第六十話 「S級の二人」
マルクとコトが率いていた兵のほとんどが投降した。
抵抗の意志がある者は、一般兵ならば解放して追い出した。
ただ、マルクとコトだけは解放すると厄介になるのでユノウスの地下牢に閉じ込めている。
その地下牢には簡素な机と椅子が一つずつある。
俺は背もたれを前にした椅子に座って、鉄格子越しに二人と向き合っていた。机には一応、通信水晶を置いてある。
マルクもコトも、縄で縛ったのちにバインドを掛けて二重に拘束している。さすがに樽には突っ込んでいない。
マルクはシグレットにバッサリと袈裟懸けに斬られていたが、近くにいた兵士が応急処置をして包帯巻きで済んでいる。
コトの方は、銀の手錠をかけて魔術書は没収している。これで魔術は使えない。
できればこの二人には、そのまま帰ってほしくない。解放したくない。登用したいのだ。
が、まあそう上手くいくわけもないのだが。
「なぁ、本当に蹴っちゃうの?」
「当たり前だ。オレは二君に仕えるつもりはねえ」
「私は、貴方たちを信用できません」
俺の勧誘に、二人はずっとこの調子で頷こうとしない。
「そうなると、お前らはずっと牢屋の中だけど」
「……承知の上だ」
一瞬の間は何の間だろうか? まあいいんだけどさ。
俺は座ったまま盛大なため息を吐いてみせる。
「雇用条件が悪いのか、洗脳でもされているのか……」
「おいお前、オレたちの話聞いてたか? どっちでもねえぞ?」
マルクが何か言ってくるが、知らんな。
しかし、雇用条件は破格の条件にしたつもりだし、洗脳の線もなさそうなんだよなぁ。
あ、洗脳といえば教主のカランか。あいつにこいつらを黒神教徒にしてもらえば、そのまま下につくな。
まあ、そうなれば前線で使えなくなるんだけど。
こいつらは部隊を率いて戦ってくれた方が、統一が進む。黒神教徒にしてしまえば宝の持ち腐れだ。
頭を掻いて別の方法を考える。
……しかし、良い考えは思いつかない。
「仕方ない。ちょっとゲームしよう」
「ゲーム、ですか?」
俺の唐突な提案に、コトが聞き返してきた。
「そ、ゲーム。お前らが勝てば解放、負ければ処刑だ。
ルールは簡単。今回の戦争がなぜ負けたのか論争してもらう。ただし、マルク、お前は感情論でコトを説き伏せろ。コト、お前は論理的にマルクを説き伏せろ。たったそれだけ。
期限は明日の夜明けまで」
「……難易度最高じゃねえか」
「まったくです」
二人が半目で睨んでくる。よく互いを理解しているようで。
だけど生きるか死ぬかの大勝負なんだから、難しくて当たり前だ。
「一発勝負の命がけ、乗るか?」
「……」
「乗らない場合は、このまま俺たちが統一するまで牢屋な」
さあ、どうする? 歴史の局面を牢屋で過ごすか、登場人物になるか。
まあ、一度君主まで上り詰めた二人ではすでに重要人物ではあるだろうけど。
それにそんな思いで戦場に出たいわけでもないだろうし。
「統一した後は、どうなるか知らんがな」
そのまま一生牢屋のままかもしれないし、イズモの温情で解放されるかもしれない。
断然後者の方がありえそうだけど。
「……随分と強気だな。まるで統一することが決定しているみたいだ」
「当たり前だ。決定しているんだから」
堂々と、即答してやる。
「……その根拠はどこから?」
「お前らの仕えていた後継者が偽物だから。今まで嘘ついてきたしっぺ返しは高くつくぞ」
民衆から暴動が起きて、暗殺されたっておかしくない。
だって、今まで国民をだましてきたんだから。
「バカな。彼女が、偽物など」
「そいつが本物だという確信は、聖宝ってのが原因だろう? その聖宝が、もし多種族に、つまり俺にでも装備できたら? それでなくとも、うちの姫様が装備できたら?」
「ありえません。彼女は本物であり、良き施政者だ。仮に偽物であったところで、暴動も何も起きるわけがない」
「良き施政者、ねぇ……」
その言葉、どこまで信じられることやら。
確かに、ローフェンの住民はそれなりに暮らせていた。だけど、そこから少し北東に向かったところにある町は、魔物に侵略されたのにも関わらず国からの援助は一切なしだ。
