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31.この結末がすべての答え(2)

誤字報告ありがとうございます!


 「アース。さっき言ってた5分って…」

 「実は王国騎士団がこのマフィアを捕えるという噂がありまして、こういうわけです。まさかマフィアのアジトから来るとは思いませんでしたー。挟み撃ちになりましたね」

 「…これもお前とクラウスの計画の内とかじゃねーだろうな。とりあえず帰ったらクラウスは殴る」

 「私も殴るー」


 と、このように談笑している間にも、リカ率いるアリスを筆頭とした騎士は次々をマフィアさんたちを捕まえていき、うん。アルトの時も思ったけど、国の騎士さんたちって優秀なんだね。


 「リディア。この不老不死の薬、桃色の髪の彼に渡していいですよ」

 「え。いいの?アースが師匠に頼まれたんじゃ?」

 「いえ、クラウスさんからはこの薬を奪っておけばリディアの助けになると言われただけなので、奪った後はリディアに任せるとのことでした」

 

 だからさっき私にこの薬を渡したわけか。

 私は自分の手の中にある、甘い匂いを放つ白い粉の入り袋を見る。


 「まあ、そうだね。私たちが持ってても意味ないし。逆になんか巻き込まれそうだし。リカもこれがあればマフィアさんたちの刑罰決めやすいでしょうから、あげるかー」

 「それならこれは俺が渡しておきます」


 そう言って私の手から不老不死の薬を受け取ったのはアイ。

 悲しそうに微笑んで、様子がおかしい。


 「…アイ?」

 「お前がそれ持っていくのはマズイだろ。お前もマフィアの一員だったんだから、王国騎士どものところに行くのは危険だ」


 エルの言葉に私もうなずく。

 が、アイは首を横に振る。


 「ヒメ、俺を助けてくれると、救いたいと、言ってくれてありがとうございました。その言葉だけで俺は十分です」

 「あんた何言って…。アイは私たちといっしょに帰るのよ!?」

 「いいえ、俺はあなたとは一緒に行けません。俺はマフィアの一員として、罪を償います」


 やっぱり。アイは不老不死の薬を渡しに行くと同時に、騎士団の人たちに自分を捕まえてもらうつもりだったんだ。


 「…10年以上もこのマフィアに所属していました。俺も罪を償わなければなりません。それにこの街には俺を必要としてくれる人がいるんです。罪を償った後、もし、外に出ることができたら俺はこの街に戻ろうと思っています。だからすみません。行けません」

 

 脳裏に浮かぶのは住宅街にいた人達の姿。

 かわいい子供たちや優しそうな大人の人たち。あたたかい空間。

 きっと彼らは何年たってもアイを受け入れてくれる。

 

 私はうなずいた。

 アイが自由になった今、やりたいことがあるなら私はそれを応援する。

 だって私はアイを自由にするために助けたのだ。一緒につれていくために助けたわけではない。


 「うん。わかっ…」

 「いいえ。あなたの心配はすべて不要です」

 「ア、アリス!?」


 私の言葉をさえぎったのはまさかのアリス。

 しかも彼女はしれっと私の横に立っていた。お前いつから私の隣にいた!?アースはともかく、エルもびっくりしてるよ!


 「この街に根を張る裏社会の人間はすべて我々王国騎士団が捕縛しました。我が国にはびこるすべての闇を殲滅したとはいいがたいですが、少なくともこの街に潜む闇はもうありません」

 

 アリスはアイの目をまっすぐ見て言葉を続ける。

 もしかしてアリスが言っていた「私も忙しいの」の忙しいって、このことだったの!?


 「なおかつ、この街は我が主、リカルド・アトラステヌ様が直々に管轄し復興に尽力していきます。とりあえず現在決まっている内容としては、就労の斡旋から就労不可能な方々への生活補助、新たな医療技術をこの街の住人の方々に試していただく等です。それであなたの心配の大半は取り除かれるかと。この街が成功すれば他の街も同じように…」


 淡々と続けられる説明に私もアイも目を丸くするばかり。

 きっとエルはアリスの言っている意味を理解していない。ぽかんとしているから。

 私も前世の記憶持ってなければ、同じようにぽかんとしていただろう。


 「お、王家の言うことなんて信用ならない!」

 

