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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
家族編 小さな魔法師
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妹と森の探検

 ナトラとノーラが王都へと栄転して半年。

 俺とネリは、二人で手合せを繰り返していた。


 お互い、教わる相手がいなくなったため、技術の向上がなかなかうまくいかず、今は経験だけでも積んでおこうというわけだ。


 ミーネも時々うちに来て相手をしてくれるのだが、ミーネは予想以上に強かった。

 しかも、剣術だけでなく魔法も強い。おかげで俺もネリも、この時だけは技術が発達していたと思う。


 で、そんなある日のこと。


「兄ちゃん! アレルの森に行こう!」

「は……?」


 ネリが突然、そんな提案をしてきた。


 時刻は夕方だろうか。腹時計だと6時あたりか。

 俺は半ば引っ張られる形で、ネリとアレルの森にやってきていた。


 すでにアレルの森の中に入り、大体3分の1辺りだろうか。結構深く潜ってしまった。


「ネリ、やっぱり帰ろう? 父さんにも母さんにも伝えてないんだろ?」

「ヤダ。それに、父さんも母さんもどうせ行っちゃダメっていうし」


 そりゃそうだけど。

 ニューラからは常々、アレルの森には立ち入るなと言われているし、サナもニューラに賛成の立場だ。


「アレルの森で何するの?」


 一歩先を行くネリに尋ねる。

 するとネリは、顔だけ振り返って得意そうな笑みを浮かべた。


「魔物退治!」


 堂々と宣言した。

 ……いや、そうだろうと思ったけど。それ以外にすることなんてないだろうけど。


 ネリはきっと、相手が一切変わらない手合せに飽きたんだろう。

 ニューラが暇な時はできるだけ相手をしてもらっていたようだが、それにも飽きてきたのだろう。


 まあ、だからと言って魔物を相手にするのは、子供だけでは危険すぎる。

 いや、俺だって魔物なんて見たことないし、どんなものなのかなんて本でしか読んだことがない。だけど、いつも自警団が傷を負って帰ってくるのを見ていたら、危険だってことくらいわかる。

 ミーネも、ここ数日は会っていないし、それに手合せも控えられるようになった。


 俺は何気なく空を仰ぐ。

 アレルの森は薄暗く、光があまり入ってこない。それに背の低い木も多く、気を抜くと不意打ちを受けてしまうだろう。


 と、そんなことを考えていると、前方の草むらがガサガサと揺れた。


「おっ」


 それに気づいたネリは、持っていた木剣を構える。

 しかし、木剣で仕留められるのか……?


