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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
学園編 学園の魔導師
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第二十九話 「トロア村」

 俺はウィリアムと打ち合い、イズモはローザとメイド修行。

 そんな感じで、一か月の半分を過ごした。


 もちろん、クロウド家にいる奴らの好感度を下げるためにもいろいろと行動した。

 まず、私兵たち。

 ウィリアムを何とか落ち着かせ、訓練場に乗り込んだ。

 そこで私兵全員と手合せしたのだ。俺は魔法学園の生徒で、だけど魔術は一切使わないと言って。

 ウィリアムが鍛えているだけあって、レイヴァン家の私兵なんかよりも練度は高そうだったが、ウィリアムほどの猛者はいない。

 軽々……とまではいかないが、それでも私兵を全員ボッコボコの滅多打ちにした。

 俺が領主になったら、今以上に厳しく鍛えると言っておいた。束になっても一人に勝てないようじゃ、弱いのは変わらないし。


 で、使用人たち。

 彼らへの嫌がらせは仕事の邪魔をしたことだ。

 俺は一人で食事は嫌だし、まずは食事の時間には仕事を中断して全員で食べること。

 ウィリアムに追いかけられて屋敷を駆け回るうちは、魔術を使って簡易清掃したり、仕事を奪いもした。

 時にはウィリアムを不意打ちして屋敷の中で吐かせたりもしたな。仕事も増やしてやった。

 あと、俺に敬語を使うなという、最も微妙な対応になってしまう命令も出した。


 そんな感じの半月だった。

 俺やイズモとしては実りのある半月だったが、クロウド家の私兵や使用人にとっては最悪の半月であっただろう。

 これで俺が当主に選ばれなんぞしたら、クロウド家の皆さんは総じてドMということですね。

 じいさんからも、毎日騒がしいと小言のようなことを言われたし、たぶん大丈夫だ。俺は当主なんかにはならんぞ。


 イズモはローザに、半月でメイドとしての技術を詰め込まれたらしく、終わりごろにはメイドに混じっていろいろとやっていた。

 料理も十分できるようになり、これで俺も一人で学園長宅で料理しなくて済む。

 よかった。毎日二食だが、わりと疲れるからな。交代で料理することにしよう。




 そして現在、トロア村に向けて移動中である。

 馬車はやはり遅いので、ガルーダを呼んで空から向かっている。

 イズモもでかくなったし、一匹じゃ狭いと思ったのだが、イズモに可哀そうだからと一匹で向かっている。

 ……一匹に二人の方が可哀そうだと思うのは俺だけか?



 それと、俺はとても気になっていることが一つある。

 それはイズモの服装なのだが……


「なあ、イズモ。なんでメイド服着てんだ?」

「毎日着ていたら、なんだか気に入っちゃって……」

「ふうん……王女のくせに」

「う、うるさいです!」


 まあ、別にイズモがいいならなんだっていいんだけども……。

 というか、王女を否定しなかったな。本当にカラレア神国の王族なのか……?



