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ランクア~ップ!


手持無沙汰になったので回復薬でも作ろうかと思う。

【超回復】のおかげで普通の傷なら瞬時に治ってしまうが、骨折や深い怪我なんかは治るのに時間がかかるかもしれない。

緊急時の回復手段は残しておくべきだと思う。

一般的な調薬は薬草を磨り潰して煎じるのが普通だがここは【錬金術】を使って作ることにする。

昼間に薬屋に寄った時にいろいろ見てみたが、どれもが効果が乏しく民間療法程度の効果しかなかった。

そのくらいなら超回復ですぐに治ってしまうので自分には意味がないのだ。

今回欲しいのは深い傷も瞬時に直してしまうレベルのものなので、一般的な方法では作ることができない。

といっても作り方は簡単。

製作の工程すべてに魔力を込めるだけだからだ。

錬金術とは『魔力ありき』の術なので、基本工程からすべてを魔力を通して行う。

その際に素材が魔力を取り込んでより強い効果を発揮するようになるわけだ。



というわけで結界を展開して内部を魔力で満たして制作環境を整えた。

さらに魔力を込めながらクラシオン草を磨り潰し、魔力を込めた水に溶かして加熱する。

後はきれいな布で不純物を濾しとり、土魔法で作ったガラスの瓶に入れて完成。



――――――――――――――――――――――――

体力ポーション


切り傷程度なら瞬時に回復する魔法薬。

患部にかけても効果があるが飲んだ方が効果が高い。

苦いので飲む人は少ない。

――――――――――――――――――――――――



通常なら『傷薬』になるところを錬金術で作ったため、格段に効果の高い魔法薬である『体力ポーション』が出来上がった。

世に出せば『秘薬』と呼ばれるレベルで白金貨で取引されるような代物であるが、当分は自分だけで使う予定である。

好き好んで厄介ごとに首を突っ込むつもりはない。


なお、前時代のころは部位欠損さえ瞬時に直す『ネクタル』と呼ばれる秘薬があったそうだが、こちらは残念ながら材料の関係で作ることはできない。

いつかは再現してみたいと思う。

とりあえず予備も含めて100本ほど作っておく。



作業が終わるころにはゴブリンたちも製作を終えていた。

10着ある麻の服は出来栄えもよく、当分の着替えの問題も片付いた。

となればセリューですることはそれほど多くない。

討伐依頼はEランクからなので効率よく魔石を集めるには冒険者ランクを上げなければならない。

ならばすることは簡単。

ゴブリンたちを総動員して薬草採集です。



あちこちへ散ったゴブリンたちが薬草をもって集ってくる。

その数ざっと2,000本近く。

大半はFランクのクラシオン草だが、中にはソードリーフやFランク以上の薬草も混ざっている。

これだけあれば問題なくランクアップできるだろう。

さすがに今日は深夜を過ぎているため結界の中にテントを張って寝る。

護衛にゴブリンを5体ほど警備につかせておく。

もしゴブリンを倒すほど強い敵がきたならパスを通してすぐに分かるだろう。







翌朝、何事もなく起きてテントをたたんだ。

今日はランクアップの日だ。

少しわくわくしながらロックボアに乗って爆進する。

途中で哀れなホーンラビットを轢いたので回収。

門に近づくころには人通りが出てくるので、ロックボアを送り返して何事もなかったかのように歩いて町に入った。


ギルドに入ると二階から結構な話し声が聞こえる。

今日は冒険者たちが多いらしい。

少しでもいい依頼をとるために早くからスタンバイしているのだろう。

それをしり目に買取カウンターへと歩いてゆく。


「買取お願いします~」


「かしこまりました。

それではこちらの籠に入れてください」


そう言って差し出された籠にクラシオン草を入れていく。

ざっと1,000本ほど。


今にもかごからこぼれそうなほどに山積みされた薬草に目を丸くした受付のお姉さんが慌てて追加の籠を用意してくれたので、そっちにも分けて入れる。


前回よりも鑑定に時間がかかった。

あれだけの量があれば当然か。

ようやく表に出てきたお姉さんがつかれたように言う。


「クラシオン草1,000本の納品を確認しました。

報酬は4,000Gになります。

ギルドカードはお持ちでしょうか」


そういわれたのでカードを差し出す。


「依頼50回分の達成となります。

