表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
学園編 学園の魔導師
62/192

第二十八話 「バカヤロウコノヤロウ」

「マスター! 朝ですよ!」


 耳元で叫ばれ、思わず飛び起きる。

 いつもなら寝起きで回らない頭だが、この時は驚きのせいですぐに覚醒した。


 飛び起きたせいで少しひりひりする目をぱちくりさせ、俺を起こした相手を見る。

 といっても、イズモなのだが……


「なぜにメイド……?」


 イズモの服装が、メイド服に変わっていた。


「あ、えっと、ローザさんが今日からはこれを着ろって……」

「ああ、そう……」


 ゴシック調のメイド服。

 髪は後ろで一つに結ばれており、髪型だけならネリと一緒だ。


「……奴隷からメイドって、クラスアップ?」

「かもしれませんね。……まあ、最高から最低に一度落ちてはいますが」


 最高から最低? 身分のことか?

 ……って、じゃあイズモは王族なのか?


「え? じゃあ、イズモって――」


「イズモ! マスター起こすのにどれだけかかってるんだい!」


 俺がイズモに尋ねようとした矢先、メイド長……じゃなくて、ローザが押し入ってきた。


「あ、はい! 今行きます!」


 叱られ、イズモは慌てて出て行こうとする。


「す、すみませんマスター。その話はまた今度で」

「ああ……楽しみにしとく」


 イズモに適当に手を振って送り出す。イズモは一度微笑み、出て行った。


 一度吐息し、立ち上がる。

 イズモの謎が増えるばかりだが、一応これカラレア神国が事実上ないことの証明ができたか。

 その辺に関しても、イズモが教えてくれるのだろう。少なくとも、1年後くらいには。


 置かれていた服に着替え、今日はどこに行こうかと悩みながらクロウド家の屋敷を歩き回る。

 ウィリアム? あんな凶暴な奴に朝っぱらから付き合ってられるか。


 屋敷の把握もかねて、気になるところを中心的に回る。

 地下があったり、離れに高い塔のような建物があったりと、探検には事欠かない。

 私兵の皆さんが暮らすのは、屋敷本館から少し離れたところにある寮のような屋敷だ。


 そこにはきっとウィリアムがいるので近づかない。

 そう思ってそのあたりを避けて探索していたのだが……


「見つけたぞコノヤロウ! 今日も打ち合いだクソヤロウ!」

「テメエもっと丁寧な言葉使いやがれ!」


 なぜか俺を探し回っていたウィリアムに見つかり、現在かけっこ中だ。

 だが、この3か月まともな訓練などしていなかった俺は、基礎体力が落ちに落ちている。

 捕まりたくない一心で魔術を駆使して逃げ回るが、それでもウィリアムを撒けない。


「くっそ、追いかけてくんなバトルジャンキー!」

「ふざけんな! 俺に勝ったテメエが悪いんだよバカヤロウ!」

「口が悪すぎるっ!」


 そんなのでよくもまあ右腕が務まるな!

 とはいえ、たぶん昨日の様子からして状況によって切り替えているのだろう。


 ていうか、俺今代理当主! 代理だけど当主なんだけど!

