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エピローグ(アース視点)(2)

納得のいくものがなかなかできず、投稿が遅れました。とりあえず投稿するのですが編集する可能性大です!

最後に一つ。アースは作者殺しです。やつはなにを考えているのかほんとわかりません。作者ですらわかりません!なので編集する可能性大ですので!

そして次回から秋の国のマフィア編スタートです!ずらずらと長くすみません。深夜テンションと睡魔と残業地獄を言い訳にさせてください。

 


 そうして脱出のときはやってきた。


 「リディア!リディアしっかりしてください!」


 演技は得意だ。自分というものがないからこそ求められる人物になりきることができる。今の俺は大切な人が疫病にかかってしまったが自分にできることは何もない無力なガキ。

 リディアが疫病にかかってしまった。そう思い込むことで演技は真実へと姿を変える。


 「くそっ。あの薬さえあればっ」

 「薬だと!それはほんとうか!」


 視界の端でエルの言葉に見張りが食らいついているのが見えた。作戦はうまくいきそうだ。

 








 「リディア。拘束されてる奴隷商人どもの中に土下座野郎がいるぞ」

 「あ!ほんとうだ!」


 脱出できたと思ったら奴隷商人たちの罠にはまったり、王国の騎士が救出にきたり、アルトが春の国の王子であったりといろいろあったが現在、俺たちは無事奴隷商人たちの魔の手から逃れ、森からことの結末を見守っていた。


 そんなときエルが捕まっている奴隷商人の中から見張りを見つけた。リディアがお兄さんと呼んでいた彼である。


 奴隷商人たちはアルトの率いる騎士たちによって拘束されていた。


 彼らに未来はない。

 罪をおかした彼らを待ち受けるのは救済の訪れることがない、償いという名の地獄。

 光のない牢屋に投獄され彼らは許しを請う。自分の犯してきた罪の重さに気づいたからではない。この地獄から逃れるために、懺悔するのだ。

 だから悪人は変わらない。腐った性根のまま一生を終える。


 誰も彼らを救うことはできないのだ。

 親切にしてくれた見張りが視界に映る。彼は力なく項垂れていた。心優しい彼を救える人間はどこにもいない。


 そう思うと見ていられなくなり、俺は彼を視界から外す。が、ちょうどまだ視界に彼がいたときのことだった。目の前で起こった光景を見て、自分の目を疑う。


 見間違えではなかった。見張りの瞳に光がやどったのだ。

 それは見張りの体に金色の蝶が入り、入れ替わるように黒い蝶が出ていった直後のこと。

 光の蝶はリディアが産み出していた。


 その後リディアは光の蝶の数を増やし奴隷商人たちに飛ばす。見張りと同じように体内に入るものもあれば拒絶されるものもある。しかし、虚ろな瞳だった彼らの大半に光がやどっていた。


 壮大で美しかった。

 うまく言葉にはできない。けれども、かつて奴隷商人たちであったものたちから俺は希望を感じとった。自らの力で闇を切り開いていける、そんな光を感じた。

 

 そんな光景に見とれていれば背後で声がした。



 「ありがとうエル。もぅなんでいっつもムカツク兄弟子なのにこういうときだけかっこいいこと言うのよ、バカぁ」

 「お・ま・え・は、一言余計なんだよっ!おら、帰るぞ!」

 「いだだだ。頭ぐりぐりしないでよ!?帰るから!頭ぐりぐりやめて!」


 そこで思い出す。

 そうだ。リディアとエルとはここで別れなければいけないのだ。

 辺りを見渡せば皆誰かといっしょにいた。カイル君たちを含めた子供たちは父親や母親と共におり、アルトは騎士3人に囲まれている。そう、彼らには居場所がある。帰る場所がある。



 自分だけが一人。

 

 

 心にぽっかり穴が開いたような気がした。いや、この穴は昔から生まれたときから空いていたものなのかもしれない。その穴をたったいま、自覚しただけ。

 埋められない、埋めるすべもわからない穴を冷たい風が吹き抜ける。


 これから自分はどうしたらよいのか。


 他人の望むことがわかった。自分の望みはわからなかった。

 他人の考えていることがわかった。自分がなにを考えているかわからなかった。

 

 だから今まで望まれるままに生きてきた。自分の意志が、望みが、わからなかったから。

 相手の望み通りに姿を変え生きる、それが(アース)という生き物を構築していた。


 思考を放棄して、周囲に流されるまま合わせるがままに、怠惰に生きてきたバチがあたったらしい。

 俺はこれからどうしたらよいのだろうか。見当もつかない。

 目の前が真っ暗になる。

 

