006
次に試すのは『結界術』だ。
とりあえず自分を囲う壁を意識して使ってみる。
これまたするりと何かが抜けていくような感覚がした。
おそらくは成功したのだろう。
だがなぜか何も変わっているように見えない。
試しに手を伸ばしてみると、指先に何かが当たったような感覚がした。
柔らかいような硬いような、よくわからない感覚。
どちらかと言えば柔らかく押し戻されるような感じだ。
そのまま少しづつ手を伸ばしていくと、ある一定からは強い抵抗を感じて進めなくなった。
おそらくこれが結界というやつであろう。
試しに力を入れて押してみる。するとある程度力を入れたところで何かが消える感覚とともに抵抗がなくなり、軽く前へとつんのめる。
たぶんこれが現在の結界の限界強度なのだろう。身を守るためにはなるべく早く熟練をあげて強度を確保するのは急務となった。
ついでなので結界をいろいろ操作できないか試してみることにした。
ぼんやりと見える白い幕のようなものをイメージしながら結界を発動すると、目の前に薄い壁のようなものが出来上がった。
成功したようだ。そのまま結界を移動できないか試してみるが、びくともしないところをみるとどうやら無理のようだ。設置型なのかもしくは熟練が低くてうまく動かせないのか。
とりあえず自分が動いて確かめることにする。
真横に移動してみたがまるで厚みが感じられない。試しに押してみると結界に触れたところで抵抗を感じ始め、そのままゆっくりと手が沈んでゆく。反対側からは手が出ているような痕跡はない。そのまま手首まで沈んだところで止まった。
何というか真横から見ると手首から先が消えているように見える。おそらく空間に作用する魔法なのだろう。
今度はそのまま数歩ずつ下がってみる。
すると1mを超えたあたりで結界がすうっと消えた。
元の結界があった場所に戻って手を伸ばすが、まるで何の抵抗も感じない。
おそらく有効範囲を出たことで消えてしまったのだろう。
とりあえず結界がどういうものなのかはわかった。
次は『召喚術』だ。
念じると1冊の本がどこからともなく現れた。
黒の皮で装丁され、角には金の縁取りが施されている。中央やや上には紫色の宝石が怪しく輝いており、それを囲うように銀の線が絡み合うような模様が施されている様は、いかにも魔道書と言いたげだ。
表紙を開いてみるとどのページも真っ白で何も書かれていない。おそらく魔獣から取り出した魔石を呑みこませることで何かしらの変化があるのだろう。
消えるように念じると現れた時と同様にどこへともなく消えていった。
そして『錬金術』。
足元にあった白っぽい石を手に取り、『分解』と念じてみる。
するとぬるりという効果音が聞こえてきそうな様子でいくつかの塊に分かれた。
それぞれ色が違い、おそらくこれらが元石を構成していた物質に含まれていたものだろう。
今度は『合成』と念じてみるが、手のひらの上にあったのは先ほどとは違う赤茶げた色をしていた。おそらく合成により均等に物質が混ざり合ったため、初めとは違う構成になってしまったのだろう。
後は『鍛冶術』も試してみたいが、現状では道具も設備もないためできそうにない。
『超回復』に至ってはさすがに自分を切りつけるような度胸もないため見送った。そのうちけがをしたときにでもわかるだろう。
というわけで最後に残った地図を見てみることにする。
それによると大雑把ではあるが周囲の大体の地形が描かれており、丁寧なことに現在地とおもしき場所に印がうってあった。
現在地は林の中へ少し入った場所であり、実際木々の隙間から草原が見えていた。そして草原に出て東へ行ったところには町が描かれている。
町の名はセリューと言うらしい。『世界知識』から検索するとどうやらヴュルデ王国という国の南方に位置する町であることが分かった。
年中温暖で周囲の魔物も比較的弱いため割と栄えた町であるらしい。
とりあえず行き先が決まったため俺は草原に向かって歩き出した。