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憑依先は落ちこぼれ3

 

 今回受けたのは魔蓄植物という、読んで字のごとく魔力を体内で貯める植物の採取。この植物は魔力が枯渇した時に噛んだり飲み込んだりすることで、微量ながら魔力を回復できる特性を持つらしい(クラフト知識)


 北の門からほど近い山中に二人の足音が響く。

 マルコムが先頭を歩き、俺がそれについて行く。


 魔蓄植物は地球でいうところのタンポポとか、ぺんぺん草みたくどこにでも生えている草であるが、なぜか人が住まう場所の中には生えてこない。


 なので、採取するには門から出て魔物が住まう王国の外へと出なければならず、多少の危険が伴うため、ギルドの下っ端が主に採取に当たっているというわけだ。


「今日は袋いっぱい採るまで頑張ろうぜ」


 と、上機嫌でマルコムは歩いてゆく。


「何度か任務を受けてますが、俺たちまだ魔物と遭遇してませんね」


「そうだな。まあこの辺は星1〜2の奴らが駆除に当たってるだろうし、根絶やしになってるかもな」


「遭遇したらマルコムさんお願いしますよ」


「やだよ面倒くさい」


 出発から――いや、クラフトの記憶を遡ってみても、出会ってからずっとこんな調子で、マルコムはただの一度も魔法すら見せてくれない。


 クラフト()と一緒で訳ありなのか?


 とはいえ彼はヨハンの取り巻きたちや家族のようにクラフトを見下したりはしていないようだ。それは記憶を辿るまでもなく、話している雰囲気からしても明らかだった。


「――学校どうだ、楽しいか?」


 唐突にマルコムがそう聞いてくる。


 ただ興味本位で聞いている声色ではなく、どこかクラフトの学校内事情を知っているようなものに聞こえた。


「楽しくないですよ。英雄候補の腰巾着ですし、腰巾着達にもよく思われてませんから」


 クラフトの感情に従って答える。


「そうか。まあ俺と似たようなもんだな。俺は孤立してる分、気が楽だけどな」


 いじめられっ子とぼっちか。


 クラフトもそうだが、マルコムなんてかなりの美青年に見えるけど――この世界の〝価値〟は容姿にあらず……という事かもしれない。


 由緒ある家柄のクラフトさえ、魔法使いとしての欠陥があるだけでいじめられる世界だもんな。


「……お互い理由は伏せておきましょう」


「……だな」


 傷の舐め合いほど虚しいものはない。

 俺たちは暗い雰囲気のまま、黙々と植物を採取した。





 魔蓄草を集め終え、

 そろそろ帰ろうかという時だった。


 先の道から人が走ってくるのが見えた。

 額には汗をかき、しきりに後ろを振り返っている。


 少し太った男性。

 大きなリュックを背負っている。


「おいあれ、」

「あああすまん!! 魔物に追われているんだ!!」


 マルコムの声を遮るように、

 男性は焦ったような声で叫んだ。


 獣のものと思しき荒い吐息が聞こえる。


 足音が近付いてくる。


「やべえな、カエ・ウルフじゃねえか」


 目を見開きながらマルコムがそう呟いた。


 男を追うかたちで俺たちの前に現れたのは、狼とハイエナが合体したような四足歩行の魔物。


 牙と鉤爪が鋭い――襲われたらひとたまりもない。


 カエ・ウルフは一頭だけだが数で劣っても関係ないようで、凄まじい速度で襲いかかってくる。


「クラフト、おっさん連れて逃げとけ」


「え! でも、」


「お前は攻撃使えないだろうが。任せとけ」


 そう言い、乱暴に俺を後ろに下がらせる。

 あんなに討伐系を嫌がってたのに、この人――


「ごめんなぁ、まさか人がいるなんて……」


「とりあえず俺の後ろへ!」


 おじさんを庇うような体制のまま、

 俺は意識を右手に集中させていく。


 風を集めるイメージ、

 風を集めるイメージ、


「危ない!!」


 おじさんの絶叫がこだまする。


 魔物がマルコムに飛びかかる。


 そして次の瞬間、


 魔物の背中に〝黒い剣〟が生えた。





 カエ・ウルフの耳を無言で切り落とすマルコム。

 その背中はどこか寂しげに見える。


「見たろ、あれが俺の魔法だよ」


 彼は少し自嘲の笑みを浮かべた。


 その様子から察するに、どうやら俺に自分の魔法を見せたくなかったように思えるが――なぜだろうか。


「闇属性ですか?」


「だと思うだろ。でも違うんだ」


 マルコムは右手を突き出し、魔力を込める。

 塵が集まるようにして形成されたのは、先ほどの黒い剣。


 闇属性特有の黒色に思えるが、どこかそれは〝物質〟っぽく、モヤのようにそこに有るのではなく、ずっしりと重みがあるように思えた。


 そしてなにか懐かしい香りがするな――


「ああ、助けてくれてありがとう。本当になんでお礼を言ったらいいか……」


 おじさんが申し訳なさそうに声をかけてくる。


 マルコムが手を離すような仕草をすると、

 その黒い剣は粉々になり霧散していく。


「なぁに、困った時はお互い様だろ」


 そう言って、マルコムはニッと笑ってみせた。

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Frontier World ―召喚士として活動中―
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