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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
暗黒大陸編 国奪り魔導師
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第四十八話 「出航」

 翌日から暗黒大陸に船が出るという港まで移動を開始した。

 その見送りにはそれなりの人数が集まってくれた。7組のクラスメイトやグレンやフレイヤや学園長や……なんでいるんだよってところでドライバーなどだ。

 ヴァトラ神国の王女が帰るということで、ちょっとしたパレードのようなものが催されていた。当然参加はしていないけど。


 王都の門を抜け、馬車に揺られること1週間程度。

 馬の引く馬車なので、特に酔うこともなく目的地の港であるイーストポートに着いた。

 暗黒大陸へは西回りの方が断然近いのだが、海が荒れやすいことや海賊がいることなどから比較的安全な、だけど遠回りの東回りで向かう。


 イーストポートの船着き場にはかなり大きな帆船があった。

 魔術あるのに帆船かよ……と思ってしまったが、外輪船だって蒸気機関だもんな。この世界に蒸気機関なんてないよな。

 ……魔法で十分蒸気の代わりができそうなものだが。


 まあ、手漕ぎのオールが突き出していないだけでも進歩している……んだろう。なんか窓っぽいものもついているし、使用時に突き出てくるんだろうか。

 とはいえ、さすが魔法陣の発達したヴァトラ神国製というべきか、帆にはでかい魔法陣が縫い付けられている。


「なあ、ノエル、あの魔法陣って風魔法でいいんだよな?」

「そうよ。というか、風以外に必要ないでしょ?」


「じゃあ、なんでオール用の窓ついてんだよ」

「あれは緊急時よ。魔法陣はデリケートだって言ったでしょ? ちょっとでも綻びができると作動しなくなるの」

「なるほど。海賊なんかに襲われて穴空けられたらオールを使うってか」

「そんなとこね」


 そりゃ海賊にも狙われるよな。これだけでかいと。

 しかし船か……嫌な予感しかないな。


「マスター、本預かります」

「やめろよ、俺の生命線だぞ」


「あんな揺れるところで本なんて読んでると、すぐに酔いますよ。いいんですか?」

「いいよ。吐くのには慣れた!」

「吐くのに慣れないでください!」


 俺の抵抗むなしく、服の下に隠し持っていた本までもすべて奪われてしまった。

 ……俺の生命線……乗る前から死にそう。

 ていうか、なんで隠し持っているところまで正確に把握されてんだよ。監視でもされてたのかよ。


「マスターの考えそうなことが大体わかってきましたから」

「くっそ、今度は二重底のカバンだな……」

「悪知恵を働かせないでくださいよ。困るのはマスターですよ?」

「本読んで何に困るってんだよ! 良いじゃんか一冊くらい!」

「船旅は1か月程度かかるんです! 毎日私に掃除させる気ですか?」


「バカなことやってないで、さっさと乗るわよ」


 ノエルに背中を押され、かけてあった舷梯から帆船に乗り込んだ。




 船上はそれなりの人がいた。

 王女一人を迎えるのに随分とでかいと思ったが、どうやらこの船はユーゼディア大陸から暗黒大陸に渡りたい者が集まっているようだった。

 船に乗っているのは天人族だけではなかった。乗組員は天人族だったが、乗客は人族だらけ。時折、深くフードをかぶった亜人族もいるが、乗客の半数以上は人族だ。ホドエール商会の者もいる。


 王女を乗せるっていうのに、どうにも不用心な気がするんだが……。

 金を積めば乗せてもらえるのか? 王女がいるのに?