 まあ、そんな言い分が通るような奴ではないことはわかっているのだが。


 クロウド家の広大な領地を半周したあたりで、とうとう俺の体力が底をついてきた。

 魔力はまだまだ有り余っているのだが、体力がないと走り続けることはできない。


「くっそ!」


 俺は腹を括ると、こういう時のために持ってきていたナトラの剣を手に取る。

 不意打ちで一発ノックダウンを狙い、その隙に逃げてしまおう。

 そういう腹積もりで、どこか待ち伏せができそうな場所を探す。


 その時、ちょうど木が連なって林道のようになっている場所を見つける。

 そちらの方へ向かい、林道に入る。


 幸い、林道は何気に入り組んだ構造をしている。

 直角の曲がり角で右に曲がり、急制動で立ち止まって振り返る。


 そして、ウィリアムが曲がってきた瞬間に鞘に納めたままの剣で殴りかかる。


「くたばれ!」

「っざけんな!」


 だが、不意打ちは失敗に終わり、ウィリアムの持つ木剣に受け止められた。

 そこから、今日も昨日と同じような一方的な打ち合いが始まった。



☆☆☆



 腹が減ったので、俺は容赦なく魔術を放ってウィリアムを打ち倒した。

 気絶したように倒れ込むウィリアムは放置して、俺は屋敷に戻った。


 逃げ回っているうちにかなり遠くまで行ってしまっていたようで、帰るのにも一苦労した。

 体力はほとんど使い果たしているし、ここまで戦いで疲れたのは久しぶりだ。

 こうなると、本格的に体を鍛えないといけない気がしてくる。


 だが、魔法学園にそのようなカリキュラムはなく、せいぜい午後の実戦形式の魔法授業程度だ。

 騎士学校では本格的な体造りをしているのかもしれないが、今更入学する気にはならない。


 ダイニングの扉を開けると、料理のいい匂いがしてきた。


「あ、マスター。ちょうどお昼ができましたよ」

「うん、わかるけど……」

「どうしました?」


 いや、何だろう、この敗北感……。

 俺が頑張って1年くらいかけて磨き上げた料理スキルを、イズモにたった一日で上回られるとは……。


「よくここまで作れたな……」

「あ、いえ。私はまだローザさんの手伝いをしていただけでしたし」

「そうか! よかった!」

「よ、喜ばれるのも複雑なんですが……」


 イズモが苦笑いを浮かべてくるが、喜んだって仕方ないだろ。

 俺が一人で、食べられる料理ができるようになったのは少なくとも1か月程度かかったんだからな。まあ、料理を作るのは日にそう多くなかったけど。

 この世界の計量はほとんどが目分量のせいで、ちょうどいい味付けとか難しすぎるんだぞ。


「この子は筋がいいよ。こっちにいるだけで、十分働けるくらいには出来上がるさ」


 イズモの頭に手を置きながら、ローザがそう評価した。

 褒められたイズモは照れ笑いのようなものを浮かべている。


 メイド長が言うのなら間違いはないだろうな。でも、働ける基準って何なんだろう。


「ところでウィリアムはどうしたんだい? あの人、いつもならもう食べ終わっていると思うんだけど」

「あ、林道でのびてる」

「……え?」


「打ち合ってたけど、腹減っていい加減うざくなったから魔術で寝かしてきた」

「ち、ちゃんと手加減したんでしょうね? マスター」

「いやいや、あいつ、殺したって死なないようなバカげた耐久値だから大丈夫だろ」


 容赦なくぶっ放したが、いってもアクアボールだから大丈夫だ。

 面白いくらい仰け反って、いい感じに歪んだ顔は傑作だったな。


「マスター、食事中くらいそんな顔やめてください」

「おおっと、悪い」


 知らず知らずのうちに吊り上っていた口端を戻し、料理を食べる。


「イズモも食え」

「え、でも……ローザさんがメイドは最後だって」

「良いから食え。一人で食うのはつまんね」

「……はい!」


「ローザさんも」

「はいはい。わかったよ」


 他、ダイニングにいたメイド全員も食べるようにいい、賑やかに昼食を開始した。




 あらかた食べ終え、デザートを食べ――


「こんのクソヤロウッッ!!」


 ようとしてダイニングに飛び込んできた、執事服。

 げぇっ、関――違う、


「ウィリアム!!」


 俺は慌てて立ち上がると、残っていたパンを引っ掴んで駆け出す。


「悪い、イズモ、ローザさん! うまかった!」

「待てコノヤロウッ!」


 誰が待つかバカヤロウ!


 ウィリアムが入ってきた扉とは別の扉からダイニングを出て、そのまま追いかけっこに発展する。

 俺は後ろを振り返り、ウィリアムに向かってパンを投げつける。


「食っとけ、くそ執事!」

「ああ!? 施しなんざふざけんなバカヤロウ!」


 とか言いながら、走りながら食うウィリアム。

 ……うん、まあ食ってくれるなら何でも良いんだけど。

 その語尾、どうにかならないのか? 普通に不快なんだが。

 まあ、別にいいか。どうせそう長くいるわけでもないし。


 さて、と。今度はどこに逃げようか。

 兵舎の方へ行こうか? 私兵にこいつなすりつけられないかな?

 ……無理くせーな。隊長だし、強さは十分知っているだろうし。


 じいさんに何とかしてもらうか? こいつだけでも。

 ……変な交換条件を出されても嫌だしな。


 というか、いい加減食べた直後の運動で横っ腹が痛くなってきた。

 吐きそうなのは何とか我慢できているが……万が一を考えて外に出よう。

 掃除は使用人がやってくれそうだが、わざわざ汚く使う必要もない。


 俺は進路を玄関へと向け、昼過ぎの外へ飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