消えた君へ
君へ、僕たち二人が初めて出会った夕焼けの綺麗な山頂で、僕はいつまでも待っています.はじまりは僕の一目惚れで、誰もいない山頂で君は泣いていました。横顔から見える君の泣き顔に心を打たれた僕は、何も考えずに話かけてしまいました、今思えば頭の悪い行動だと思いますが、それが君と僕とを繋げるきっかけになったのだと思うと後悔は一切ありません。
「大丈夫ですか?」ふと口から出てきてしまったその言葉は、女性を口説くにしては、声が震えていてかなりカッコ悪かったものと思います。突然話しかけられた君は、言葉を返すでもなく、ただ微笑み返すだけで相当困惑していたかのように見えました。
その微笑みにまた笑顔で返した僕も僕でしたが、その日は気まずくなって、半ば逃げるようにして家に帰ったのを覚えています。その後自分の顔が赤くなっていたのも。
雨の降らない日は毎日山頂に通って君が来ないかと期待しました。
一か月経ち、やっとのことで君と再会することができたときは、嬉しすぎて気持ちの悪い顔をしていたに違いありません。それでも一か月も待ち続けていたため、聞きたかったことは多く考えていました。
マンガが大好きで、音楽はJ-popをよく聴くと言っていましたね。
「なんで山頂に来ているんですか?」初めて出会ったときは一目惚れのせいもあって、気にも止めなかったことも質問しました。
「ここでボーっとしてると、自分がなんでもできるような、そんな気がするから」そう言った君の悲しそうな表情を見た僕は、どうと返すこともなく、ただ夕焼けに顔をそむけて沈黙に徹しました。
「次に来るのはいつ?」初めての君からの問いです。今までは僕ばかり積極的に質問をしていたので、優しい君のことです、僕に気を使ってくれたのだと思います。
「僕はいつでも来られるよ、家が近いから」そんな普通の返しに、君は真剣に考えてくれて。
「じゃあ、また一か月後会おっか」君からの提案に僕は喜んで同意しました。
なにせ定期的に好きな人に会えるわけですからね。
それから3か月が経って、季節は冬です。
一か月に一度会うということにも慣れてきた僕は距離を詰めるために、一緒にどこかに出かけないかとデートのお誘いをしました。もちろん心臓はバクバク音を立てていました。
「ふふ、いいね」そのときの可愛く笑う君を今すぐ思い出せと言われると、惚れ直してしまいそうなのでやめておきます。
初めてのデート、当然僕は緊張していました。
駅前で君を待つ僕は、他人の目からしてみれば不審者じみたものだったでしょう。
まだかまだかと待っていましたが、とうとう君は来ませんでした。
夕方、急いで山頂に向かいました、もしかしたら君がそこにいるかもと。
結局、君はどこにもいませんでした。お気に入りの靴が擦り切れるほどに、必死で探したのに。
いつかまた会える、そう信じて、僕はずっとここで待っています。
あなたと出会った秋はもちろん、雪の降る冬の夜でも、暖かな風の吹く春の夕方にも、一日中暑い夏の昼も。
こうして手紙を書いて、ここに置いておきます。
僕より
手紙を置いて、綺麗な夕焼けを眺める。
気が付けばいつも涙が流れて、ここで過ごす時間も長いものに感じられる。
彼女に出会えて、自分は変われた。
でも彼女は……。
そう思うと止まったはずの涙がまた流れ出す。
まぶたから落ちてくる感情の塊に、自分のこころの弱さがはっきりと映し出されているようだった。
「大丈夫ですか?」後ろから震え声で聞こえてきたその声。
なにも知らない女性に心配された自分は苦笑いを返すしかできなかった。
女性もすぐに帰ってしまったし。
それから、あの場所で人に会うことを恐れた自分は、日課にしてあった山頂への登頂をやめた。
ただ、その浅はかな抵抗も一か月に一度登頂するということでまとまってしまった、自分の弱さはこういうところなのだと痛感する。
一か月後登頂すると、山頂には先客がいた。
あの時の女性だ。
その時、やっと理解ができた。
なら、自分はこの運命を受け止めるしかないのだろう。
―それが君に学んだ唯一のことだ―




