表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/228

32.色黒バイオレンス


 ふわふわとやわらかいものが頬を撫でる。

 私は自分の頬を撫でるもふもふをぎゅっと抱きしめた。

 

 私のベッドはいつからこんなにふわふわになったのだろうか。師匠からのご褒美?

 気持ちいい。昨日が多忙だっただけに、このふわもふがあるだけで1日中寝むれる。

 ふわもふに頬ずりをした。気持ちいい。語彙力低下しているから気持ちいいしか言えない。


 ふと思い出す。

 気持ちいいといえば、昨日の空の旅は気持ちがよかった。ザハラさんにお空に飛ばされたときは驚いた。けど夜空がきれいだったし、風も気持ちよくて気づいたら寝てしまっていたのだ。


 「……ん?ザハラさんに空に飛ばされ、たっ!?」


 目覚めて、自分の現在の状況を見て、気を失わなかった私をほめてほしい。

 



 一番重要なことだけ言う。

 私は今、下半身が宙ぶらりんです。



 

 ということで、1分だけ頑張って冷静になって説明をします。眠気なんて地球の裏側まで吹っ飛んでいきました。否、無理やり吹っ飛ばした。


 私はたぶん今、ザハラさんが言っていた「天空神殿」とやらにいる。


 目の前に広がるのは、「ラ〇ュタ」のような景色。

 森と城のような神殿が合体したそれが遠くに見える。歩いていくには結構な距離がかかりそうだ。

 「ラ〇ュタ」に似ているのは見た目だけではない。

 顔をあげれば青い空。下をのぞけば青い空。上も下も青空一色。

 そう、ここは天空に浮かぶ島だった。


 これで天空神殿じゃなかったら、ここはどこだって話になる。

 でもって私は今、この天空神殿の森の庭らしき場所にいる。

 鼻先には美しい花々があり、私はふわふわの雲を抱きしめて寝ていた。まさか雲を抱きしめられるとは思わなかった。ファンタジー最高。


 ここまでは、いい。

 問題は私が置かれている今の状況。

 

 私は今雲を抱きしめている。抱きしめているというか、雲と地面にしがみついている。

 なぜか?

 私が寝ていた場所は崖だったらしく、私のお尻から下は宙ぶらりんだからです。足が地面につかないということがこれほど恐ろしいことだとは思わなかった。

 

 私の体は現在、90度に腰を曲げた形で崖にぶら下がっている。

 数字の7を連想していただきたい。数字の7が崖にしがみついているのだ。

 今にも落ちそうだよ。

 

 崖くらいさっさとよじ登ればいいと思うかもしれない。ハハハ。できるならしているさ、無理なんだよ!


 なんと私は、ずっとこの体勢で寝ていたらしく(私すごいな!)すでに体は限界を超えている。今は落ちないようにこの体勢を維持するので精一杯。崖をよじ登ることは不可能。

 つまり、上半身が限界を迎えたら最期、私は真っ逆さまに落ちる!

 命綱、パラシュートは一切無しなので、確実に死ぬ!


 こんな、最期は、嫌だ!


 「だ、誰かーっ!助けてーーーー!」


 孤児院でせっかくフラグ折ったのにここで死んでたまるか!

 力の限り叫べば、私はまだ神に見放されていなかった、すぐに神殿の方から人が出てきた。


 真っ白な司教様が着るような服を着た男性だ。

 全速力でこっちに向かって走ってくる。人命救助に一生懸命な人は好印象だよ!


 万国共通、美少女に頼られて嫌な気分になる人間はいない。

 男性がもうすぐ私のところまでたどり着くというところで、目を潤ませ、助けを求める美少女ヒロインを演じる。

 

 しかし、


 「お願いっ!助けて!」

 「な、何者だっ!?神々し…い…」

 

 走ってきた人は、私の目の前で気絶した。

 は?


 「え?あなた大丈夫?ちょっと誰かー!?私とこの人助けてー!!」

 

 理由はわからないが男の人は気絶したきり目覚めない。幸せそうな顔をして気絶しているのが少し腹立つが仕方がない。

 きっと私の美少女っぷりに感動して気を失ってしまったのだろう。

 美しいとは罪だ。反省をしながら再度私は助けを求める。すると今度は5人くらいの人が神殿から出てきてこちらへと走ってきた。


 だけど…

 

 「侵入者!?まぶしい…」

 「美しい…」

 「神の輝きだ…」

 「意識が…」

 「はうっ」


 5人中5人が気絶した。


 「……。」


 なんなのこの人たち!?貧血?鉄分足りないの?

