7.悪い子もねんねしな
それは私がアルトと交渉…というか、アルトにデッドorデッドの選択肢を与えられ、1日置きというデッドを選んだ日から4日たった日のことだった。
つまり1日置きルールが適用されてから、2回目の愚痴聞くデー。
アルトの体にやっと異変が起きた。
現在私の目の前にいるアルトの目は、半分しか開いておらず、顔も土色。
「それで…ソラが……」というフレーズを聞くのは今ので20回目。ソラが…とつぶやきながら、アルトは前後左右に揺れていた。
完全に寝不足だ。
ソラの話をしていたら眠くなるわけがない。
彼は以前そう言っていたがその言葉は真実だったのかもしれない。
現に一日置きにして毎日ソラの話をできなくなった途端、睡魔に襲われている。まあだからといって、じゃあ毎日ソラの話をしていいよ~とはならないけどね。
眠くならないというのは、あくまでアルトの脳が錯覚しているだけだ。本人は眠くない、平気だと思っていても体には確実に負荷がかかっている。
そのため私は速やかに今日の愚痴聞くデーをお開きにし、彼を寝どこに連れていかなければならないわけなのだが……
「それで、ソラが……」
「はいはい、眠たいのね。今日はもう部屋に戻りましょうね~」
「ハッ。君じゃあるまいし、僕が眠くなるわけない…でしょ。帰らないから。僕はソラの話を……ソラが……」
「あーはいはい。ソラかわいいねー」
もちろんこの男、素直に従ってくれるような人間じゃあない。
彼がものわかりのいい子であったなら、私は苦労してないし、そもそもアルトは悪役として選ばれない。
どうしたものか。彼は眠くないと言い張るものの、相変わらず前後左右、ついには斜めにまで揺れ始めた。素直じゃないな~。
「眠くなるなら、あんたも昼寝すればいいのに」
一日置きでもやはり眠い私は、最近すばらしい方法を見つけた。
それは夜眠れなければ昼に眠ればいい作戦。
かの有名な、パンがなければお菓子を食べればいいじゃない的なニュアンスで捉えていただきたい。
孤児院では4歳以下の子どもは、昼食後に昼寝の時間が1時間設けられている。そしてこの昼寝の時間、4歳児限定というわけではなく、お昼寝したい子は全員寝ていいよーというアバウトな決まりとなっていた。
なのでここ最近の私は4歳児に交じってお昼寝をしていた。
普段私と行動を同じくするソラも、当然一緒に昼寝する。ちなみにアルトは昼寝をせず、ぐっすり眠る私たちの隣で本を読んでいる。
私と同じくらい眠いはずなのに、どうして昼寝しないのか。ずっと疑問に思っていた。
だがその謎は、まさに今、寝ぼけながらもアルトが返答したことによって解明された。
「……バカなの?僕は完璧なんだ。昼寝なんかする人間は、完璧じゃない」
まさかの持論が昼寝をしない理由でした~。
ほんとアルトって予想の斜め上の発言をしてくるよね。そしてその発言には、たいてい完璧が関わっているのだ。
なんだ?今度から何を聞くにもアルトの答えには、完璧というフレーズを想定したほうがいいのか?
「あんたってほんとうに完璧にこだわるよね。どうして?」
疑問だった。
完璧であっても、昼寝くらいすると思う。アルトの言う完璧の定義っていったいなんなんだろう。
仮に昼寝をする行為は完璧でないとして。そうなると昼寝する私は完璧じゃないってことになるよね。あれれ?アルト君、さりげなくリディアちゃんのことディスってる?ほほほ~、そうなると私と一緒に昼寝するソラも完璧じゃなくなりますけど、いいんですかー?
「ちょっとアルト…」
「…完璧じゃなかったら、僕が存在できないからだ」
「は?」
私の言葉にかぶせるようにして、彼はむすっと頬を膨らませながらつぶやいた。
絶対に答えないと思っていたのに。睡魔の力ってすごい。
え。これならアルトには毎日寝不足でいてもらってもいいかも。
寝不足パワーのおかげで、彼はぺらぺらと言葉を連ね続ける。
「ソラは完璧な兄である僕のことが好きなんだ。僕が完璧だから慕ってくれる。尊敬してくれる」
「えっとぉ」
「……完璧じゃなかったら、ソラみたいな子が僕を慕ってくれるわけがない。他のやつらには嫌われてもいい。でもソラにだけは、嫌われたくない。だから僕は、完璧じゃないとダメなんだ……」
アルトは一気に言い放って満足したのか、またフラフラ縦横斜めと揺れ始めた。
…なかなかに重たい理由だった。
でもなぁと私は怪訝に眉をひそめてしまう。
アルトはなぜ、ソラが完璧な兄を好きだと勘違いしているのだろう?