 自警団だって、刃のついた槍を使っているぞ。

 自警団は村人からなっているが、槍は恐怖心や罪悪感を薄らげるのにちょうどいい武器らしい。その分、殺傷力は下がるのだが。


 草むらに目を向けると、ぴょんっとウサギのような魔物――確かグラスラビットだったか――が出てきた。

 普通の、前世で見たことあるウサギよりも大きい。膝下くらいの大きさ。

 特徴として、目が赤色であることだ。飼い慣らされた奴は、目が青色になるらしい。

 魔物図鑑読んどいてよかったー……。これで飼い慣らしたペットとかだったらやばいもんな。……こんな場所で出くわさないか。


「よっしゃあ!」


 掛け声とともに、ネリが木剣を振り上げ、そのウサギに襲い掛かる。


 結果、攻撃を受けることなく木剣で数度叩くことで、グラスラビットは息絶えた。

 しかし、魔物だって生き物なのに、ネリは一切躊躇しないな。

 確かに、そのあたりは割り切らなきゃ生きていけそうもないけど。


 それにしても、木剣で撲殺か……。いい画ではないな。


 ネリは木剣についた血糊を払い、木剣を肩に担ぐ。


「んー、弱い」

「そりゃウサギだからね」


「奥に行けばもっと強いの居るかな?」

「どうだろうね……。それより、もう帰るよ。暗くなってきたし、迷っても困るでしょ」

「えー!? もっと奥行こうよ!」


 予想通りの反応だ。

 だが、ここでさらに奥に行けば俺まで怒られてしまうんだぞ。今ならまだ、ネリだけのせいにぎりぎりできだろう。

 ……まあ、兄としてそんなことはしないつもりではいるが。


 ネリは一向に納得する気配はなく、俺の制止を振り切ってでも奥に行きそうである。

 交換条件でも出して、引いてもらおうかな……。


 そんなことを思っていた矢先、遠くの方でまた草の擦れる音が聞こえた。


「おっ、まだいる!」


 今にも駆け出そうとしているネリの腕をつかむ。


「ネリ、これで最後。いいね? これ以上は気絶させてでも帰るから」

「わ、わかったよ。兄ちゃん……」


 俺の気迫に負けたのか、ネリが戸惑いながらも了承してくれた。



 音のした方へ向かって数分。

 その音源を見つけた俺とネリは、木の陰に隠れ、息を潜めていた。

 俺は手を自分の口とネリの口に当てて、音が出ないようにしている。


 俺とネリが見つけたのは、獣人族だった。

 しかも一般人ではなく、鎧を着こんだ軍人だ。人数は5人程度。装備から見て、斥候だろう。

 きっとゼノス帝国の兵士だ。


 だが、何故こんなところに? 今は戦争時じゃないし、自警団が定期的に見回りもしている。

 そんな状況で、こんな近くに来るものなのか?


 木の陰からのぞき見ながら様子を窺う。

 兵士はテントを設置しており、ここで野営をするようだ。

 ……こんなところで野営? おかしいだろ。


 確かに、アレルの森はかなり深い森だ。トロア村の住人だって、半分以上行くと迷うこともあるらしい。

 デトロア王国の国境近くまで来て、引き返すのは難儀だろうが、それでも兵士だ。迷わないようなことはしているはずだ。

 なのに、ここで野営? ……嫌なことしか思い浮かばない。


「チッ……」


 獣人族の特徴は、魔力が極端に少ない代わりに動物並みの身体能力や感覚器官だ。

 犬類のような獣人なら鼻が利くし、鳥類のような獣人なら視力が良い。飛べる奴もいるらしいし。

 兵士の分類としては、犬類が3匹に兎類が2匹。完全に斥候の組み合わせだな。


 木の陰に隠れても見つかりそうだが、既に対処はしている。

 風の魔法を唱えて臭いを逆へと向かわせている。


 流石に5人の兵士相手に勝てるなんて思えない。数の上でも、熟練度でも完璧に不利だ。

 だが、どうする? 比較的早い段階で見つけられたから隠れていられるが、このままでは動けないぞ。


 夜になるのを待ち、奴らが寝静まるのを見計らって動いてもいいが、それだとこちらが迷いそうだ。

 かといって今動けば、音が察知されてしまいそうだ。


 さて、どうしたものか……。


 俺は小さく息を吸い、吐き出す。

 ……仕方ないよな。兄としての役目ってのもあるし。


「ネリ、よく聞いて」


 俺は小声でネリに話しかける。

 このくらいの音量なら、何とか届かないだろう。


 ネリは今の状況を理解しているのか、今にも泣きそうな表情だ。

 ……こいつにも怖いことがあるんだな。


「いいか? 俺が合図したらトロア村まで全速力で駆けろ」


 俺の言葉を聞き、ネリが逡巡する。

 だが、すぐに頭を左右に激しく振る。


「何を考えたのかは大体わかるけど、僕も一緒に行くんだよ?」


 そういうと、ゆっくりと頷いた。


「よし。じゃあ、合図したら振り向かずに、家まで走ること。周りも見ない。余計なことを考えると追いつかれるからね」


 この注意にも、しっかりと頷いた。


 ……騙すのは忍びないが、仕方ない。

 今はどちらかが生き残らなければ。だったら、危険を冒すのは当然俺だろう。


「いいか? 3,2,1で走るんだぞ」


 そして、俺は魔法を唱える。


 ネリとの手合せしていた時、俺の詠唱を聞いてネリが対応を始めた。

 その対策として声を出さない様にして詠唱をしたが、これが成功した。

 口の中で唱えても、魔法は発動した。


 それを使って、俺は声を出さずに詠唱する。

「母なる大地よ、その雄大な力を大きく振るえ

 この手に大地を分け与え、塊と成せ。【ロッククラッド】」


 掌に土塊ができる。


「万物が恐れる赤き象徴、その力をわが手に。

 力を集め、一気に解き放て。【バーンフレイム】」


 そして出来上がったのは、簡易のダイナマイト。

 それを兵士の方、そのさらに遠くに投げつける。


 勢いよく投げられた簡易ダイナマイトに、さらに【ウィンドボール】の魔法で飛ばす。

 そして、目標位置辺りに音を立てて落ちる。


「なんだ?」


 兵士全員が気付き、そちらの方へと歩き出す。

 まずは成功か……。


 そして、【バーンフレイム】が発動するまで……5秒を切った。


「3,2,1……走れ!」


 俺のスターターと共に爆発音がする。


 兵士の戸惑いの言葉を背後に、ネリと一緒に駆け出す。

 爆発音で俺のスターターは聞こえてはいないはず。このまま、足音も聞こえていなければいいが……。


「――! 向こうから足音がする! しかも離れて行っているぞ!」


 チッ! 気づかれた!