さて、こういった町があといくつあるか。
領民の不満は、本当に存在しないのか。本当に良き施政者か。
確かに、何でもかんでも恵んでやればいいってものではないのはわかるが、それでも一切手を貸さないのでは、復旧もくそもない。
「……ま、別にどうだっていいんだけどさ」
とってしまえばイズモの領地だ。
そこからは、イズモがどうにかするだろう。その後継者の処分についても。
サポートは俺やアレイスターでやればいい。内政が得意な奴もいないわけではないし。
俺は逸れた話をもとに戻す。
「ゲーム、乗るか?」
「……いいでしょう、乗ります」
「ああ、オレもいいぜ」
ようやく二人が頷いた。
「んじゃ、判断は俺がつけさせてもらうからな。あんまり無様な説得は認めないぞ。
……それじゃ、スタート」
☆☆☆
「だからあの時、もっと空からの襲撃を増やせばよかったんだよ」
「あの時はあなただって私に同意していたではありませんか」
「同意なんざしてねえだろ」
「いえ、しました。頷きました」
「あの時頷いたのは、別に同意したからじゃねえ」
「ではなぜ頷いたのですか?」
「それは……」
「はい、ちょっと待て。また別の方向にいってる」
ゲーム開始して約二時間。ずっとこの調子だ。
マルクの苦しい言い訳にコトが畳み掛け、別の方向へと逸れていくのだ。
俺はそれを中断させるのだが、かれこれもう数十回目だ。中断させてないと、きっと寝落ちしてる。
二人は息を整えるように数回深呼吸をして、場を整えるように咳払いをする。
そしてまた論争が始まる。
「貴方が強敵を求めず、もっと前線で大将のみを狙っていれば勝てていたものを」
「仕方ねえだろ、それが性分なんだからよ」
「大体、戦争の度に強敵だけを探し求め、斬った後はやる気をなくすのもいい加減にしてください」
「だったらテメーだって、後ろでずっと魔術を放つだけっていう戦闘スタイルを変えろ」
「貴方、魔術師の私に前線に行けというのですか? そんな魔術師はただのバカしかしませんよ」
「変える気がねえならオレだってないね」
「はいストップ。また逸れた。それとコト、ナチュラルに俺を馬鹿にすんじゃねえ」
こいつら、捕虜だということわかっているのだろうか?
俺は大きくため息を吐き、椅子から立ち上がる。
「休憩させてもらうぞ。お前らの馬鹿話をいつまでも聞いているつもりはないんだから」
「バカとはなんですか! こんな脳筋と一緒にしないでください!」
「そうだ! こんな芋虫と一緒にすんじゃねえ!」
「何をォ!?」
「んだよォ!?」
「お前ら仲良いな……」
俺に叫んでいるかと思えば、額をぶつけて睨み合いを始めてしまうし……。
愉快な二人を眺め、もう一度ため息を吐き、外へ続く階段を上る。
これじゃ、解放はありえないだろうな。
☆☆☆★★★
地下牢への出入り口である階段からマスターの姿が現れ、そのまま歩き去ってしまう。
この後は確か、今回の戦争で投降した兵士の様子を見に行くはずです。
それには多少時間がかかると言っていたし、私は特に呼ばれていない。だから、行動するなら今のうちだ。
マスターの姿が完全に消えてから、私は地下牢の階段へと向かい、降りていく。
先ほどまで言い争いの声が聞こえていたはずですが、今は静かです。
一応、通信水晶のおかげで中の様子を声だけ確認はできていました。
まずいです。私はあれほどマスターに言ったのに、このままでは処刑されてしまいます。
本当はいけないことでしょうし、正しいことをしているとも思いませんが、殺しはいけません。ダメです。
地下牢への階段を降りきると、いくつかある牢屋のうち一つだけ、二人入れられた牢屋がありました。
私は静かにその牢屋に近づきます。
「あんた君主の――」
「しーっ! 静かにしてくださいっ」
私はマスターの動作を真似て、人差し指を顔に持っていきます。
牢屋に入っているマルクさんとコトさんは互いに顔を見合わせ、こちらを怪訝そうに見ます。
「これ、鍵です。マスターがいない間につかってください」
「は……? い、いや、なんで……それにマスターって……」