見ていればわかるよ。アルトがソラのことが大好きなように、ソラもまたアルトがどんな性格であっても大好きであるということを。
「なに?あんた鈍感ヒロインタイプだったわけ?別にあんたが完璧であってもなくても、ソラはアルトのこと大好きだよ」
「…君みたいなやつの主観をソラにあてはめないでほしいんだけど。ソラは君みたいな、が・さ・つじゃないんだ」
「ちょっとどこの誰が、がさつですって?私ほど繊細で清らかで美しい人間いないわよ!なんだその目は!?」
善意を悪意に変えられて、10倍にされて、ホームランで打ち返された気分だ。
「ふーんっだ。まあ?ソラの本心なんて私はもちろんアルトにだってわかりませんもんねー。勝手にソラの気持ちを代弁してすみませんでしたー。バーッカ!でも別に、…少なくとも、私はあんたが完璧でなくても嫌いにはならないから。それだけは念頭において……?」
「……。」
私は首をかしげる。
うざいとか、キモイとか、なにかしらの反応があると思っていたのだが…おかしいな。反応が全くないのだ。ついに寝たか?
怪訝に思いながら隣に座るアルトを見て少し驚いた。
彼は淡い紫の瞳を丸くさせて固まっていたのだ。
「え。ちょっと、どうしたの?」
私が言葉をかけるとハッと我に返ったのかアルトはそっぽをむいた。
おい。それはいったいなんのまねだ。
「もしかしてぇ、照れてるのぉ?」
「……照れてない。君の不細工な顔を見たくないから顔を背けただけ。固まっていたのは君に好かれたところでなんのメリットもないな。むしろデメリットしかないなーって思ってたからだし」
「おい」
冗談で照れてるの?と言ったのに、それを100倍にして返してくるやつがあるか。
思いのほか傷つくぞ。
まあいいさ。気持ちを切り替えよう。先ほど流暢に話していた様子を見るに、アルトはもうすっかり目が覚めたのだろう。
そうすると私を待っているのは、ソラの自慢話と私への不満等を含めた愚痴という地獄のオンパレード。
引き締めていこーと自分に活を入れアルトを見れば、
「それで…ソラがぁ……ぐぅ」
普通に前後左右に揺れていた。
「結局、眠いのかよ!?」
「……眠く、ない」
「絶対眠いでしょ?ねー、帰って寝ようよー」
「やだ」
「……。」
わかりました。この男が頑なに動かないことが、よーっくわかりましたよ!
そうなったら私にできることはもうこれしかない。
「もぉー。仕方ないな。ほら、おいで」
「うわっ」
私はアルトの頭をひっつかみ、そのまま自分の膝へと押し付けた。ええ、みんな大好き膝枕です。
瞬間、アルトの顔が一気に赤に染まる。
すごいね。お湯の中につっこんだタコみたいに色が変わったよ。
「なっ。嫁入り前の淑女がなにやってんの!?」
「いや、淑女って…寝ぼけすぎて言葉の意味忘れた?自分で言うのもなんだけど、私淑女じゃないよ?」
「そ、それはそうだけど…嫁入り前の、仮にも女なんだから、外聞が……」
「私を心配しているのか、貶しているのか、はっきりしろや」
「一応…心配している……」
あら、意外。
私はもがくアルトを押さえる力を少しだけ緩めてあげた。
あ。ちなみになんでアルトがもがているかというと、それはもちろん、私の膝の上から逃れようとしているからだ。
将来美形を約束された美少女の膝枕から逃げようとするなんて、もったいないばあさんが出てくるよ?