 王都を飛び立って三日目の朝。

 前と同じくらいの時間で、何とかトロア村に到着。

 本当はそこまで急いでいることでもないのでゆっくりでもよかったのだが。


 前回と同じ場所に降り立ち、俺はアルバートの家に向かった。

 俺は領主というものをやったことがないからな。手探りでやるには、あまりにも時間が足りないだろう。

 ということで、ニューラの側近的なことをしていたであろうアルバートなら、レクチャーしてくれるだろうとのことである。

 まあ、あの執事は何でもやるから、任せればできてしまいそうなんだけどな。


 アルバートの家に着き、諸々の説明を終える。


「なるほど。そういうことだったのですか」

「ニルバリアは説明なかったのか?」

「いえ、説明は既に当主様からあったようですが、私はここにおりますゆえ、聞いていなかったのです」

「ああ、そっか」


「しかし、ニルバリア殿はノーレン殿よりも支持は得ていました」

「じゃないと困る。俺は当主なんてなりたくないからな」

「ニューラ殿に似てきましたな……」

「親子だからな」


 トロア村にあるクロウド家の屋敷へと移動しながら、アルバートと話し合っていた。

 ニルバリアはノーレンが溜め込んでいた税金を復興のために当て、他にも積極的に村人の相談などを受けていたらしい。

 謀略を得意とするだけあって、一応は賢いな。普通なら、ここで俺の悪い噂でも流すもんだと思っていたが。


 さて、と。俺はどうするべきかな……。

 トロア村の人々には嫌われるようなことはしたくないし、かといって信頼されたくもない。

 何もしない、というのも手かもしれないが……。


「うーん……でも、とりあえず男衆は誰でも戦えるくらいにしといたほうが身のためか」

「と、言いますと?」

「アレルの森で狩りでも教えようかなって。税率とかは変えるなって言われたから、いきなり野に放たれても大丈夫なように狩りくらいはできた方がいいし」

「そうですな」


「あとは根本的な問題として、税なんだよなぁ……。税率を変えないってことは、高い税のままだし……、商人を呼び込むか……」

「そのあたりは、私が手配できますが、呼び込むだけでいいのですか?」

「……半月、なんだよなぁ。いろいろと教え込むには短いし……、しゃあないか」


 商人を呼び込んでも、売るものがなければ意味がない。

 教えられることと言ってもなぁ。


「イズモ、刺繍はできるか?」

「刺繍ですか? できますよ。最初が難しかったので、それなりにはできます」

「なら、それでいくか」


 綺麗な刺繍ができれば、それだけでも一応売れるからな。

 簡単な魔法陣なら、俺も一応ノエルに教わっているから、それを売るとしよう。


「魔法布と魔法糸だったか? あれを入荷して、刺繍して出荷すれば稼ぎになる。こっちは女連中にやらせて……イズモ、指導できるか?」

「できますけど……大丈夫でしょうか?」


 イズモが不安になっているのは、たぶん魔人族の話を聞いてくれるかどうかだろう。

 その辺もなぁ……微妙なんだよな。

 ニューラがいたころなら、大丈夫だったと思う。サナが人族至上主義ではないため、トロア村はまだ他族に友好を持てていたかもしれない。

 だけど、ニューラがいなくなって3年。人なんて1年で十分変わるからな。


「角は帽子で隠せるが、翼と尻尾か……」


 以前、イズモの翼と尻尾を無理矢理服の中に仕舞い込んだことがあるが、イズモが耐えかねて服を破ったことがある。

 あまり無理をさせるのもダメだし……。

 赤い目もあるな。人族に赤い目はそうそういないし、何より翼と尻尾で魔人族を結びつかせてしまうな。


「その辺はどうにかなると思いますよ。ニューラ様の時には、海人族のミーネ殿がいましたし、獣人族には敏感ですが、他大陸の者ならば大丈夫でしょう」

「本当か?」

「ええ。それに、刺繍なら私もできます。私が何とかいたしましょう」

「……ホント、なんでもできるよな」

「いえいえ。そんなことはございません」


 嘘だッ!!

