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31.この結末がすべての答え(1)



 さあフィナーレよ。


 私とエルはとある場所に来ていた。

 目の前には瞠目するアイがいる。


 「ヒ、ヒメどうしてここに!?さきほどここで取引がされると…」


 そう。私とアイが初めて会った路地裏に私たちはいた。


 「はいはい話はあとでね。エルどう?」

 「ああ。結界で隠されているがこの壁の向こうに建物がある。いや、この壁が結界と行った方が正しいか」

 「やっぱりね~」


 実は私が最初にアースと会ったこの行き止まりの路地裏。

 この行き止まりの壁は実は結界だったのだ。


 光魔法しか使えない私にはわからないが、普通に魔法が使えるエルにはフェアリー型の精霊がこの行き止まりの壁の付近で結界として姿を変えていく姿が見えるのだそうだ。アースが言った通りだね。


 アースが示したアジトの方向が、アイの言っていたマフィアの取引場所と同じだったからおかしいなと思っていたのだが、アースから聞いたこの路地裏に香る甘い匂いの正体を聞いて確信した。


 「ここに香る甘い匂いは、不老不死の薬なのよ。不老不死の薬には独特な甘い匂いがあってどうしても消せない。たとえ魔法の結界であったとしても」

 「……。」

 「饅頭屋のおやじに聞いたぞ。お前魔法が使えるそうだな。お前はこの結界を張っている魔法使いで、ここを守っていた。そうだろ?」


 アイが私と最初に会ったときに路地裏にいたのは結界で隠したアジトを守るため。

 第一~第三魔法が結界の魔法ではない人が結界を張る場合は、(潜在魔力にもよるが)術者は結界の半径5メートル以内にいなくてはならないのだそうだ。

 数分であれば結界のそばを離れても大丈夫だそうだが、長時間離れれば結界は崩壊する。


 私とエルの言葉にアイは困ったようにうなずいた。


 「さすがヒメです。そうです。この壁の向こうにマフィアのアジトがあります。それで?あなたたちの望みはなんですか?」

 「簡単よ。結界を解いてちょうだい」

 「結界を解いてあなたたちはなにをするつもりですか?」


 エルと顔を見合わせて笑う。


 「「ぶっつぶす」」

 「は!?」

 「ぶっつぶして、ついでにあんたを助けてあげる」

 「え!?ヒメが俺を!?」


 術者であるアイが混乱したからだろう。行き止まりだった壁がゆらぎ、消え、黒い建物が現れた。おそらくあれがマフィアのアジト。

 アジトを見つければ簡単だ。


 「エル。アジトをどかんとしちゃって」

 「おう」


 エルがアジトにむかって手を伸ばし、握りつぶすように拳をつくれば、

 ドカーン

 爆発音と共にアジトから黒煙が立ち上る。


 アイはポカーン。開いた口がふさがらない様子。


 「うん。いい感じだ。リディア、こいつが結界の魔法使いじゃなくてよかったな」

 「基本魔法の結界じゃなかったらやばかったの?」

 「第一~第三魔法の中で結界を持っているやつの結界はこうも簡単にはくずれねー」

 「まるで知っているかのような口調ねぇ」

 「……第一魔法に結界を持っている人を知ってる。その人の結界はほんとうに、誰にも崩すことはできない」

 「へぇ~」


 なんだか知られざるエルの一面を見た感じ。

 エルは私や師匠と出会う前はどんな生活をしていたんだろう。少しだけ気になった。って今はそんな話をしている場合ではなかった。


 私の助ける発言やらアジト爆発やらでアイが混乱してるのだ。


 「え?え?ちょ、ヒメ!?」

 「はいはい、見るからに混乱しないで。そんな暇はないんだから。この爆発のすきにここから逃げるわよ。私があんたを自由にしてあげる」


 私はアイに手を差し伸べる。

 が、彼は首をふる。

 ノリが悪いやつだな。


 「無理です。俺は魔法の契約書に囚われていて、マフィアから逃げることはできないんです」

 「それも私がなんとかしてあげる。お兄さんや妹さんを探すのだって手伝ってあげる」

 

 アイの目が見開かれる。


 「どうして兄さんとルリのことを」

 「全部饅頭屋のおやじに聞いた」

 「彼が…」

 「ねえアイ。あんたの話聞いた。私とあんたが話を交わしたのはほんの少しだけど、私あんたはいいやつだって思った。だから助けたい」


 アイは堪えるようにぎゅっと唇を噛みしめ首を横にふる。でもすがるような目で私を見るのだ。

 ちょっとイラッとしました。


 「じれったいわね!助けてやるって言ってんだから助けてって言いなさいよ!」


 叩かれなかっただけありがたいと思いなさい!

 エルが「落ち着けバカが!」って私をはがいじめにしていなければ頭殴ってたからね!


