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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
暗黒大陸編 国奪り魔導師
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第四十四話 「カラレア神国」

 学校祭から約半年。つまり学園生活が1年過ぎようとしていた。

 すでに二度目の長期休業を終え、現在三度目の長期休業期間だ。


 この半年、俺はイズモとフレイヤ、それにノエルにグレンも巻き込んでの勉強に没頭していた。

 勉強内容は、言語である魔語と天語、魔術関連である詠唱破棄と魔法陣、それに体力造りだ。

 最後の体力づくりは、グレンだけ何も教えることがないのは癪だったので結構どうでもいいものだったりする。まあ、そのおかげでイズモが武器を使えるようになったのだが。


 イズモは俺の初めて買ってやった安物の剣とナトラの剣を二つ持っている。ナトラの剣に関しては、もうあげた様な状態だ。

 別にそこまで積極的に剣を使うわけでもないので、安物だけ持たすのは心もとないということであげたのだが。


 俺は左眼の魔眼を隠すのに、包帯から眼帯に変えた。

 一々包帯を外したりつけたりするのが面倒になって、結局眼帯にしたのだ。


 イズモとフレイヤに天語と魔語を習いながら、俺は代わりに詠唱破棄だったり亜語だったりを教えていた。

 詠唱破棄は、半年経ってもまだ俺以外使える段階ではない。


 イズモもフレイヤも教えるのがうまいので、俺は魔語と天語をある程度覚えることができた。

 といっても、文章を中心に覚えたので会話はまだまだなのだが。



 そうやって、半年を過ごした。



 そして今日、イズモがようやく自分の過去について話してくれることとなった。



☆☆☆



 集まった場所はダイニング。今日は学園長もいる。

 席の配置はいつもと一緒。学園長を上座に、左手に俺とイズモとノエル、右手にグレンとフレイヤだ。

 時間は大体20時くらいか。夕食の後、休憩を挟んでの再集合だ。

 夕食の時にイズモ自身から話をしたいと言っていたので、皆ちゃんと出席してくれている。


 隣のイズモへと目をやると、緊張しているのか何度も深呼吸していた。

 そして、胸の前できゅっと両手を握り締め、口を開いた


「……それでは、私の母国、カラレア神国について話させてもらいます」


 そう前置きし、イズモは語り始めた。


「現在、カラレア神国は事実上存在しません。今の状況を私は知りませんが、カラレア神国の王が存在しないからです。

 王とその王妃は、その弟に殺されました。そして、正統後継者である者も地下に幽閉してしまったからです。……これは、300年以上前の話です」


「300年!? どういうことだ?」


 グレンの怒声のような声に、イズモの肩が震えた。

 ……実名避けているあたり、何となく察することはできるけど。

 俺はイズモの頭に手を乗せながら、身を乗り出すような恰好のグレンを見る。


「王の不在、300年前、ガラハドの侵攻、その決着、後継者の幽閉、交易のない暗黒大陸……予測するには十分すぎる情報があるだろうが。少しは自分でも考えろ」

「……そう、だな。悪かった」


 落ち着くように大きく息を吐いたグレンは、椅子に座り直した。

 まあ、結局予測は憶測であって、その域を出るわけではないのだが、答え合わせは後でもできることだ。


「あ、ありがとうございます」

「いいよ。続き、話せるか?」


「……はい。

 王の弟が統治を初めてすぐ、ガラハドの侵攻が起きました。

 ガラハドは、暗黒大陸にいるほぼすべての魔物を総動員し、先代王とは違って圧政を始めた王の弟のせいで内乱間近のカラレア神国を攻めてきました。

 まともな反抗もできないまま、カラレア神国はガラハドに落とされました。彼、ガラハドはそのまま王の弟を殺し、カラレア神国の王座を奪いました。

 正統後継者はそのまま奴隷として売られてしまいましたので、カラレア神国はもう存在しません。

 今あるのは、ただの暗黒の大陸、でしょうか……」


 イズモの話を聞き終え、話を整理する。

 カラレア神国はガラハドに滅ぼされ、正統後継者のいない今、国すらない可能性がある、と。

 ……天皇みたいな身分すらいないとなると、日本の戦国時代や中国の三国時代以上に荒れていそうだな。

 元有力貴族どもが国でも興していれば、いくらかまとまりがありそうなものだが……それすらないとなると、かなり危険だな。


 魔人族の国自体がなくなる可能性がある。

 ヴァトラ神国は不干渉を貫いてくれていると思うが、この大陸の帝国さんは黙っていてくれるか……。シードラ大陸の国だって、動き出していてもおかしくはないだろう。

 まあ、その辺に関してはドライバーあたりに訊いてから向かおう。この大陸の帝国さんはたぶん大丈夫だろう。何かあれば、ガルガドが教えてくれるはずだ。


「……今のカラレア神国の状況は全くもって不明ってことか。ノエルはどのくらい知ってる?」

「ほとんど知らないわ。昔から非戦の態勢だし、同じ大陸にあってもヴァトラ神国とカラレア神国に繋がりは一切ないから」

「ホント暗黒だな……。それで、まだ何かあるか?」


 イズモに目を向けると、イズモは目を伏せた。


「……マスターに対するお願いではないかもしれませんが」


 随分と畏まった態度で、イズモは俺の手を握り締めてきた。