 それとも本気で私の美貌にくらっときちゃったの!?さっきの冗談のつもりだったんだけど。


 「ちょっ、誰かー!私とここにいる6人助けてー!!!」




//////☆


 助けを呼んで10分後。


 私はいまだ、崖で直角体勢のままであった。つまり救出されていない。

 まあ10分前までと変化したこともある。

 花々に囲まれていた私はいまや、屍×17に囲まれていた。

 かけつけた人、全員が私を見て夢の世界へと旅立っていくのだ。ハハハ、うれしくない。なんでみんなして気絶するの?

 

 美しいという罪を背負う私を許して。と、ふざけたいところだが無理だ。私の体が限界に達した。

 上半身が震え始め、全身に力が入らなくなってくる。やばいよー。


 そしてそのときは唐突に訪れる。


 ずるっと腕がすべった。


 たぶん、汗。

 疲れきった私の体では咄嗟に崖にしがみつくこともできなくて、私の体はそのまま青い空に吸い込まれるように落下……


 「貴様、何者だ」


 落下しなかった。


 寸前で誰かに腕を捕まれ、そのまま引っ張り上げられ、足が地に着く。

 本気で死ぬかと思った。顔をあげて私を救出した人を見る。


 「もう一度聞く。貴様は何者だ」


 真っ白な髪に、黒い瞳。褐色肌のその人は、気絶した人たちと同じ白い服を着た美丈夫。

 そして私を見て目は見開いたものの、気絶はしない、私にとって救世主と…


 「イダダ!?急に何!?なんで腕ひねってんの!?」

 「聞いたはずだ。貴様は何者か。待てども答えないから抵抗できないようにしている」

 「アホか!抵抗できるわけないでしょ!私、クタクタなんだよ!?なにこの人!?救世主って言ったやつ誰だ!私だぁああ!」

 「貴様は何者だ」

 「話通じなっ!私はリディアだよ!ザハラさんにドナドナされたの!ここに連れてこられたの!」

 「意味が解らん」


 舌打ちをしながらも男の人は私の腕から手を離した。

 舌打ちしたいのはこっちですけどね!?

 助かったと思ったらいきなりのハード展開についていけないよ!

 

 「それでここに何の用だ」

 「ガブナーさんって人はどこにいるのよ」


 用があるのはガブナーさんなのだ。ひねられた腕をさすりながら男の人をにらみつける。

 あなたみたいなバイオレンス色黒さんに用はない。あーかわいそうなリディアちゃん。


 ちなみにだが、私が「ガブナーさん」の名前を出した途端男の人の眉間にしわが寄った。たぶんこの人はガブナーって人が苦手なのだろう。ハンッ。

 だけどあなたは私をガブナーさんって人のところまで案内しなければならないのだよ。私を助けたんだからね。責任は取ってもらうよ。


 「…そいつになんの用だ」

 「ザハラさんに天空神殿についたらガブナーさんを訪ねて、自分が光の魔法使いだと伝えろって言われたのー。早くガブナーって人を呼んでー」

 「……はぁ」


 いや、ため息をつかれても困るんですけど。

 男はしばらくの間疲れたように目頭を押さえ、ようやく顔をあげたかと思うと、それはそれは険しい顔で私を手招き。

 案内してくれるってことなのだろうが、いかんせん態度が悪い。

 これから会うであろうガブナーがいい人であることを祈る限りだ。


 「なにをぼさっとしている。ついてこい」

 「ガブナーのところに連れて行ってくれるってことだよね?」

 「……。」

 

 すると男の人はなっがーいため息。なんなんだろうこの人。


 「俺がガブナーだ」

 「は?」


 ワンモアプリーズ。と目で訴えると、男の人は私を無視して歩き出す。

 え。ガチでこの人がガブナーなの!?


 もう一度ガブナー(仮)を見る。

 真っ白な髪の、色黒の、美丈夫だ。そしてバイオレンス。

 嫌な汗が頬を伝った。


 「なんだその間抜けな顔は。貴様の頭にはなにが詰まっている。俺がお前の探すガブナーだと言ったのだ」

 「はあああ!?ちょ、やだやだ!もっとやさしい人がいい!チェンジー!」

 「貴様っ!その顔のくせに性格は父親似なのか!?信じられん」

 「え?父親?もしかしてガブちゃん、私のお父さんのこと知ってるの?」

 「……知らん。というかガブちゃんとはなんだ!」


 そんなこんなで言い合いをしながら歩いていたら、下っ端ぽい子供がガブちゃんのもとに走ってきた。


 「ガブナー様!サラ様の力で闇のっ…神々しい……」


 でもって、私を見て気絶する。新手のいじめ?


 「ちょうどいい。来い。お前がなんのためにこの天空神殿に連れてこられたのか。お前の成すべきことを見せてやる」

 「え、ちょ、ガブちゃん待ってよ!」


 気絶した下っ端君は放置してガブちゃんは神殿へと歩き出してしまった。

 悲しいことに今の私が頼れるのはガブちゃんしかいない。

 色黒バイオレンスめ。大きな背中をにらみつけながらガブちゃんの後を追ったのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