


 「見ての通り闇の精霊に囚われ苦しんでいる」

 「助ける方法はないの?」


 私を一瞥するとガブちゃんはため息。イラッときました。

 彼は言葉を続けた。


 「貴様はなにも知らないのか。助ける方法はいくつかあった。だがサラの体質と第一魔法が相まって、あれを救う方法は1つしかないというのが現状だ」


 そうしてガブちゃんは立ち止まり、私をじっと見るのだ。

 まだ出会って数分だが、人の目を見て話さないガブちゃんがわざわざ私を見たという行動に意味がないなんてことは思わない。


 「闇を浄化する光魔法しか、あの子を救う方法はないってことなのね」


 私の言葉に満足したのかガブちゃんはまた正面を向いて歩みを再開する。


 「その通りだ。救いようのない阿呆だというわけではないらしいな」

 「ガブちゃんさぁ、一言余計だって言われるでしょ?言われないわけがないでしょ!?」

 「さきほどの浄化で貴様の力量はわかった。弱い。今のお前ではサラを救うことはできない」


 なんてことないように話を再開したよ。

 私の言葉は完全に無視するようだ。つーか弱いってなんだよ!


 「不満げな顔だな。だが現に、お前はサラを救うことができなかった。部屋の中にいた闇の精霊も浄化しきることができなかった。俺は弱いという真実を述べたまでだ」

 「うぐっ」


 反論できないのが悔しい。

 

 「よって貴様を鍛える。サラの状況を見るにただの光魔法ではあいつを救えない。お前には儀式を受け、神を召喚してもらう」


 悔しいと地団太を踏んでいる間に、話がだいぶ飛躍した。

 私が神様を召喚する?はい?

 冗談でしょ。ガブちゃんを見るが、悲しいことに彼はいたってまじめなご様子。コワイコワイ。この人、本気で私を鍛えて神様召喚させる気だ。いや、これで「嘘だよ~。でへへ」とか言ったらそれはそれで怖いけど。


 「今日を含めて5日後、1年の中で太陽が一番高く上る。その日に儀式をする。お前の魔力の質からして相性がいいのは太陽神だろう。太陽神に認められ、神を降ろす力を得ろ」

 「ちょ待って。話が急ピッチで進められすぎじゃない!?私の意思は!?」


 私はまだ「イエス」と言っていない。

 あの子、サラ?を助けることも、儀式を受けるということも、了承していない。

 だけどガブちゃんは話を止めない。デスヨネー。


 「先ほども言ったが儀式に臨むにあたりお前はまだまだ力が足りない。今日から修行をする。儀式が失敗すればお前は死ぬ。だから死ぬ気でやれ。覚悟はしておけ」

 「え、ガブちゃん!?」


 説明はもう終わりらしい。言うやいなやガブちゃんは歩みを速めた。

 もしかしたら彼は私に説明をするために普段よりゆっくり歩いていたのかもしれない。

 だとしても私としては追いかけるのが大変だったが、とりあえずありがとう……とは言わない!言うわけがない!説明が終わったからなんだ。だとしても私に歩みを合わせろ!


 いやそんなことはどうでもいい。

 私は先ほど恐ろしい言葉を聞いた。死ぬという言葉だ。嫌だねー。フラグを折っても折っても、死が追いかけてくるよ。身近にありすぎるよ?もしかして好かれてる?うれしくねー。


 「ガ、ガブちゃーん。儀式失敗したら私死ぬって聞こえたんだけど、聞き間違えだよねー?ちょ、カムバーック!?」

 「天空神殿で滞在するにあたりお前の世話をする子供を連れてくる。そこで待っていろ」

 「いや遠くから言われても聞こえないからー!!!」


 ガブちゃんはもう豆粒ほどの大きさになっていた。

 かろうじて聞こえた「そこで待っていろ」のお言葉。どうすることもできないので待つしかない。ため息が出る。


 生まれてまだ10年しかたっていないのに、私けっこう死の危機にさらされてるよ。

 いや死ぬつもりはないけどさ、儀式はするよ。


 脳裏に浮かぶのは青ざめた、苦しそうなサラの顔。

 ただでさえ苦しそうだったのに、私の力が足りなかったばかりに、さらに苦しめてしまっている。助けないわけがないでしょ。罪悪感が半端ないよ。


 闇の精霊は負の感情を持った人…心の闇から生まれる。

 私が今までに出会った闇の精霊を生み出した人間は、春の国であった人攫いのお兄さんだけだ。

 あのときお兄さんは怯えて苦しんでいた。自分が犯した罪を理解しながらも向き合わず怠惰に生きてきた、そんな自分を責めて闇の精霊は生み出されていた。


 サラも負の感情を持っていたから闇の精霊が生まれたのだろうか。

 だけど私的にはサラを見ても、負の感情っぽいものは感じなかった。

 一見落ち着いて見えたお兄さんも、闇の精霊が体の中に入ってから様子がおかしくなった。もしかしたらサラもお兄さんのときと同じだったりするのだろうか。


 光の魔法とか闇の精霊とか、そういうのがいまだにはっきりとわからないから、推察しかできない。


 以前師匠が言っていた。

 心に根深く絡みついた闇から生まれた精霊は、たとえ光の魔法で浄化したとしても本人の心の闇を浄化しない限りは消すことができない、と。

 サラの心に闇が絡みついているのかどうかはわからないけど、私の光魔法では浄化できなかった。

 本人の心の闇を浄化するために、神様を召喚する必要があるということなのだろうか。


 「まあわかんないことは全部まとめて、ガブちゃんに聞けばいいか」


 ……師匠といえば、すっかり忘れていたけど、私ってば師匠になにも言わないでここに来ちゃった。

 ザハラさんに攫われるという、こちらでも予想していなかったことが起きたわけだから私には非はないのだけれど。


 「きっと心配しているだろうなぁ」


 私がいないことに気づいた師匠は気絶して、なんだかんだで私のことが大好きなエルは森の中を探しに行って、アースは無気力顔から混乱顔になって、アイは号泣しているだろう。

 ……想像したらちょっと笑えてきたな。


 儀式は今日を含めて5日後だから、少なくともあと5日は帰れない。

 もしかしたら師匠たちは私の居場所を見つけしだい迎えに来るかも…いやうぬぼれているわけじゃないけど迎えに来るに決まってるな、うん。


 けど、少なくとも私はサラを救うまでは帰らないつもりだ。

 だって私しか助けられる人はいないわけだし。なによりあんなに苦しんでいる子を見てみぬふりすることは私にはできない。


 私のこれを聞いたら、エルのことだから「きのうに引き続き今日もか!?自分の力量…云々」と怒るのだろう。

 怒った兄弟子の顔を思い浮かべると、ぷふふと笑いがこぼれてくる。


 そんな感じで私はガブちゃんを待っていたのだった。




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