冒険者登録をします
復帰しました~
ゴブリンたちをすべて送還して馬車に乗り込む。
護衛二人は荷台に、俺は御者席に一緒に乗ることになった。
セリューに向かう道すがら商人と話をする。
バーゲルはセリューに店を構える商人で主に食料品を扱うという。
2日ほど離れた村に仕入れに行っていた帰りを盗賊に狙われたそうだ。
今回仕入れたのは小麦と酒だったが、馬車から投げ出されたときにほとんどの酒の甕が割れてしまい、酒のかかった小麦も一部ダメになってしまったという。
どうやら盗賊たちは食料と酒を狙っていたらしい。
毎回盗賊に狙われるのかと聞いてみたところ、普段は護衛をつけた馬車はよっぽど狙わないという。
どうも最近になって盗賊が活発に活動するようになったそうだ。
領主軍も見回りをしているが、練度の問題でうまく捕まえることができず、後手に回っているらしい。
周辺に強い魔物がいないことから熟練の冒険者も不足しており、一層戦力の低下に拍車をかけているという。
かといって護衛を増やそうにも収支に見合わずこれ以上増やすこともできない。
護衛が少なければ盗賊に狙われるという悪循環が出来上がりつつあるようだ。
幸いなことに村を狙う様子はないが、それも時間の問題だろう。
「それよりあんた、さっきの術といい結構腕が立つようだが何ものなんだい?」
そのうち聞かれるとは思っていたがここは素直に答えておこう。
と言っても全部話すつもりはないが。
話せるのは『召喚術』と街道にいた理由だ。
まさか「転生してこの世界にやってきました」なんて言うわけにもいくまい。
とりあえずは森を行く道すがら考えておいた経歴を話しておくことにする。
「自分はただの魔術師ですよ。
いままで師匠の庵で研究の手伝いをする傍ら戦闘技術を磨いてきました」
「へぇ、その術はお師匠さんから学んだものなのかい?」
「そうです。
師匠は以前から魔物の能力を利用する方法を研究していました。
もともとは土魔法を得意とする魔術師だったのですが、土から作り出したゴーレムを使役するように魔物も使役できるようにならないかと思ったのがきっかけのようです」
「確かに今までも魔物を利用する方法を考えた者がいないではなかったんだが、うまくいかなかったと聞いているよ。
大体が失敗して魔物に殺されるか周囲に被害を出したという。
今では『教会』が正式に魔物を使役することを禁じて、もし見つかれば異端として拘束されるらしい。
研究することそのものが困難なはずなんだが、さっきのを見るに成功したのかい?」
そういって不思議そうにしている。
後ろの護衛二人も周囲を気にしながらこちらの話に耳をそばだてているようだ。
「いえ、結果としては成功していませんね。
どうやら魔物は人間に対して攻撃する習性があるようで、たとえ普段はおとなしい草食の魔物でさえ例外ではありません。
どうやら人間の持つ魔力が原因というところまでは分かったんですがね」
「ふむ、だとするとさっきのは一体……」
顎に手を当てて首をひねる。
「結果から言ってしまえば先ほどのはゴーレム錬成の一種ですね。
目の前で消えるところを見たでしょう?
ゴーレムと同じように魔石を媒体にしているんですが、ゴーレムと違って土や岩でなく魔力で肉体が構成されているんです。
だから術をとくと魔力に戻るんですよ。
師匠は便宜的に『召喚術』と呼んでいます」
「ほほう、つまりゴーレムの一種だから使役できているというわけかい?」
「そういうことになります」
ほうほうと商人は面白そうに頷いた。
「ところで、そんな貴重な研究成果をこんなに簡単に話してしまっていいのだろうか?
