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ボーナスステージ

 目を覚ますと、初めにふわふわとした感覚に困惑する。

 手や足がない。元々なかったとはいえ、魔力で形作るということもできないようだ。というか、魔力がない。もし死ぬ直前の体だったら、見たくも無いので鏡がなくてよかった。


「――お疲れ様」


 突然声が聞こえ、視線を前へと向ける。

 そこには、いつの間にか出現した机を挟んで、正面に神々しいオーラを纏った人間がいた。

 ……なるほど。

 俺はすぐに理解する。

 ここは、死後の世界。直前かもしれないけど。

 で、目の前にいるやつは、神様みたいなものだろう。この世界で神様といえば純色神ではあるが、あちらはおそらく下界の神、こっちは世界を作っただとか、そういうより上位の存在な気がする。雰囲気的に。


「理解が早くて助かる」


 まぁあれだけ、下界にいながらアレイシアだの編纂者だの、歴史の守り人だのに色んな場所に飛ばされてきた。今の状態を理解するには十分すぎる経験だ。

 そして、この場で俺にできることはない。体も魔力もないし、魔力がなければ何もできない。

 で、彼は俺に何のようだろうか。


「転生された理由と、その結果を伝えてあげるべきだと、私は思っていてね」


 そうか。でも俺は別に会う必要はない。死んだ後にどうなるか、アレイシアに聞いているし、なのでわざわざ会わないほうが気が楽ではあるんだけど。


「ともかく、君の転生理由から説明していくよ。君の転生理由は」


 知ってるよ。前世の都市爆破のことだろ。あれで何百人死んだかわからないもんな。何千人かもしれない。


「理由は合ってる。でも、その爆破は起こっていないから、君は前世で人を殺しちゃいない」


 起こっていない、だと。であれば、あの兄弟たちも生きている、ということなる――いや違うな。実際、生きていたし、本当に爆破はなかったのだろう。

 だとすれば……あの爆破は、確かに起動した。失敗したのだろうか。否、失敗も違う。爆破自体は起こったはず。そして俺が死んだのは事実だ。ヒントになるのは勇者召喚によって現れた蒼馬――本物のネロだ。本物のネロが蒼馬として現れた。

 つまり、俺の転生理由は――ネロと蒼馬を入れ替え、転生させることで爆破自体をなかったことへと改変をした。というところで、どうだろうか。


「大体正解。君の魂が、どれだけ繰り返しても前世の世界を破滅へと導いてしまうから、世界を変えたってわけ」


 別に、あの兄弟の性格を変えればいいだけのはずだろ。俺でもいいし。そっちの方が、神様としての力を極力抑えられるんじゃないだろうか。


「別の問題があってね、人には必ず一つ、運命のトリガーというものを持ってる。これを見逃してしまうと、どれだけ繰り返しても、その魂に刻まれたトリガーが本人の思いと関係なく引かれてしまう。君のそのトリガーが世界の破滅だったというわけだ」


 つまり、俺は前世の世界にいるだけで、何があっても破滅させてしまうということか。故に転生させて、無理やり運命を変えるしかなかった、と。


「そんなとこ。世界を破滅に導く運命のトリガー持ちなんて誰も引き取ろうとはしなかったけど」


 じゃあ、どうして俺はこの世界に転生することができたのか。

 どうせ、この世界も破滅する運命だった、といったとこだろうか。


「そういうこと。神様はね、一人一人自分の世界を創って持ってる。それを見せ合ったりして自慢するわけなんだけど、別に破滅しちゃったらまた新しく創っちゃえばいいわけだ。でも、君の前世の世界の神様は愛着が沸いたみたいで、壊したく無いって泣きついてきた。仕方ないから、どうせ破滅しちゃう私の世界で、君を引き取ってあげたのさ」


 俺の転生理由は理解できた。お前がお人好しでないこともわかった。

 で、転生の結果が俺にどう関わってくる。どうせ、その破滅の運命をなくすために、俺の魂は結局すり潰されるわけだろ。


「結局はね。でも、君がこの世界にもたらした功績はとても大きい」


 功績? そんなもの、お前らが気にするものでは無いはずだ。

 この世界が発展しようが、破滅しようが、壊れたおもちゃは作り直すんだろ?