 「…うっ。すみません。でも、だめなんです。俺はヒメに救われるべき人間に値しません。自分にできることがあればと思って可能な限り人を救って来ました。でもやっぱり中には助けられなかった人もいて。俺はマフィアに所属して苦しむ人を見てみぬふりをしてきた。ヒメのような聖人ではないんですっ」


 アイの独白に私はため息をつく。


 「……アイ。あなた勘違いしてるけど、私はヒメじゃないよ」

 「あ、すみませ…」

 「私の名前はリディア。ヒメじゃない。あなたが聖人じゃないように私も聖人じゃない。私はあなたよりずっと薄情だよ。私は私が助けたいと思った人しか助けないもん。あなたは値するよ。ヒメじゃない。リディアが救うに値する人間。私はあんただから助けたいと思ったんだよ」

 「……っ」

 「ねえ。あんたはどうしたい」

 「え」

 「私はヒメじゃない。でもあんたを助けたい。助ける力を持っている。あんたはどうしたい?」


 エルのはがいじめから逃れ、私はアイに向かって手を伸ばす。

 この手を取るも取らないも、あなた次第。


 アイの目をまっすぐ見る。

 彼の紺色の瞳は不安げに迷い子のように揺らいでいた。

 でも静かに目を閉じて、再び開けたその瞳はもう揺れてはいなかった。


 「俺は…俺は、自由になりたい」

 

 アイの大きな手が私の手をきゅっと握りしめた。

 

 「ここから出たい。兄さんをルリを、2人を探したいですっ。リディア。俺を助けてくださいっ」

 「いいよ。私が助けてあげる」


 全部まとめて助けてやる!……エ、エルが鬼のような目で私を見てくるが、わかってるよ。困ったらエルは必ず助けてくれる。だから兄弟子に甘えちゃうぞ!えへ。言質はもうとったしね!


 そんな私の頼る気満々の考えを悟ったのか、エルが私の頬をつねろうと手を伸ばした。

 そのときだった。


 「ちょっと!これをやったのはお前たち!?」

 「ゲッ!」


 ケバいおねえさん率いるマフィア軍団がアジトから出てきた。


 ショッキングピンクのドレスを着たケバいおねえさんの周りを、黒スーツのオールバックが固めている。

 この世界の悪いやつらってほんとうに見るからにって感じでわかりやすいよね!?

 立ち位置的にあのケバおねえさんがボスだろう。


 ほんとうはマフィア軍団と対峙する前にアイを回収してこの場を去るつもりだったけど仕方がない。


 「ちょうどいいところに来たわね。そこのボスっぽいあんた!この男。私がもらうわ!」


 ビシっと指をさしてかっこよくキメれば、マフィア軍団がバカにするように笑い始める。

 むっかつく。言っとくけど笑っていられるのも今のうちだからな!

 そしてエル!なにマフィアにつられて私に対してバカにした風の笑みを浮かべているのよ!


 「お嬢ちゃん。それはダメだなぁ。この男の所有権は俺らにあるんだ。契約書もある。ただの契約書じゃない。古の魔法が宿った解除不可能の契約書だ。契約の内容を破れば、破った相手と契約者2人に死が待って…」

 「あーこれのこと?」

 「なっ!?それは!???」


 私がドヤ顔で懐から取り出したのは古い紙。

 これを見た途端マフィアたちの目がとびださんばかりに開かれたから本物なのだろう。

 でもこのおんぼろ用紙が古の契約書ねぇ……嘘だな。


 「エル。念のために聞くけどこの紙に魔力って宿ってる?」

 「カモフラージュのような魔法はかけられているがこの紙自体に魔力はない。1ミリもない」

 「てなわけで破るねー」


 ビリビリと私が紙を破ったところで男たちは我に返ったらしい。あ、ちなみに私もアイも死んでないよ。

 アイは驚いて硬直してるけど死んでるわけじゃないから。


 「ま、待て!てめぇ、どこでそれを手に入れた!?」

 「どうやってって言われても私の友達がハイスペックすぎるとしか言いようがないなぁ。アース。もう戻ってきたら?私、悪いやつの演技してるアースよりいつものアースの方が好き」

 「わかりました。リディアが望むなら」

 「え!?は!?アース!?」


 秋の国のマフィア陣営からアースが戻ってくる。

 オールバックにしていた髪は私的にアースには似合っていなかったので、ガシャガシャと手でもみくちゃにして直す。少しボサボサだが、うん。このアースの方がいい。


 「な!アース。てめぇどうして裏切った!」

 「ひ、ひどいわっ!愛してるっていってくれたのに!?あなたが見たいって言うから古の契約書も見せてあげたのにっ!」

 「ボ、ボスぅ!?」


 ケバおねえさんが目のまわり真っ黒にして泣き叫んでる。対してアースはいつもの無気力顔。温度差が凄まじい。

 アース、自分の倍の年齢の人を篭絡するなんて。才能が怖いわ。


 「裏切ったも何も最初から俺はあなたたちの仲間になった覚えはありません。任務が終わったから帰るべき場所に戻った、それだけです」


 言いながらアースが私になにかを渡す。

 それは白い粉がたくさん入った袋。

 

 「なにこれ」

 「そ、それはっ!」


 ちょっと、マフィアさんたち目ん玉めっちゃひんむいちゃって怖いんですけど。

 アイも私の隣で驚いたように目を丸くしている。え、なにこれ。ほんとなにこれ!?