 ……ヴァトラ神国は金にでも困っているのだろうか。ま、カラレア神国に用のある俺には関係ないのだが。

 とはいえ、ヴァトラ神国の王女であるノエルとは赤の他人ではないし、少し心配するけど。



 船内の客室に案内され、その中に荷物を放り投げる。

 ベッドは二つ。やばい、一人のベッドとか超久しぶり。


「一緒に寝ましょう、マスター」

「うん、まあそうくると思ったがな、そろそろ一人で寝れるようになれ」


 いつまで子どもでいる気だ、この王女様。


「そもそも、俺はカラレア神国にずっといる気はないぞ。帰るぞ、俺は」

「な、なんでですかっ? 一緒に統治してくれないんですか!?」

「するかアホ。俺は人族で、お前は魔人族。カラレア神国も魔人族の国であって、なのに人族の俺に統治されたいって誰が思うんだよ」


 ていうか、そろそろ本気で魔導書集めを考えているんだから。

 学園長の条件でイズモを育てていたわけで、それから解放されれば、俺は魔導書と魔導師集めて全員泣かすんだから。グレンも容赦なく。


 イズモは、俺が肯定する気がないとわかったのか「うー……あー……」と唸り始めた。

 学園長宅では、住まわせてもらっているために俺は学園長に逆らえないので大人しく従っていたが、ここにはもう学園長はいないんだ。もう我慢する気はない。

 それに学園長宅のベッドは三人でも寝られるような大きさがあったが、この船室のベッドは大の大人が一人でいっぱいだ。子ども姿のイズモならまだしも、大人姿のイズモではベッドに入りきらない。

 狭いベッドはお断り願いたい。エルフの里でのリリーの寝相の悪さがまだ思い出せられるんだから……。


「で、では少しずつ離れていくということで!」

「離れろよ? 寝相でこっち来たら叩き返すぞ? 絶対だぞ?」

「う……わ、わかりました……」


 なぜそこまで悔しがるのか。普通、小学生にもなれば親から離れて寝るだろ。


 少し離れて設置されていたベッドをくっつけ、その上で寝そべる。

 この船室にはベッドのほかに、机と椅子が一組しかないという簡素なもの。暇なのだ。

 別にゲームなどを希望するわけではないが、せめて本が欲しい。


「……イズモ、本を渡せ」

「ダメですってば」


「大丈夫、窓あるし。そこから吐くから」

「吐く前提で話さないでください」

「だって暇だぞ? この一か月、いったい何して過ごすんだよ」


 こんな、娯楽が一切ない部屋で一か月も過ごせるわけがないだろ。

 この船には娯楽施設もないし。……まあ、あったところでビリヤードとか俺できないけど。偏見か。


 それにしても暇だ……。何をして過ごすんだよ。

 ……魔法で遊ぶか。




 船が動き出して1時間ほど経っただろうか。

 船室の扉が軽くノックされ、イズモが扉を開けるとノエルが入ってきた。


「遊びに――って、なにこれ?」

「魔法」

「それはわかるけど……」


 ノエルが困惑した声を出した。

 まあ、確かに異常な光景だけど。


 魔法で遊んでいると、歯止めが効かなくなって部屋を埋め尽くすほどの水球やら火球やらが大量に生み出してしまっていた。

 集中力の訓練にでもなるかと思ったが、特に意識を飛ばさずともこれらの球はただ浮遊している。割れることも互いにぶつかることもない。


「暇だからやってたのに、結局暇なんだけど」

「こんなので暇なんて言えるの、あなたくらいよ……」


 そうなのか? 訓練……というか、魔法を使っていればこれくらいできるだろ。使っているのだって、初級魔法だし。

 さすがに魔導のような王級から神級は集中しないと暴発するけど。


 ノエルがくっつけたベッドに上がってくる。

 さて、三人になったし、なんかして遊ぶかな。


「よし、じゃあトランプしよう」


「「トランプ?」」


 え、嘘? この世界にトランプないの?