 そのときだった。


 「ねぇ。アースは迎えの人来ないの?」


 リディアがじっと俺を見つめていた。

 迎え。少し考えてみるが、そんな人物は思い浮かばなかった。


 「来ません。俺は物心ついたときから一人で生きてきていて。奴隷商人に捕まる以前も以後も、俺を探す人に出会ったことはありません」

 「じゃあこれからどうするの?」


 リディアのビー玉のような翡翠色の瞳が俺を映す。

 どうする、か。そう問われると困ってしまう。


 「俺を攫おうとしていた人たちは今、目の前でちょうど捕まったので……そうですね。どうしましょう。今までなにも考えずに生きてきました。俺はこれからどうしたらいいのでしょう」


 言葉はこぼれていた。自分でもわからないことをリディアに聞いても仕方がないのに。

 するとそんな俺を見てリディアがにかりと笑う。


 「さっさとそれを言いなさいよね。アース、あんた私たちと一緒に来なさい!」

 「え」

 「はあ!?お前正気か!?」

 「もちろん。アースは魔法の才能があるのよ。師匠も弟子がもう一人増えるくらいどうってことないでしょ!うん、決定!アース、私たちの家に帰ろう」


 リディアは唖然とする俺の手をとり歩き始めた。突然の出来事に頭がついていかない。

 だけれども俺は無意識のうちだろう。自分の手を握る彼女の手を離すまいと握り返していた。



 誰も気づかない、俺も気づかない、でもこの行動こそが俺の意思と望みを表していたのだ。


 







 リディアたちとの暮らしにも慣れてきたころ。


 「アース。ちょっと話があるの」

 「はい…?」

 「時間がもったいないから。ついてきて」


 リディアとエルがもう眠りについた深夜。部屋をノックする音に目が覚め扉を開ければ、そこにいたのはクラウスだった。


 言うや否や歩き出した彼を急いで追いかけ、たどり着いた場所はクラウスの書斎。なぜ俺をここへ?


 怪訝に思いながらも書斎に足を踏み入れた瞬間、肌にピリッとした電流が走る。

 痛くはないが不快な感じがするそれに対し、眉間にしわがよっていたらしい。クラウスが俺を見て笑う。

 否、そう思っていた。が、違った。クラウスは俺の後ろにいる人物に対して笑ったのだった。


 「関係者を結界内に入れるときはそれ用の入り口を創るって教えたでしょ。痛みは与えなかったのはよしとして、常時無気力顔のアースの眉間にしわをつくらせるなんて、まだまだね~」

 「黙れ」


 端的な言葉と共に暗がりから姿を現したのは桃色の髪の美しい少年。無表情の彼はじっと観察するように俺を見る。

 意味が分からない状況。だけれども他人の求めることがわかる俺には彼らの目的がわかった。


 リディアとエルが寝てから俺を呼んだ。それはつまり2人には知られたくないということ。

 張っていた結界内に俺を招いた。見たことのない少年が俺の前に姿を現した。それはつまり俺だけに内情を見せたということ。


 それは同時に俺を逃がさないという意思の表れ。

 そこから導き出される答えは一つ。


 「お2方とも…なぜ俺を仲間に引き込もうとしているのですか?」


 俺の問いを聞いて2人は瞠目し、少しの間の後で微笑を浮かべる。まあ微笑とは言ってもクラウスはしたり顔で、少年の方は口の端を少し上げただけの笑みとは言い難い顔だが、とにかく2人は俺の言葉に対し笑った。


 「共犯者を増やす…あまり快くは思っていなかったが。フッ。クラウス、お前より使えそうだな」

 「そうね~、公務だの身分だので自由がないって言って、なんにもしないどこぞの女装王子よりは使えるかもぉ」

 「殺すぞ」


 2人の間で火花が散った。俺は夜中に起こされて、いったいなにを見せられているのだろうか。

 そんな感情が顔に出ていたらしい。「普段無気力顔のくせになんでそんな迷惑そうな顔するのよ」とクラウスがむくれる。


 「まあいいわ。アースはね、察しがいいだけじゃないんだから。演技も得意なのよ。この前試しに台本つくって演技させたら一人で100役くらいできたんだから。しかも全部クオリティが高いの」


 100役…思い当たるふしがある。

 数日前クラウスに頼まれて出演者俺だけでドラマをつくったのだ。あのときはリディアとエルへのサプライズと言われたが。このために俺は演技をさせられたらしい。


 「潜入捜査向きの人間がほしいと思ってたから助かったわ。あたしもあんたも隠密ならまだしも、潜入は目立つ容姿が邪魔してできないからねぇ」

 「そうだな」


 さて、彼らは2人だけで話を進めているが、まだ俺は何の説明も受けていない。

 