 そして、俺の目を真っ直ぐに見返してきながら、懇願するように言う。


「私一人ではどうにもできません。一緒に来てくれませんか?」


 イズモの言葉を受け、俺としての答えは既に決まっている。

 だから即答することは可能だ。けど……。

 俺はイズモから目を離し、学園長の方へ向く。


 確かにこれは俺の選択であって、他の誰かに左右されてはいけないものだろう。

 しかし、俺の今を考えれば、養ってくれているのは学園長である。保護者は学園長だ。

 こんな世界で保護者も何もあったものではないかもしれないが、それでも俺を今日まで生かしたのは学園長だ。そして、俺は学園にも通っている。

 ちょうど新学年の季節にはなるが、やはり迷惑がかかるのは避けられない。


 学園長は目を閉じて難しい顔をしている。閉じた扇子を口元に充て、熟考しているようだ。

 だが、学園長は目を開けて俺を見返してくる。そのすぐあと、大きくため息を吐いた。


「勝手にすればいいさ。止めてどうにかなるものでもないだろ?」

「……ありがとうございます」


 お礼の言葉とともに、座ったままだが頭を下げる。

 そして、イズモに向き直る。


「元からそのつもりだ。今までの恩返しってところで」

「良いんですか……?」

「疑問を持つなら最初から頼むな。それに、何のために魔語を教えさせていたのか、言わなきゃいけないのか?」

「……ありがとうございます!」


 イズモも深く頭を下げてきた。


「……ってわけだ、グレン。お望みの決闘はまた先延ばしだな」

「構わん。今の貴様と戦っても、勝率は2割程度だろう。負け戦をする気はない」

「賢明な判断だな」


 グレンの言葉に苦笑を返す。

 これまでの学園生活で、グレンとの公の場での勝負は一切なかった。

 私闘ではいくらかあったが、それでも本気で戦ったことはない。

 戦いたいとは思っているが、生きているならまた機会はあるだろう。


「ノエル、いつまでに準備すればいい?」


 グレンからノエルへと顔を向け直すと、ノエルもまた難しい顔していた。


「……今月中ね。航海は大体1か月程度かかるわ」

「随分と速いけど……お前も帰るのか?」

「ええ。ヴァトラ神国に帰国命令を出されたの。……ま、一年、よく持った方だと思うわ」


 そういいながら、ノエルは軽く笑う。

 ノエルは留学という名目で来ていたんだっけか。……まあ、王女だし、帰国命令を出されても仕方ないのか。

 でも、それにしては急……じゃないのか。ノエルはもっと早く帰国命令を出されると思っていたようだし、ちょうど1年で区切りだしな。


 しかし、今月中となると……準備は十分できるか。そこまで大きな厄介ごとはないしな。

 やることと言えば、ドライバーに情報を仕入れに行き、一応旅支度をして、ってところか。


「学園長、前のダンジョン経費の話、憶えていますか?」

「くそ、忘れたと思っていたのに……」

「身の上話は高いって言ったでしょ。それ、今回の経費に充てていいですね?」

「ああ。もう好きなようにすればいいさ」


 学園長がやけくそ気味に片手を振る。

 よし、これで当面の費用は確保できたとして……。

 足りない分はクロウド家から引っ張り出せばいいか。じいさんがまだ生きているから、貸してくれるだろう。


 クロウド家次期当主の話はニルバリアで決まっている。

 始めの休業期間の、本家とトロア村での態度によって、その場の使用人や領民に決めさせると言っていたが、どちらもが多数決でニルバリアになった。

 元からならないように振る舞っていたので、別に痛くもかゆくもないのだが、結果を知らされたときのニルバリアの勝ち誇ったような顔はうざかった。

 ほとんどの者が、俺ではまだ若すぎるという判断だろう。ウィリアムあたりはあてつけの可能性があるけどな。

 しかし、こうなると本当に当主にならなくてよかったな。当主が国に無断で不在なんて、貴族としてどうかと思うし。まあ、まだ次期当主ではあるのだが。


 あとは何があるか……。


「ああ、そうだ。勇者召喚について、俺がいない間に行われたら、勇者にはまず世界を旅させるようなことを言っておけばいいと思うぞ」

「なんだそれは?」

「勇者って異世界の奴だろ? だったら、勇者から見て異世界のこの世界に、まずは興味を持たせてやれ、ってことだ。これで数年は持つだろう。その旅には、フレイあたりでも付き添わせれば、他国に奪われることもないだろうよ。進言できるのは姫様くらいだろうけど……頼めるか?」

「そのくらいお安い御用です。わたくしも、無用な争いは嫌いですから」


 胸を叩きながらそう言ってくれる。

 俺の偏った知識だと、たぶんこれで飛びついてくれる可能性は十分ある。

 あとは戦争でも役に立てるように剣や魔法の訓練だろうが……チート持ちとかだとあんまり意味なさそうだよな。

 その辺はもうフレイヤに任せよう。


 それにしても、いまだに勇者召喚を行わないのはなぜだろうか。俺がどれだけ考えたとしても、こんな国の王の考えなんかわからないだろうけど……。

 大々的にやるならば、人が集まる学校祭でもよかったと思うけど、入学式の時にでもやるのだろうか?


 今日中にできることはこのくらいだろうか?

 こめかみあたりを指で叩きながら考えていると、横のイズモが不思議そうに聞いてくる。


「なんだか……楽しそうですね?」

「楽しいのは当たり前だろ。なんせ――国相手に喧嘩売れるんだからよ」


 心躍らないのは、男の子じゃないね。

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