 ……そういや、王国一の商店を持つのに、ホドエール商会にも売ってなかったな。

 とはいえ、ホドエール商会だってまだ大陸全土に商圏拡大しているわけではないし、他の大陸にもないからな。どこかの国にはあるのかもしれないけど……。


 まあいいか。カードは即席で作ってしまえばいいし。

 でも、一からルール教えるのも面倒なんだけど……仕方ないか。このまま一か月何もせずに過ごすのも嫌だし。



 俺はまず、土魔法で薄く長方形にのばしたものを作る。

 薄すぎて力を込めると簡単に割れそうなので、硬化の魔法もかける。

 その上に、スペードやハートなどのトランプの記号を刻み付ける。さすがに絵柄まで再現はできなかったので、適当に書いておいた。


 全部で54枚。13×4にジョーカー二枚。


「さて、んじゃ難易度最低のババ抜きからいくか」


 俺は二人にババ抜きのルールを説明し、トランプを配る。

 それにしても、トランプって金になるよな……? 帰ったらトレイルかリリックに教えよう。賭けにも使えるし、カジノも……まあ、その辺は丸投げだな。俺は知らん。


 二人が何とかルールを認識したところでゲーム開始だ。




 結論、こいつら超弱い。

 これでは将来、王座に着いたら絶対に国が滅びる……。


「な、なんで勝てないのよ……」

「マスター強すぎです……」


「お前ら、ポーカーフェイスを使え……」


 そう、この二人の王女様、感情が簡単に表情に出てくる。

 ババ抜きはジョーカーを最後まで持っていた者の負け、というものだが、枚数が減ってくると面白いくらいに顔に感情が出てくる。

 簡単に言えば、こいつらの手札からジョーカーに手を当てると喜び、外すと表情が崩れる。


 当然、俺は魔眼を使ってはいない。別に相手の手札が見えなくとも、ジョーカーさえ引かなければ勝てるのだから。

 この半年で、魔眼を使う際に微かに光ることがわかったので、俺が使っていないことをわからせるために眼帯を外している。使えば俺の無条件負け。


「「ポーカーフェイス?」」


 それも知らんのか……。いや、使ってないから当然なんだけど。


「フレイヤを見習え、だ。あいつ、いっつも笑顔で感情が読みにくいだろ? ああいうのを、まあちょっと違うけどポーカーフェイスっていうんだよ」

「い、いつも笑顔でいるの?」

「というよりかは、どんな時にも感情を表に出さないようにするんだよ。国同士の交渉時にも使えるんだから、覚えろ」

「そんなことできるわけ……」


「じゃないとお前らの国が滅びる」

「……そんなことないわよ。それくらい、私にだってわかるわ」

「ほう? なら、実践してやろうじゃないか」


 今度は二人にポーカーを教える。

 ディーラーはイズモに任せ、かけ金の代わりを土魔法で作る。価値の高い順に黒と白と赤の三色20枚ずつ計60枚。

 それを10枚ずつに分け、片方をノエルへ渡す。


「これが全部無くなった方の負け。賭け金の上限はなしだ」

「……賭け事は苦手なんだけど」

「交渉だって似たようなもんだ」


 たぶんね。だって国事とかしたことないからわかんないし。

 だけど、緊張感などは似ているだろうし、ポーカーフェイスはやはり必要だ。

 相手に弱みを見せれば、そこにどんどん付け込まれるんだから。


「まあ、さすがにお前らのような純粋な奴が交渉事をするとは思えないし、代理人を立てるかもしれないけど、覚えておいて損はない」


 芸は身を助けるっていうし。

 表情は豊かな方が心象はいいかもしれないけど、コロコロ変われば逆効果だ。

 ……ま、俺は相手の感情を読み取るのがへたくそだったんだけどな。


 小学生の頃なんて、相手が無表情になったら怒っていると判断していたけど、実際他の奴が無表情になってもからかい続けていたらいきなり笑う、なんて光景を見たことがある。

 それは友情とか、その辺の類からくる笑いなのかもしれないけど、俺はそれを見て気味が悪いとさえ思った。


 幼いながらも、友達が怖いとさえ思ったし、居なくて良かったと思ったことは一度ではないけど。

 ……それでも一人としていないのは、時としてつらいものがあるけど。



 イズモがトランプのシャッフルを終え、俺とノエルに5枚ずつ配る。

 始めのかけ金は赤一枚からだ。

 手札を見て、ノエルに確認を取る。


「組み合わせはわかっているだろ?」

「ええ、大丈夫よ」


「んじゃ、ベットな。赤5枚」

「……パス」


 お互いに赤5枚を前に出し、手札の交換をする。

 ……まあ、一回目だし、ゆるくいこうか。



 4回目ほどから少し揺さぶりをかけ、7回目に入った。

 そろそろ叩きつけるとしようか。

 ここまで俺もそれなりに表情を動かしてきたが、ノエルはそれ以上にコロコロ変わっていた。変えないようにする努力はしているようだが、全然なってなかった。


 お互いの手持ちはノエルの方が多い。