目を見開いて、マルクさんが驚いたように訊いてきます。
隣のコトさんは疑いの目で見てきます。
「ほ、本物ですからね?」
「いや、そこはどうでもいい。……なんであんたがオレたちを助けようとするんだ?」
「……マスターとゲームをしていたようですが、マスターはなんだかんだ言ってあなたたちを解放するとは思えないんです。だから、今のうちに」
「それこそ、なんでだ? オレたちは捕虜で、厄介なら殺す方が……」
「私は、殺したくありません。マスターにも、殺させたくないんです。もっと別のいい方法があるはずですから」
私はこの国を統一するために、一つだけ決めているのです。
それは、殺しをしないこと。
もちろん、完全無血とはいけないでしょうけど、それでもできる限り人死にがでないようにしたいのです。
同族を殺すのは嫌ですし、こうなってしまったのも、私に責任があるはずですから。
この話をしたとき、シルヴィアもアレイスターさんも微妙な表情を浮かべたのを憶えています。
ですが、できることなら最小限の被害でこの国をもう一度取り戻したいのです。
それが私にできる、唯一の贖罪だと思うから。この国を守れなかった父の、叔父の、この国の王族の後継者として。
「……マスターとはどういうことですか? 彼は、貴女の配下では?」
コトさんがそう聞いてきます。
本当は見せない方がいいのでしょうが、私自身誰かに話したいという思いもあります。
だから、インナーの襟首を引っ張って鎖骨の下あたりを見せます。
「契約、紋……」
「はい。私は、ガラハドに奴隷として売り飛ばされました。それからは地獄の日々でしたけど、最後の最後に今のマスターに巡り合えたのでガラハドを恨んではいませんが。両親の仇である叔父も、討ってくれましたし」
本当はマスターに会う前に、すでにガラハドへの恨みは消えてしまっていましたが。
それでもガラハドが奴隷として売ってくれたおかげで、今のマスターに会えました。感謝はしませんが。
最初に買われた相手は獣人族の方でしたね。犬のような顔で、鼻息がとても荒かったです。口臭もひどかったですし。
私に初めてあんな咆哮が備わっているのを知ったのは、あの時でした。
獣人族に買われて大体一か月で返品され、今度は亜人族のエルフでした。
顔は良いのに加虐趣味、私以外にもいた奴隷の方々は皆痣だらけで、腕や足が片方ない方もいました。
私を買ったのは魔人族で、ほぼ不死だからという理由からだそうです。おかげで死ぬような痛みを何度も受けました。
その次は……その次は……
「お、おいあんた、大丈夫か……? すっげえ暗い顔になってるけど?」
「はっ! す、すみません。思わず地獄を振り返ってしまっていました……」
今までこんなことはなかったのですが、本当に思わず振り返ってしまっていました。
あんな日々、すぐに忘れたいものですが……。
しかし、こうして思い返せるほどに安定したのは、きっとマスターのおかげです。感謝です。
「で、では私はもう行きますね! マスターがいつ帰ってくるかもわからないので!」
「あ、おい!」
鍵をその場に置き、私はそそくさと地下牢を出て行きました。
★★★☆☆☆
イズモが出て行った地下牢で、鍵を呆然と見つめているマルクとコト。
当然だ。なぜなら――
「縛られているのに、どうやって使えと……」
コトの言葉に、マルクが唸るような声で同意した。
「ホント、あんなに慌てて何が怖いのか」
「そりゃマスターだろ。だって完全に独断……だろうし……」
マルクの声が尻すぼみになっていく。
コトは声のした方、つまり俺の方へ向いている。が、まあその目に俺の姿は映っていない。
二人とも驚いた表情をしている。当然っちゃ当然なんだが。
俺はすぐに錯覚魔法を解いて姿を現し、二人の牢屋に近づいていく。
「さて、ゲームを再開してもいいんだけど、俺には急用ができてしまった」
俺はにこやかに笑いながら、牢屋の前に落ちている鍵を拾い上げる。
顔を二人に向けてみると、マルクは引きつった笑みを返してくれ、コトは目を合わそうとしてくれない。あっれー? 笑顔のはずなのに、何が怖いのかなー?
