第二十五話 「テスト」
代表戦が終わると、1学期の行事はほぼ終了したことになる。
だが、一番の難関が残っているのだ。
……とはいえ、俺にとっては別に難関ではない。
期末テスト、である。
内容は筆記と実技の二つという、入学式時の試験と一緒だ。
筆記テストと模擬戦。
学園トーナメントで準決勝まで進んだ生徒は、模擬戦を免除されるので、俺は実質筆記テストだけだ。
免除されなかったとしても、魔導師の俺と戦いたい物好きはいないだろうが。
まあ、実技テストはアトランダムで対戦相手を決めちゃうわけなんだが。
ああ、それと王族による貴族のガサ入れも行われた。
それを指導したのはなんとフレイ自ら執っていたらしい。本当に八つ当たりのような調査だったと聞く。
その甲斐あってか、王族でも目を瞑れない悪事をしていた貴族のほとんどが捕まったらしい。
レイヴァン家も例外なく捕らえられたらしいが、詳しくは知らん。
俺はバーブレイが捕まったという情報だけで満足なのだから。
それと、俺のトロア村の戦闘や調査を行うように促したことなどの功績から、クロウド家は一つクラスアップした。
まあ、レイヴァン家が収まっていたところに入っただけなのだが。
その報告をするために王城に召集された際に、ニルバリアの悔しそうな顔を見れたのでよしとする。
ついでにあの螺旋階段を上って白の魔導書があった部屋を確認に行ったが、鍵は厳重にされており、老人も来なかった。
ホント何があったんだよ、あの時……。
若干青い顔になりながらも、王城を後にした。
で、まあ期末テストだ。
このテスト、俺は満点を取る気でいる。
というのも、グレンに対抗意識があるだけなのだが。
あのとき食堂で言われた言葉を覆してやるのだ。
ノー勉ではさすがに満点は取れないだろうと思い、代表戦が終わってから勉強を始めた。
一応、授業は聞いている。時々寝ているが、ノエルに叩き起こされるので授業を一切聞いていないことはない。
しかし、俺は放課後になればクラスメイトを相手に授業をしているわけで、そこまで理解不能な分野はない。
勉強机に向かって勉強をしているが、いかんせん、あの部屋から持ち出した本が読みたい。
ついつい椅子から立ち上がって本に手が伸びてしまう。
が、そのたびにイズモに手をはたかれる。
これも何度目だろうか。俺は集中力には自信があったつもりだったんだが……。
「マスター、あんまり気になるなら、誰かと一緒に勉強するのも良いと思いますが?」
「いやいや、バカ言っちゃいけない。そんなことしてしまえば、駄弁って無駄な時間になるだけだ」
「いえ、もうすでに無駄な時間が……」
「ていうかさ、そもそもなんで俺勉強してんだろ? テストって、教師が作るじゃん? その教師の性格でもわからないと、出題範囲なんてわかんないじゃん」
「そんなこと言い出したらきりがありませんよ……」
俺の無茶苦茶な論に、イズモはため息を吐く。
ていうか、ここまで気になるならもう読んでから勉強した方がすっきりしね?
「いけません。テストは三日後ですよ。マスターのことですし、一度読んだら何度も読み返して三日潰れますよ」
「俺、一回読んだら読み返さない派なんだ」
「信用できません。英雄譚はそうかもしれませんが、歴史書は違うでしょう?」
「よくわかってらっしゃる……」
なんでここまで読まれるんだろうか。
俺って、イズモに対してそこまで知られるようなことしてたかな?