「走れ!」


 俺はネリに声を出し、速度を上げていく。


 ネリも俺の言葉を守って後ろを振り向くことなく、周りを確認することなく駆けていく。

 前だけを見て、家を目指している。

 ……それでいい。


 俺とネリは必死に、全速力で走ってはいるが、後ろからの足音が少しずつだが大きくなってきている。

 やはり大人と子供、獣人族と人族の運動神経の差が出ている。


 俺は風魔法を唱え、ネリの背中へと向けて放つ。

 追い風と臭い飛ばしだ。


 そして俺へと向けて放つ風は……囮だ。


 追ってきているのは3人の犬の兵士だろう。

 ならば、臭いを頼りに追っているはず。


 俺は進路を変えてネリから少しずつ離れていく。

 奥へは行かず、横に逸れていくように進路変更をする。


 やがてネリの姿が見えなくなり、足音もすべて俺へと向かっている。

 これも成功だな。



☆☆☆



 簡易ダイナマイトと風魔法を駆使して、5人の兵士から逃げ回る。

 途中から足音が増え、5人がかりでの追跡をされている。

 鬼ごっこはすでに1時間以上続いている。


 ネリの速度から、そろそろトロア村からアレルの森に戻る頃だろうか。

 少しでもトロア村近くに行った方がいいのだろうが、それもできない。

 どうせ、村に近づけばテントなどを片付けて、さっさとゼノス帝国に引き返すだろう。


 そんなことはさせない。

 ここでしっかりと反撃しとかないとな。舐められたまま終わる、なんてことはありえない。


 だが、1時間も鬼ごっこを続けていれば、こちらの旗色が悪くなるのは当たり前だ。

 既に息切れをしているし、足も棒のようになってきた。

 幸い、魔力だけは無尽蔵のようにあるため、追いつかれずに済んでいるが。

 こんなところでアレイシアに感謝することになるとはな……。


 しかし、体力面以外にも別の問題も浮上してきている。

 それは、俺が今どこにいるのかがわからないのだ。


 方角なんてわかるわけないし、ただひたすらに逃げ回っているため、目印なんてつけても見つけてもいない。

 どこをどう行けばトロア村に行くのか、どちらが帝国方面なのか、全くわからないのだ。


 それでも、捕まらないために逃げ続ける。


 俺は簡易ダイナマイトを作り出し、後方へと放る。

 何度目の攻撃かは覚えていないが、すでに対処されるようになってきている。


 だが、それでも何もしないよりはましだ。

 風魔法も使うが、ウサギがいるせいで足音がばれてあまり意味を成さない。

 これじゃジリ貧だ。


 どう切り抜けるか、必死に頭を巡らせていると、頭上から何かが降ってくる。


「な――!?」


 一目でやばいと思った。

 俺が作った簡易ダイナマイトが宙を舞っていたのだ。


 奴ら、簡易ダイナマイトが爆発する前に投げ返してきた!?

 くそっ、もっと早く爆発するようにすりゃよかった……!


「くっ!」


 俺は頭をできるだけ下げ、爆発に備える。


 作り出してきっかり10秒。簡易ダイナマイトが俺の近くで爆発した。


「うぉわ!」


 威力を込めすぎて、爆風で体が煽られる。

 地面を転がり、全身泥だらけになる。


 すぐに立ち上がろうとするが――


「ぐっ……!」


 足に痛みが走る。

 簡易ダイナマイトのせいで怪我をしたようだ。


 あー、くそ……。自分の魔法で怪我をするとは……。


 俺は足を引きずりながら、周囲を素早く確認する。


「――!」


 そこで、少し遠くに小さい神殿のようなものが見えた。

 急いで、足の痛みを無視してその神殿へと駆けこんだ

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