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メイジ オブ Mage  作者: 水無月ミナト
エルフの里編 強くなる魔法師
23/192

亜人族の学校

 学校、である。

 学校である……か……。


 表札にはローランス学校と書かれていた。学校名は領主の名前からだそうだ。

 編入とかその辺の手続きはすべてラトメアとナフィがしてくれた。


 ただ、編入に必要な条件は魔法が使えるかと、他種族の場合は敵意がないかの二つである。以前に他種族の者も受け入れていたらしいので、緩いのだとか。

 まあ、亜語を話すことのできない俺は、自己紹介など碌にできるわけがなく、担任が勝手に紹介してくれていた。リリーに通訳をしてもらったが、特に悪口とかはなかったので、少し安心した。


 ローランス学校には3つの学年と5つのクラスがある。1クラス大体30人前後。一学年150人程度か。

 子供がこれだけしかいないわけではない。家の手伝いをしていたり、魔術理論と戦闘訓練のどちらかの授業だけに出席する子供もいるらしい。

 ダークエルフは特に戦闘訓練だけに参加する。エルフは反対に魔術理論だ。

 だけど、リリー以外にだって魔術の授業を受けているダークエルフの子供はいる。


 俺はリリーと同じ学年のロータス組。席も隣にしてくれた。

 この学校は実力で進級が決まるらしく、リリーはまだ1年から抜け出せないらしい。

 1年間は進級できないが、進級の判定も厳しいらしく、3年で卒業ってのはあんまりいないらしい。


 で、まあ授業が始まるわけだが。

 俺は教師が板書していくのを、書き写すだけの作業をしている。

 ……説明がないわけではない。わからないのだ。言葉が。

 習い始めもいいところ。教師の説明や板書に時々覚えた単語や文法は出てくるが、「あ、これ知ってる。……聞き取れないが」程度である。ら、ライティングとリーディングとリスニングは全部違うんだよ!


 まあそれでも自分で必死に解読はしていく。覚える時の基本は集中して何度も見ることだろうし。集中や興味がないと勉強の意味がないのも経験済みであるが。


 所々をリリーに翻訳と解説をもらいながら、授業は進んでいく。

 ……英語の授業って、とっても眠くなるよねー。

 だが英語の授業の方がまだマシだ。だって教師も日本語で説明してくれるもん。


 やがて廊下からベルの音色が聞こえてくる。

 この世界にチャイム放送なんてものがあるはずもなく、授業の休憩時間と終わりには校長がベルを鳴らして回るのだとか。


「はぁー……」

「お疲れ様」


 ようやく授業が終わり、俺は机に突っ伏した。あまりに疲れた。……これが毎日続くのか。家でも習うわけだし。

 リリーがなんか子供扱いして頭を撫でてくる。……ね、年齢は俺の方が断然年下だな、うん。てか、普通に俺、子供だったな。


 しかし、言葉がわからなさすぎて王国と共和国の魔術の違いが一切わからない。

 ……しいて言えば、やはり共和国の魔術には命令式という概念がないことか。


「次はご飯の後に戦闘訓練だよ」

「わーお……戦闘嫌い……」

「何言ってるの。ナトラさんに教えてもらってたんでしょ?」

「……頑張る」


 ナトラをバカにされちゃ怒る。したら魔術で吹っ飛ばす。


 学校の時間割は簡単。午前と午後を分けて、日によって魔術理論と戦闘訓練が入れ替わる。今日は午前に魔術理論、午後に戦闘訓練。


 午前の授業が始まるのが大体10時くらいで、昼食が12時くらい、午後の授業は13時くらいから始まり、15時には帰る。それぞれ1時間おきに大体10分の休憩が挟まれる。前世からしたらなんと嬉しい時間割。しかし、この里はほぼ自給自足。学校に行く前も家に帰っても家族の手伝いをするのが当たり前。

 だから、そう変わらない気がする。いや、宿題とかはでないし、やっぱりこっちのが楽。断然に。それに興味があることなので意欲もでる。


 昼食はナフィが弁当を作ってくれている。給食や食堂はないので、各自で持ってくるわけだ。

 まあリリーに付きっ切りにしてもらっているため……ではなく、そもそも言葉が喋れないので友達などできるはずもなく。

 リリーが席を外してしまい、かなり心細くなる。


 ……やべぇ、皆ガチで見てきてる。そんなに人族珍しいか? 珍しいわな。そりゃそうだ。ほぼ敵国だと認定されていてもおかしくないし。


 みんなの視線のせいで冷や汗が止まらない。見世物の動物になった気分だ。

 おかげで弁当は食べるが、味がほとんどわからない。

 ……なんかゲテモノとか入ってるからわからない方がいいのかもしれないけど。


 俯いて必死に弁当を食べ、リリーの帰りを待つ。

 ……やばいやばいやばい! リリー早く帰ってきて! 魔術を意味もなく放っちゃいそう!