 ……は、まあ置いといて。


 私兵の隊長もしていたし、御者も務めるし、統率を取るのもうまいし。

 もう領主この執事でいいんじゃないかな。



 二人とあれこれ話し合っていると、トロア村のクロウド家の屋敷に着いた。

 ニルバリアは既に帰っているらしく、中には数人の使用人がいた。

 その人たちに軽く挨拶を済ませ、俺は懐かしい我が家を見て回ろうかと思った。

 ……だが、その考えはすぐにやめた。


「……あまりにも変わりすぎだろ」


 俺がいたころの屋敷とは、一切変わってしまっていた。外見が変わっていたことから、感づいてはいたが、ここまで変わっているとは。

 増築はされ、改装はされ、部屋の数も増え。

 俺の記憶にある我が家とはかけ離れていたのだ。


 家具はすべて新調され、俺の家族が使っていた家具なんてほとんど残っていない。

 ノーラに引きずり込まれたベッドも、ナトラの本棚も、すべてなくなってしまっている。

 こんな家には、懐かしさもくそもない。

 あるのは、無常だけだ。


「すべては無常、てか」


 ……せめて家くらいは変わらないでいて欲しかった。


 まあいい。家は住む人によって変わる。

 そもそも変わらないものなんてなく、こんな感情を抱く方がおかしいのか。


「ま、いいや。アルさん、村人を一か所に集めてくれる?」

「かしこまりました」


 アルバートは返事をすると、すぐに家を出て行った。

 吐息ひとつ、俺も外へ向かう。


「どこ行くんですか?」

「んー……屋根の上」


 そこなら、ここからでもトロア村を一望できるだろう。

 風魔法を使いながら屋敷の屋根に立ち、トロア村を見渡す。

 イズモは下で待っているようで、ついてきてはいない。


 全体としては何も変わっていない。

 牧場や農場があり、動物が見える。荷馬車を引く馬が点々と散見できる。


 おもむろに、首にかけていたロケットペンダントを取り出す。

 蓋を開ければ、家族の集合写真が納まっている。

 それを掲げる。


「……3年で随分と変わってしまいましたね、父さん、母さん」


 久しぶりに、丁寧な口調を使う。

 前世の俺との線引きのつもりで使っていたが、結局慣れずに普通の口調になってしまった。

 それでも、あの時のような荒っぽい言葉遣いは何とか押さえつけてきたのだが。


「俺は……ネリと世界最強を目指す」


 決意を新たにし、ペンダントを持つ手を握りこむ。

 本音を言えば、見ていて欲しかった。

 だけど、家族が生きていれば、俺はこんな決意をしなかっただろう。


 ……普通に、生きてみたかった。

 異世界を冒険するのも憧れではあったけど、俺はそれ以前に普通に生きてみたかった。

 家族と、独り立ちするまで面倒見てもらって。


 大人になれば、冒険者にでもなってサナのように世界を旅して。

 その旅だって、兄妹でやってみたくもあった。


 旅ができなくても構わない。

 突き詰めれば、俺はもっと優しい家族と一緒にいたかっただけだ。


「……ま、過ぎたことだよね」


 振り返っても構わないだろうけど、振り返ったままではいられない。

 後ろに道なんてない。あるのはただの闇だ。

 過去へはいけない。戻れない。よくある話だ。


 だから前を向く。前を往く。

 立ち止まり、振り返り、駆けながら、時には転びながら。

 それでも、目の前にしか道はないのだ。


 脇道も寄り道もあるだろうけど、それらは決して後ろへは続かない。

 どの道を選びとろうとも、前へしか進むことを許されない。



「マスター、皆が集まったそうですよー」


 物思いに耽っていると、下からイズモに呼ばれた。

 俺は屋根の上から飛び降り、イズモの隣に立つ。


「何してたんですか?」

「決意表明……? そんな感じかな」


 俺はアルバートのいる方へ向かいながら答える。


「そうですか。どんな決意を?」

「世界ぶっ壊す」

「ダメですよッ!?」

「冗談だジョーダン。まあ、繋がりはあるけどな」

「マスターが言うと冗談に聞こえないんですが……」


 半目で睨んでくるイズモを、軽く笑っていなす。


 世界最強にでもなれば、世界くらい壊せそうだけど……そんな面倒なことをするつもりはない。

 俺は普通に生きていきたいからな。



 アルバートに案内された広場では、多くの村人が集まっていた。

 よくもまあ、ここまで集められたな。俺が頼んだことだけども。

 集まっている村人の前には台が置いてあり、その台に乗るように言われる。


 俺が台に乗ると、集まった村人の視線が一気に集中し、思わずよろける。

 ……やっぱ、人前は慣れないなぁ。

 トーナメントとか代表戦は戦うことで気がまぎれるからまだ楽なんだが。


 だが、台に立ったまま何も言わないとはいかないので、腹を括る。

 できるだけ通る声で、集まっている村人全員に聞こえるように声を出す。


「えーっと、とりあえず半月領主を任命されたネロ・クロウドだ」


 そこでいったん区切るが、村人の反応には答えない。


「俺がやることは二つだ。男衆には狩りを覚えてもらう。もちろん女性でも覚えたけりゃついてくればいい。ただ、女連中にはこっちの二人に刺繍とかを教わってほしい。まあ、自由参加だけどな」


 イズモとアルバートを手で示す。

 イズモに若干不審げな目が向けられるが大丈夫だろう。


「税率が高いのは知ってるけど、当主からは変えるなって言われてる。だから、食料を確保する方法を教える。金を稼ぐ方法を教える。ニルバリアがどうだったかは知らんが、俺は飢えた人に魚は与えない。魚をとる方法を教える。そういうことだ」


 さて、と。

 たぶん、これだけじゃあ誰も俺の行事には参加してくれないだろう。

 税率が変わらないんじゃ、そんなものに参加している暇はないんだろうし。


「で、まあ参加するしないは自由だけど、お前らの今月分だけの税はなしにしてやる。帳簿は俺が適当にでっちあげておくから」


 前世でお小遣い帳つけるように言われたとき、帳尻合わせだけはうまくなった。

 適当に、怪しまれない程度に偽造する。

 それにじいさんからも言外に許可は出ているからな。不正じゃない。たぶん。


「今日は帰って、家族なりと相談して決めてくれ。参加しようがしまいが、今月分だけの税はない。わからない点や詳細を知りたいなら、クロウド家の屋敷に来い。以上だ」


 そう締め、俺は台から降りる。

 村人の大半は戸惑った様子だが、まあいいだろう。


 これで来なくても、俺のせいではないし、信頼されていないで万々歳っと。

 確か自警団があったから、そいつらにはさすがに参加して欲しいな。一応戦闘訓練にもなるし。

 あとはー……アレルの森だな。


「アルさん、屋敷に来た人の説明、お願いできる?」

「お任せください」


「んじゃ、イズモ。アレルの森行くぞ」

「アレルの森、ですか?」

「ああ。一応、あいつには会っておかないとな」


「……蛇、でしょうか?」

「そ。魔獣の、ヨルドメア」

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