商人になります
少し短めです
翌朝、結界の中を確認するとすでに動く存在があったので確認するとこんなのだった。
――――――――――――――――――――――――
アーススライム
茶色の不定形粘液生命体。
危険が近づくと石のように固くなる。
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
メタルスライム
鈍色の不定形粘液生命体。
危険が近づくと金属のように固くなる。
――――――――――――――――――――――――
さすが安定のスライム。
魔力が濃いところならどこでも発生するな。
他はまだ魔物化していないが、素材としては十分なほどに魔力を含んでいる。
スライムはさっくり……とはいかなかったが倒して、減った分の魔力を結界に注ぎなおす。
さすがに固いだけあってグラインダーソードを使う羽目になった。
地属性スライムは他のスライムみたいに液体状にならなかったので、魔石を取り出すのは一苦労だ。
――――――――――――――――――――――――
アーススライム
Ⅲ等級
茶色のスライム。
普段は液体状だが死ぬと固まって魔力石になる。
齢経た物は体表から魔晶石を生やす。
土属性魔法を使う。
スキル
【土属性:1】【体当たり:2】【消化吸収:3】【環境適応:3】
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
メタルスライム
Ⅲ等級
鈍色のスライム。
普段は液体状だが死ぬと固まって魔鉄になる。
土属性魔法を使う。
スキル
【土属性:2】【体当たり:2】【消化吸収:3】【環境適応:3】
――――――――――――――――――――――――
他の素材が魔物化するにはもう少しかかりそうなので先に商業ギルドへ行くことにしよう。
外に出ると空はどんよりと曇っていた。
昼ごろには雨が降り出しそうだ。
この街に来てから晴れの日が続いていたため気にしていなかったが、冒険をするなら当然雨具も必要なことを忘れていた。
街ゆく人もいつもより少なく、皆厚手のコートを羽織っている。
こちらの雨具というとコートが一般的なようだが、それでは大雨には対処できなさそうだ。
自然と屋根のあるところに人が集まるため、通りは閑散としているように見える。
おかげで銀鎧を着こんでいる俺は非常に目立っていた。
コートを買うために衣料品店に寄ったため、商業ギルドに来るころにはいい時間になっていた。
商業ギルドは冒険者ギルドの斜向かい、ちょうど南大通りと東大通りがぶつかる角にあるため、衣料品店によると遠回りをする羽目になる。
それでも雨が降り出す前には雨具をそろえておきたかったので先に衣料品店に向かったが、バレンから魔石を買うために再び南大通りに向かう羽目になるのは後のことである。
商業ギルドの入り口をくぐると銀行のロビーを思わせる造りで、数人の受け付けがいる以外はシンと静まり返っていた。
受け付けの上には「簡易受付」と書かれており、その横には「本受付入り口」と書かれた扉がある。
どうやら本格的な取引は扉の奥で行うようだ。
カウンターで名前をつげると、連絡が行っていたようですぐに奥の本受付へと通された。
商人は情報が命と言われるように、ここでは情報がお金で取引されている。
そのため、他人に聞かれないように個人ブースで取引がされるようだ。
ブースには各扉ごとに番号が振られていて、受付であてがわれた部屋へと通されることになっている。
内部が静かなのはどうやら建物自体に『静音』の付与が施されているらしい。
受付でいわれた「36」と書かれた扉に入ると、そこで待っていたのは目を見張るような美しい女性だった。
銀の長髪に褐色の肌、そしてマリンブルーの瞳がこちらを値踏みするように見ている。
何より特徴的なのはその先のとがった長い耳だ。
ファンタジーではおなじみ、いわゆるダークエルフだ。
豊満な胸を支える体は華奢でスラリとしているが柳のようなしなやかさを合わせ持つ、芸術品のごとき美しさを醸し出している。
それをタイトな服装で包んでいるがゆえに体のラインが浮き出てなおさら美しい。
まるで美の女神が降臨しているかのような光景に見とれていると、その沈黙を破ったのは相手からだった。
「私を初めて見た者は同じような反応をするわね」
「特に若いものはそう」と目を細め、人差し指で唇をなぞるしぐさが妖艶さを醸し出す。