ま、別にいいんだけどさ。
俺は拾い上げた鍵で牢屋を開け、ついでに二人のバインドを解く。
そのことに気付いた二人は、さらに困惑したような表情に変わった。
「うちの姫様、優しすぎるだろ? まあ抜けたところがあるんだけど」
「あんた、なんで……?」
「だってイズモを君主に動いているんだぜ? 上の命令には従わないとね」
「い、いやだってあんた」
「まあ確かに? 俺はイズモのマスターであり、その意味では君主の上は俺かも知れない」
けど、俺は何度も言うようにこの国に永住するわけではない。
いつかはデトロア王国に帰るし、それでなくとも魔導書集めをしないといけない。
一国や二国にかまけている暇はないのだ。さっさと終わらせて帰りたい。
「お前らだって、人族に統治されるなんて屈辱だろ? だから、俺はいないに越したことはない」
「だからって、そう易々と逃がそうと思いますか?」
コトの質問に、俺は頭を掻きながらそっぽを向く。
「あいつの優しさってさ、俺には真似できないんだよな。まあ優しさっていうか甘さっていうか。
俺は自覚しているんだ。壊れている、て。まあ、その原因をお前らに話すつもりはないけど。
でも、その原因って結構あいつと似ているんだよ。なのに、あいつは壊れずに優しさを保ってる。羨ましい限りだ。
で、だ。俺は何が欠如しているか知っているわけで、だったらその欠如した部分で下した判断は間違っているはず。
だったら、欠如していない奴に、正しい判断が下せる奴に任せた方がいい」
俺の優しさはきっとずれている。だからまともじゃない。そう、自覚している。
家族を目の前で殺され、ようやく手に入れた安息の地を追い出さられれば、誰だって捻じ曲がるだろう。
捻じ曲がって一回転して、元に戻ればそれでよかったんだけどな。俺の場合はそうはいかなかった。
イズモは俺にはない、正しい優しさがある。
だからこそ、俺は彼女に任せる。放り投げる。何が正しくて、何が悪いのか。
俺の偏った知識と腐った目では捉えられないものを、捉えているはずだから。
「さて、ロープは自分で切れるな? 手錠も壊せるはずだ。二人して、どこへなりと逃げればいい。後処理は上手くやっておくさ」
俺は通信水晶を回収し、二人に手を振って地下牢の階段を上がる。
階段を上がった先には、なぜかシグレットが壁に寄りかかって立っていた。
彼は俺が出てきたのを確認すると、目で何かを聞いてくる。
たぶん、処理をどうするかだろう。
「放っとけ。マルクはお前より弱い。コトもきっとアレイスターには及ばない。だから、放っとけ」
二度目はない。そう言外に込め。
シグレットは俺の判断に頷き、後をついて来る。
さて、明日はどう動こうかなぁ。
☆☆☆
「……なんでテメエらがいるんだよ」
翌日、これからの動きについて会議を行おうと、主要人物を会議室に呼びつけた。
その面子はまあ、両騎士団のトップだったりロビントスだったり教主様だったりなんだが、その中になぜか呼んでもいない奴らが二人ほどいた。
というか、普通に敵だ。呼ぶはずもない。
なぜ朝っぱらからこんな面倒な状況になっているのだろうか。
「なんでも何も、我々は貴方の雇用条件を呑んだまでです」
「そうだぜ。S級のオレたちを呼ばないわけにはいかねえだろ」
マルクにコト。俺は……いや、イズモはこいつらを解放したはずだ。ちゃんと逃げられるようにもしてやった。
なのに、なぜまだいるのか。しかも一度は蹴った雇用条件とか言い出しやがる。
イズモの方を見てみれば、昨日の出来事があるのでおろおろとしてしまっている。動揺するくらいなら初めからやるなってのに……。
それにしてもこいつら、どういう風の吹き回しだ?