 我に返ったアイがうなる。

 が、


 「うぬぼれるな罪人」


 彼の言葉を一刀両断する声が後方でした。


 感情をほとんど感じられない、だけれどもよく通るその声は、騒がしかったこの場を静寂にした。

 そうして後方からやってきた声の主は、リカ。


 「経緯は知らないがお前もマフィアに身を置いていた人間。つまり捕縛対象だ」

 「それは知って…」

 「だが我々はお前を捕えない」

 「「「え!?」」」


 リカの言葉に私、エル、アイの3人とも瞠目する。

 アリスが懐からなにかを取り出し、リカに渡す。リカはそれをアイに向かって投げつけた。

 

 アイが投げつけられたそれは、一見、分厚くて真っ白なだだの紙束。

 だけどその紙束の表面は字で埋め尽くされ真っ黒になっていた。

 そこにはたくさんの人の名前が書かれていた。


 私はよくわからないがアイはこれを見て、震えている。

 紺色の瞳が潤んで今にも涙が零れ落ちそう。


 「嘆願書だ」

 「えっ」


 私の疑問を感じ取ったのかリカが端的に言った。

 リカの言葉に付け加えるようにアリスが解説をする。


 「もとより近いうちにこの街の悪しき者どもを一掃することは決まっていたのです。戦争が落ち着いてきていましたし。それでその旨をこの街に住む善良な市民には事前に伝えていました。そうしたらどういうことでしょうか。あなたを罰しないでほしいという嘆願がこんなにも来たのです」

 「……っ!」

 「あなたはマフィアの一員として行動しながらも善良な市民を弱者を助けてきました。なおかつ、報告によりあなたのマフィア内における役割の大半がアジトを隠す結界を張ることだということもわかりました。これらを考慮し、あなたを捕縛しない代わりに一つだけ罰を与えたいと思います」


 リカがじっと私を見て、口を開いた。

 なぜに私?


 「お前はこの娘と行動を共にし、この娘を守れ」

 「え?」

 「……リカ様違います。この娘と行動を共にし、一人でも多くの弱者を救えです。いや彼女のことは守ってはもらいたいですけど」

 「違うんかい!」


 なんかぐだぐだしてきたぞ。さっきまで感動的なシーンだったはずなのに!

 頭を抱えているとエルが不機嫌そうに私の腕を引っ張り、リカやアリスから距離を取る。


 「待てよ。こんな眼鏡いなくてもおれ一人でリディアは守れる」

 「…うちの兄弟子はどうしてたまに意味のわからないことを言い始めるんだろう」


 そんなエルを見て眉をひそめたのは意外にもアリス。


 「垂れ目の涙ぼくろ。黒銀髪に赤目。こんなキャラいたかし…」

 「いや、眉をひそめるってそういう意味かいっ!ていうか、話が脱線しているから!いいシーンが台無しだよ!」

 「プフッ」

 「リカ!あんたはどうしてここで笑うのよ!?」


 ほら見ろ!あんたが笑ったからエルの頬に青筋立ってるでしょ!エルの怒りの沸点はよくわからないんだからね!

 つーかもう、ほんとうにぐっだぐだだよ!


 「フッ。アイ、と言ったな。お前は自身が罪に問われないことになにかしら思うところがあるだろう。だが、これが答えだ。お前が今まで行ってきたことの結果がこれだ。お前を想う他者の心を受け入れろ」


 リカはそう言ってアリス達騎士団を引きつれこの場を去っていった。

 かっこよくまとめていきやがって。ムカツクけど、まあいいでしょう。


 分厚い嘆願書を握り締めたまま茫然としているアイに、私は軽く蹴りを入れる。

 

 「さーて、アイ?さっきの一緒に行けませんを撤回するなら今しかないわよ」


 蹴られて我に返ったらしい。

 アイはとたん慌てはじめた。


 「っあ!ヒメ、すみません。いえ、ありがとうございます。っああ違いますね」

 「いいから落ち着きなさいよ」 

 「…はい。まず初めに。あなたはヒメじゃありません。気づいていたんです。本の中のヒメが俺を助けに来るはずないって。でも誰かに助けてほしくって、願ってしまって…そしたら俺の前にあなたが現れ、俺を救われました。でもそれはヒメじゃない、リディア。あなたに、救われました。俺は…」


