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エピローグ(3)

3人称です。



 リディアがザハラに攫われる2日前のことだ。

 自身の書斎で褐色肌の白髪の男が一冊の本を机に置いた。


 「チッ。やっと見つけた。古参のジジイどもが、まさかあんな場所に隠していたとは」

 

 一見なんの変哲もない本だが、ページをめくり紙を魔法の光で透かすと字が浮かび上がってくる。

 時間はない。男は本に見せかけた報告書を読み進めた。

 

 「…約4年前か。天空神殿にて時空に干渉する魔法が観測された。これはどうでもいい」


 ページをめくる。


 「約10年前。天空神殿にて時空に干渉する魔法が観測された。またこれか。どうでもいい」


 男は悪態をつきながらページをめくる。

 それを繰り返し、最後の1ページを読み終えたところで男は舌打ちをした。

 

 「チッ。あいつらはなぜ急に結界の強化を求めてきた?あれが俺の限界だと伝えたのをもう忘れたのか。しかも今日中にやれだと?ならば文献を持ってこいと言う話だ!」


 結局、古参の神官たちが隠していた報告書にも、今より強固な結界を張る方法は載っていなかった。

 報告書は懐にしまった。忌々しい古狸たちへの嫌がらせだ。重要書類がなくなったことに慌てふためくがいい。


 男も暇ではない。

 仕事はまだ山のように残っているし、なにより弟子の体調が悪いのだ。今まで彼が体調を崩すことは多々あったが、今回はいつもと違う気がする。嫌な予感がするのだ。

 だから早く彼の体調を見たいと申し出たのに、これだ。


 盛大な舌打ちをしたときだった。 

 ノックもなく、男の書斎の扉が開いた。


 「大変です!サラ様が外気の闇の魔力の影響をっ!」

 「…状況は?」

 「は、はい!サラ様の部屋に数えきれないほどの闇の精霊が出現っ。今は近くにいた結界魔法の使い手たちで、結界を張り闇の精霊が外部に逃げないようにっ」

 「わかった」

 

 男の行動は早かった。

 書斎を出て速やかに弟子――サラの元へ向かう。








 「部屋へ向かう途中からすでにひどかったが、ここまでとはな」

 

 たどりついたサラの部屋の扉は閉まっていた。

 が、その扉の隙間からは黒い光が漏れていた。扉はガタガタと揺れている。部屋の中に閉じ込められた闇の精霊が飛び出そうとしているのだろう。


 ここに到着するまでの道の中で、闇の精霊を数匹見た。

 部屋の周りでは十数人の神官が汗を流しながら結界を張っている。

 この結界のどこかに穴があるのだろう。そこから闇の精霊は逃げた。


 「まあ穴があったところで、あれらは自分の意思で外に出ようとはしないがな」

 

 ようするに部屋の中がいっぱいで、押し出されるようにして結界の穴から闇の精霊は出てきたのだろう。

 

 「さすが、といったところか」


 男は手をかざしサラの部屋を包み込むように球状の結界を張る。

 すると今まで結界を張っていた神官たちはほっとしたようにその場に崩れ落ちた。


 「チッ。貴様ら!こんなことでへばるな!状況報告!」

 「は、はいっ!すみません!報告いたします!約5分前、闇の精霊がサラ様の自室にて出現!お、おそれながら数十匹はもう外にっ!秋の国の方向へ飛んで行ってしまいました!」

 「ならば今この部屋にいる分は絶対に逃がすな。なにをぼさっとしている!俺が結界を張ったからといって安心するな。余力のある者は俺の結界を強化しろ!余力のない者は休め!結界を張れない者は張れる者を呼んで来い!」

 「は、はいっ!」


 神官全員が動きだしたのを確認し、男は部屋の扉に近づく。


 「シグレ、来い」

 「はい。先生」


 男がもう一人の弟子の名を呼べば、男の影から真っ白な長髪の少年が現れた。

 10歳ほどの少年に男は指示を出す。

 

 「サラの部屋に入る。俺は自分に結界を張る。その分部屋を囲む結界が薄くなる。まかせたぞ」

 「はい」


 弟子――シグレが結界を張ったのを確認し、男はサラの部屋に足を踏み入れた。

 瞬間、視界が真っ暗になる。

 闇の精霊だ。


 「夜の闇でもここまでひどくはない。チッ。一掃する」


 風魔法で闇の精霊を消滅させる。

 そうすることで一時的ではあるが暗闇は消え、男はベッドに横たわる弟子の姿を発見することができた。

 そしてそんな弟子の体から次々に舞い出てくる闇の精霊の姿も目にする。


 思った通りだった。さきほどの黒蝶たちはサラによって生み出された闇の精霊だった。


 「サラ。しっかりしろ」


 サラの頬を叩くが、目覚める様子はない。

 顔色が悪い。体温も低い。脈拍も弱い。

 そんな状態だというのに、彼の際限のない魔力が災いして闇の精霊を生み出し続けている。


 そしてなにより、サラの白髪に黒色が混じり始めていた。


 「クソ。もってあと1週間といったところか」


 男はサラの額に手を当てた。


 「…やはり俺の治癒魔法でも闇の侵食を遅らせる程度のことしかできない。眠らせることで少しでも進行が遅くなればいいが」


 治癒魔法と眠り魔法をかけ終えたところで、サラから手を離す。

 さきほど消したばかりだというのに、部屋の中はさきほどと同じように闇の精霊で埋め尽くされていた。


 また風魔法で一掃し、部屋を出た。


 自分に張っていた結界を解き、サラの部屋を囲む結界をより強固なものにする。

 

 「サラの様子はいつから変だった」

 

 今も結界を張り続けるシグレに問う。

 シグレはサラの弟弟子だ。忙してくサラの様子を見に行けなかった自分よりも彼の状態を知っているだろう。


 「私も先生と同じです。ほとんど知りません。が、報告します。サラは今日の夕刻、夏の国の視察から帰ってきた辺りから顔色が悪く、食事をとらずそのまま部屋へ籠り現在に至りました。…あと、先生がいつも言っている古狸の方々がサラの部屋に入って行くのを見ました」


 最後に聞こえた言葉に反応して、男の頬に青筋が立つ。


 「チッ。あいつらこうなることがわかっていて、俺に結界を強化にするように言ったな。わかった。お前たちは交代しながら結界を張り続けろ。俺は神官長にこのことを報告しに行く。シグレ、お前も無理はするな」

 「はい」


 サラの部屋を背にして神官長の部屋へと向かう。

 会う約束は取り付けていなかったが致し方あるまい。時は一刻を争う。

 サラの第一魔法と生まれもっての体質は、闇の精霊と相性が悪すぎる。


 「くそっ。あれだけの闇の精霊の数。光の巫女の力がなければサラを救うことは不可能だ」


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