26.フラグが立ったぁ(ク〇ラが立った風)
アイと別れ懐中時計のオブジェの前に戻った私を待っていたのは、鬼と化したエルと説教の嵐でした。ハハハー、はぁ。
「リディア!お前ぇえええ!探したんだぞ!」
「ご、ごめ…」
「ごめんじゃない!このアホ!バカ!豚!お前が人ごみにまぎれてどっかに消えたと思って探してたら、急に騎士団のやつらに囲まれて、リディアは懐中時計のオブジェの前にいるって言われて行ったらいねーし!」
「ご、ごめん。それよりもエル!今すごい情報もらっちゃった!今日の正午あそこで不老不死の薬の取引がされるらし…」
言いかけたところで私の言葉は途切れる。
何の前触れもなく人混みがはげしくなり話すどころではなくなってしまったのだ。
「ちょぉ~!?突然なに!?」
「くそっ」
突然の込み具合に私は体勢を崩してしまったのがいけなかった。
人ごみは治まることを知らずむしろひどくなる一方で、押されて押されてひっぱられて、せっかくエルと再会したのにどんどん彼との距離が離されていく。
「リディア手伸ばせ!」
「うへぇあ。エ、エルぅっ!」
エルは私に。私はエルに。手を伸ばすが、ぬぅあああ届かない!
まるで人混みが意思でも持っているかのごとく、私とエルは分断され、また離れ離れになってしまった。せっかく再会できたのにー。
まだまだ混み合っているらしく、エルと離れたあとも私は人混みに流され続けた。もはや自分がどこにいるのかさえわからない。
別にエルと再会した直後はそれほど混んでいなかったのに。ほんとになんで急に込み始めたのだろう。
なにかお祭りのイベントでもあるのだろうか?
そう疑問に思ったとき、ふとアイの言葉が脳裏によみがえる。
『この場の明るい姿は仮の姿。ここにいる人間は皆、裏社会の人間、もしくはわけがあって身を隠している人間です』
「……。」
あっれー?
困ったな。リディアちゃん、ものすごく怖いことが頭に浮かんでしまった。
アイはここに居る人たちみんな裏社会系の人と言っていた。
そして私がエルと分断されたのは、「不老不死の薬」っていうワードを言葉にした直後。
不老不死の薬を裏社会の人たちがほしがらないわけがない。
つまり、私が不老不死の薬のありかを知っていると、そこらへんにいた裏社会の人たちが思って、わざとエルと分断した!?
現在、思考の海から返ってきて我に返れば私は人ごみから脱出?し、人通りの全くない狭い路地にいた。
嫌な予感しかしない。
だってこれって絶対に誰かが私を捕まえに来るパターンでしょ!?
しかし私は自分の考えが甘かったことを知る。
「いたぞ!不老不死の薬のありかを知っているガキだ!」
「捕まえろー!」
「ぎぃええええ!?」
私はガラの悪いお兄さんやおじさんたちに追われていた。
数人とかじゃないよ。2桁単位で追われていた。心の底から笑えない!
「もぉー!どっか行ってー!」
そんなわけで私は手持ちの笑い薬やら眠り薬やらを男たちにぶつけて足止めをする。
が、倒しても倒しても男たちはどこからともなくわいてくるのだ。ゴキブリか!
そうして私の手持ちの薬も底をつきはじめ。
というか、もう薬は残り2個しかない。いやそれ以前に私の体力がない!
つまりどういうことか。
もう走れないってこと!
「嬢ちゃん、観念しな!」
疲れきってへろへろになったタイミングで、ゲヘヘと薄気味悪い笑みを浮かべる大男の手が私に伸びた。
こんなこと前にもあったぞ!
脳裏に浮かぶのは孤児院で秋の国のマフィアにアリスと攫われて逃げたときのこと(今回もまた秋の国かい!)。
あのときはアルトとルーが助けてくれたが、今度こそやばいかもしれない。
振り返ったのがいけなかった。
大男の気持ちの悪い顔が目と鼻の先にあり、その顔を見た瞬間、全身にゾッと鳥肌が走った。
だがしかし、私はただのか弱い女の子ではない!幼き日のアルトによるブラコンヤンデレの洗礼を受けたおかげで、恐怖にはある程度耐性がついているのだ。
つ、捕まれたら至近距離で笑い薬をぶんなげて、笑い狂わせてその隙に逃げるっ。よし、私天才!
即座に決め、か弱い少女を演じ相手を油断させるために身を縮こまらせた。
しかし結果的に、男の手は私には届かなかった。
私が自身の身を縮こまらせた直後、真っ白なローブの人物が上から降ってきたのだ。私と大男の間に。
「え!?」
「なんだお前…ぐほぉ!」
驚く間もなく白いローブの人物はシュタっと着地すると、慣れた手つきで男を昏倒させる。
そして次々と私を追っていた男たちを倒していき、気付けば男たち全員が地面でおねんねしていた。
最後の一人を倒し終えたところで、白いローブの人がツカツカと私の元へとやってくる。
この人は誰だろう?エル?でもエルにしては背が大きい。
まさかアルト?でもアルトは黒いローブだったような…。
「あの……」
「ケガはないか?」
そうして私の目の前までその人が来たときだった。
大きな風が吹き彼がすっぽりとかぶっていたローブのフードがめくれた。彼の隠していた顔が明らかになる。
「ぬぅあ!?」
当然その顔を見て私は素っ頓狂な声を上げた。
むしろここで声を上げない方が無理な話だ。
白いローブの下に隠れていたのは、ウェーブした桃色の髪、長い桃色のまつ毛、牡丹色の瞳。
そしてなにより。中性的だけれども、幼少期より男らしい美男子に成長した無表情の顔。
その人は…
「リ、リリリリリリrr…!?」
「…?」
リカーーーーっ。