ちなみにいつもの私だったら、アルトに力負けして逃げられる。だが今の彼は動揺していてなおかつ眠くて力が出ない。そのため私は容易に彼をねじ伏せて、頭を膝の上に押し付けることができるのだ~ハッハッハー。
「僕を解放しろ~」
「はいはい、しませんよー。だって外聞とか言うけど、ここは孤児院しかない狭い世界だから、見られても問題ないでしょ?そもそも年齢が2桁にもなってない子ども同士で膝枕したところで何も言われないから」
「だ~っ!そういうことじゃなくてッ!第一これ、なんなの!?」
「え?膝枕?」
「ひざ、まくら?」
「知らないの?こういうのを言うんだよ?」
お母さんに膝枕をしてもらったことはないのだろうか?
王子様だからお母さんじゃなくて、乳母さんとかに?してもらうのかもしれないけど。この様子だとアルトは膝枕という言葉すら聞いたことがないのだろう。
「いや、なんとなくこれが膝枕というものなのは、察していたけど。僕はこの行為になんの意味があるのかっていうのを、聞きたくて…」
「意味?そうねぇ、あんたは眠たい。でもソラの話も私にしたい。あんたは完璧主義だからどうせ明日昼寝しない。私はアルトの体調が心配。すべてを解決するのが、ほれ。膝枕ってわけ」
「意味わかんないんだけど!?」
言いながら起き上がろうとするアルトを元の位置に戻しながら私はドヤ顔をする。
「膝枕って落ち着くでしょ?」
「いや急に話変えないでよ」
「変えてないよ。ねぇ、膝枕落ち着くでしょ?だから今日はこの体勢のまま、私に愚痴やらソラの自慢話やらをしなさいよ。それで眠くなったら寝ればいい。膝枕だもの。私の足を枕にしていいよ。で、頃合いを見て私があんたを起こして部屋に帰るの。どう?」
眠たくてまともに会話もできないアルトと無駄に時間を過ごすくらいなら、膝枕をしたほうが有意義だ。アルトが膝の上で寝てしまえば、私もそのまま寝ればいい。
布団の中じゃないから、寝心地は絶対に悪いでしょ。そうなれば朝が来る前には私たちのどちらかが目覚める。で、孤児院に帰るために目覚めていない方を起こすから、寝過ごす心配もない。
あ、ちなみに私はアルトがぐっすり眠れるように自分は眠らず起き続け、朝になったらアルトを起こしてあげる♡なーんて、献身的な心の持ち主じゃありません。
なんなら膝枕で眠らせた後、アルトは置き去りにして、一人で部屋に戻って寝ようかなとか考えてるような人間です。まあこの案もアルトが寝ないことにははじまらないんだけど。
「だからさっさと私の膝の上で寝ろ」
「いや、だからってなにが?別に僕は眠らなくても大丈……」
「大好きなお兄様が膝枕してあげたら、ソラ喜ぶと思うけど?」
「…え?」
アルトの耳がぴくぴくっと動いた。
ふっ。思った通りだ、ひっかかったな。
私はアルトの耳に顔を近づけて囁く。
「いい機会じゃない。私から、膝枕の技術をぬすめば?」
「たしかに、いいかも……じゃなくて!君、話を変えようとしたって……」
チッ。敵はそう簡単に落ちないものだ。
私はあきらめて最後の手を使うことにした。
「いいから、膝枕をやめ…」
「はいはい。で、今日のソラはどこがかわいかったの?」
「……すべて」
「はい。具体的には?」
「一番かわいかったところは、髪の毛だね。寝癖がなおらなくて……」
名付けて、ソラのことに集中させてしまおう作戦だ。
アルトの脳内の9割を占めるソラへの愛を利用させていただいた。
ソラの話をふれば、アルトの意識はすぐにそちらへ集中する。ソラのことしか考えられなくなる。
現にアルトは今私の膝の上だというのに、気にすることなくつらつらと今日のかわいかったソラのしぐさなどを語っている。コツさえ掴めば、ちょろいことちょろいこと。
さて、それから数分後。
アルトはころっと眠りに落ちた。
今度からアルトの名前チョロトとでいいんじゃない?
と冗談はさておき、私も寝ようかなぁと私は瞼を閉じた。が、すぐに開いた。
「……やべ」
誤算が生じたのだ。
なんとあんなに寝ることが大好きだった私は、夜更かしをする習慣ができてしまったせいで、この時間帯、まったく眠くならなくなってしまったのだ!オウ、ノー!!
