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エピローグ(4)

3人称です。



 月の光すら入ってこない暗闇の中。

 金色の髪の少年は王の座に座りながら、小瓶の中に入った白い粉を見ていた。


 「不老不死の薬。闇を集めるのにこれほど便利なものはない」


 金色の髪の少年もとい春の国の王は、報告書を見ながら愉快そうに笑う。


 「1年前、不老不死の薬の影響によって引き起こされた疫病から村人を救う。そして今回、不老不死の薬を取引していたマフィアを拘束、苦しめられていた市民を救う。すばらしい。大衆が望むハッピーエンドというやつだな」


 そんな彼を見る冷ややかな目はすぐそばにあった。


 「すばらしい?笑わせる。そのハッピーエンドとやらにたどり着くまでに、罪のない人間が苦しめられた。他国ならまだしも自国民にまでその仕打ち。さっさと王を辞したらどうだ」

 

 黒衣に身を包んだ蛇の仮面の男が、壁にもたれかかっていた。

 そんな彼に異を唱える人物もまたすぐそばにいた。


 「あなたバカなの?人間が苦しめばそれだけ闇が生まれる。私たちの目的はそれでしょ。意味の分からないことを言わないで頂戴」


 黒いマントに身を包んだ猫の仮面の少女が、春の王に頭を垂れながらも蛇をにらむ。

 蛇と猫。2人の関係は水と油だ。ほんとうに見ていて飽きない。

 クツクツと春の王は笑う。


 「猫、前にも言っただろう。蛇は罪のない人間が苦しめられるのが嫌なだけだ。自分の過去と重なるらしい。それに文句は言いつつも、これは俺の命令に逆らったことはない」

 「黙れ」

 「ほら。今だって悪態をつくだけだ。お前は昔から従順だ。まあ従順なのは、俺に対してではなく自身の野望に対してなのだろうがな。さて猫、そろそろ顔をあげろ」

 

 春の王の言葉に猫は顔をあげ、蛇は仮面の下で不快を隠さず顔を顰める。

 一方の春の王は2人の部下を見て、全部で3人のはずの駒が1人足りないことに気づいた。

 

 「あれはどうした?」

 「鳥は秋の国へ後片付けと闇の回収に行きました。仕事の速い彼のことですから、もうじき戻ってくるでしょう」


 猫が答える。

 次いで春の王は蛇を見た。


 「ああ、そういえばそうだったな。で、夏の国はどうだ?」

 「順調に進んでいる」

 「フッ。蛇、なにか俺に報告し忘れていることはないか?」


 蛇が見たのは猫だった。

 

 「お前だな」

 「そんな目で見ないで頂戴。私はたまたま自分が見たことを報告しただけ」


 気に食わないが蛇は王にあるがままを報告するしかない。

 舌打ちをして蛇は口を開いた。


 「偶然だろうが2日前、例の場所に神官が来た。あの場所の近くにある街を視察に来ていて、道に迷ったところでたどり着いたんだろう」

 「へぇー。話を聞く分には問題なさそうですが、何か不都合なことでも起こったんですかぁ?」


 春の王はわざとらし蛇に聞いてくる。外見年齢が14歳であってもその口調は気色が悪い。

 さらに言えば猫から詳しい話は聞いているであろうに、わざとらしく聞いてくるその性格にも吐き気がする。


 「別に問題はない。ただその神官は教会の神官ではなく、天空神殿からきた者だっただけのことだ。……そいつは共感体質の人間だった」

 「なるほど。あそこは闇の精霊で溢れていたからな。共感体質の人間であればすぐに毒されるだろう。クク。天空神殿はいまごろどうなっているのだろうな」


 報告すれば王が喜ぶのは目に見えていた。だから言いたくなかったのだと蛇が悪態をついたところで、春の王の問いに答えたのは意外な人物だった。

 

 「秋の国に大量の闇の精霊がいた。秋の国で生み出された闇とは違った性質だった。おそらく、天空神殿から降りてきたものだろう」

 「……鳥」

 

