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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
学園編 学園の魔導師
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第六話 「実技テスト」

 午後は校庭に出て、実技の試験だ。

 学園長はどこまで他の教師に俺のことを話しているのだろうか。


 実技の試験の前に、魔力総量など基礎的な部分を計測することになっている。

 計測するのは、魔力総量、命令式の組み立て、属性の魔法をどれだけ扱えるか、の3つ。

 魔力総量は魔法道具を使い、あとの2つは目視で計測される。


 しかし、魔法道具は正確な道具ではない。不具合は起こるし、壊れやすくもある。目視は言わずもがなだ。

 俺の魔力総量は世界一とか言われたし、その実感もある。もしかしたら魔法道具を壊してしまうかもしれない。


 なので、俺は長蛇の列の一番後ろについている。

 そしてなぜか、昼休みからノエルに付きまとわれている。同じ列に並んで。


 別に話し相手になってくれるから追い払うこともできないんだけど。

 イズモだけでも構わないんだが、会話のキャッチボールができない。バッテリーの関係になってしまう。


 ……昔話が禁止だと、ノエルとの共通の話題なんて持ってないんだが。

 それでも適当にノエルの話に相槌を打ちながら時間を潰していると、ようやく先が見えてきた。


 そしてノエルの番となる。


 魔力総量の計測器は、簡単に言えば電流計のようなものだ。

 電流計のプラスとマイナスの端子部分を持ち、魔力を流すことで勝手に測定される。

 ただ、不具合も多いので5回やった平均値をとられる。


 ノエルの魔力総量は、人よりも数倍多いようだ。

 ドヤ顔で自慢してきた。個人情報とかにならないのかな?