コトは、まあ信用してくれたということならば話がつく。が、マルク、テメエは二君に仕えないとか言っていただろうが。なんだ、ノリか? ノリで言ったのか? ぶん殴るぞ。
「はぁ……、もういい。言っとくけど、うちに二度目はない。裏切れば殺す」
手で顔を覆いながら、そう告げる。
確かにこの二人を人材として欲した。それが叶ったなら、嬉しい限りだろう。
とはいえ、二度目はない。それに加え、俺は裏切りを許す気はない。その時は容赦なくすっぱりと首を斬ろう。比喩ではなく。
俺の宣告にイズモが慌てふためくが、二人は上等とばかりに微かに笑って頷いてみせた。
……まあ、理解しているなら別に構わないか。
「じゃあ、とりあえず全員座れ。会議を始める」
そう声をかけ、この状況に戸惑っていた者たちをとりあえず座らせる。
さて、何はともあれ会議だ。
「マルクはアレイスター、コトはシグレットにつけ。マルクとコトの処分は全部、お前らに任せる」
いきなり新規加入者だけに兵を持たせるわけにはいかない。
そこで、少し不安は残るがこの二人なら何かあってもうまく対処してくれるだろう。
将軍と軍師のバランスも一応あるしな。
「わかりました」
「了解」
アレイスターとシグレットの返事を受け、これでいいだろう。
横のイズモが必死に「殺しはなしですよ!」と叫んでいるが、裏切った場合はどうなっても首を飛ばす。そこは容認しない。
「で、シルヴィアはいつも通りイズモを任せる」
「ああ、分かった。……お前はどうするのだ?」
「ここからは火のごとく攻め込む。ゆえにできるだけ多くの部隊で南部の制圧をしたい。俺は残り者たちを集めて勝手にやるさ」
俺の言葉を聞き、ミュゼがなんか目を輝かせている気がするが知らん。俺が指名するのは馬頭だけだ。
イズモとはここらで別行動だ。この会議も本当はイズモが仕切らなければいけないんだけどな……。
まあ、その辺に関しちゃ、こいつらも一応理解してくれているからいいだろう。
「ロビントス、カランは内政に従事して欲しい。できるか?」
「構わない」
「無論です」
ロビントス、カランが返事をくれる。
本当はロビントスを前線で起用したくはあるが、マルクとコトがいるなら十分だろう。
ロビントスの配下には、内政が得意な奴がいるし。
カランは元から戦争に乗り気ではなさそうだし。まあ、俺に従わないと教主の座を奪うぞと脅迫まがいなことをしてしまったのだが。
それに黒神教なら教徒も多い。使える人員は多いに越したことはないし、その辺は大丈夫だろう。
「だ、だけど、できるだけ平和的に解決してくださいね? そりゃ、完全無血は無理でしょうけど……」
「わかってますよ。彼も、それを狙って攻撃するのですから」
イズモの言葉に、苦笑をしながらアレイスターが俺を見てくる。
「うまくいけば、な」
今の今まで一向に話し合いの要請を聞こうとしない偽後継者を引きずり出すために、制圧を開始する。
そちらが話し合いに応じないから、こちらは仕方なく攻め込ませてもらう、そう暗に伝える。
「こちらからは継続して要請を送り続ける。それに応じれば、攻め込みはしない、という文付きでな」
「……応じなければ?」
「仕方ない、全部の領土を武力行使で奪還するしかないね」
そのために攻め込む。
このままではどうせ負けるぞ、一発逆転の機会をやろう、そう伝え続けるのだ。
イズモを偽物と断定できれば向こうの勝ち、逆に相手を偽物だと断定すればこちらの勝ち。
一発逆転の、すべてを賭けた駆け引きに。
「……ま、乗ってくればこちらは必勝なんだけどな」