 なんだか話が長くなりそうだ。


 「アイ。そうじゃないでしょ。ヒメに使える騎士は忠誠を誓うときなんて言うんだっけ?」


 アイの頭を軽くチョップし、笑いかける。

 

 「……っ。この身体。この心。この命。すべてあなたに捧げます。生も死もあなたと共に。だから、どうか。俺を一緒に連れて行ってくださいっ」

 「うん。いいよ。一緒に家に帰ろう」

 「…っはい!」


 こうして私はエル、アース、アイをつれて師匠の下へ帰り…

 とモノローグに入ろうとしたところでエルに頭を殴られた。


 「なによ突然!」

 「なんで帰る雰囲気になってるんだよ」

 「え。だって師匠の頼まれたマフィアぶっつぶせって頼み事終わったじゃん」

 「ち、ちがうだろ!終わったらデートだろ!」

 

 そういえばそんなことも言ってた気がする。

 

 「でもデートって言っても、ここの商店街明るいふうに見せかけての裏社会の人たちの巣窟なんだよ?心穏やかに楽しめない。デートってようは食べ歩きみたいなものでしょ。ここの食べ物食べれない=デートできない、じゃないの?」


 ああでも、もうリカたちが裏社会の人間一掃したって言ってたから食べ物は安全?

 ぽやーんとそんなことを考えていたらエルが頬に青筋を浮かべていた。こっわー。


 「食べ歩きがデートなわけあるか!いや、いい。お前はそういうやつだ。もういい。おい、眼鏡。おれとリディアはこれからデートだ。安全な食べ歩きできる場所を教えろ」

 「俺はヒメの命令しか聞かない」

 「眼鏡割るぞ」


 あー。エルとアイの間で火花が散ってるよー。これから一緒に生活していくんだから仲良くしてくれ。

 

 「アイ。安全な食べ歩きスポット教えて」

 「はい、ヒメ!この商店街を出て左に曲がりますと抜け道がありまして、そこから王都近くの商店街に出られます!そこなら安全です!ちなみに今日は夕方から花火があります!」

 「わぁ。ありがと!エル、行こう?」

 「……この眼鏡はムカツクが、いいだろう。行ってやる。でもアースも眼鏡もついてくるなよ。これはデートなんだからな」

 「あーはいはい。2人ともエルの言うこと聞いてあげて」

 「はい。俺はいいですよ」

 「俺もヒメの命令であれば、不本意ですが従います」


 アースとアイがこの場を去ったところで、私はエルに手を差し出す。

 自称デートなら手をつなぎたいんでしょ?


 「エル、いこっか」

 「おう」


 エルは頬を染めながら私の手をぎゅっと握った。

 ……あれ?これ、なんか立場逆じゃない?



///////☆


 デートはもっぱら商店街をぶらぶらと歩くといったものだった。

 かわいいお菓子からご飯ものまで食べ歩きをして、かわいい半そでのシャツを見つけて買って。師匠とアースとアイにお土産を買って。

 

 そうしていたらあっというまに花火を見る時間になっていた。


 「おー。やっぱりきれいだねぇ」

 「…おう」


 紺色の空に次々と浮かぶ、赤、青、黄色、緑の花々。

 私は花火の音も好きなのだ。ドゴーンって、肌がびりびりするような音。あれ、好き。


 「ていうかエル。さっきから顔赤いけど大丈夫?」

 「えっ!あ…う……」

 

 さっきからずっとこの様子なのだ。

 顔を真っ赤にさせて、私を見て、なにか言いたいのか口をパクパクと開閉し、まるで金魚のようだ。


 「言いたいことがあるならはっきりと…」

 「お前はバカだ」

 「は?」


 唐突にエルが暴言を吐いてきたぞ。

 私が口角をピクピク震わせているのを無視してエルは続ける。


 「はじめて会ったときからお前はバカだ。バカ一直線で、でもそれがまぶしくて、あったかい。だからみんなお前に惹かれる」

 「……えーと、私とエルが会ったのって3年前だよね?」


 エルはみんなお前に惹かれるって言うけど、ずっと加護の森にひきこもってたわけだから、みんなって言うほど人と会ってないと思うんですけど。


 「おれはお前が目の前からいなくなりそうな気がしてならない。あいつらに連れていかれそうで、怖い」

 「無視かい。まあいいけど。エルの弱音はめずらしくてかわいいと思うよ。けどその前にあいつらって誰?」

 「お前は孤児院のときに会った黒いヒヨコを覚えてるか?」

 「こいつことごとく私の質問無視するなぁ」

 「黒いヒヨコ覚えてるか?」

 

 早く答えろと言わんばかりにエルが私をにらんでくる。

 私の質問には答えないくせに、この兄弟子ぃ!