仕方ない、本が読めないなら勉強するしかない。
俺は再び机に戻る。
ふと、窓の外が目に入る。
今日は日曜日だし、城下町は盛況しているんじゃないだろうか。
「……外」
「いけません」
「……」
まだ何にも言ってないじゃないですかー。
☆☆☆
そして、三日後のテスト当日。
俺は眠い目をこすりながらあくびをかく。
現在登校中である。
近くには、お馴染みの4人がいる。
「随分と眠そうだけど……徹夜でもしたの?」
ノエルが俺の顔を覗き込んできながら訊いてくる。
「ああ……いや、ちゃんと寝たよ」
「……勉強?」
「違う。読書」
昨日……というか、日付的には今日、寝る前になって耐えきれずに英雄譚を読んでしまったのだ。
それが物語風で結構面白く、おかげで止め時を見失って結局睡眠時間は3時間程度だろうか。
歴史書ならまだ歯止めが効きそうだったから、歴史書にしとけばよかった……。
イズモが起きていると読ませてくれないので、寝たのを見計らってから読み始めたのも原因か。
ていうか、部屋を分けてもらうように頼んだのに分けてくれなかった学園長も悪いと思う。
「ま、マスター、結局読んだんですか……」
「我慢できなかった」
「筆記テストに、私たちの生活用品がかかっているのに……」
イズモが半目になりながら睨んでくる。
本読むくらい、悪いことじゃないんだからそんなに目くじら立ててほしくないんだが……。
まあ、たしかにイズモの言う通り、俺の筆記テストの結果如何によって生活用品の質が決まるのだが。
「そんな寝不足の頭で、筆記テストができるのか?」
再度あくびをしていると、グレンが訊いてくる。
「問題ない。3時間も寝りゃ、十分だし」
前世ではよくやっていた。
それに、寝不足だけど案外頭はクリアなんだ。意識もはっきりしているし。
その分、反動がひどいんだけどな。
「お前も良いのか? 騎士学校のテストと魔法学園のテスト、二つ同時だろ?」
「貴様に心配されるほどバカではない」
「はいはいそーですねー」
戦闘に関して言えばバカだけどな。
まあでも、筆記テストは良いらしいし、勉強面ではバカではないのだろう。
一番バカっぽいのは……
「なんですか?」
俺が顔を向けると、純真な笑顔を向けてくるフレイヤ。
「おい、貴様まさかフレイヤ様がバカっぽいとかいうのか?」
「感づいてんならお前も思ってんだろうが……」
「フレイヤ様は実力で1組だ。バーブレイのような奴とは一緒にするなよ」
「バーブレイとなんか一緒にするかよ」
さすがの俺でもそこまでは思わねぇよ。
学園長のお墨付きでもあるし、一番バカなのはノエルだって知ってるし。
フレイヤはただ単にバカっぽいだけであって、バカではない。ノエルはバカだ。
「……」
「いって! おま、無言で蹴ってくんな!」
ノエルが俺を睨みながら、足を蹴りつけてきた。
なんでわかるんだよ。俺の考えてることって、顔にでも出てんのかよ。
「何となくよ」
「ひでぇ!」
いや、俺も悪かったけど。
ノエルだって、一応俺の授業でそれなりに頭よくなったし。
さすがに最低点をたたき出すことはないだろう。
そんなこと、1組でへらへらしてる貴族様あたりが出しそうだし。
学園内の廊下でグレンとフレイヤと別れ、俺たちは7組へと向かった。
結果だけ言うと、テストは楽勝だった。
……が、俺は最後まで辿り着けなかった。
つまり、寝た。途中で力尽き、寝てしまったのだ。
あっれー、おかしいなー。前世ならなんてことないはずなのになー。
……ええ、はい。わかってます。この世界に転生し、俺は規則正しい生活をしてきました。それをいきなり崩せば、慣れているわけもなくガタがくることくらい。
とはいえ、満点が取れなかっただけであって、それなりの高得点を叩き出しはした。
だが、それでもやはりグレンは当然のように満点を取っていて、とてもうざかったのです。
そして、テストの返却があった次の日に、ランク分けの表が張り出された。
残念ながら、俺は筆記テストが足を引っ張ってランクはAだ。まあ、Sなんてトーナメント優勝と筆記テスト満点が条件なんだが。
「惜しかったですね。ちゃんと寝ておけばSランクだったかもしれないのに」
「まあな。けど、Aでも十分だろ」
今回のランク分けではSランカーはいない。
グレンはトーナメントが準優勝だったからな。それに騎士として出たし。
フレイヤはBランクで、ノエルはCランクだな。
どちらも実技が足を引っ張っている感じだが、ノエルに関して言えば十分だろう。
他7組生もC,Dあたりに固まっている。1年次にポイントを取られることはないし、7組生に退学圏内はいないだろう。
まあ、Fランカーなんて一桁程度しかいない。こいつらは普段の生活態度で減点を喰らった生徒だ。
一桁もいることに驚きだがな……。最初、Dランクからだってのに。
「十分ですけど……」
「ま、なんにせよテストは上位だし、生活品は大丈夫だな」
「そうですね」
ランク表を見終え、俺はイズモとその場を離れた。
今日は終業式だ。今日で1学期は終わり、1か月程度の長期休業に入る。
俺はこの長期休業期間にクロウド家へ行かなければいけない。
ニルバリアにもじいさんにも会いたくないが、学園長直々の命令と来た。
まったく、何をさせられることやら……。
俺は吐きそうになった重い溜息を飲み込み、終業式の会場に向かった。




