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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
エルフの里編 強くなる魔法師
29/192

盗難にはご注意を

 エルフ の里に滞在を始めて1年ほどが過ぎた。

 リリーと腕を結んだままの生活にもだいぶ慣れてきた。

 ラトメアは相変わらず口出しがあるが、それも少しずつ収まってきた。


 初めに俺が出した期間である1年が過ぎてしまったが、当初の目的である詠唱破棄がまだ使えないため、いまだに滞在している。

 ラトメアもナフィも、嫌な顔一つしない。むしろ嬉しそうな顔をする。


 あんまりこの里に馴染むのも嫌なんだが……。

 それでも、彼らの優しさに甘えてしまっている。


 学校での魔術理論だが、ようやく授業を理解できるようになってきた。

 まだ専門用語などはリリーやレンビアに頼んで訳してもらうのだが、その回数も減ってきた。


 やはり、言語を覚えるのには環境をその言語で満たすのが一番早いようだ。

 それでも、前世の俺からしてみれば驚きを隠せないのだが。

 この、ネロ・クロウドの身体が良いんだろうな。


 で、まあ最近ようやく詠唱破棄についても考えられる余裕が出てきたのだが、まだ俺が使うには遠そうだ。


 戦闘訓練では、最近は2対2でやることが多くなった。

 リリーとばかりやっていても、飽きるじゃないが、やはり相手が変わらないと新しい技術が盗めないのだ。


 相手は、俺が亜語を話せるようになったためにレンビアだけでなくいろんな奴を相手にできる。

 おかげで話程度ならできる同級生が何人かできた。前世から大進歩だぜ!