すでに聞いておいてなんだが、もし私がうっかり他人に話してしまったり、悪用されるとは思わなかったのかい?」
「話が広がることに関しては問題ありません。
もともと世の中を便利になるようにと開発した魔術ですから。
ただ悪人に使用されるのは困りますね。
相手の戦力を増やすことになってしまいますから」
「そうですね。
私も『教会』に余計な目をつけられたくないですし、このまま黙っておくことにしましょう」
どうやら後ろの護衛たちも同意のようで、この話はここまでとなった。
そうこうしているうちにセリューの門が見えてきた。
門の前では入場を待つ人々の列がある。
数人の兵士が身分証や荷物のチェックをしているようだ。
列は次々と進み、すぐに自分たちの番になった。
3人は手のひらサイズのカードを出して確認してもらっている。
自分のところにも兵士がやってきて確認する。
「カードはどうした?」
「ありません。町に来るのはこれが初めてで」
「ふむ、村から出てきたならカードがないのは分かるが確認はさせてもらうぞ。
そこを通って詰め所に行くように」
そういって門を入ってすぐのところ、城壁内に作られた通路を指さす。
頷いて馬車を降りようとするとバーゲルから声がかかった。
「ちょっと待ってください、助けてもらったお礼に通行料は私が出しますよ」
そう言って懐から大銅貨2枚を取り出す。
初めは受け取らない、と言ったのだが、恩に報いないのは商人の道に反するといわれて仕方なく受け取った。
護衛二人はこのままハーゲルと店まで行き、護衛完了の証明書をもらうそうだ。
「私の店は南大通りにありますので時間があるときにでも立ち寄ってください。
それでは、また」
そういって馬車を走らせ去っていく。
通路に入ると、一番手前の4畳ほどの小部屋に通された。
中央には宝石のような石がはまった台がある。
『真贋の瞳』と呼ばれる魔道具で、質問に対し嘘をこたえると赤に、正直に話せば白く光るという代物だそうだ。
古代に作られた魔道具の一つで、現在出回っているのは複製なんだそうな。
「その石に触れるように。
これから質問をするが正直にこたえることだ」
魔道具に手を当てると、兵士が前に立って質問をする。
「この街に来た理由は?」
「冒険者ギルドに登録するためです」
兵士は石が白く光ったのを確認して続ける。
「今までに犯罪をしたことはあるか?」
「ありません」
白。
「これから町に入って悪事を働く気はあるか?」
「いいえ」
白。
「よし、問題ないな。
通行料として50G払ってくれ、代わりに通行証を発行する」
さきほどもらった大銅貨を1枚渡す。
兵士は一度部屋を出ると、銅貨5枚と通行証を持ってきた。
「通行証の期限は明日の夕刻までだ。ギルドカードを持ってくれば通行証と引き換えに50G返してやるから忘れずに持ってくるように」
そういって手渡してくるのを受け取ってアイテムボックスへしまう。
ちなみに身分証にはステータスカードとギルドカードの2種類が存在する。
前者は『教会』で発行され、一般人が使用するもので各町へ移動するごとに通行料を払う必要がある。
後者は『商工会ギルド』『冒険者ギルド』が発行するもので、町の行き来が無料になる代わりに収入から一定額が引かれるというものだ。
どちらも魔道具で魔力を通すと紋様が浮かび上がる。
ステータスカードなら光の紋様、商工会ギルドは金貨袋、冒険者ギルドは剣と盾だ。
登録者本人の魔力にしか反応せず、犯罪を犯すと紋様が赤くなるため入場時の犯罪歴確認に使用される。
また専用の魔道具に通しても確認できるため、盗賊の討伐証明としても使える品だ。
ついでなので道中に倒した盗賊のカードを兵士に渡す。
盗賊退治は治安維持にもつながるため、兵士詰所にもっていけば少なからず褒賞がもらえる。
しばらく待っていると硬貨の入った袋を持った兵士が戻ってきた。
袋の中身は銀貨2枚に小銀貨7枚と大銅貨6枚。
盗賊1人あたり120Gってところだろうか。
盗賊とはいえ人ひとりの命が1200円とは何とも言えないものがある。
袋をさっさとしまうと、さっそく冒険者登録に行くことにする。
詰め所を出て門をくぐると町の中はまさに異世界というような光景だった。
道行く人々は背が高かったり低かったり、耳がとがっていたり動物の耳がついていたりと多種多様だ。
立ち並ぶ家はほとんどが木製だが中には石造りのものもある。
大体の建物が1階から2階建てしかなく、町の中央にそびえる鐘楼がいやでも目立つ。
東西にはしる大通りが町を二分しており、さらに鐘楼から南に向かって三分割している。
冒険者ギルドは鐘楼のすぐ後ろに建っていた。
周りの建物と比べても5倍近くあり、さらに3階建てだ。
入り口は常に開いていていかにも冒険者といった者たちが出入りしている。
中へ入ると意外と静かだった。