えーどうしよう~とほんの少し悩むが、悩んだところで答えは出ない。
寝るのは諦めて私は熟睡中のアルトの顔を観察することにした。
「いつもはアルトの顔なんてまじまじと見れないからね~。うわ、まつ毛なっがー。なんだこいつ」
目を閉じているから長いまつ毛がしっかりと見える。
まつ毛を触りたい衝動に駆れるが、触れては起こしてしまう可能性もあるため、うん。我慢する。
普段は私たちの何倍も大人に見えるその顔は、眠っているからだろうか、あどけなく年相応に見えた。
やれやれとため息をつく。
「こうして私の膝の上でおとなしく寝ていれば、アルトもかわいいのに」
アルトの頭を撫でると、彼は少し恥ずかしそうにもぞもぞ動いた。眠っているから意識はないはずなのに、おもしろー。
「それにしても。髪の毛やわらかいのね~」
銀色の髪はふわふわのサラサラだ。
ちょっと感慨深いよね。
アルトが私に膝枕されて寝ているなんて。初めてアルトと対面したときは、まさか夜中にソラの自慢話を聞く関係になるなんて思いもしなかった。
これは、私の友情パワーでアルトが少し変わったってことだよね!と喜びたいところだが…私はアルトの友達ではないそうで。つまり今の私は自称友人ってわけなんですよー。ケッ。
実は2日前、アルトに聞いたのだ。私たち友達だよね?って。そしたらアルトなんて言ったと思う?
無言ですよ、無言。なにも言わずに鼻で笑われた。
くっそぉ!あいつ、私以外に(自称)友達いないくせにぃ!!
地団太踏もうとしたところで、ふと、気づいた。
…もしかしてアルトは、ソラの話や愚痴を聞いてくれる友達さえいれば、悪役にはならないのでは?と。
私の中でふわっと沸き上がった考えは、段々としっかりとした形を持ち始め、そして確証へと変わる。
そうだよ。友達さえいれば、悪役にならないよ!
現にアルトは私と夜話すようになってから、私のことをあまりにらまなくなり、前まではどこか壁があった孤児院の子たちに対しても優しくなった気がする。
ゲームの中ではアルトに友達はいなかった。
もちろんとりまきやアルトに惚れた女子生徒軍団はいたが、ソラを除けば、彼はいつも一人ぼっちだった。
だからアルトは一人でヒロインをいじめた。そりゃあ手下とか女子生徒とかは利用したけど、彼らはあくまで彼にとっての駒でしかなく、彼は結局、一人で私をいじめていた。私と戦った。
他の悪役の子たちは、少なくとも一人では戦わなかった。自分の恋路を邪魔するヒロインに不満を持つ仲間を集めたり、友達と一緒に私をいじめたり、そんな感じだ。
だから私は安未果だったとき、どうしてアルトは仲間を集めないのか不思議だった。
自分はブラコンだ!と暴露しないにしても、ゲーム内では王子ということもあり人望があったアルトだ。
「大切な弟が、悪い女にだまされていて、どうしたら…」と言えば、兄弟想いの味方を得ることは容易だったに違いない。
でも彼は自分の気持ちは明かさずに、「リディアが君たちのこと不細工だって言ってたよ?大丈夫?」的な感じで、そりゃあもう、言葉巧みに生徒たちをマインドコントロールしてヒロインをいじめたのですよ、ええ。コノヤロー。
まあ、結局私が何を言いたいのかと言うと、アルトという人間はひどくめんどうくさいやつだということだ。
つまり彼は、たぶん、不器用なのだ。
上辺だけで相手に取り入ることはうまいけど、自分の本心を伝えようと、動こうとすると、うまくいかない。うまくできない。
この前愚痴を聞く日を1日置きに決めたときだってそうだ。
帰り道、アルトは私が来るのをめずらしく待っていた。いつもならさっさと私を置いて帰ってしまうのに。でもあのあと、私は考えたのよ。アルトは今まで、ほんとうに私を置いて帰っていたっけ?って。
そしたらあの日以前にも、帰宅するときは必ず一緒に孤児院に戻っていたことに気づいた。
アルト自身がまだまだ話足りないという雰囲気を出していたこともあり、特に何も思っていなかったのだが、もしかしたら帰路の途中で危険なものに遭遇しないよう、私を守るために一緒に帰ってくれていたのかもしれない。