前回と合わせて連続25回以上の依頼達成を確認しましたのでEランクへのランクアップが可能となります。

ランクアップの前に簡単な試験がありますがどうしますか?」


ということなのでもちろん、


「受けます」


「でしたらそちらから奥にある訓練場で試験官と話し、指示に従ってください」


そう言ってカウンターの隣にある扉を指す。


扉の向こうは廊下が続いていて、行き止まりにはひときわ丈夫そうな鉄製の扉が拵えられている。

廊下の途中には会議室と書かれた扉がいくつかあったが今は関係ないだろう。

鉄の扉をくぐると訓練する冒険者たちの掛け声が響く。

朝早いにもかかわらずそれなりの数の冒険者たちが思い思いに訓練に励んでいる。

その一角に『試験場』と書かれたスペースがあった。

そのスペースだけ誰もいないことを確認してあたりを見回していると、不意に後ろから声をかけられた。


「よう、ランクアップ試験を受けるのはお前さんかい?」


振り向くといかにも冒険者然とした日に焼けた男が立っている。

同じ冒険者のカッツと比べてもがっしりとしていて、歴戦の勇士という風格がある。


「そうですが、よくわかりましたね」


「そりゃあそんだけもの珍しそうにきょろきょろしてりゃあ誰でもわかるさ」


そう言って肩をすくめる。

確かに自分以外は訓練しているか普通に休憩しているので初心者丸出しの自分はすぐに目につくだろう。


「俺はCランク冒険者のガインだ。

今回お前さんの試験官を務めることになった。

よろしくな」


「はい、よろしくお願いします」


頭を下げると、「そうかしこまらなくていい」と手を振って返された。


「Eランクへのランクアップということだから単純に戦闘能力を試させてもらう。

何、心配はいらん。

模擬試合でどれだけ動けるか、剣筋が通っているかを確認するだけだ。

負けたとしてもある程度の戦闘能力を確認できれば合格だからよほどのことがない限りはだれでも合格できるさ」


壁に掛けられている木剣を2振り取ると、片方をこちらへ差し出してきた。

受け取って握りを確かめながら数回振ってみる。

木剣は見た目以上にずっしりとしていて、中に鉄の芯か何かが入っているようだ。

自分の持っているロングソードと同じくらいの重さだったので実際の剣を想定しているのだろう。

それを確認してガインが構えをとる。


「さぁ、いつでも打ち込んできていいぞ」


逡巡しながらも構えをとって切りかかる。

考えていたのはどこまで実力を見せるかだ。

剣術のランクが3あればゴブリン程度ならやすやすと切り伏せられる。

だが今回求められてるのはランクEのモンスター、ホーンラビットなどと戦って勝てる程度の戦闘力なので全力を出す必要もない。


上段から袈裟懸けの攻撃は考え事をしていたこともあり、あっさりと打ち払われてしまう。

代わりに返ってきたのは横薙ぎの切り払いだ。

ホーンラビットの攻撃を想定した一撃は大して早くなかったため、バックステップで余裕をもって躱した。

そこから踏み込んで一気に加速、体が開いているところを狙って8割ほどの力で切り込む。


驚いたことに全力には及ばずとも割と本気の一撃はいつの間にか体勢を立て直したガインによって防がれていた。

受けるところが見えなかったがあれが体術を使った結果だろうか。


驚いたのはガインも同じようで目を丸くしている。

もっともこちらは「素人にしては鋭い一撃だった」というただしがつくだろうが。


「ほう、今の一撃がまぐれでないことを見せてみろ、そうすれば合格だ!」


つばぜり合いから力づくで引きはがされ、大きくバックステップする。

そこからは出し惜しみなく怒涛の連撃の応酬が始まった。

もっともガインの方が一枚上手で涼しい顔で払い落としたり躱されたりしたが。

訓練していた冒険者たちもいつの間にか技の応酬に見入っている。





「よし、そこまで!」


都合3桁にもぼるかというほど打ち合い、ようやく解放された。

超回復のおかげで疲労はないがそれでも精神的には疲れる。

一方のガインは汗ひとつかいていないようだ。

そのうえ涼しい顔で、「久々に骨のある新人でついやりすぎちまった」なんて言っている。

この程度では準備運動にもならないようだ。

高ランク冒険者ってのはみんなこんな奴らばかりなのだろうか。


「新人でこれだけ打ち合えれば文句なしの合格だ。

Dランクでも余裕でやっていけるだろう」


とのお墨付きをもらった。