 まあいいか。俺の番だ。

 一つ深呼吸をして、端子を掴む。すると、魔力が吸われる感覚がした。


 それと同時に、針が激しく動き出し、一気に最大値まで振れる。

 が、その直後にショートしたような音と共に針が振りきれて、案の定壊れてしまった。


「け、計測不能……?」


 担当の教師は驚きながらも、そう用紙に書き込んでいた。

 俺は振り返り、唖然としているノエルに、向けられたドヤ顔以上の笑みを見せておいた。



 お次は命令式の組み立てと属性の魔術の計測である。

 命令式の組み立てとは言うが、要は言われた通りの命令式を魔術に込められるかどうかだ。

 属性の魔術についても、言われた通りの属性の魔術が使えるかどうかだけ。


 属性の魔術については、ノーラと亜人族の学校で一通り覚えたし、問題ない。

 それに、命令式は俺の得意分野である。

 小さいころからずっと命令式を弄ったりしていたため、命令式についてはかなり精通してきた。


「ネロって命令式得意なの?」

「まあな。結構魔術で遊ぶし」


 そう答えながら、俺は火球を作ってぶんぶん飛ばす。

 ノエルはその光景を見て、驚愕の表情を浮かべている。


「……え、なにその動き……いや、待って……今、詠唱破棄した?」

「あ、そうか。知らなかったのか」


 そういや教えていなかったな。

 水や雷の玉も作り上げると、普通に驚いている。


 ……エルフの里で詠唱破棄しても、里の全員が使えるからなぁ。まあ、ここまで複雑な動きをできるのは、俺が教えたリリーくらいだけど。

 リリーもなんだかんだで、最終的に命令式を理解したし。


「あれ? でも、詠唱破棄できないのって、この国だけだぞ。ヴァトラ神国の連中はできるんじゃないのか?」

「……私、ヴァトラ神国にいたのは1年程度よ? それに、ほとんど城から出してもらえなかったし、天語が……その……」

「ああ、それじゃ覚えられないか」


 母国語を理解できないとか……俺の時と似た状況だな。俺の場合は母国語じゃなくて亜語だったが。


 でも、そこまで難しいことをしているわけではないし。

 ……イズモには今度教えるか。


「ノエルには気が向いたら教えよう」

「……今教えてくれたっていいじゃない」

「今すぐできるわけないだろ。それに、学園長からも言外にあんまり広めるなって言われているしな」


「なにそれ。二人だけの曲芸だとでも思ってるの?」

「思ってないよ。……じゃあ、コツだけ教えよう」

「ホント!?」

「魔術を使う際に魔力の流れを、これから意識しろ」


 俺が幼少の頃、ノーラに言われたことそのままだ。

 だけど、俺の詠唱破棄の基礎はこれだ。魔力の流れがわからないと、俺の方法はできない。


「……なにそれ?」

「言われた通りにしとけば、いつか他国に行った時にすぐにでもできるようになる」

「ふうん。まあ、ネロのことだから信じるけど……魔力の流れ、ね」


 俺じゃなかったら信じないの? いや、それ以前になんで俺だと信じるの?

 まあ、聞けるようなことでもないか。


 ノエルと雑談をしていると、ようやく番が回ってきた。

 命令式の組み立ての計測は、担当の教師が指示した通りの魔術をどれだけ放てるかというものだ。


「では、まずは火魔法で壁を作り、人が通れる穴をあけてください」

「わかりました。【ファイアウォール】」


 詠唱せず、言われた通りに自分の周りに火の壁を作り出す。

 穴も難なく開ける。


「え、詠唱破棄……? でも、学園長の招待した生徒だし……」

「次は?」


 担当の教師は驚いている。学園長、俺の詠唱破棄伝えてなかったのね。

 それにしても、学園長の招待した生徒だと詠唱破棄くらい普通なのか? なんか納得しちゃってるし。


「あ、えっと、水魔法をあちらの的に当ててください」


 指差された方向には、レンガを積んで的が数個置かれたオブジェがある。


「【アクアレーザー】」


 言われた通りに水魔法で、途中で枝分かれするように命令式を組み込んですべての的を射抜く。

 ……あ、やべ、穴空いた。


「すみません、直します」


 謝ってすぐに土魔法で穴の開いた箇所を補強する。ついでにできる限り固くしといた。


「え、えっと……」


 担当の教師が戸惑いの表情を浮かべてしまっている。

 うーん、やり過ぎたか?


 もう少し加減した方がよかったな。失敗した。


「次は?」

「……さ、錯覚魔法を私にかけてください」


 ん? この指示は他の生徒にはしていなかったと思うが……。

 まあいいか。それに、教師なら普通の魔法の命令式なら破れるとかで、そういったものも見るのだろう。

 なら、解けたらいけないのかな。


「幻視でいいですか?」

「え、ええ。構わないわ」

「【ミラージュ】」


 命令式を複雑にして、錯覚魔法をかける。

 まあ、距離感を失わす程度の錯覚魔法だ。これくらいなら大丈夫だろう。


「あ、あれ? ……解除が、できない?」


 担当の教師が、ふらふらとおぼつかない足取りになってきた。

 あ、少し長いか。


「はい」


 教師がこける前に、俺は教師の目の前で手を叩いて錯覚を解く。


「すみません。限度がよくわからないもので」

「い、いえ。それくらいは構わないんだけど……」


 教師は軽く頭を振りながらそう答えた。


「えっと、これで命令式と属性の魔術の計測は終わりです。次はあちらで、実戦試験となります」

「わかりました」


 俺はイズモを手招きし、指差された方へ向く。

 ……あ、ノエル待った方がいいのか?


