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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
エルフの里編 強くなる魔法師
30/192

良い貴族

 次の日から、周りの目が一気に変わった。

 俺を敵意の籠った眼で見る生徒が増えたのだ。


 俺の組でも、そういったものが増え、話ができる奴は激減。片手で足りる程度の数になってしまった。

 だけど、後悔はしていない。誰が何と言おうと、俺は家族からの贈り物を手放すことだけはしない。

 少なくとも、もう一度家族の墓に行くまでは。


「……」


 横に座るリリーに目を向けるが、事情を話さない俺に対して怒った表情を浮かべている。

 実際、ただの私用で起こした厄介事だし、あんまり巻き込みたくないっていう気持ちはあるのだが……無理な話か。


 いっそ話してしまえばいいのかもしれないが、それでも抵抗があるのだ。

 女々しい、なんて思われたくもないし。


「はぁ……」


 重いため息が漏れる。

 ……この里とも、もうすぐお別れかなぁ。


 当初の目的である詠唱破棄を完成させた。

 戦闘能力も十分高くなっただろう。

 目的にはなかったが、亜語と龍語も日常会話程度までは覚えられた。

 ……ガラハドの魔獣も、収穫と言えば収穫だ。


 十分だろう。むしろ行き過ぎている気がする。

 この里は、もう去っても構わない。


 それでも、惰性で滞在してしまっているのは……リリーのせいだろうな。

 ラトメアやナフィも、まだ優しくしてくれている。

 だけど、その優しさがいつまで続くものなのか。


「はぁ……」


 ため息ばかりが漏れて、授業が全く頭に入らない。

 ……まあ、もうほとんど理解している範囲なんですけどね。



 ようやく休憩時間になり、俺は机に突っ伏した。

 ……ああ、どうしようかなぁ……今日にでも出て行ってしまおうか……夜、見つからない様にすればなんとか――


「ネロ、もう一回腕結ぶ?」

「遠慮します……」


 行動を読まれてしまった……。

 しかし、こうなると本当どうしたものか。


 まあ、出て行ったところで行くあてがないのは1年前と変わらないのだが。


「……ああ、冒険者になるって手があったな」

「やっぱ結んだ方がいいよね」

「嘘です。将来的な話です。勘弁してください」


 リリーはもっと恥じらいを持つべきだと思う。



 戦闘訓練になると、俺を相手にしたがる奴はほとんどいない。

 教官も特に何かを言うわけでもなく、結局俺はぼっちに逆戻りというわけか。


 組手が終わると、リリーが心配そうにこちらを見ている。

 また木剣に変える、とか言い出したらどうしようか……まあ、教官もそこまで甘くはないだろうけど。


「逆戻りだな」

「……ああ、そうだな」

「だから相手にしない方がって言ったんだが」

「過ぎたことは仕方ないよ」


 独りで鍛錬でもしていようかと思っていた時、意外にもレンビアが声をかけてくれた。

 俺は木剣を構えてレンビアと対峙する。レンビアも同じように構える。


「お前はいいのか? 俺は、領主の娘様に喧嘩売ったんだぜ?」

「それくらいわかるよ。だけど、僕だって馬鹿じゃないんだよ」


 木剣を打ち合いながら、レンビアと会話する。

 お互いに本気ではないし、会話するくらいがちょうどいいのだ。


「大体、僕だって貴族の孫だよ。こんな地方の貴族とは全く格が違う、首都の大貴族のな」

「なるほどねぇ。だけど、継承権が弱いから地方にいるって?」

「……ホント嫌な奴だな」

「ついでにあのエメロアと、保険で結婚でもするのか?」

「どこまで見抜くんだよ!?」

「いやぁ、心中察するぜ。そりゃ、あんなじゃじゃ馬よりもリリーの方が魅力はあるよ」

「お、おう……」


 木剣で打ち合っているというのに、いきなり赤くなって隙だらけになる。

 そんなレンビアには構うことなく、俺は空いた脇にフルスイング。


「いってぇ! おま、手加減とかしろよ!」

「うっせ。いきなり発情する方が悪い」

「発情じゃねえよ!」


 仕返しとばかりに、レンビアも力任せに振ってくるが、痛みのせいでキレがない。

 俺はその攻撃を難なくかわし、素早く懐に潜り込む。


「な、あっ」

「【ヒール】」


 レンビアが俺の攻撃に耐えようと目を固く閉じる中、俺は詠唱破棄で回復魔法をかける。

 その行為に怪訝そうな顔を向けてくるレンビア。


「どうした? 相手に簡単にかわされた挙句、不注意に受けた攻撃を相手に治されたレンビアくん」

「悪意があるんだよ!」


 全快したレンビアが、また力任せに木剣を振るう。

 俺はその木剣に斜めに合わせて構え、攻撃を逸らす。


 攻撃が外れ、大きく態勢を崩すレンビア。

 俺は軽く木剣を振るい、レンビアの腹に当てる。


「なあ、あいつら二人はどうしたんだ?」

「……ケミトとハーメーンか?」


 一旦距離を取り、仕切り直す。


「あいつらは既にエメロアに買われてたよ。だから、もう僕の近くにはいない」

「ふうん。またなんかしてきそうだな」


「その時は……何とかできたら何とかするよ」

「期待しないでおくよ」

「ハッ、減らず口が」


 カンカンと木剣を打ち合う甲高い音が鳴り響く。

 会話が止まり、適当にレンビアと打ち合っていた。


「……なあ、もう1年経ってんだろ? お前、出ていくのか?」