それだけじゃあない。
私のことを外套でぐるぐる巻きにしてから森へ行くのだってそうだ。
アルトの愚痴を聞く日。孤児院を出る前に、必ず私はアルトの持っているマントで体をぐるぐる巻きにされる。これはいじめかと問えば、アルトに鼻で笑われた。
「君をいじめる時間があるのならソラを眺めているよ。万が一君と一緒に孤児院を抜け出しているところをソラに見られて誤解されたら困るから変装してるだけ」と。私を顔までぐるぐる巻きにしてさ。
だったら自分がぐるぐる巻きになれよと思ったが、これのおかげで私はいつもアルトの愚痴を聞くとき寒い思いをしていない。
春とはいえ、この季節だ。夜になると冷える。私の持っている外套は春用の薄手のものなので夜の寒さなんて乗り切れない。
一方のアルトの外套はさすが王子、ぼろそうな見た目に反してそれは分厚くて暖かい。ぐるぐる巻きにされている以上、ぬぐこともできず私は今も彼のマントを羽織っているわけなのだが。もしアルトが私のことを気遣って、外套でぐるぐる巻きにしているのだとしたら?
考えすぎかもしれないが、もしこれらが全部、アルトなりの、大嫌いな私を気遣う本心からのやさしさなのだとしたら、こう湧き上がってくるよね。
怒りが。
だって、ものすごく、わかりづらい。
気づけるはずがないじゃない。
私はアルトとここ最近、親しく?おしゃべりしたり、脅し脅され合ったから気づけただけで、アルトの不器用な優しさなんか、普通の何の関わりもない人が気付けるはずないのだ。
それは本編に出てくる学園の生徒たちはもちろん、ヒロインやソラだって、「いつ君」を実際にプレイしていた安未果のようなプレイヤーだって気づけるわけがない。
つまり私は何が言いたいのかと言うと、アルトは不器用で意外とやさしいやつだから、ゲーム本編では一人でヒロインをいじめたんじゃないのかってこと。
だって自分のためを思ってヒロインをいじめてくれる、そんなやさしい友達の手は汚させたくないでしょ?いじめていたのがばれたら、自分といっしょにどんな罰が与えられるかわからないし。
だからといって、友達じゃない生徒たちはマインドコントロールして、ヒロインをいじめさせてもオッケ~とはならないけどね。
まあとにかく、私はアルトが不器用な友達想いだから、友達を作らないで一人で戦ったんじゃないかって思っている。
たぶんアルトは自分の身内は、絶対に守る人間だ。
そのかわり身内じゃない人間に対しての対応がおそろしいけど。もっと言えば憎い相手に対しての攻撃とかね。えげつないよぉ。
だから私は考えた。
アルトに友達ができればいいんじゃないの?って。
友達さえできれば、アルトはその友達にソラの自慢話から私への愚痴まで、すべて話すことができてストレスがたまらない。
そしてなにより、友達ができれば迷惑をかけないように、本編でのヒロインいじめをやめるでしょ?
アルトの悪いところを諫め、導いてくれるような友達をこの孤児院で、私が見つけてあげればいいのだ!さながら気持ちはお見合いの世話役だ。
そうと決まれば、早速行動に移すのみ!
「安心して、アルト!私があんたに最高の友達をつくってあげるわ!」
まあ私がアルトの友達になってもいいのだが、おそらく彼は私が友達なんて嫌でしょう。だから私がアルトに友達を作ってあげる。
私は眠っているアルトに笑いかけた。
のだが、
「あれー?」
なぜだろう。こころなしか、眠るアルトの眉間にしわがよっていた気がした。
だが気のせいだったようだ。瞬きをして私が再び目を開けたときにはもう、アルトの眉間にはしわがなかった。すやすや子供らしい顔で眠っている。
それでもちょっとだけ気のせいじゃないような気がしたが、まあいいやと切り替える。
アルトに友達ができれば万事解決なのだ。
よーし、友達つくるぞー!
エイエイオー!
だがしかし。
よく聞く、人生はそんなに甘くないという言葉。
その言葉の意味を身をもって知ることになったのは、翌日のことだった。