 ちらっとノエルの方へ向くと、まだ時間がかかりそうだった。

 というか、命令式は苦手らしい。


 仕方ない。一応待ってやるか。

 俺は少し離れたところで、苦戦するノエルを眺めていた。



☆☆☆



 ノエルと一緒に実戦試験会場へ。イズモも後ろをついてきている。

 そこでは騎士学校の生徒も含め、多くの新入生同士が魔術や剣で競い合っていた。


 エルフの里でよく見た光景である。魔術理論の座学が終わると、最終的に実践しか行わなくなり、魔術が飛び交うのにはそれなりに慣れた。

 が、やはりこういう魔術の応酬や剣戟の音が聞こえてくると、異世界だなーっていう感覚が強くなる。


 しかし、やっぱり剣はかっこいいな。憧れる。

 ナトラの剣は持っているんだけど、魔法学校で持つのはダメだと学園長に言われ、今は家の自室に保管されている。

 まあ、そりゃ喧嘩の火種になるからなんだろうけど。


「す、すごい……こんな中で詠唱と命令式の組み立てなんて、私には……」


 確かに人族の使う魔術は命令式というものがあるからな。

 そのおかげで複雑な動きができるんだが……戦闘だけで言ってしまえば、当てればいい威力で撃てば複雑な動きはいらないしなぁ。


 かといって、今ノエルに亜人族式の詠唱を教えたところで、今すぐできるようになるとは思えないし。

 ……学校の後に家に来るんだっけか。その時にでも教えてやるか。


「相手は自分で決めるっぽいな。ノエル、やるか?」

「嫌よ。絶対に勝てないじゃない」

「詠唱破棄を使わない、でどうだ?」

「イヤ。ていうか、ネロと戦いたくないし……」


 ふむ、ここまで拒否されるとは……諦めるしかないか。

 しかし、こうなってくると誰とやればいいんだろうか。


 他に知っている奴なんて、グレンくらいだぞ。フレイヤは、今日初めて会ったばっかだし、王女だから相手にしにくい。


「あ、フレイヤがいる。私、あの子とやってくるね」

「おー、それなりに頑張れ」

「ネロも、頑張ってね」


 軽く手を振り合って見送る。

 ノエルの駆けて行った先に、確かにフレイヤがいた。

 身分が同じだと、王女であってもフランクなんだな……いや、あのフレイヤなら誰でも同じか。


 さて、俺も相手を探さなければな。

 できるだけ強そうな奴の方がいいんだが……。


「おい、お前まだ試験受けてないだろ?」


 突然、後ろから話しかけられた。

 ……このくだり、レンビアを思い出すな。


 振り返って相手を確認するが、当然知っている奴ではない。

 ていうか、もう第一印象がレンビアとまったく同じ。

 俺を下に見て、踏み台とか考えてそうな、典型の貴族。


「……まだだよ」

「ならオレとしようぜ!」

「まあ、いいけど」

「よっしゃ! じゃあ早速――おい、ちょっとどけろ」


 そいつは、順番待ちを無視して、白線の引かれたフィールドの中に入っていく。


「おい、順番くらい待ったらどうなんだ?」

「はあ? なんで待つ必要があるんだよ。いいからさっさと来いよ」


 ホント、典型的な困った貴族だ。自分が世界の中心だとでも思っているのだろうか。思ってるんだろうな。

 俺はため息を吐き、前に並んでいた人たちに謝りながらフィールドに入る。

 しかし、あいつ地位の高い貴族なのか? 案外すんなりと前を開けたし。


 まあ、いざとなったらグレンを呼んで来よう。他力本願だ。

 流石に公爵家の嫡男とことを構える気はないだろう。


「……では、位置についてください」


 担当の教師は少々複雑な表情だが、やはり逆らえないのか注意もしない。

 そんなものか。貴族社会というものは。


「イズモ、下がってて」


 俺はイズモを後ろに下げ、一つ深呼吸をする。


「実戦試験では、相手の魔術がかすりでもしたら終わり、当てた方の勝利となります」


「んなことはわかってんだよ。さっさと開始しろ」


 ……こいつは大人しく話を聞くこともできないのか。

 教師もため息を吐いて、手を挙げた。


「……では、始め」


 教師が手を勢いよく下げながら、宣言した。


