29.2回目のヒメです。
「あ!アリスと一緒にいたところを変に誤解された饅頭屋のおじさ…もごご」
「バカ!声が大きい!ばれるだろーが!」
エルに口をふさがれもがいていれば、おやや?おじさんの眉間にしわがよっていた。
おじさんは私たちから視線を外し、ここらへんをずっと周回しているマフィアの人たちを見る。そして納得したようにうなずいた。
まさかおじさん私たちがマフィアに追われているって気づいた!?察しがよすぎるよ!?
「あいつらに私たちのこと教えないで~っ」目で訴えれば、おじさんが力強く笑う。
「あんたたちあいつらに追いかけられてるんだな。わかった。ついて来い!」
「う、うん!」
「なっ。勝手に手をひっぱるなリディア!こいつ誰だよ」
毎度のごとくうだうだぼやくエルは無視しておじさんについていき、そうして私たちが案内されたのは饅頭屋さんの裏口だった。
「ここに隠れてろ。さすがにあいつらも店の厨房には入ってこないはずだ」
「あっありがとうおじさん~」
「そんな目をうるうるさせるなって~。困ったときは助けあうもんだろ?さ。いつまでも突っ立ってるなよ」
座るよう促され椅子に腰を落としたところで、エルの眉間にしわを寄っていることに気づく。
「おい。こいつ信用していいのか?」
「ちょっとエル!」
匿ってもらっているのになんつーこと言うんだこの兄弟子は!
頭をはたこうとすればエルに躱され攻防戦が始まる。ぬぅおおお。
そんな私たちを見ておじさんは楽し気に笑った。
「ガハハ。いやいい。ここで生きていくには疑り深くなくちゃならねぇ。このお兄ちゃんは合格だよ」
「へー、よかったじゃない」
「ぜんっぜんうれしくねー」
「それよりも」とおじさんの雰囲気が変わった。
「俺はあんたたちを匿ったんだ。どうしてあいつらに追われているか教えてもらうぞ。お嬢ちゃん、あんたなにしたんだ?」
「うっ。えーっと」
それを聞かれると困るというものだ。
「いや、いい!やっぱりやめておく。おじさんこう見えて昔探偵をしていたからな。なんとなく悟った」
意外な言葉に目を瞬けば、おじさんは恰好つけるように鉢巻をとり、自身の肩にのせた。
言っておくが全くかっこよくないよ。探偵っぽくもないよ。
「さっきの坊ちゃんとは違う兄ちゃんと一緒にいる。そしてこの兄ちゃんは、さっき一緒にいた坊ちゃんの言う主とは別人だろ?」
あー。そうだね。おじさん、私とアリスとリカが三角関係だって思ってるんだもんね。そこにエルが加わったんですものね。
すこぶるややしいことになっている気がする。
「つ、つまり?」
「嬢ちゃん争奪戦。四角関係、いや嬢ちゃんのことだ五角関係くらいありそうだなぁ。だが、マフィアに手は出しちゃいけねーよ」
私が頭を抱えたのは言うまでもないだろう。
「違う!すっごく違う!おじさん壮大な勘違いしてるよ!?」
「おい。リディア、さっきの坊っちゃんって誰だよ」
「そしてエル!今、そこにつっかかるな!まぎらわしいから!?」
なぜか顔に青筋を立てるエルを落ち着かせていると、なにやら視線が刺さる。
この場には3人しかいない。エルは私のことを見ないで拗ねたように地面を見ているから、残っているのは…
「おじさん?急にじっと見てきてどうしたの?」
まさか私の美少女フェイスに惚れちゃった?
ごめんなさい。恋愛対象となるのは年の差15歳以内って決めてるので。
「んー、それがなぁ嬢ちゃんあれに似てるなって思ってよぉ。なんだっけ?ああ、あれだ。アイの言ってた小説の「ヒメ」ってやつにすっごく似てるなって見てたんだわ」
「う。今日でそれ言われたの2回目」
なんでだろう。アリスは私をヒメのモデルにしたから多少なりは似ているのだろうけど、はじめてあった人に当てられるほど私とヒメは似ているのか!?
アイなんて私を人目見ただけで「ヒメ!」って感動して……ん?
「待って。今おじさん、アイって言った?その人って紺色の髪をオールバックにしたイケメン眼鏡?」
「お嬢ちゃん、アイを知ってんのか?」
「知り合いってわけじゃないけど。…とりあえずアイにヒメって言われた」
私の言葉を聞いてか、おじさんが自身の目頭を押さえた。
え。突然どうした!?
「そうか。あいつは救世主に会えたんだな」
「……?」
怪訝に首を傾げていれば、おじさんが助けを求めるようにすがりついてきた。
予想だにしないおじさんの行動に私もエルもポカーン。
「嬢ちゃん、あんたにこんなこと頼むのは間違ってるってわかってる」
「え?」
「だけどあんたは、アイが唯一救いを求めたヒメにそっくりなんだ。だからどうか頼む。アイを助けてやってはくれねーか?」
「へ?へ?」