ゲームなんかでよくある、酒場と併設されていて昼間から酒を飲んでいるイメージであったが、どうやらそうでもないらしい。
正面には「買取カウンター」と書かれた受付があり、何人もの冒険者がとってきた素材を売っていた。
冒険者のほとんどが簡易な装備で、駆け出しといった雰囲気をさせている。
右手には椅子や机の並べられた待機所があり、数人が話し合っているようだ。
左手には階段があり上へと続いていた。
階段を上っていくと同じく受付があり、ここでも何人もの冒険者が受付をしている。
依頼の受付や達成確認はこちらで行うらしい。
右手には依頼の書かれた紙がびっしりとボードに張り付けられていて、その周りでは冒険者たちがどの依頼を受けるか吟味しているようだ。
受付には人間、エルフ、獣人などきれいなお姉さんたちが対応している。
ここら辺はイメージの冒険者ギルドのまんまだな。
さっそく登録しよう。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
にっこりスマイル0円、笑顔がまぶしいです。
「冒険者登録をお願いします」
「登録には1500Gが必要ですがよろしいですか?」
了承して小銀貨1枚と大銅貨5枚を出して支払う。
「それではこちらの紙に必要事項を記入してください」
そういって一枚の紙を渡される。
記入する項目は名前、年齢、種族、職業、スキルだ。
職業は戦闘の方向性、スキルは任意だったので問題ない範囲で書き込む。
――――――――――――――――――――――――
名前 カナタ・カミギシ
年齢 16
種族 ヒューマン
職業 魔術師
スキル 【剣術:3】【(火・水・土)魔法:3】
――――――――――――――――――――――――
書き終わった紙を受付嬢に渡すと一通り目を通した後、白い板を差し出してくる。
「それではこの板に魔力を通してください」
差し出されたプレートには隙間があり、どうやら先ほどの用紙が挟まれているようだ。
上部には溝があり、銀色のプレートがはまっている。
魔力を通してしばらくすると、カチリと音を立ててプレートが外れた。
先ほどまでは何の変哲もないプレートだったのが、今は先ほど記入した情報が刻印されている。
「記入に間違いがないかと、魔力を通して紋様が浮かび上がることを確認してください」
外れたプレートを手に取って魔力を通すと、背景に剣と盾、中心にFと書かれた紋様が浮かび上がった。
紋様の色は緑色だ。
「問題ないようですね。
ギルドについての説明は必要ですか?」
「お願いします」
一応知識として知っているが、地方などでルールが異なるかもしれないので、一応聞いておくことにする。
「それでは説明します。
まずギルドでは様々な依頼を扱っています。
町の中でのお使いのようなものから討伐を必要とするものまで多種多様ですが、登録された直後は全員Fランクから開始となります。
ランクを上げるには規定数の依頼を達成し、昇級試験に合格することで次のランクの仕事を受けることが可能となります。
依頼に失敗した場合は報酬の半額を違約金として徴収しますのでご注意ください。
各依頼の報酬はあらかじめ仲介料を差し引いた金額となっております。
仲介料はギルドによる身分保証と各種税金へと使用されますので、一定期間依頼を受けない、依頼を失敗するなどすると、カードの身分証明としての効果が失われます。
その場合、紋様が白で浮かび上がりますのでご注意ください。
通常依頼に成功することでカードの有効期限が延長されますが、カードの効果が失効した場合は再度ギルドにおいて所定の金額を支払っていただくことで効果が復帰します。
ここまでで何か質問はありますか?」
特に難しいところはなかったので先を促す。
その後もいくつか説明があったが長かったため要約すると、
・冒険者同士での争いに関してギルドは一切関知しない。
・ギルドを通さない依頼は自己責任。
・依頼はカードに記載されたランクまで受注可能。
・ギルドに対しての不利益は罰金、もしくは一定期間の強制労働となる。
・期日が設けられた依頼は期日を過ぎても達成できなかった場合、違約金として報酬の倍額を徴収する。
・常設依頼は受注の必要なし。
・緊急依頼は必ず参加すること、理由もなくサボった場合は重い罰則がある。
・ギルドでの買取は定額の代わり割安になる。いやなら商人に持ち込むように。
・薬草類の採集は根元から葉っぱ数枚を残して刈り取ること、採集部位が地中の場合ある程度の数を残しておくなど、とりつくしてしまわないように配慮する。
・その他わからないことはギルドで確認すること。
・基本的にギルドマスターの決定が全て。
とのことだ。
特に大きく変わっているところはなかったため了承する。
すべての手続きを終えて受付から離れた。
これで俺も晴れて冒険者だ。




