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プロローグ(????視点)



 この世には偶然と必然がある。

 偶然は予期せずにそれが起こること。

 必然はあらかじめそうなると決まっていたこと。


 男は膨大な魔力と稀有な才能を持って生まれた子であった。

 幼いころから周囲の人間から崇め奉られ、狭い世界に閉じ込められ、そんな生活に辟易しつつも、逃れることはできないと諦めていた。


 だが男は出会った。


 自分と同じ12歳のその少女は、長い金色の髪を風になびかせ、レモネードのような黄の瞳を細め笑った。


 「こんなところに隠れていたのね。やっと見つけたわ。私の旦那様」


 そうして男のいた狭い世界をいとも簡単に壊し、広い世界へと連れ出した。


 少女は男に言った。

 生まれてからずっと自分の夫を探していたこと。

 そして男を見つけたこと。


 男はそれを偶然だと思った。

 彼女は未来の夫となる人を探しており、そして自分は偶然彼女の探す夫の枠に当てはまったのだと。

 しかしそれを聞いた少女はおかしそうに笑った。


 「この世の中に偶然なんてものはないのよ。私たちの運命は決まっているの。あなたは私の旦那様。これは運命。必然なのよ?」


 運命に逆らってはいけない。

 これはこの世界での絶対であった。

 だが男は運命というものがほんとうにあるとは思っていなかった。


 少女は光の巫女と呼ばれる一族の末裔であった。


 少女は言った。光の巫女は神と共にこの世界の運命を守る者であると。生まれる前に神によって見せられる自分の運命を守ること、運命通りに生きることで、この世の平穏が保たれるということを。


 少女は男が自分の夫であることを知っていた。生まれる前に神によって見せられた自分の一生の中に、夫として男が隣に立っていたからだ。だから探していたのだ。


 この世に偶然なんてものはない。

 すべてが必然なのだ。

 自分たちは神の創られた運命の道を歩くしかない。


 「だけど私の心は本物よ。運命なんかでは決められない。あなたを愛しているわ、クラウス」


 少女は言った。

 自分は娘を生んで死ぬのだと。

 娘が生まれるとき、理由はわからないが禁術を使い死ぬのだと。


 禁術はこの世の理を超えた術。

 代償を有する分、強大な魔法を発動することができる。

 全知全能の神であってもこの領域に手を出すことは難しいとされていた。


 おそらく少女が禁術発動の代償として自身の命をかけたために死ぬことはわかった。

 だが男も少女も、なぜ命をかけてまでの禁術を発動し、命を落とすのか理由はわからなった。


 光の巫女は生まれる前に自分の一生を見る。

 しかしその一生はあくまで映像のようなもの。感情まではわからないのだ。








 なぜ少女が命をかけてまで禁術を使ったのか、その理由は少女が妻になり、母になったときにわかった。

 光の巫女は自身の子が生まれるとき、子どもの一生も見ることができた。

 それこそが理由だったのだ。


 女は涙を流した。

 出産の苦しみではない。自分の子供の一生を見たゆえの涙であった。


 「リリア!?」

 「……っうぅうう。こん…なのっ。ああっ、こんなのってひどすぎるっ」

 「どうした!?」

 「私は、認めないっ。認めないわ。私の愛しい娘がこんな運命をっ。認めないっ。お願いクラウス、私たちの愛しい宝を守って!」


 そのとき女の体が金色に光った。

 禁術が発動したのだ。

 

 女性の発動させた禁術は自身の見た娘の運命を男に見せるという術であった。

 だがしかし、光の一族しか見ることができない運命を他人に見せることはできない。

 禁術は神の干渉によってその特性をゆがめ変貌させ、『運命を見せる術』から『他者の魔法に干渉する術』へと姿を変える。つまり不発に終わる。


 そう、不発に終わるはずだったのだ。


 1回目では不発に終わったために、男は運命を見ることができなかった。 

 だがしかし、ここで『偶然』、1回目の世界から時を巡って遡り17年前の世界へと戻ってきた命・記憶があった。

 女性が自分の命を代償に発動した禁術『他者の魔法への干渉』が『偶然』にも発動した。


 そこで男は見た。

 女性の見せたかった娘の一生ではないが、娘の運命の相手である、時を巡って戻ってきたこの世界を2回目の世界たらしめた少年の一生を通して、娘の一生を見た。

 壮絶な娘の一生を見た。





 男が我に返ったのは、泣く赤子の声が聞こえたときだった。





 女性の亡骸の横でしわくちゃの赤ん坊が泣いていた。

 男は涙が止まらなかった。


 愛する妻が死んだからか、娘の一生を知ったからか、否、すべてが悲しかった。


 「どうしてっ。どうしてだよ。なんで…」


 あふれる涙。

 気が付けば赤子の泣く声が聞こえなくなっていた。かわりに頬に温かいものがふれる。


 目を開ければ赤ん坊がなだめるように男の頬にふれていた。


 「……あぅ」

 

 しわくちゃの顔で赤ん坊はしわくちゃの笑みを浮かべる。


 かつて女性は言っていた。

 光の巫女は生まれる前に自分の一生を知る。


 つまりこの赤ん坊は自分の一生を知っているのだ。

 あまりにも悲しくて、あっという間に終わる自分の一生を。

 それなのに、父を心配して笑顔を浮かべる。


 泣くわけにはいかない。そう思っていても涙は止まらなかった。

 男は赤ん坊を抱きしめた。


 「守る。絶対に守る。俺とリリアの宝。愛しい娘。リディア。お前を絶対に守る。絶対に生かす。お前を死なせない。絶対に。運命を変えてやる」




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