 亜語を、マスターとまではいかないまでも、ある程度使いこなせるようになった頃から、ラトメアに頼んで今度は龍語を習い始めた。

 知っておいて損はないし、使えた方が何かと便利そうではあるし。


 ジギルタイドについては、あれ以来里の者の目撃証言は一切ない。俺の言いつけ通り、里には近づかなくなったのだろう。

 魔物を集めているかは知らないが、別に集めてなくても構わない。ただの保険のようなものだし。


 モートンとは、助けて以来何かと話すようになった。

 コタバの葉はかなりおいしい。しかも、それで体にいいとか最高だろ。

 気に入ったのを見抜かれたのか、時々モートンお手製のものをくれる。出荷するのはモートンの親が作った、もっと上質なものらしい。モートンのでも十分うまいけどな。


 この1年のうち、一度だけラトメアが首都に用事ができたとかで行くことになったのだが、俺は遠慮しておいた。

 ユートレア共和国は、亜人族の国なのだ。人族は亜人族と仲が悪いし、良い心象も持たれていないかもしれない。

 この里が例外である可能性が十分あるので、俺は遠慮しておいた。


 順調に進んでいるように見えた、エルフの里での生活。


 だけど、それを嘲笑うように事件は起きた。



☆☆☆



 エルフの里での生活が3年目に突入しようとしていたある日。

 ようやくリリーから腕のリボンを解いてもらえ、俺は一人で戦闘訓練のために着替えをしていた。


 ノーラからもらったローブを脱ぎ、ナトラからもらった剣も更衣室に置いていく。

 時々実戦訓練はするのだが、その時は学校側が武器を支給してくれるのだ。真剣は必要ない。


 もうすぐエルフの里に住んで3年になる。それゆえか、俺は油断していたのだろう。


 今日の戦闘訓練は午前中だ。いつも通り組手から始まり、木剣を使用しての打ち合いというメニューだった。

 リリーは腕を放してから弓に戻ってしまったが、俺は既にぼっちじゃないのだ。


 今日の相手はレンビアとあたり、まじめに戦闘訓練を受けていた。

 組手が終わり、木剣での打ち合いになる。


 打ち合いの相手は、どうやらドワーフの子だ。

 子供とはいえ、ドワーフ。力は強いし、ガード無視の攻撃をしてくる。

 護神流を基礎に教えてもらった俺には少し厳しい相手だ。


 戦闘訓練以外にも、このドワーフとは交流がある。

 一度、ナトラにもらった剣が刃こぼれをした時に直してもらったのだ。


 その時に、ついでにアクセサリー作りも教えてもらったな。

 趣味程度のものだし、そこまで上等なものはできなかったが。


 ドワーフの子との勝負に取り組んでいると、遠目に誰かが校舎の方へと入っていくのが見えた。

 肌の色からして、たぶんダークエルフだ。二人組で、コソコソと校舎の中に入っていった。


「……? ――いてッ!」

「え、あ! ごめん、大丈夫か?」


 不審に思っていると、そちらに気が向きすぎて攻撃をまともに受けてしまった。

 ドワーフの子は謝ってきてくれるが、完全に俺の不注意である。


 俺は片手を上げて大丈夫の意を表し、もう一度仕切り直してもらう。

 その頃には、既にダークエルフの二人組のことは頭から去っていた。



 2時間の戦闘訓練を終え、更衣室に戻った時。

 俺は、自分の着替えの前で呆然と立ち尽くしていた。


 既に更衣室の中に人影はなく、皆着替えて出て行ってしまっている。

 だが、俺は一歩も動けずにいた。

 ――だって、無いのだから。


「ローブと剣……が、盗まれた……?」


 ノーラとナトラからの贈り物。その二つが、見当たらない。

 既に更衣室全体はひっくり返すようにして捜した。でも見つからなかった。


 なら、どこへ行った? 足が生えて勝手に歩き出すわけがない。

 ならば盗まれた。だが、誰に?