「運命のトリガーを、君は覆してみせた。この世界で、だ。それは私が他の神に自慢できる大きな功績」


 ……だからといって、俺の魂を見逃す気はないんだろ。


「ないよ。でも、すり潰す前にご褒美をあげようと思って」


 ご褒美、ね。

 別に俺はもう、転生なんて必要としていない。十分すぎるほど生きたから。


「君の破滅の運命を覆したのは、前世の世界を破滅へと導く行いへの償いで相殺。普通なら、それで終わってすりつぶして終わりだが、君にはもう一つ、大きな功績が残されてる」


 ああ、お前はあの世界が破滅する運命だったって言っていたもんな。でも、あの世界は破滅していない。少なくとも俺が生きていた間は。


「君のもう一つの功績は、カレンだ」


 ……うん、うん。見えてきた。この世界での破滅の運命、そのトリガーを持っていたのはカレンだった、と。

 で、俺があいつを育てた結果、カレンがもつ破滅の運命のトリガーも覆した、と。


「そういうこと。破滅の運命を持つもの同士、マイナスの掛け算ができたのさ。もちろん、口で言うほどそんな簡単な話じゃないけど」


 だろうな。

 けど、俺の運命とカレンの運命がうまい具合にハマったわけだ。よかったな。俺の運命を変えたイズモたちに感謝しろ。


「とても感謝しているよ。私は破滅の運命を2回も回避したことになる。とても自慢のしがいがある話だ」


 そりゃよかったな。俺はご褒美なんていらないし、これ以上人生を歩みたくも無い。さっさと魂でも何でもすりつぶしてくれ。


「ご褒美もただであげるわけにはいかない。挑戦だけでもしてくれ」


 ケチ臭い神様だ。


「この世界で、君がやり残したことを当てるんだ。私には、君が心残りに思っていることも筒抜けだ。それが合っていたなら、ご褒美をあげよう」


 俺がやり残したこと、ね。

 何かあっただろうか。あれほど長い年月を生きたのだ。もうやり残したことなどないはずだが。それでも、この神様は俺にはやり残したことがあるという。

 何だろうか。子孫繁栄? トウゲンの未来? カレンの行く末?