報告はしておいてもらえるそうなので、このまま買取カウンターでカードの更新をすれば晴れてEランク冒険者なんだそうだ。


そういえばとふと疑問に思っていたことを聞いてみる。


「そういえばガインさんは何でこの街にいたんですか?」


「ん? 何でってのは意図が分からねえな」


そう言って首をかしげる。


「いやほら、この街の冒険者ってだいたいDランク過ぎたあたりから他の町に出ていくじゃないですか」


「あぁ、そういうことか」と納得したように頷くガイン。


「確かに儲けが欲しくて出ていくやつらもいるがみんながみんなってわけじゃない。

他の町や村から来たやつらなんかは宿代の支払いなんかで精いっぱいだが、元からこの街出身のやつらは自分の家があるからな。

その分を生活費なんかに回せるんだ」


「それにこの街にも愛着があるからな。俺達まで居なくなって高ランク依頼を受けるやつがいなくなったら治安が悪化しちまう」と、そう付け加える。


「なるほど、よくわかりました」


どうやらこの町を思ってのことらしい。

それなら納得だ。


「それじゃあ俺は先に行って報告しておくからな」


そう言って去っていくガインの背中に向けて「ありがとうございました!」と頭を下げる。

ガインは後ろ手に手を上げるとそのまま扉の向こうへと消えた。






受付で手続きをすると、Eランクと書かれたカードを渡される。

これで今日から自分もEランク冒険者だ。

カードを渡されるときに受付のお姉さんから「ずいぶんとガインさんに気に入られたようですね」なんて言われた。

男に好かれるような趣味はないが高ランク冒険者との人脈ができたのは素直にうれしい。

彼はこの街を中心に依頼を受けているそうなので、何かあったら頼ることにしよう。

せっかくなのでEランクの依頼を見に行ってみる。



―― ベルニンジンの採集 ――

風邪薬の材料になるベルニンジンを10株採集してきてください。


注意:類似のドクニンジンに注意。


期限  常時受け付け

報酬  160G


―― ベルキャットの採集 ――

解毒薬の材料になるベルキャットの葉を20株分採集してきてください。


期限  常時受け付け

報酬  200G


―― ホーンラビットの角の納品 ――

工芸品に使うホーンラビットの角を納品してください。


期限  常時受け付け

報酬  1本40G (5本目から1本30G)


―― ホーンラビットの皮の納品 ――

工芸品に使うホーンラビットの皮を納品してください。


注意:品質によっては買取できません


期限  常時受け付け

報酬  1枚70G


―― ホーンラビットの肉の納品 ――

食用のホーンラビットの肉を納品してください。


期限  常時受け付け

報酬  1体120G (3体目から1体100G)


―― ミニラットの討伐 ――

畑の作物を荒らすミニラットを討伐してくれ。


期限  いなくなるまで

報酬  1体25G




このランクから討伐や町から離れた場所での依頼が出てくる。

冒険者としてはようやく駆け出しというところだろうか。

ランクに対して報酬はそれほど多くない。

せいぜい1割増しってとこだろうな。

ホーンラビットの報酬が高いように見えるが、こいつらは膝丈くらいまでの大きさがある。

1体当たりの重さにしたら40㎏相当だろうか。

魔物であるため普通のウサギよりもでかいのだ。

おまけにこちらの人のアイテムボックスはそれほど多くない。

背負い袋一つ分くらいが標準なので、どんなに頑張っても2体分しか持ち帰ることができないのだ。

角や皮だけならそれなりに持ち帰れるが、やはり倒したからには丸ごと持ち帰りたい心情が働くため、必然的に報酬も少なくなる。

中には効率だけを求めて角や皮だけを乱獲する者たちもいるが、そういう者たちはごく少数だ。

肉を放置すると他の魔物の餌となり、結果的に魔物の繁殖を促す。

たとえ埋めたとしてもオオカミ系の魔物なら掘り返すし、完全に処理するには燃やして灰にしてしまうしかない。

しかし効率を求めるものはその処理をしないものが多いため嫌われているのだ。



結局のところランクが上がっても報酬が劇的に増えるわけではないというわけだ。

ここら辺がこの街の冒険者離れの原因ともいえる。







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