 「あの、結局のところの俺をこの場に呼んだ理由を聞いてもいいですか?」


 問えばとたん辺りが静まる。

 元よりこの空間は騒がしかったわけではない。だけれども、静まり返ったのだ。

 音と言う音が消え、静寂に身をつつまれる。

 緊張か、背を汗が伝ったところで、少年が口を開いた。


 「……おれたちは運命を変える。そのために行動している。力を貸せ」


 言い終えたところでクラウスが少年の頭を叩いた。


 「はいはい、お馬鹿。言葉が足りな過ぎ。それじゃあさすがのアースでも察せないわよ」

 「不敬罪で殺す」

 「あらあら~。殺せるものなら殺してみなさいよ。でもあんたの力量でこのあたしを殺すことができるかしら~?」

 「……。」


 気づけば2人の間で火花が散っている。彼らは話を脱線させる才能にあふれているらしい。


 「あの…」

 「ん?ああ、悪いわね。そうね結論から言うと、リディアは17歳を迎える前に死ぬの。あたしたちはその運命を変えるために動いている。だから力を貸しなさいってこと」


 淡々とした言葉。だけれども、だからこそ、衝撃を与えた。


 「リディアが……死ぬ運命?」





 




 その後俺は2人から説明を受けた。なぜ彼らが運命を変えるために行動することになったのか、今までなにをしてきたか、これからなにをするのか。

 全てをききおえたところでクラウスが問う。


 「で、どうする?お前はあたしたちの仲間になってくれるの?」

 「力を貸します。あなたがたの仲間になります」


 こうしてプロローグに至るのであった。


 


 



 「ですが不思議です。どうしてお2人はリディアと俺を引き合わせたのですか?」


 彼らの話によると俺は8年後、リディアの敵として彼女の前に現れる。引き合わせないで、俺の居場所が分かった時点で俺を殺せば将来的に彼女の敵とならないことは確実だっただろう。そもそもどうして引き合わせた?

 

 怪訝に2人を見れば、彼らはそろって肩を下げていた。


 「いやぁ最初はね、悪いけど殺そうと思っていたわよ。でもね途中で考えが変わったの」

 「変わった?」


 クラウスがうなずく。


 「さっきも言った通り8年後、学園で闇の力を持つ人間は幹部2人以外は誰かわかるのよ。つまり探し出すことも可能なわけ。アースが言ったようにあんたたちを殺すこともできる。でもそれなら逆に敵として覚醒させないことも可能だって気づいたの」

 「リディアは…あいつは人の死を望まない」


 少年の顔は無表情だけれども、その声色はやわらかくあたたかかった。そんな少年を見てクラウスが苦笑する。


 「寡黙無表情のこいつをこんなにするくらいリディアは天然人たらしでしょ?そんなリディアと悪役確定のあんたをぶつければ、アースの敵確定の運命も変わるんじゃないかって思ったんだけど、案の定成功したわね。まさかリディアがあんたを連れて帰ってくるとは思わなかったけど」


 彼らが俺を殺さずリディアと引き合わせた理由はわかった。だけれどもまだわからないことがある。

 

 「お2人はどうして俺があの場所にいるってわかったんですか?」


 彼らは情報屋に俺の居場所を見つけてもらったといっていたが、それにしたってこの広い世界の中で俺を見つけるのは至難の技であったはずだ。

 口を開いたのは少年だった。


 「それはおれが知っていた。説明の中で言っただろ。この世界は2回目の世界。おれとクラウスは1回目の記憶を所持している。その記憶の中でお前はおれたちの敵として現れる。だけどリディアの手によって闇を浄化される。そのときお前が自身の身の上を話していた」


 1回目の俺は言ったらしい。8年前、春の国で奴隷商人から逃げていた時に自分を拾ったのがリディアであれば自分の運命は変わっていたかもしれない、と。


 なるほど。これならば俺の居場所はだいたい絞られる。……それにしても、

 

 「俺が自分の身の上を話した…信じがたいですね」

 

 俺は自分のことを話すタイプではない。そもそも自分のことを話せるほど自分を理解していない。

 クラウスが鼻で笑う。

 

 「あたしたちは常に神の作った運命(シナリオ)の上で踊らされる。自分の意思に関係なく、ね。1回目のあんたが自分の身の上を話したのだってそう。そう行動することはすでに決められていたことだから。運命に反する行動は許されないから。でもあたしは絶対に運命を変える」


 少年を見てみれば、彼はクラウスの言葉に特段反応することもなく、扉にもたれかかっていた。運命を変えることなど、当たり前だと言わんばかりに。

 運命を変えるなど普通ならば無理だと否定するところだが、彼らの想いを知る今はなにがなんでも運命を変えなければならないと、そう思える。


 そのときだ。真っ白な鳥が窓の外から飛んできてクラウスの肩に留まった。鳥の足には手紙がくくりつけられていた。

 その手紙を読みクラウスが笑う。


 「あたしの読みは当たったわね。今来たザハラの情報によると秋の国にあたしたちの探す人物がいるらしいわ。さっそくだけどアース。あんたには近々潜入捜査をしてもらう。いいわね」

 「はい」


 こうして俺は彼らの仲間になったのだった。



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