初めての戦闘、そして勝利
ひとしきり周囲を見回した後自身を見降ろして確認してみた。
着ているのは麻のチュニックとズボンそれから皮のブーツだ。
いかにも村人っぽい感じなのでこちらではこの服が一般的なのだろう。
少しゴワゴワしているがまぁ仕方がない。
そのまま軽く手足を曲げ伸ばししたり準備運動をしてみる。
管理者は事故で死んだと言っていたが今の体はどこも異常がなく、むしろ生前より調子がいいくらいだ。
自身の内側に感覚を向けると血液以外にも何かが体中を廻っているような感覚がある。
おそらくこれが魔力という物なのだろうと直感的に理解した。
試しにそれを手の上に集中するように意識してみると、手の上に拳大の淡い光の球が現れた。
ひらひらと手を振ると光の球も追従してふわふわと漂うように揺れる。
意識を解くと同時にそれは光の粒子となって霧散した。
初めての魔法(?)を使う感覚に浸っていると、視界の端で何やら動く物を見つけた。
そちらを見ると緑色のゼリー状の物体がプルプルと震えながらこちらへ向かってくるところだった。
「あれは、スライム?」
『世界知識』を参照すると確かにスライムだった。
念のため『鑑定』と念じてみると、緑色の物体の上には〈スライム〉と表示された。
間違いなくスライムだ。
Theファンタジーの定番とも言うべきモンスター。
RPGではまず主人公が初めに戦う相手であり、最弱の名をほしいままにしている魔物であるがこちらの世界ではいかばかりか。
しばらく互いに睨み合っていたが、先にしびれを切らしたのはスライムのほうだった。
こちらを獲物と定めたのか先ほどとはうってかわって素早く近づいてくる。
思わぬスピードに出遅れ、見事に体当たりを食らってしまった。
同時に思った以上の衝撃が来て一瞬息を詰まらせる。
感覚としては水のいっぱい入った風船を思い切りぶつけられたような感じだ。
痛くはないのだがそれでも数歩後ずさるほどの威力はある。
当のスライムはと言えば自身もぶつかった反動で飛ばされ、コロコロと転がっているところだった。
思わぬダメージとその緊張感のなさに無性に腹が立つ。
「クッソ! スライムの癖に!」
苛立ったままサッカーボールのように思い切り蹴りつけると、数メートルほど飛んで地面に落ちた。
思ったより飛ばなかったというよりはどちらかというと衝撃を逃がされて飛ばなかった感じだ。
スライムは何事もなかったようにこちらに向かってくる。
「チッ! 最弱じゃねーのかよ!!」
毒づきながら今度は魔法で攻撃してみることにした。
火球をイメージしながら先ほどのように魔力を集めると、手のひらにソフトボールほどの火の球が現れる。
思い切り振りかぶって投げつけると、それはあやまたずスライムへと向かっていく。
火球とぶつかる瞬間にジュッと音を立ててスライムがはじけ飛び、跡にはスライムの体液と核が残った。
俺はスライムの核を拾い上げると『鑑定』をかけてみる。
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スライムの核
スライムの討伐証明部位。内部に魔石が入っている。
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という簡単な結果だった。
とりあえず『アイテムボックス』と念じて押しこんでおく。
「まさかスライム相手にここまで手こずるとは思わなかった」
その場に腰を下ろすと改めてここが異世界であるという実感がわいてくる。
スライムの攻撃を受けたこともそうだが、肌に感じられる風もふりそそぐ日差しのどれもがこれは夢ではない、現実だとうったえかけてくるようだ。
(もうここは日本じゃないんだなぁ……)
そんなことを思いつつも、また襲われるのも嫌なので『結界術』で自身の周囲を覆う。
自分以外の生き物を通さないようにするイメージで半径5mほどを覆ってみた。
そのまま思案にふける。
内容は先ほどの戦闘についてだ。
第一なぜスライムに蹴りが効かなかったのか。
その答えは『世界知識』によってあっさりと解決された。
〈スライム〉
粘液状の体を持つ魔物。最も弱く子供でも簡単に倒せるほどだが数が多い。
分裂によって増殖するほか魔力の淀みなどからも自然発生する。
総じて打撃に対する耐性を持つが斬撃、刺突、魔法に弱く、核を傷つけられると肉体を構成できずに溶けてしまう。
討伐証明部位は核。
とある。
つまりは打撃である蹴りはスライムに対して全く効果がなかったということだ。
何とも肩透かしであるが、同時に相手の情報を知ることの重要性も感じた。
もしあのまま魔法を使っていなければ逃げるしかなかっただろう。
――最弱のスライム相手に。
それにあれがスライムでなく未知の魔物であったならと思うとぞっとする。
俺は戦う相手の情報はきちんと把握することを心に誓うのだった。