「……あいつらか」


 戦闘訓練中、校舎の方へと向かっていたダークエルフ二人。

 あいつらしか、いないだろう。


 あてはある。きっと、レンビアの取り巻きの二人。

 確信は無いが、俺と同じ組のダークエルフはリリー以外にその二人と、木剣の組にいる3人くらいだ。

 あの二人は確か、槍を選んでいた。戦闘訓練中に、木剣の組からダークエルフが抜けていなかったし、あの二人しかありえない。


「くそがっ」


 俺は更衣室のドアを乱暴に開け閉めし、あの二人を追う。


「あ、ネロ? って、どこいくの?」


 更衣室の外でリリーが待っていたが、俺は構わずに走り出す。

 確か、今日はあいつら魔術理論を家庭の事情とかで休むと言っていた。

 教室に向かったところで見つかりはしないだろう。


「ちょっとネロ! 授業始まるよ!」

「遅れるって言っといて」

「え!? あ、もう!」


 俺はリリーを振り切ると、校舎内を駆け回る。

 そして、昇降口辺りでレンビアと3人でいるのを見つけた。


「おい、お前ら!」


 声を張り上げ、3人を呼び止める。

 レンビアは鬱陶しげに振り向き、他二人も振り返る。


「どうした、ネロ。魔術理論が始まるぞ」

「それどころじゃない。お前ら二人、俺の剣とローブどこにやった?」


 俺の言葉を聞き、レンビアが訝しげな表情をする。


「ないのか?」

「ない」


「忘れたとかは……ないな。いつも持ってたし」

「戦闘訓練前までは持ってた。だけど、終わったらなくなってた」


「……ああ、確かにこいつら、戦闘訓練中に抜け出てたな」


 レンビアも、二人が校舎に入っていくのを見ていたのか納得する。


「ケミトとハーメーン、やったのか?」

「は? んなことするわけないだろ。なんで好き好んで人族のローブと剣なんか」

「そうだよ。なんであんな薄汚い――」


 どっちがケミトかハーメーンか知らないが、その言葉を聞いた瞬間に俺は跳躍していた。


「っざけんなクソ野郎ッ!」


 薄汚いとか言った方に飛び膝蹴りをかました。

 顔面にクリーンヒットし、そいつは鼻っ面を抑えてのた打ち回る。


「どこやった!? ああ!? おい、聞いてんのか!?」


 のた打ち回る方に馬乗りになると、胸倉を掴んで揺すりながら問い質す。

 そいつは鼻からおびただしい量の血を流しているが、知ったこっちゃない。


「い、いてぇよぉ!」

「いてぇじゃねえよ、おい! どこやった!?」


「お、おい待てってネロ! 落ち着け! なっ!?」


 レンビアが俺の肩を掴み、俺とそいつを引きはがす。


「どこやった!? 言えよ!」

「し、知らねえって――」


 未だにしらばっくれるそいつに、俺はキレて魔術を使った。

 ボウ! と音を立てて炎が走る。この3年間で、俺は既に詠唱破棄を完成させている。


 エルフが使う詠唱破棄とは少し違うのだが、何とかものにしている。


「ひっ!」


 炎が顔横の廊下に直撃し、鼻っ面を抑えながら情けない声を出す。

 俺は何度か深呼吸し、いくらか落ち着いた状態でそいつらを睨みつける。


「なあおい、その腰につけてる剣はなんだ? お前ら、槍を習ってたよな? なんで剣なんか持ってる?」

「こ、これは護身用で……」

「俺の剣の柄にはイニシャルの文字が刻まれてる。見せてみろよ、おい。お前らが俺のイニシャルを刻む理由はどこにもないよな」


 レンビアは俺の言葉を受けて、そいつの持つ剣を拝借する。

 以前、レンビアには俺の剣を見せたこともあるし、レンビアも知っている。


「……確かに、お前の文字が刻まれてる。それにハーメーン、お前昨日まで護身用の剣なんか持ってなかっただろ」

「あの、えっと……!」


「ネロから盗ったんだな?」

「う、あ……」


 レンビアはなぜか俺の味方をしてくれているが、今はそれがありがたい。

 レンビアがハーメーンを問い質しているうちに、俺は残った方に顔を向ける。

 確か、ケミトとか言ったか?


「ローブは?」

「ひっ、いや、あの……!」

「ローブは!?」


 手を掲げ、ファイアボールを撃ち出す。

 火の玉はケミトの顔面近くを飛来していき、髪の毛を何本か持っていった。


「じ、上級生のエメロアが持っていきましたっ!」

「組は?」

「リブラ組です!」


 それを聞き、俺はすぐに立ち上がる。

 リブラ組は確か、最上級生の組だったな。


 すぐさま駆け出そうとした時、腕をレンビアに捕まれる。


「おい待て。エメロアはこの里の領主の娘だ」

「だから何?」


「……喧嘩は売らない方が、良いと思うが」

「知らん」


 俺の返答に、深いため息を吐くレンビア。

 だが、領主の娘だろうがなんだろうが、俺のローブを盗むなど許せるものか。


 レンビアの気遣いは嬉しいが、元々この里のものではない俺には何の脅威もない。


「ほら、剣だ。もう好きにしろ」

「ありがと」


 レンビアが剣を投げ渡してくる。

 俺はそれを受け取ると、すぐさまリブラ組を目指した。



☆☆☆



 リブラ組は魔術理論の最中のようだ。

 教室の中から、教師の声が聞こえてくる。


 だが、そんなものに構っている場合ではない。

 俺はリブラ組の扉を勢いよく開け、教室内を見渡す。


「な、何なんだい君は! 今は授業中ですよ!」


 教師が怒鳴ってくるが、構う必要はない。


「エメロア! ローブ返せ!」


 教室全体に響くように、声を張り上げる。

 すると、俺の言葉に反応して一人の女子生徒が立ち上がる。


 金髪縦ロールの、いかにもお嬢様といった風貌のエルフ。


「いったいなんですの? 野蛮ですわね」

「野蛮なのはどっちだ。人が盗んだもんをさらに盗むとか、人として終わってんだろ」


「何を言いますの? あれは譲ってもらっただけですわよ」

「お前が持ってるのは認めるんだな?」

「ええ。それに、あなたが着るよりもわたくしが着た方がローブも喜びますわ」


 ……こいつは、本気で言ってるのか?

 腹を抱えて笑ってしまいそうな理論だ。


「わたくしは領主の娘ですのよ? そのわたくしに対し――」


 俺は腕を掲げ、魔術を放つ。

 こんな女の口上を聞いている暇はない。


 掲げた腕から紫電が一直線に走り、エメロアの頬に切り傷をつけ、後方の壁へと激突する。


「ローブを、返せ」

「な、なな……! あ、あなた今何を――」


 もう一発、今度は足元目がけて放つ。

 俺はエメロアに近づいて行きながら、もう一度、ゆっくりと訊く。


「聞こえなかったか? ローブを返せ」

「え、あ……」


 教室の生徒はほとんどが避難し、遠巻きに俺とエメロアを眺めている。

 教師もいつの間にか黙り込んで壁に背をつけている。


 俺が一歩近づくたびに、エメロアは後ろに下がる。

 だが、その数歩目で足が絡まって無様にこける。


 俺はその脇に屈み、顔を覗き込みながらもう一度。


「どこ?」

「つ、机の中っ! 机の中にあります!」

「そ」


 俺はすぐにエメロアの使っていた机の中を漁り、ひっくり返して中身をすべて引き出す。

 その中からローブだけを拾い上げると、強めに叩いてすぐに羽織る。


 ふぅ、よかった。着られてもいないようだし、安心した。


「お騒がせしました」


 俺は申し訳程度に頭を下げながら、教室から退室した。

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