『――』

「はいッ!?」


 いきなり声を掛けられ、動揺しすぎて机で膝を打った。


「つぁ……!」

『――――?』


 言葉がわからん。だけど心配してくれているのは声の調子から判断できる。

 俺は大丈夫の意味を込めて片手をあげる。


 その声の主の方を向くと、頭から葉っぱを生やした人物が立っていた。

 なんか気の弱そうな感じの子供だ。


 ……俺としては、彼の後ろの方でニヤニヤしている3人の男子の方が気になる。


『――……――――――?』

「あ、あー……うあー……」


 やばい、言葉わかんない。アイドントアンダスタンユアラングエッジ。

 俺が困り果てて対応に困っていると、ちょうどリリーが帰ってきた。


「り、リリー!」


 俺はリリーの方を向いて必死に手を振る。

 ていうかもう駆け出した。リリーに向かって。

 し、失礼かもしれないけど、言葉通じないのに長くいられるわけがない。


「ど、どうしたの?」

「なんか、あの葉っぱに話しかけられて……」

「え? あー、モートンだよ。アルラウネのモートン」

「モートン……」

「で、彼はよく、あの後ろで気持ち悪い笑顔浮かべてる男子にいろいろと命令されるの」


 なるほどいじめか。

 あ、いや、いじめと断定してはいけないか。まあでも、傍から見りゃいじめだ。そうじゃなかったら舎弟か?


「あんな奴らの言う事なんか聞かなくていいって言ってるんだけどねー」


 なんと。リリーは聖女でしたか。


 俺はリリーと一緒に席に戻りながら、彼、モートンの後ろの3人を見る。

 ダークエルフが2人に、普通のエルフ1人。エルフ同士仲がよろしいようで。

 まあ俺の見立てでは、エルフが2人のダークエルフを操っている、ってところか。

エルフが命令担当でダークエルフが実行担当。そんな感じだ。


 席に戻って、俺は弁当の残りを食べ始める。

 リリーとモートンが亜語で会話始めたので、俺にはさっぱりである。


 やがてひと段落したのか、モートンがあの3人組の方へと向かっていき、リリーは俺の隣に座って弁当を食べ始める。


「友達がいるならそっちと食べてくれば?」


 俺は周りを見ながら言う。

 そこかしこから、リリーに視線が向けられているのだ。


「んー? あー、別にあの人たちって友達じゃないんだよね……私がいろんな言葉使えたり、ダークエルフなのに魔術を習ってたりで憧れとか言われるんだけど……」

「リリー教かよ」

「あっはっはー……まあでも、今はネロの方が心配だし」

「うっ……」


 心配されていた。当然か……。

 しかし、女子に心配されるってのもなぁ……とか考えてたり。いや、別にいいんだけど。心配されないよりも、今はしてくれる方が。


「さ、食べ終わったら着替えに行くんだよ」

「わかってるよ」


 戦闘訓練には体操服っぽいものを着せられる。

 俺はリリーの家でラトメアの少しデカい服にノーラのローブを羽織っているのだが、まあ確かに動きづらい。

 ローブを脱いだとしても、ラトメアからは戦闘用じゃないと断られているし。

 ちなみに体操服は学校が貸し出している。こっちは寄付らしいからどれだけ汚そうが破こうが構わないとか。


 俺は弁当を食べ終え、持ってきていたリリー訳の『迷宮探索 砂上の楼閣編』を取り出し、読み始める、

 その行動に、リリーは訝しげな眼を向けてくる。


「いかないの?」

「……更衣室ってどこ?」



☆☆☆



 更衣室にて体操服に着替え、外に出た。

 戦闘訓練は、まず1時間目に組手を行って、休憩を挟んで各自習いたい武器の教官の元に向かう。


 組手は、あの悪魔のような「好きな人と二人組作ってー」である。うん、当然いない。

 幸い女子も一緒にやるので、他の人の組を断ってリリーが相手をしてくれることに。


「ふふん、ネロには負けないからね」

「お、お手柔らかに……」


 戦闘民族っぽいダークエルフに勝てるわけがない。しかも父親のラトメアは元冒険者だ。勝ち目0である。

 できることと言えば、せいぜいリリーの動きを事細かに観察するくらい。


 結局、俺はリリーの攻撃を必死に避け続けることしかできず、俺のターンなんて回ってこない。

 ……でも、あれだ。男だ女だと言いたくはないが、やはり悔しいものがある。


 だから、一矢報いといた。


「はっ!」


 リリーが右手を鋭く突き出してくる。だが、避けられない攻撃ではない。

 だから、あえて攻撃を受けに行く。


「ぐっ……!」


 リリーの戦術はフェイントを巧みに織り交ぜた二段、三段構え。だが、どれもシャレにならん威力を内包している。

 俺はリリーの拳を、腹に受ける寸前に身を少し引いて威力を流す。

 だが、それでもかなりのダメージを受けた。


「――? あっ!」


 リリーが一瞬意外そうな表情を浮かべる。が、遅い。

 歯を食いしばって痛みに耐え、反撃に出る。


「よい……しょ!」


 俺はリリーの腕を掴んで、強引に一本背負いで投げ飛ばす。

 隙をつかれたリリーはきれいに飛んでくれた。


 リリーは背中から墜落するが、地面は芝生だし、たぶん大丈夫。

 ……大丈夫、だよな?