 「覚えてるわよ!覚えてるに決まってるでしょ。ルーは私の友達なんだから!ルー…元気に暮らしてるといいんだけど」

 「お前はルーとずっと一緒にいたいか?」

 「あたりまえでしょ!」


 あのツンデレ黒ヒヨコとまた会えて、おまけに一緒に暮らせたら最高よ!

 私の言葉を聞いてエルがうれしそうに口をプルプル震わせる。


 「っじゃあもし、おれが…『ドゴーン、ドゴーン、ドゴーン』…って思ってくれるか?」

 「あ。ごめん。なんて言ったか聞こえなかった」


 いや、そんな顔に青筋立てられても困るって。不可抗力じゃん。

 花火の音がうるさかったんだもん。

 3連発で上がった花火は、薄紫色、桃色、紺色と水色のグラデーションになった華と、なかなかにきれいである。


 だけれどもエルはその花火を見て、「どこまでも邪魔をするやつらだな」と、さらに頬に青筋を増やした。なんで親の仇でも見るような目で花火を見るの!?


 「お前もお前だ、ばかリディア!」

 「私に八つ当たりしないでよぉ!」

 「…っくそ!お前はそういうやつだった。ムードもくそもない女だった」

 「え、え。なに!?」


 あきらめたように言いながらエルは私に手を伸ばす。

 まさかデートの締めに頬をつねられるのか!?

 思わず身を縮こまらせるが、それは違うとすぐに気づいた。


 エルの目に熱がこもっていたのだ。

 すがるような、求めるような、私の身を焦がしそうなほどに熱い瞳。

 この目を私は知っている。いつの日かのアルトと同じ目だ。な、なぜに!?


 そう混乱している間にもエルの手が私に迫る。が、その手は私に触れなかった。


 なぜって。触れる寸前で私の体が後ろにひいたのだ。いや、別にエルを避けたわけじゃないから。

 誰かが私の腕を後ろにひっぱったのだ。


 私の腕を引っ張った人物を見て、エルの目が驚愕で見開かれる。

 え。誰?私ひっぱったの誰!?エルが驚くってことは、まさかアルトとかじゃないよね!?

 急いで振り向けば、そこにいたのは


 「リ、リカ!?」

 「つい体が動いてしまった…」

 「はいぃ!?」

 

 言葉も意味不明だが、リカの表情も意味不明だった。

 だって、エルのことは無表情に見ていたくせに、私に視線を落とすとその表情はやわらかく溶けるんだものっ。


 待て、リカよ。3年の間にいつのまにそんな色気むんむんの笑顔を出せるようになったんだい!?ていうかどうしてここにいるの!?まぐれ!?


 私が混乱しているのをいいことに、リカはそのままそのめっちゃ美しい顔を私に近づけ…


 「ぬぅあ!?」

 「てめっ!」


 口すれすれの頬にキスをおとした。はわわわ!?


 そしておまけといわんばかりに腕にもキスをおとし(半袖に着がえてしまった自分を恨むよ!)、トンっと私の肩を押しエルの方へと突き飛ばす。


 「黒銀色の髪のお前。…リディアを悲しませるなよ」

 「は!?」


 リカは言うと私たちに背を向け歩き出してしまった。

 混乱したままリカの小さくなっていく後姿を見ていれば、とたん景色がゆがんだ。


 「もしかして空間移動!?」

 「はあ!?このタイミングでか!?」

 「いや驚くのそこ!?ドアノブなしでも移動できるのかとかでしょ…ぎゃあああ」


 こうして秋の国でのながーい1日は終わったのであった。


 帰って家に到着した直後にエルがキレて師匠とバトったのは言うまでもないだろう。




次回エピローグ前半と後半で、秋の国のマフィア編ラストです。

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