 どれもしっくりこないな。

 剣士としての人生、ノーラの……クロウド家の生きている世界線、冒険者としての成功。

 違う気がするなぁ。

 どれだろう。正直、家族の生きている世界線がしっくりこないのであればほぼお手上げだが。

 ――……あ。

 あれは、どうだ。

 あれかもしれない。

 思い至れば、あれしかない気がしてきた。


「答えは出たかい? じゃあ、せーので言ってみようか」


 あってるかどうか、わかっているくせに。

 せーので言うのなら、合わせよう。


「じゃあいくよ? せーの――――」



☆☆☆★★★



「――以前召喚された勇者スカーレット様、魔王を打ち倒してくれたみたいよ」

「――すごいよね。でも、その後失踪したんですってね」

「――その勇者様の目撃情報があって、神童って呼ばれてるレオンって男の子を連れてるみたいよ」

「――未来の勇者候補かしら」

「――そういえば、今日よね。巫女様の祝祭」

「――そうだったわね、魔王も倒されたし、これでこの国も安泰ね」


 この世界のある一つの国には、とある風習がある。

 それは世界の危機が迫る頃、神の使いたる巫女を一人、生贄にささげることで危機を回避するというものだ。

 その教会では、まさに今、一人の巫女が祭壇にのぼらされていた。

 巫女の目は虚ろだった。生気の無い目で、参列者たちを眺める。


「これより、神に生贄を捧げる」


 教祖の言葉に、信者が動き、巫女を磔にした。そして足元の薪に火をつける。

 巫女はただ一人、燃える炎に包まれる未来にゆっくりと眼を閉じた。

 そして、思うことは。


 ……ああ、何度繰り返すのでしょうか。また、起きたら私は初めからやり直すのでしょうか。いつまで続くのでしょうか、この繰り返しは。


 何度もループする世界を生きる巫女。

 ある日を境に先に進まない世界。

 何をしても、ループするたびに行動を変えてみても、変わらないループ。

 両親の死を救ってみた。何度救ってみても、両親の死は回避できなかった。

 教会を抜け出してみた。それでもある年月が来るとまきもされてしまった。

 教祖を殺してみた。教祖はその度に変わり、死を回避することはできなかった。

 自殺してみた。それでも生まれた頃に巻き戻されてしまった。

 何をしてもこのループから抜け出せなかった。

 何か条件が必要なのだろうか。でも、その条件がどうしてもわからない。自分で出来うることは全てやった。それでも、ループは終わらない。


「……誰か」


 炎に包まれる中、このループを抜け出すことが出来ない絶望を感じながら。

 小さくつぶやく巫女。

 誰に頼ることもできない絶望を前に、それでも救ってくれる誰かを求め、巫女は涙を一筋こぼした。


「――助けて」


 激しく炎が燃え上がり、教祖や信者、国の王侯貴族たちの祈りを前に、巫女の願いは虚しく消える。

 ――……はずだった。

 突如として教会の扉が開かれ、そこに二つの人影が乱入してきた。

 その乱入者たちに、参列者たちは騒然とする。


「誰だ! この神聖な場に乱入するなど、恥を知れ!」


 二人はそんな国王の言葉など聞いておらず、すぐさま駆け出して巫女の元へと向かう。

 それを阻もうと兵士や信者たちが二人の前に立ち塞がるが、人影の一つ、青年の方が剣を構え、薙ぎ倒していく。

 そしてもう一つの人影、少年と呼ぶにも幼そうな彼は、青年に抱えられながら魔法を唱えていた。


「――【水挟】」


 巫女の足元の炎を挟むようにして生まれた水が、押し寄せ鎮火させる。

 青年が少年を巫女の方へとぶん投げられ、飛んでいく少年。何とか磔台に捕まって止まり、魔法で巫女の拘束を解く。

 それと同時に、青年も大きく跳んで巫女のそばに降り立つ。


「冒涜者め! 今すぐ捕らえよ――」


 国王が命令を飛ばした瞬間、兵士たちは構えをとって取り囲む。

 解放された巫女は、何が何だかわからずに、それでも助けてくれた二人を見た。


「お前、普通人をぶん投げるのはしないだろ」

「貴様はまだ軽いんだ。その方が早いと思って」

「あーくそ。何でお前は召喚で、俺はまた転生なんだよ……」

「日頃の行いだな」


 青年の言葉に、少年が青筋を浮かべながら青年の脛を思いっきり殴った。その痛みに思わず青年は脛を抱えてしゃがみ込む。


「――はぁ、まぁ。とりあえず」


 気が済んだのか、少年はそう言いながら巫女へと向き直る。


「今度はちゃんと助けにきたぜ、姫様――いや、フレイヤ」


 その瞬間、巫女の記憶が一気に溢れかえる。

 フレイヤ、とそう呼ばれただけなのに、今まで知りもしなかったはずの記憶が、一気に流れ込んできた。

 そして巫女の口からついて出た、少年の名前は――


「……ネロ?」

「そう。で、こっちの勇者様がグレン」

「――グレン」


 巫女は聞いたことも無い、当然知らないはずの名前がするりと口から出た。

 巫女に聞いたことはなくとも、フレイヤにとっては馴染み深い名前だ。


「お、お前らは……勇者スカーレットに神童レオン!?」


 二人の顔をようやく視認できた国王が、その素性に思わず驚いた叫びをあげた。

 何せ二人とも、この国では有名人だった。

 勇者スカーレットはいわずもがな、国王が勇者として呼び、そして魔王討伐をなした英雄。

 神童レオンは、弱冠4歳にして宮廷魔術師の試験に合格した子供だ。

 国にとって重要な存在のはずのその二人が、国に仇為す行為をしていることに、戸惑いを隠せない。


「さて、今度こそは救ってみせるぜ、フレイヤ」

「まずはここから逃げましょう、フレイヤ様」


 二人に手を差し伸べられた巫女――フレイヤは、笑いながら涙を流しながらその手を取る。


「――ええ。お願いします。ネロ、グレン」


 フレイヤのお願いに、ネロとグレンも笑って頷いた。


「じゃ、こっから逃げて、もう一度世界を巡る旅をしようか」


 3人を止められるものは、この世界にも存在しない。

 彼らはこの世界で、ようやく自由に生きていくことができる――。

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