 リリーが背中から落ちた状態で静止してしまっている。

 やばい、やっぱり素人は大技なんてかっこつけてやるもんじゃない。しかも女子相手に。


「り、リリー大丈夫か?」


 俺はリリーに近づいていき、手を差し出す。


「……ばされた」

「え?」


 リリーは俺の手を掴みながら譫言のように何かを言った。


『――――リリー』

『リリー――――』

『――――』


 なんか周りの奴までなんか言ってるんだけど。リリーっていう名詞しか聞き取れないから怪しい集団にしか見えない。

 リリー教の入信はどこで行えますか?


「あー、えっと……大丈夫か?」


 とりあえず、リリーの心配をすることで現実逃避をする。

 俺はリリーの手を掴んで少し強引に立たせる。


「で、何だって?」

「投げ飛ばされた!」

「え……? あ、うん。投げ飛ばした……な」

「投げ飛ばされたー!」

「ちょ、おい!?」


 リリーが「投げ飛ばされたー!」と連呼しながらどこかへ行ってしまった。

 そして突き刺さる、里の者たちの視線。


 ……え? な、投げ飛ばすのってそんなにいけないことなの?


 で、数分したらラトメア引き連れて帰ってきて。

 ラトメアが俺を指差して宣言した。


「オレと決闘だッ!」



☆☆☆



 まったく意味が分からない。

 俺の前にはラトメア。周りには……里の連中全員いるんじゃね? ってくらいの観客。中にはリリーとナフィもいる。

 うーん……どういう状況?


「あの、ラトメアさん」

「なんだ?」

「なんですか、これ?」


 ふむ、とラトメアが顎に手を当てる。


「オレはダークエルフの矜持について、いつも里の者やリリーに言い聞かせていたことがある」

「はあ……」

「オレだけかもしれんが、それは負けないことだ。ダークエルフは戦闘民族とみられる場合もあるが、オレはそれでいいとも思っている」


 他のダークエルフのみなさんは同意していないのな。

 それにしても、いきなり何を語り出したんだ……?


「ええっと、要点を言うと?」

「リリーと結婚したいならオレを倒せ!」

「ぶっ飛び過ぎだ!!」


 なんだそのぶっ飛び具合! 宇宙にでも行けよ!

 あー、頭痛がしてきた……。

 つまりあれか。お前は、娘と結婚させる相手は娘よりも強く、尚且つ自分より強いことか。


「まさかナトラさんの弟までリリーを狙っていたとは……」

「おい待て。ストップストップ。よーし少し整理しよう。そしてこのギャラリーをどうにかしやがれ。せめてリリーとナフィさん以外は散れ」


 俺は周りの奴らに向かって手を払うようにジェスチャーする。


『――――!!』

『――――!!』

『――!!』


「うるっせえ! ぶっ飛ばすぞッ!!」


 言葉はわからないがブーイングに違いない。

 声を張り上げるも、全く収まる気配のないブーイング。


「よーしわかった」


 話して通じないなら殴って通す。

 そういうことも必要だと思うの。


 俺は素早く詠唱を完了させ、土塊を作り上げる。。

 それを見た里の連中が、全員首をかしげる。


「ラトメアさん、黙らないとこれをぶつけますと言ってください」

「ふむ? まあいいが」


 ラトメアが里の者に通訳を終えると、俺は作り上げた土塊を天高く打ち上げる。

 ついでに風魔法でさらに高高度へ。

 この世界で二発目、我が母国の夏の風物詩をお見せしよう! ……今が夏かしらんが。ついでに昼間だけどな。


 突き抜けるような青空に、大輪が花開く。その直後、轟音が地を舐めた。


 音が大きすぎた。まあ俺は心構えがあったのでよかったが、他の連中が音に驚きすぎて唖然としてる。

 俺は土の塊だけを、魔力を込めて量産していく。これで散らなかった連中にはマジで投げつける。ボ○へいわたしっぽく制限時間をつけて。

 その様子に気づいた里の連中が、大わらわで散っていく。

 やっぱ、人を脅すのは光と音に限るね。


 ようやくすっきりした空間で、俺はラトメアに向き直る。

 俺の手には生み出した土塊が複数。それをお手玉のようにしながら、ラトメアに訊く。


「さて、やります?」

「よ、よーし! まずは話し合おう!」


 俺もそれが良いと思います。

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