「万物が恐れる赤き象徴、その力を我が手に。

 彼の者を撃ち抜き、燃やし尽くせ。【ファイアボール】」


 そいつは威勢よく唱えるが、正直詠唱破棄のできる俺からしてみれば隙だらけとしか言いようがない。

 それでも、たとえ俺が詠唱破棄を使えなかったとしても、そこまで堂々と真正面から魔術を使うことはしないが。


 俺は飛来してきた火球を難なく躱し、攻勢に転じようとする。

 さて、ここで詠唱破棄を使ってもいいのだが、それだとプライドの高い相手だ、難癖つけられそうだ。

 仕方ない、普通に詠唱するか。


「一瞬きの閃きは、冒涜する者への天罰なり。

 紫電を纏いて、彼の者を撃ち抜け。【サンダーアロー】」


 俺が相手に向けた手から、紫電が迸る。

 それは途中で枝分かれし、逃げ場がないほどの数に増えた。


「母なる大地よ、その雄大な力を大きく振るえ。

 その頑丈な姿で、行く手を阻め。【ロックウォール】」


 相手が唱え終えると同時に岩の壁が出来上がり、俺のサンダーアローを防ぐ。

 サンダーアローはロックウォールに激しく激突するものの、最終的には弾かれてしまう。

 ふむ、もう少し魔力を込めなければ貫けないか。


「どうしたどうした!? そんなもんかよ、特待生!」


 別に好きで特待生やってるんじゃないんだけど。

 まあ、そんなことを言われてしまえばむかつくのだけれど。


「万物が恐れる赤き象徴、その力を我が手に。

 彼の者を撃ち抜き、燃やし尽くせ。【ファイアボール】」


 またか。大体、そんな直線的な軌道で当たるとでも思っているのだろうか。

 俺は体を半歩だけ下げて回避しようとしたとき、


「避けちゃっていいの?」


 にやついた笑みで、そんなことを言ってきた。

 ……おい、まさか。


 俺は視線を後ろに一瞬だけ向ける。

 俺の真後ろに、イズモがいた。俺が火球を避ければ、直撃コースだ。

 それに気づいたイズモも、目を見開いていた。


「腐れ貴族が……!」


 視線を前、火球へと向けると、火球は軌道を変えていた。俺を迂回するようにして、確実にイズモを狙うように。

 俺は腕を火球へと伸ばし、それを掴むように手を広げる。


 手に触れると同時に、命令式の解読、逆算、魔力の流れを破壊する。

 何とか火球を無効化することに成功した。が、火球を触ったおかげで、掌を火傷してしまった。


「触れたな。オレの勝ちだ」


 相手は気持ち悪い笑みを浮かべたまま、そう宣言した。

 だが、試験官はおろか、周りの生徒だってそいつの宣言には疑問を持っている。


「し、しかし今のは――」

「ああん!? お前、かすりでもしたら負けだっつっただろ! あいつは触ったぞ!」

「だが……」


 誰も認めるようなものではないが、それを地位でごり押しする、ね。

 流石、典型貴族。


 俺はため息を吐き、手を上げる。


「はいはい、俺の負けです。それでいいんだろ?」

「……なんだ、その言い草は?」


 こいつもグレンのような言い方をするのか……。


「俺は負けを認めよう。それが嫌なら、もう一戦か? 今度は容赦しないぞ。特待生舐めんな」

「……チッ、負け犬が吠えやがる」

「どっちがだ」


 俺は手を下ろし、白線のフィールドから出る。

 イズモは座り込んで震えていた。


 俺はしゃがんでイズモの頭をなでてやる。


「はいはい。もう怖くない怖くない」


「ハッ! 奴隷を庇うマスターがどこにいる? 奴隷は、盾に使うもんだろうが」

「なら、お前はなんで奴隷を狙ったんだ? 盾にされるとわかっていながら狙った。お前は正真正銘のバカだよ、腐れ貴族」

「なんだと……!?」


 典型貴族が俺の方へ、怒りの形相で近づいてくる。

 俺はイズモの前に立ち、真っ向から睨み返す。


「テメエ、オレが誰だかわかってんのか?」

「知るかよ。どこの底辺貴族様ですかぁ? 庶民の俺にもわかるように教えてくれます?」

「この……!」


 典型貴族が俺の胸倉に手を伸ばし、拳を振り上げた時、


「バーブレイ、またそんなことしてるの?」


 ノエルの声が聞こえてきた。