 アースを見れば彼はにこり。


 「クラウスさんに頼まれていた物も無事確保できましたし。……証拠はあるぞ、とここは言うべきでしょうか?」

 「いや、だからこれなに?」

 「不老不死の薬です」

 「いぃぃぃ!?」


 アースは師匠に頼まれてこの薬を奪うために潜入していたそうだ。

 ていうか師匠!なんつー危険なことアースに頼んでんのよ!帰ったら怒るぞ!


 「ま、まあいいわ。じゃ、アイは私がもらうから。ばいばーい」


 成すべきことはすべて終わらせたことだし、ここは退散しようと私たちは回れ右をする。が、


 「くそ!そう簡単に逃がすかよ!」

 「この際アイはどうでもいい。あの薬を奪い返せ!」


 マフィアたちにいつのまにか囲まれていた。これでは逃げられない。

 

 「まあそう簡単にはいかないわよね」

 「魔法使ってこいつら…」

 「エル、ダメです。あと5分くらい我慢しててください」

 「ああ?なんだよ5分って」


 エルが頬に青筋を立て、アースが無気力顔でスルーする。

 これもまたいつもの光景である。


 「な、仲間割れしてる隙にやっちまえ!」

 

 だが何をどう勘違いしたのか、この好機を逃すなとマフィアたちは私たちに向かって走りかかってくる。

 やれやれここは私がなんとなするしかないようだ。

 スゥと大きく息を吸って、


 「そこのバカマフィアども!止まりなさい!」

 「…っ!」


 私の力づよーっい一声で、マフィアたちは動きを止めた。

 彼らに向かってビシッと指をさす。


 「そこの無礼者ども!私を誰だと思っているの?天才美少女ヒロイン、リディアちゃんよ!私に手を出したら、たーっくさんの人が黙っちゃいないんだからね!」


 一度言ってみたかったんだよね、こんな感じの台詞。


 言ってることは直訳すると、私を守る人間がたくさんいますってことで、自分一人じゃ何もできない甘たれ坊ちゃん感がむんむんでかっこよくないけど、なんかこう響きはカッコいいでしょ。

 エルが冷ややかな目で見てくるけど言ってみたかったんだよ!いいだろ!


 まあこうはいっても戦闘は避けられないだろう。

 と思っていたのだが、意外や意外。マフィアたちは私の言葉に震え始めた。なぜ?


 「リディアだと!?」

 「リディアって、あの夏の国の王子と姫が探している夏の国の次期王妃で…」

 「冬の国の王子が探してる唯一無二の最愛の女性で…」

 「春の国の王子が懸賞金5憶かけて探してる…」

 「俺達のとこの王子が、リディアは世界を巻き込む歩く災害だから保護しなければならないって言って探してる……」


 「「「「「「「あの、リディアか!」」」」」」」


 「待てーーーーーーー!全部ツッコミたいけど、特に最後!なんだそれは!?」

 「最後のは真実だろ」

 「エルぅぅぅ!?」


 リ、リカのやつ。絶対におもしろがってる。友達だから探してくれるのはいいとして、あんな理由で探すか!?いや他3国の方々にも言いたいことはかなりありますけど!

 ……今度からよそではリディアじゃなくて、ヒメって名乗ろう。はずかしい。


 「くそ!この女に手を出したら4王国が黙っちゃないぞ!」

 「逃げるぞ!」

 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!さっきの恐ろしい話、もっと詳しく聞かせないさい!」

 「なんで止めようとしてんだよ!アホか!」


 いいのか悪いのか、マフィアたちは私たちに迫るのを止めた。

 脱出経路でもあるのだろう。彼らは逃げるようにアジトの中(エルが魔法で爆発させたから燃えてるけどね)に向かって走り去っていった。

 かと思ったが戻ってきた!?しかも全員青ざめた顔をして。


 「どういうことだ?お前なんかしたのか?」

 「してないわよ!」

 「きっかり5分ですね」

 「は?」


 アースの言葉に私とエルが怪訝に顔をゆがめた。

 そのときだった。


 「逃げるな。おとなしく捕まれ」

 「ひぃっ!」

 「リカ様が捕まれと言ったのです。おとなしく捕まりなさい」

 「あぁんっ!」

 

 「……。」


 燃えるアジトから聞き覚えのある声が聞こえた直後、

 これまた見覚えのある鞭が、アジトから逃げてきたマフィアたちを打った。

 こうなってくると言わずともわかるだろう。


 アジトから現れたのはリカとアリス。そして数名の騎士たちだった。あ、ドM騎士さんもいる。




長くなってしまったので後半に続きます。

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