 剣戟の中、やけに低い声でそう訊かれた。

 その真剣な声音に、思わず吹きだした。


「な、笑う事ないだろ!?」

「いやいや、悪い。まさか、お前にそんなこと言われるとは思わなくてな。お前なら、すぐにでも出ていけって言われるかと思ったよ」

「そこまで僕は冷血漢では……」


「リリーをゲットできないぜ?」

「さっさと出ていけ!」

「あっはっはっは」


 レンビアは裏切らないな。ホント、望んだ返しをしてくれる。

 それから、俺とレンビアは言い争いをしながら戦闘訓練を終えた。



☆☆☆



 エルフの里での生活が3年を過ぎた頃。

 結局、俺はそれまでずっと、なんだかんだと理由をつけてラトメアに厄介になっていた。


 だが、それも長くは続かなかった。


 その日の授業は、午前中に戦闘訓練、午後に魔術理論というものだった。

 いつも通りレンビアに相手をしてもらい、リリーに注釈をもらいながらも、その日の学校は終わった。


 俺は学校が終わり、家に帰るとラトメアに連れられて森へと出かけていた。

 前は森に近づくなと言われていたが、最近はよく連れて行ってくれるようになった。


 というのも、ラトメア一人の狩りよりも成果が上がるからだ。

 まあ、確かに俺は詠唱破棄と命令式のおかげで獲物の撃ち漏らしは少ない。損傷も最小限に抑えられる。


「大猟大猟。ネロは狩りが上手いな」

「うまくないですよ。大体、獲物を見つけることからできないんだから」


 今日の成果を二人で分けて持ち帰る。ラトメアは上機嫌だ。


「それはオレが全部やってるからだよ。お前もその気になりゃ簡単に見つけられる」

「そうですかねぇ……」


「今度はお前に索敵も任せようかな」

「ラトメアさんが楽したいだけじゃないですか」

「まあそうともいうな」


 俺はため息を吐く。

 まあ、人なんてそんなものか。楽して生きていこうとするよな。


「そういえば、俺がこの里に来て3年過ぎちゃいましたね」


 ふと思いついたように、自然を装ってラトメアに訊く。


「ああ、そうだな。まだいてくれているのは嬉しいぜ」

「3年前、ラトメアさんが俺を拾ったのって、ゼノス帝国が攻めてからどれくらい経ってました?」

「えーと、確か2週間……くらい……かな」


 ラトメアの言葉が、どんどん尻すぼみになる。


「やっぱり、知ってたんじゃないですか」


 俺は、ラトメアから聞き出すことに成功した。

 ラトメアが、ゼノス帝国がデトロア王国を攻め入った事実を知っていることを。


「い、いやあのな!? これは教えなかったんじゃなくて、えと、あえて教えなかったっていうか」

「もっと性質悪いじゃないですか」


「いや……ホントすまん。お前が家族を思い出すのを嫌がっていると思ってな」

「その気遣いは嬉しいですけど、あの戦争については教えてほしかったですね」


 ゼノス帝国とユートレア共和国は未だに同盟関係にある。

 その同盟関係のある国に、自国の戦争状況を知らせないわけにはいかないはずだ。


 ラトメアは諦めたようにため息を吐く。


「とりあえず、知っていることを教えてほしいですね」

「……そうだな。トロア村は昔から度々戦争地になっていた」


 ラトメアの話によると、トロア村での戦争はラトメアの生まれる前、つまり数百年以上前からあるらしい。

 だが、それも単発的なもので、長引いたことは一切ないらしい。

 帝国側からは、王国に攻め込み切れなかったと伝えられているらしい。


 トロア村が戦争に巻き込まれるようになった時期とちょうど被る出来事が一つあるらしい。

 それが魔剣【マンイーター】の発見だそうだ。


「マンイーターの使用者はエレ族だったよ」

「エレ族? レオ族じゃないんですか?」

「確か、エレ族が見つけて使い始め、使用者が死ぬと同時にチタ族が使って……今はレオ族で、たぶん11代目だな」


 魔剣【マンイーター】はゼノス帝国の兵士が代々受け継ぐものらしい。

 そして、マンイーターが発見され、大体数十年置き程度の頻度で戦争を起こすようになったらしい。


 レオ族、というかガルガドが使い始めて2回目の襲撃らしい。

 ニューラの前の守護騎士は、その戦争で生き残ったが、村の被害の責任のため処刑された。


「オレが知っているのはその程度だな」

「そうですか。ありがとうございます」


「サナにも一応、忠告はしたんだがな……それでも、愛する人と子供とのどかな場所で暮らすのも悪くないって言ってな」

「……」

「ニューラの実力は素晴らしかったし、オレも魔剣ごときに負けるなんて思っていなかったから、あんまり強く言えなくてな」


 まあ、でもニューラもサナも左遷されたけど不満なんか一切なかったように見えるし。

 それに、トロア村の人々もあまりにものんきだったし。戦争が続いた土地だってのに。


「もしかすると、王国が隠せるのかもとか思ったが……戦争を隠せるとも思えないしなぁ」

「結果だけなら、勝利したで終わるんですよね。被害の詳細を出さなければ、住む場所がない人が集まるかもしれませんし」


 おかしいとは思っている。

 戦争地帯に巻き込まれるなら、それこそ城塞都市のように城壁などを作ればいいのに。

 アレルの森があるから、の一言で済むようなものでもないはずだし。


 それでも、何か答えが出るようなものでも……ないのだろう。

 こればかりは王国に直接聞いてみるしか、な。

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