 声のした方に向くと、ノエルとフレイヤが一緒に立っていた。


「……くそ、王女様二人かよ」


 典型貴族は俺から乱暴に手を放すと、少しだけ後ろに下がった。


「クロウド家の出来損ないが。今度舐めた口聞いたら許さねえからな」

「あ、そ。俺は出来損ないじゃないし――」

「ネロ」

「……はいはい」


 ノエルにきつく言われ、言葉を止める。

 俺もダメだな。貴族相手だとすぐに熱くなる。もっと冷静にいかなきゃ。


「ハッ、女に引き止められるなんて、クロウド家の面汚しだな」

「お前が――」

「ネロ」

「……」


 いや、これくらい言わせてくれたっていいんじゃありません? ノエルさん。

 まあいいか。言い返しても無駄だろうし、ここは大人しく引いておこう。


 ただ、一言忠告しておかないとな。


「次ちょっかい出したら殺す」


 俺は親指を立て、首に一線を引いて下に向ける。


「ああ……!?」

「バーブレイ、ここは退きなさい。お母様に言いつけますよ?」

「……くそが」


 フレイヤの一言で、典型貴族は踵を返して去っていく。

 反対側に居た従者……ではないな。奴隷だ。首輪につながれた鎖を持ったし。

 その奴隷の鎖を強引に引いて、去っていった。


 典型貴族が去っただけで、フレイヤもノエルも態度を軟化させてくれたため、周りの生徒もいくらか安堵している。

 確かに、ここにグレンがいれば昼休みと同じ危険地帯だよな。


「そういえば、あいつって誰?」


 バーブレイとか呼ばれていたけど、どこの貴族か言わなかったし。


「……ネロ、もう少し貴族には詳しくなった方がいいわよ」

「良いんだよ。この国に仕える気はないし、貴族なんか面倒なだけだから」


「はあ……。あいつはバーブレイ・レイヴァン。レイヴァン侯爵家の嫡男よ。確か、クロウド家とは昔から仲が悪いらしくて、ことあるごとに競争しているみたいね」

「ふうん。その競争が、今回は子供に来たわけか」


 可哀想に。俺じゃ、万が一の勝ち目もない。

 次からはイズモを狙われるような失態は演じない。


「イズモ、大丈夫か?」


 未だに震えているイズモを抱き上げながら、ノエルに向く。


「今日は試験だけだよな? もう帰っていいの?」

「え? まだ試験結果の発表があるけど……」

「じゃあパスで。後で学園長にでも聞くわ」


 そういって立ち去ろうと思った時、ノエルに火傷した方の手を掴まれる。


「っつ……!」

「あなた、馬鹿よね。火球に手を突っ込むなんて」

「咄嗟だったんだよ。もっと冷静なら、アクアボールで消火してた」

「はあ……なら、もっと冷静でいなさい」


 それは無理な話だ。さっきのバーブレイとのやり取りを見ていただろうに。


「大地の恵みと神の慈悲を、彼の者に与えたまえ。

 その一粒の涙で、傷は癒えよう。【ヒール】」


 ノエルが回復魔法を唱えてくれる。

 すると、火傷の痛みが徐々に引いていき、やがて消え去った。


 俺は治った手を握ったり開いたりしながら調子を確かめる。


「別に、自分でできるのに」

「だったらなんでしないの?」

「いや……意識がこっちにいってて……」


 そういいながら、イズモを差す。

 イズモは俺にしがみついて、声を出さずに泣いている。


「ともあれ、ありがと。今夜家に来るんだよな?」

「え、ええ……一応寮に入ってるし、家に許可も必要ないし」

「わたくしも参りますよ!」


「はいはい、わかった。じゃあ、グレンもだな?」

「嫌だけど……フレイヤが行くなら、行くでしょうね」


 何、グレンってフレイヤのお付きの人でもやってんの?

 まあ、公爵家で騎士だから王女の近くにいてもなんら不思議じゃないけど。


「了解。適当に料理して待っとく。じゃあな」

「あ、うん。またあとで」


 そういって、俺は二人と別れて早めの下校となった。


 後日、イズモが俺とノエルの間の子だとかいう噂が流れた。

 ……なんでや。ノエル関係ないやろ。

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