 王の座の背後にある扉から、血にまみれた鳥の仮面の人物が現れた。


 豪華絢爛な王の間を赤黒い血が汚す。

 顔には出さないが春の王が嫌がることを、鳥はする。すべて偶然なのだろうが、今は眠っている鳥のもう一つの人格の反抗を感じて、蛇は仮面の下で笑ってしまうのだ。


 「…ほお。で?その闇の精霊はどうなった?」

 「すべて光の巫女に浄化された」


 鳥の言葉に動揺したのか蛇の体が少し揺れた。


 「…リディアか」

 「リディア?誰だそれは」

 「光の巫女の名よ。前も教えたでしょ」

 「知らない」


 怠惰な彼は興味のあること以外は覚えない。

 猫がため息をつく中、春の王が笑う。


 「そんなことはどうでもいい。土産はないのか?」

 「ない。お前の指名した人間は牢にはいなかった」


 鳥の報告を聞き蛇が息を吐く。


 「前回に引き続き、今回も彼女に奪われたわけか」

 「偶然か、意図してやっているのか。判断しかねるわ。……蛇、あなた少し安堵していない?」

 「黙れクソ猫」


 そんな様子を見て春の王は笑う。

 「運命を変える」という目的は同じだというのに、我々は絶対に相容れない。

 ただ利害が一致したから行動をともにしている。お互いを利用しているに過ぎない関係なのだ。

 愉快極まりない。


 「いいだろう。好きにやらせれば。今は、闇さえ回収できればそれでいい」


 スカウトはおまけにすぎない。

 重要なのは闇の化身を覚醒させるに足る7つの闇を集めるということ。


 脳裏に浮かぶは、銀色の髪に薄紫色の瞳の愛しい愛しい精霊の姿。


 あれが言っていたという1回目の記憶が正しければ、前回の敗因は闇の化身を覚醒させる闇の量。少なかったから光の巫女に浄化された。神の創った運命(シナリオ)通りに。


 「学園開始後のみではなく、開始前から闇を集めること。スカウトよりもこちらの方が重要だ」

 「…お言葉ですが。6年後、闇の使者となる人間はどこで用意するのですか」

 

 心配性の猫は不安をぬぐえないらしい。

 この場にいる4人の中では春の王の次に生きた年数が多いだけあって、彼女は考えすぎるふしがある。


 「猫、お前も知っているだろう。人は皆、心に闇を抱えている。それを少し、つついてやればいいだけの話だ。誰だって闇に落ちる資格はあるのだから」

 「つまり1回目の世界と異なる人間が闇の使者となっても構わないということですね」

 「ああ。残り4席。気長に待とう。6年後には必ず席が埋まる。そういう運命(シナリオ)だからな」


 今日はこれで終わりだ。

 「任務に戻れ」

 そう言おうとして思い出した。

 

 「ああ、忘れていた。黒いヒヨコは見つけ次第回収するように」


 猫が取り逃がした黒いヒヨコ。闇の化身の器となるあれは我々にとって必要なものだ。

 もちろん闇の化身の器となり得るものは、なにもあの黒いヒヨコだけではない。

 しかし猫と交わした契約上、あの黒いヒヨコを器にするしか方法がなくなってしまった。


 「お前らがその情報を事前に伝えておけば、4年前に俺が捕まえていたものを」


 面倒な仕事を増やされた、と蛇がため息をつく。

 そんな蛇を猫が笑う。


 「あら?あなたにできたのかしら?大好きなお姫様の友達のヒヨコを捕まえることが」

 「…。」

 「クハハ。蛇、殺気が漏れているぞ。猫も。もとはと言えばお前があれを逃したのが悪い。蛇をいじめるのはやめてやれ」

 「はい。いじめてしまったようでごめんなさいね、蛇。っ痛」

 

 闇の蛇が猫の手を噛んでいた。


 「俺は部屋に戻る。……それと猫、お前は1週間寝ない方がいい。手元が狂ってお前に魔法をかけてしまった」

 「は?」

 「今日から1週間お前は悪夢を見る」

 「……っ!」


 闇の蛇が噛んだとき、猫の記憶と精神になんらかの魔法をかけたのだろう。

 記憶系魔法で蛇に敵うものはいない。


 「お前の体験した屈辱や絶望が悪夢として蘇る」

 「今すぐ解除しなさい」

 「無理だ。俺は疲れた。もう寝る」

 

 魔法道具でも使ったらしい。

 蛇の姿は一瞬にして消えていた。


 「ハハハ。蛇、お前ほど冷徹非情という言葉が似合う男はいないだろう。同僚にまでこの仕打ちとは」

 「……っ!」

 「猫、あきらめろ。さきほどのはお前のミスだ」

 「…はい。では私も失礼します」

 「ああ。いい夢を」

 

 猫が去っていったときだった。

 鳥がその場に倒れた。おそらく気絶している。


 「……黙っていると思えば、体が限界だったのか。誰か、これを部屋に運んでおけ」

 

 王は笑う。

 目覚めたとき自分が王の間にいれば、確実にあれは不審に思うだろう。

 なにせあれは、自分にもう一つの人格があることに気づいていないのだから。


 「すべてはお前が選んだことだ。愛を知ったがゆえの苦しみを味わうといい」

 






エピローグ4個になってしまいました。すみません。


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