自身の容姿を知り、仕草が相手にどのような影響を与えるのか知ってその反応を楽しんでいるさまは、まさに獅子がウサギをいたぶるかの如く自信にあふれている。
思わずぐっと引き込まれそうになったが、わずかに残った理性が危険信号を放ったため正気に戻ることができた。
もしここが夜の町だったら迷わずルパンダイブをかましていただろう。
しかし、美しいバラに棘があるように、この女性に対して毒を感じ取ったのもまた事実。
それが警戒心を大幅に刺激する。
「へぇ、今のを躱すなんて。
なかなかやるじゃない」
先に答えを口にしたのもまた彼女だった。
「『魅了』の魔法よ。
もしそのまま掛かっていれば、ありもしない契約に手形を切っていたところだったのに」
「惜しいことをしたわ」などと平気で口にしている。
マジで何なんだこの女、と思う反面、正気に戻ることができてよかったと本気で思う。
そしてそんな相手とこれから話をすると思うと気が滅入ってきた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。
私が担当する相手に『魅了』を掛けるのは初めの一度だけだから」
「その保証は?」
「無いわね」
あっさりと白状するも、「商業ギルドの名に懸けて、信じてほしいと言う他ないわね」と続ける。
「もし掛かっていたら?」
「その時はほら、中には商談に『魅了』を使ってくる相手もいるわよってことでちょっとした授業料をもらうつもりだったわ」
「ね?」と両手を合わせ、首をかしげる仕草が実にあざとい。
しかもそれが天使の笑顔に見えてしまうものだからたちが悪い。
「それよりもあなたでしょ、マギルが夢中で人形遊びしてるせいで業務が滞ってるんだから」
いかにも「怒ってます」というように腰に手を当てて詰め寄ってくる。
「私にも頂戴!」
そう言って両手を差し出してくる。
まるでおもちゃをせがむ子供の用に。
あまりの気迫につい人形を渡してしまったのを責めるのは酷だろう。
当の本人は「わ~い!」と人形を抱きしめてくるくると回っている。
マジで何なんだ、この女性は。
もはやこちらのことなどそっちのけである。
さっそく人形を立たせようとうんうんうなっているが、人形は手足をバタつかせるだけだ。
あっさりと回路を通しているあたり只者ではなさそうだが。
こちらのそんな視線に気づいたのか、女性もようやく正気に戻ったようだ。
軽く咳払いしてごまかそうとしているあたり、どうやら素で忘れられていたらしい。
「初めまして、私がこの商業ギルドセリュー店のギルドマスターをしているアローネよ。
あなたのことはマギルから聞いているわ」
「優秀な開発者なんですってね」と繕うように言う。
ギルドマスターが直々に出てきたことに驚きつつも、こんなのがギルドマスターで大丈夫なんだろうかと心配になる。
人が集まるギルドは知識の積み重ねであるため、自然と長命種が要職に就くことが多い。
そういったものは齢経て精神が摩耗するものであるため、案外このダークエルフは若いのかもしれない。
「どうも初めまして、カナタです。
自分はただ師匠の残した資料を流用しているだけなので、優秀だなんてことはないですよ」
「そんな謙遜して。知識を生かせるのは優秀な証拠よ」
日本人の性でつい謙遜すると、相手はどうやら勤勉だと受け取ったらしい。
「それで商業ギルドへの登録だったわね。
手続きはできているから、あとはこちらに魔力を通してくれればカードが発行されるわ」
そう言って冒険者ギルドでも見たことのある魔道具を差し出してきた。
魔力を流すとカチリとカードが外れて文字が浮かび上がる。
カードに魔力を流すと金貨袋の紋様が緑色に発光しながら浮かび上がったので問題なく登録できたようだ。
ランクはFとなっていて、これで今日から駆け出し商人だ。
「問題なく登録されてるわね。
さっそくで悪いけど今月の会員料、小銀貨3枚支払ってもらえるかしら?
なければ2ヶ月まで滞納できるわよ。
3ヶ月たっても支払われないと登録が抹消されるから注意してね」
ということなので素直に小銀貨3枚を渡す。
「これであなたも立派な商人よ。
しっかり稼いできてね」
そう言って見送られながら商業ギルドを後にしたのだった。
アローネは設定段階ではもっとクールなはずだったのに
どうしてこうなった……orz