 俺の手持ちは黒10枚に白3枚、赤9枚。対しノエルは黒10枚に白17枚、赤11枚。


「黒5枚に白3枚」


 ノエルの手持ちと性格からすれば、守勢でもこのあたりがぎりぎりだろう。

 ノエルは少し考えたあと、小さく「パス」といった。


 そのあと、手札の交換を行い、またベッティング・インターバルに入る。

 そこで、俺は何の躊躇もなくかけ金を全部出す。


「全部」


「なっ……!」


 驚くノエルに対し、俺は笑みを浮かべて壁にもたれる。


「い、いいの……? 変えないの?」


 ノエルの問いかけには答えず、笑みだけを返しておく。

 さて、普通なら腹を探ろうとしてくるよな? だけど、俺は笑み以外を浮かべるつもりはない。

 それに今までにも何度か笑みを浮かべたし、こういった態度も取ってきた。その時の勝率は五分といったところだろうか。少し勝ちが多いか。


「…………」


 ノエルが顎に手を当てて熟考を始めた。

 さあ考えろ。考えて考えて、だけどお前じゃ見抜けないぞ。

 とはいえ、あんまり時間がかかるのも嫌なので一応制限時間を決めてある。その時間にも焦りながら、読み違えるだろうな。


「…………乗――」


 小さく答えようとするノエルに、俺は笑みを強くして見せる。

 言いかけた言葉を飲み込み、再度熟考に入るノエル。


「おいおいノエル、あんまり時間残ってないぞ?」

「う、うるさいっ。もうちょっと……!」


 そういって俺の全身を見てくるノエルだが、それでは読めないってのに。

 俺の性格が悪いのは自覚しているし、それはノエルも知っているだろう。

 さらに言えば、このゲームの勝敗は既に決まっている。


「…………ふ、ふふ」


 と、制限時間間際に小さくノエルが笑い出した。


「そうよ、ネロはいつもそうよね? 弱いけど、強く見せるのがうまいわ」

「……」

「乗るわ」


 ノエルは俺と同じかけ金の枚数分押し出した。


「勝負よ」

「ああ、良いぜ」


 そして同時に手札を開く。


 ノエルの組み合わせはフォーカード。

 対し俺は――ロイヤルストレートフラッシュ。


「……え?」


 というノエルの疑問。


「っしゃあ!」


 という俺の掛け声。


 大博打に勝ってやったぜ!


「う、嘘っ!? その組み合わせって、65万分の1なんでしょ!?」

「ククッ、んじゃまあ、このゲームは終わりだな」


「か、勝ち逃げする気!?」

「ああ? 逆だ逆。俺の負け。無条件負けだ、アホ」

「……へ?」

「イズモ、山札を全部調べてみろ」


 言うと、イズモはすぐに山札を広げ始める。


「あ……」

「わかったか?」


「同じカード……」


 そう、この組み合わせはただのイカサマだ。

 俺がカードを魔法で作った。なら、その加工だって魔法で簡単に行えるというわけだ。

 配られた手札を見て、その絵柄をそっくりそのまま別のカードに入れ替えた、という魔法が使えればとても簡単なイカサマ。

 まあ、その絵柄がノエルの手札にもあれば、確認するまでもなくイカサマがばれていたわけで、だからこその博打だ。


「厳密に言えば? イカサマの禁止はしていないわけだし、俺の勝ちでもあるんだが」

「……」

「ノエル、お前は確かに、俺が弱い手札だと見抜いたんだろうけど、それは俺を知っていたからだろ? これが知らない相手だと、お前はどうした?」

「……降りた、わね」

「一度は相手が虚勢だと見抜いた、けど、二度目の熟考で考えを改めてしまった。相手が俺だったからこそ、そのまま乗って勝負を仕掛けただけだ」


 相手に感情を読み取らせないこと、それと相手の感情を見抜くこと、どちらも重要だ。

 国のあり方を左右する外交を任される人ってのは、必ず一癖も二癖もあるに決まっているのだから。


「交渉事も同じだぞ。相手に弱さを見せれば付け込まれるし、相手の嘘を見抜けないと騙される。従者にでも訓練してもらえ」

「わかったわ……けど、こんなのどうやって鍛えるのよ」

「さあな。まあ、表情さえ崩さなきゃどんな表情でもいいんだから」


 フレイヤなんていつも笑顔だからな。時々、虚を突くと崩れるんだけど。

 それでもノエルやイズモに比べれば、だいぶマシだ。


「んじゃ、次はイズモな」

「ええっ!? 私もですか?」

「当たり前だ。お前、何のためにカラレア神国に行くんだよ」

「うぅ……わかりました……」


 ノエルと交代でイズモともポーカーをした。



 ……結果を言えば、イズモはノエルよりひどい欠点を見つけてしまった。

 イズモの欠点は訓練でどうにかなるものではない。カラレア神国から帰る前に、どうにかして矯正しておかなければいけない。


 そのことにも思考を割いていると、その日は簡単に日が沈んだ。

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